夢の国のお姫様
楽に読んでいただけたら嬉しいです。
突然のことではあるが、わたしの姉がお姫様になった。
わたしの姉がお姫様になったからといってわたしが庶子であることには変わりない。夢の国では国で一番夢のある人物が王になるのだ。
確かに姉は夢見がちな人間であった。小さい頃から「星が食べられたら素敵ね」「カーテンになりたいわ」と言っていた。カーテンになってどうするのかとわたしは思う。最近では「お姫様になりたいわ」と言っていたので、夢がかなったということだろうか。
王となった時、姉はこう言った。
「王様なんていやだわ、かわいくないもの。わたしお姫様がいいわ。」
というわけで姉はお姫様になったのである。
姉は人の迷惑を考えない。
質素なワンピースから可愛らしいフリルのドレスに着替えた姉が言った。
「家臣がおじいちゃんばかりなんて嫌だわ。そうだ、妹を家臣にしましょう。執事はかっこいい人がいいわ。」
わたしはどうやって断ろうか考えた、というのもわたしは実家のパン屋をつぎたかったのだ。「実はわたし妹じゃなかったの。」「今目の前にいるわたしは偽物よ。」など考えたが、考えても無駄である。お姫様の言うことは絶対なのが夢の国の掟なのだ。
こうしてわたしはパン屋を継ぐという夢を捨てて、姉の家臣となったのである。
夢の国なのに、夢を捨てなければならぬとはこれいかなことか。
ある日姉はかっこいい執事にブルーベリージャムをぬったトーストを食べさせてもらいながらつぶやいた。
「ブルーベリージャムがやまほどあれば素敵ね。」
満面の笑顔でいうのである。
家臣の仕事はお姫様の夢を叶えることである。お姫様が言った夢は叶えなければならない。たとえそれがどんなにアホかと思うような夢であろうとも。
「わかりました。姉様。」
わたしはすぐさま国中にお触れを出した。
『ブルーベリージャムの山を作るべし』
お触れをみた国民たちは急いで家中のブルーベリージャムをかき集めた。冷蔵庫、戸棚、机の上…ジャムの工場は作っているジャムを全てブルーベリージャムに変えた。
城の前にはジャムを持ってきた国民が列をつくっている。
瓶詰めのジャム、作りかけのジャム、食べかけのジャム、様々なブルーベリージャムが城の前に集められた。国中のブルーベリージャムは気づけば、見上げねばてっぺんが見えないような山になっていた。
「姉様ブルーベリージャムの山ができました。」
姉はクリンとした目を瞬かせて驚いた。
「まあ、すてき!スプーンもってきて!」
かっこいい執事がもってきたスプーンをてにとって城のバルコニーからブルーベリージャムの山をすくい取って口に入れた。
「まあ、おいしい。」
シルクの手袋をつけた手で頬を抑える。満面の笑みだ。
そこから毎日姉はブルーベリージャムを食べ続けた。ジャム工場からは毎日ブルーベリージャムが届く。姉はどんどんたべる。山はどんどん大きくなって行く。城はほぼブルーベリージャムに飲み込まれた。
「わたし、もうブルーベリージャムはいらないわ。」
げっそりした顔で姉が言った。心なしか若干紫色になってきている。ブルーベリージャムの食べすぎだろうか。
わたしはすぐにジャム工場にブルーベリージャムの生産を止めさせ、国民全員にブルーベリージャムを配給した。
ブルーベリージャムをしばらく食べていなかった国民はたいそう喜んだ。少しだけ城がみえるようになった。
まだ無くならないため、また配給する。ブルーベリージャムが好きな甘党たちが喜んだ。城の半分ほど見えるようになる。
配給する。筋金入りの甘党しか喜ばない。まだ地面はみえない。
配給する。だんだん国民が紫色になってきた。へったきがしない。
山がなくなるまでわたしたち国民の食事は紫一色となった。
ああ、はやく野菜が食べたい。
読んでいただき、有難うございました。