表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ブルーダイアモンド〜青いよどみにひかれて〜

作者: キアズマ

この作品はフィクションです。

実在の人物・団体等いっさい関係ありません。

 


   1



 梅雨も明け、ようやく夏到来を思わせるよく晴れた七月のある日曜日。


「チョ〜久しぶり」

「元気してたぁ」

 繁華街で待ち合わせをしていたさやかとかおりは、三ヵ月ぶりの再会を手放しで喜びあった。

 小学生以来の親友である二人であったが、中学を卒業し、別々の高校へ通っているため今日まで中々会う機会が作れなかった。

「どう、聖歌は?」

 二人は互いの近況報告がてらその辺を歩くことにした。

 かおりが高校の印象を訊ねると、さやかは渋いようなおどけているような体で答える。

「う〜ん。ぼちぼち?」

「そっかぁ。聖歌はお嬢様学校だもんねぇ」

 さやかの通う聖歌女子大学付属高校はミッション系の私立高校で、特に校則が厳しくて有名な学校であった。

 かおりの方は近所にある都立高校に通っている。

 彼女の家は母子家庭であり、私立に行けるほどの経済力はなかった。

「かおりの方はどうなの?」

「うち?うちはちょっと期待外れかなぁ。部活にでも入ろうと思ったんだけどぉ、どこの部もなんか決定力に欠けてさぁ、結局帰宅部ぅ〜みたいなぁ」

「ふぅん。カッコイイ先輩とかいなかったのぉ?」

 さやかがニヤニヤして訊いた。

「いないいない。芋、茄子、南瓜ばっか。てか、それが一番決定打?」

「ぇえ?でも、男子いるだけましよ。女子校なんてさぁ、女ばっかで厳しいじゃん?ほんとやんなっちゃうって感じよ、もう」

「先生とかは?男の先生はいるんでしょ?」

「はっ足くさそうなのばっかし」

「アハハハァ、マジでぇ」

 互いに通う高校の不満を口にし、さやかとかおりは二人して大笑する。

 この時期は高校でも友達はできていても、まだまだ気が置けないとまでなるには時間が足りない感も否めない。

 その点、昔からの気が合った友達との会話はなによりもストレス発散になる。

 違う高校に通うという別々の道を歩むことになっても、二人の友情は変わらずそこにあった。

「あっ」

 道端にアクセサリ―を扱っている露店があった。

「ねぇ、これみてぇ!めちゃ可愛くない?」

「ほんとだぁ」

 そこで見つけたアクセサリ―にかおりは目を輝かせてしゃがみこむ。

 さやかも一緒に覗き込んで同意した。

 それは羽の形をした銀細工の先に宝石があしらわれたペンダント。

 その宝石は太陽の光を反射して、青く青く輝いている。

 それは、天上の頂で青い光を灯す月のようで、酷く二人を魅了した。

「おじさん、コレ本物の宝石?」

 かおりが訊ねると露店主の男が頷く。

「ああ。でもまぁ、価値のないクズダイヤだけどね」

「へぇこれがクズねぇ」

 かおりには信じられなかった。

 彼女は今まで本物の宝石など見たことはなかったが、これがクズだとはとうてい信じられなかった。このダイアがクズというなら、この青はなぜこんなにも自分を魅了しているのか?

 かおりは露店主に値段を訊く。

「五千円」

「五千円かぁ」

 バイトなどしていないかおりには少し厳しい金額であった。

「かおりが買わないんだったら、私買ってもいい?」

 大枚はたくか自制するかジレンマに陥っているかおりにさやかが訊ねた。

 かおりは心の中で一瞬戸惑うも、

「うん。さやか、買いなよ」

 と笑顔でさやかに譲った。

「ほんとぉ。じゃあこれ」

 さやかは嬉々として財布を取りだし露店主に五千円を支払う。

「まいどあり」

 露店主からペンダントを受け取ると、さやかはすぐにそれを首にした。

「へへ、どう?」

「うん、可愛い。めちゃ似合うよ」

 かおりはそうさやかを讃めつつも、内心複雑だった。

 自分も欲しかったな。

 さやかの胸元で輝く青いダイヤモンドを見て、どうしてもそう思ってしまうのだ。

「いい買物しちゃった」

「そだね」

 かおりはさやかの首にかかったペンダントを、引き千切って奪い取ってしまいたくなる衝動を必死で押さえていた。



   2



 次の日。


「今日もお勤めご苦労さぁん」

 放課後、授業から解放されたかおりはいささか親父くさことを言いながら背伸びをする。

「かおり、マックよっていこうよぉ」

「うん?」

 同級生の誘いに応じようとしたとき、かおりの携帯電話が鳴り始めた。

 さやかからだった。

 さやかとは特に頻繁に電話のやりとりをしているわけではない。

 昨日の今日で珍しいなと思いつつかおりは電話に出た。

「もしもし。さやかぁ?」

『かおり……』

 受話器から蚊の鳴くようなさやかの声が聞こえてきた。

「どうしたの、さやか?」

 不審に思い訊ねるかおり。

 何かいやな予感がする。

『…………』

 一時の沈黙ののち、

『かおり、助けて』

 泣いているのか、怯えているのか、さやかの声が震えている。

「どうしたのよ!さやかっ!?」

『私、どうかしてる……恐い――』

 ただならぬさやかの言葉。彼女がパニックを陥ってるのが電話越しからありありと伝わってきた。

「さやか、落ちついて!」

『いやっ――恐い……助けて』

「何があったの?今、どこにいるの?」

『駅前……かおり、助け――』

 そこで電話が切れた。

「もしもし、さやか――」

「どうかしたの?」

「うん。中学の友達の様子が変なの。ちょっと行ってくるから、マックはパスね」

 そう同級生に告げ、かおりは駅前へと走った。

 かおりはさやかがあんな風に怯えている声を始めて聞いた。

 どちらかというと気丈で明るいさやかがあんなになるなんて……。

 胸の内に落とされた不安がじわじわと、だが確実に広がっていく。

 それを振り払うようにかおりは駅前へと走った。




 駅前は百貨店などと繋がった、公園のような歩道橋が広がっている。


 かおりは歩道橋の端っこのベンチに俯いて座っているさやかを発見する。

「さやか!」

 かおりが呼び掛けるとさやかがゆっくりと顔を上げた。

「っ!?」

 そのさやかの顔を見てかおりはぎょっとする。

 青ざめているなんてものではない。

 白目は血走り、その目の周りには窪んで見えるような隈ができ、ド―ランでも塗りたくっているように顔面蒼白になっている。

 かおりは一瞬、死人の首が動いたような錯覚に陥った。

「どうしたの、さやかっ!?」

 心なしか髪の艶さえ消え失せている。

 かおりはたった一日で変わり果ててしまった友人の肩を掴み詰問した。

「たっ助けて、かおり……」

 さやかは縋るようにかおりの顔に震える手を伸ばす。

 かおりはそんなさやかの手を握り隣に腰掛けた。

「さやか、落ちついて。何があったの?」

「あっアイツが――アイツが来る」

 さやかは兢兢と黒目をギョロギョロと忙しく四方に動かしながら言った。

「アイツって誰?」

「アイツ……夢に出てきた――」

「夢?」

「アイツがっ!アイツが来るのっ!!」

「っ!?」

 かおりの全身の鳥肌が逆立った。

 さやかの言っていることはちっとも分からないが、

 その迫力に、そして底冷えするような何かが自分を巻き込でいる気がした。

「おっ――落ちついて……さやか、ゆっくり話して。昨日の夜、恐い夢を見たの?」

 かおりの問いにさやかは激しく首を縦に振る。

「どんな夢?」

「なんか――なんか、殴られたり蹴られたりして……それが妙にリアルで――くるっ苦しくって……変な映像が―――よっよく思い出せないっ――ぐにゃぐにゃして――」

「それで?」

「そしたらアイツがぁっ!!」

 さやかは悲鳴を上げるように言った。

「アイツって誰なの?」

「全身に刺青――じゅっ呪文のような刺青のかっ髪の長い女――裸の――」

「全身刺青……」

 かおりはぞっとする。

 真っ白い肌の全身に梵字が所狭しと彫られた女が鮮明に脳裏に過った。

「目が覚めたらアイツがっアイツがっ付きまとってくる!ちょっとした暗がりとか、窓の向こうとか――ずっとずっと私を見てる!!」

「今も?」

 訊ねるのも恐ろしかった。

 普通なら戯言と思うかもしれない。

 でも、かおりは完全にさやかの言葉を信じ切っていた。

 それは親友の言うことだから、などというチ―プなことではなく、全身から引っきりなしに汗をかいている自分、そう自分を支配する自分の意志を憚らない自分が何かを感じ取っているのだ。

 さやかは恐る恐るかおりから視線を外し、

「今は見てな――ひっ!?」

 さやかの顔が激しく歪む。

 かおりは振り返りさやかの視線の先を見るが、そこには歩道橋用の狭いエレベ―タ―があるだけだった。

「さやか?」

「いや」

 さやかは立ち上がり、かおりには見えぬ何かに怯え後退りする。


 チン


「えっ?」

 エレベ―タ―の中にも前にも誰もいなかった。なのにエレベ―タ―の扉が勝手に開かれる。

「きゃっ」

「さやかっ!?」

 さやかの体がぴくっぴくっと痙攣でも起こしたように跳ね上がる。

 そして、

「きゃああああああ」

 さやかの体が宙に舞い上がって歩道橋の柵を越えた。

 その一瞬、かおりの目に写る。

 太陽を反射し輝く青い光が。



   3



 佐渡は夕日が眩しいといわんばかりに顔を顰めて車から降りた。

 不精髭に悪人面の佐渡は警視庁の警部である。

 四十後半、独身の彼の背広はどことなくよれっていた。

「お疲れ様です、警部」

 所轄の丸川刑事が敬礼で佐渡を出迎える。

「ん。情況は?」

 そう訊ねながら佐渡は現場に目を向けた。

 そこには遺体を象った白いチョ―クの線、そしてその頭部辺りにまだ乾き切っていない鮮血が広がっている。

「はい。被害者は田中さやか、十五歳。市内の私立高校に通う高校生。あそこの歩道橋から転落し、頭から落ちて死亡したもよう。一応、病院に運ばれましたが蘇生できなかったようです。転落する直前、被害者が一人でよろめいているところを多数の人間が目撃しているところから、事故の可能性が高いと思われます」

 それを聞き佐渡が悪態を吐く。

「なんだ、事故かよ?わざわざ、俺が出張ってこなくてもよかったじゃねぇかぁ」

「いえ、それが被害者の転落を目の前で見た連れの女子高生が妙なことを言ってまして」

「妙なこと?」

 丸川の言葉に佐渡は眉を顰めた。とかく佐渡の顔は常に不機嫌そうに見える。

「ええ、こっちです」

 佐渡は丸川に連れられ歩道橋を上がる。

 被害者が転落した場所より離れたベンチに一人の女子高生が打ち拉がれて腰掛けていた。

「警部、こちらが被害者の友人の佐藤かおりさんです」

「………………」

 かおりはゆっくりと顔を上げ、虚ろな目で佐渡を見る。

「どうも」

 佐渡は小さく会釈した。

「佐藤さん、もう一度田中さんの転落前の様子を話していただけませんか」

 丸川に言われ、かおりは俯いてポツリポツリと口を開く。

「さやか……なにかに酷く怯えてたんです。アイツがくるとか……夢がどうとか――落ちる直前も……幻覚でも見ているように、見えないなにかに怯えてる様子で」

「幻覚か……薬中の可能性もあるか――」

 佐渡の言葉を聞きかおりが熱り立つ。

「さやかは薬なんかやるような子じゃありませんっ!!」

「ふむ」

 佐渡は唸る。かおりの言い分などあてにならないといった風である。

「かおりっ!」

 人集りの中から一人の男子学生がかおりに駆け寄ってくる。

「圭ちゃんっ!!」

 田中圭介、さおりの年子の弟である。

「かおり……姉ちゃんは――?」

「…………」

 かおりは無言で首を横に振る。それを見て圭介はその場にへたり込んだ。

「そんな……嘘だ――姉ちゃんが……」

「圭ちゃん」

 驚きと哀しみで泣き崩れる圭介にかおり自身も泣きながら寄り添った。

「ちっ」

 佐渡は誰にも聞こえないように小さく舌打ちをし、二人に背を向け歩きだす。

「警部、どちらへ?」

「車ん中で煙草吸ってくるだけだ」

 丸川の問いに、佐渡はぶっきらぼうに答えて車へ戻ろうとする。

 この一帯は屋外全面禁煙区域なのだ。

「けぇ〜じさん」

 車に乗り込もうとした佐渡に一人の男が声をかけてきた。

 首に一眼レフのデジタルカメラを引っ提げた、軽薄な笑みを浮かべた男。

「牧村っ!」

 佐渡は男のことを知っていた。

 だからといって親しい間柄ではない。

 寧ろ吐き気がするほど忌み嫌っている。

 男の名は牧村宗也、大手・毎朝新聞の記者だ。

「どうして、てめぇがここに」

「やだなぁ刑事さん。僕は新聞記者ですよ?事故があれば出向くに決まってるじゃないですか」

 牧村はニタニタ人をおちょくるような笑みで言う。

「てめぇ、また俺の周りうろちょろしてんじゃねぇだろうな」

 佐渡は牧村のシャツの襟を掴んで凄んだ。

「ふふ、それは自意識過剰じゃないですか?

 まぁもっとも、刑事さんの周りにいればなにかと退屈せずにすみそうなのは事実ですけどねぇ」

「…………」

「しかし、若い子の死亡者ってのは痛ましくて辛いですよねぇ」

 牧村は愁傷とはかけ離れた、寧ろ楽しんでいるような表情で言う。

「特に刑事さんはとってもナイ―ブ見たいですし」

「失せろっ!」

 佐渡は牧村を突き放し、車に乗り込んだ。

 そしてシガ―ライタ―で煙草に火を点け紫炎を吐き出す。

「ちっ」

 いつも思ってしまう。

 刑事なんかになるんじゃなかったと。

 損傷の激しい遺体や死臭には慣れても、被害者が遺していったものの嘆きには一向に慣れることはない。

 バックミラ―に写る自分の顔を見て佐渡は苦笑する。

「ふっ――そんな面かよ」

 佐渡惣一朗、四十七歳。

 牧村の指摘どおり、凶悪面に似合わずナイ―ブな男であった。



 夕方の帰宅ラッシュの駅前で起こった、突然の事故。

 現場には黄色い規制線テ―プが張られ、それを囲むように野次馬ができていた。

「事故か?」

「女子高生が転落したんだってよ」

「あれ、血だろ?」

 現場を取り巻く囁き声。

 そんな人集りの中に一組みの母娘がいた。

「ねぇ、ママぁ〜!もう帰ろうよぉ」

「…………」

 五歳くらいの娘が母親に訴えるが、その母親は事故現場を見物するのに夢中になって聞く耳をもっていない。

「ぶぅ」

 娘は不貞腐れてしゃがみこむ。

 すると昼間の熱をまだ残した石畳の上に、なにかキラキラ光っているものがあることに気が付いた。

「わぁ〜!」

 それを拾うと娘は感嘆の声を上げた。

 それはキラキラと青く輝く世にも美しい代物。

「きれい」

 娘はそれを指で摘んで夕日に翳すように掲げる。

 それは夕日の赤に負けじと青く青く輝いている。

 まるで自身が発光しているかのような、繊細で人を魅了する青。

「えへぇ」

 娘はニンマリと笑って、大事そうにそれをポケットにしまいこんだ。



「ほう、ホ―プダイヤか」

 その様子を牧村が歩道橋の上から覗き見ていた。

「やっぱ、刑事さん。あんたはスト―キングに値する男だよ」

 牧村はほくそ笑む。

 こりゃ面白くなりそうだ。



   4



『ずっとほったらかしだったのに、今更父親ぶって説教しないでよっ!!』


「はっ!?」

 佐渡は飛び起きるように目覚めた。

「はぁはぁはぁ」

 全身汗だくになっている。

 今日も朝からとても蒸し暑かった。

 佐渡は立ち上がり、台所の蛇口をひねって水をがぶ飲みする。

「ぐぇ」

 小さくげっぷしながら、箪笥の上に立てておいている写真を見た。

 写真には一人の女子高生が写っている。

「…………」

 写真の少女はどことなくかおりと面影がダブった。

「へっ……美保、地獄で達者にやってんのかね」

 苦笑混じりの佐渡の目尻に光るものが溜まった。




「…………」

 昨日の事故の捜査で所轄署を訪れた佐渡はテ―ブルの上に並べられた、田中さおりの遺留品の数々と睨めっこをしていた。

 その中の一つ、ビニ―ル袋に入ったペンダントを手に取る。

 羽を象ったペンダントだ。

「警部、田中さやかの検死結果がでました」

 丸川がやってきて佐渡に告げる。

「それで?」

「はい。死因は脳挫傷、あるいは出血多量によるショック死。薬物各種の結果も陰性だったようです。やはり、事故死が有力ですね」

「そうか」

 丸川の報告に頷く佐渡。その様子は聊か不満げに見える。

「なにか問題でも?」

「いや、なんでもない」

 丸川の問いに佐渡はぶっきら棒に答えた。

 ただ、昨日の女子高生――田中さやかの友人・かおりの言葉、


『さやか……なにかに酷く怯えてたんです。アイツがくるとか……夢がどうとか――落ちる直前も……何か幻覚でも見ているように、見えないなにかに怯えてる様子で』


 これがどうも引っ掛かる。

 ただの思い過しかもしれない。

 牧村の出現、そしてかおりの容姿に過去の懺悔が突出して、彼女に肩入れしているのかもしれない。


「それよりこれ見ろ」

「はい?」

 佐渡にペンダントを手渡され丸川は首を傾げた。

「その羽の先のところ、なにかくぼみがあるだろ?」

「ええ。石かなにかが付いてた跡ですか。転落時の衝撃で取れたんですかね。これがなにか?」

「いや、べつに」

 それもなんとなく気になっただけ。ただ、なんとなく。

 佐渡は立ち上がり、喫煙スペ―スで煙草に火を点ける。

「…………………」

 最近はどこもかしこも禁煙でやりにくいったらありゃしねぇ。

 かつては煙たいメ―ジが強い刑事の職場にも禁煙の波は押し寄せ、愛煙家の佐渡は肩身の狭い思いをしている。


 ツルルルル


 しばらくして刑事課の電話が鳴り始めた。

 丸川が受話器を取って応対する。

「警部!付近のアパ―トの風呂場で住民母娘の遺体を大家が発見したとの通報です」

「ちっ」

 丸川の言葉に佐渡は舌打ちして、まだ半分近く残っていた煙草を灰皿に押しつけた。

「ゆっくり一服もできやしねぇ」

 ソファ―に放っていた背広を掴み、佐渡は現場に向かった。




 現場は六畳二間ほどの木造アパ―トの205号室。

 若い母親と幼い娘が湯槽に張った水に顔を埋めて絶命している。

「暗れぇなぁ。電気点けろ」

「すいません。どの部屋の電気も切れてるみたいで点かないですよ」

 部下の応答に佐渡は舌打ちをした。

 現場のアパ―ト、まだ昼間だというのにかなり薄暗い。

 向かいに立っているマンションが日光を遮っているのだ。

 人が死んでいる現場はどこも居心地のいいものではないが、ここは特に湿気とカビの臭いが酷く陰欝に感じる。

「で、仏の身元は?」

「あっはい。被害者はこのアパ―トの住人、高山まゆみ・二十五歳とその娘、晶子五歳です」

「旦那は?」

 監察医が遺体検分を行なっている様子を睨むように見ながら、佐渡は丸川に訊ねる。

「奥の部屋に遺影がありました。どうやら先立たれて、女手一つで娘を育てていたようです」

「そうか……で、発見した大家は?」

「あっ下で待ってもらっています」

 佐渡は丸川に連れられ、外付けの階段を降り大家の話を聞きにいく。

「大家の藤谷さんですね。あの、発見時の詳しい情況を話していただけますか?」

 丸川が訊ねると大家は待ってましたと言わんばかりにの勢いで口を開く。

「そりゃ、びっくりしたのってなんのって。いえね、高山さんの勤め先、そこのス―パ―なんだけどね、そこの店長と私知り合いで、その人から高山さんが勤務時間になっても来なくって電話にもでないって連絡があって、高山さん若いけどああ見えてすごく真面目でしょう?ほら、こないだも私が夕飯のお裾分けしたら、丁寧なお礼状と押し花のしおりを器と一緒に――」

「…………」

 大家はいかにも世話焼きで、喋りだしたらとまらないといったタイプのお婆ちゃんである。

「高山さんは無断欠勤するような人じゃないから、私部屋を訪ねて行ったのよ。でも、いくら呼び鈴鳴らしてもでないじゃない?もうそこで、私、ピ―ンといやな予感がして、ほら、私昔から勘がいいでしょ?だから、悪いと思ったけどドアノブ回してみたら、案の定鍵がかかってなくて、恐る恐る入ったら、あんなことになってて。私、ぞっとしたわよ。あんなにぞっとしたのは、私が女学生だった頃、隣の山田くんが私のパ――」

「………………」

 そこからは永遠とお婆ちゃんの思いで話が続く、そう判断した佐渡はその場に丸川を残し現場へ戻った。

 二体の遺体はすでに湯槽から引き上げられ床に寝かされている。

 その形相は凄まじいものがあった。

 特に母親の方は目をひん剥き、口を激しく歪めており、死ぬ直前の恐怖をありありと物語っていた。

「どうですか、先生?」

 佐渡は監察医に訊ねる。

「今日は暑いからな、死後一・二時間ってところか。溢血点が認められるから窒息死なのは間違いないだろ。現場の情況から自殺や事故は考えにくいが、詳しいことは解剖してからだ」

「そうですか。おい、仏さん運びだせ」

 佐渡の指示で遺体は白いシ―トを被せられ担架で運びだされる。

「ん?」

 特に担架が揺れたわけでもない。なのに娘の右腕が担架からにゅっとはみ出し垂れた。

 それを見て佐渡は、

「おい、ちょっとまて」

 担架を運んでいた人間を制する。

娘の拳はぎゅっと握られていた。

 まだ死後硬直は始まっていないのに堅く、なにかを手放さないと意志が込められているように。

「…………」

 佐渡はゆっくりと慎重に娘の拳をこじ開ける。すると手の中からなにかが零れ落ちてきた。

「これは――」

 それは青色の宝石。

 佐渡は床に落ちたそれを広い上げた。

 日当たりが良くない薄暗い部屋の中、だがその宝石は青く青く光を灯している。

「…………」

 胸がざわざわしてきた。

 深夜、人気のないトンネルでも歩いているような緊張感が佐渡を包む。


『なにかに酷く怯えてたんです。アイツがくるとか……夢がどうとか――』


 ――青……。


 なにかが起こっている。


 とても悍ましいなにかが――。



   5



 さやか……。


 あの明るかったさやかがあんな風に怯えて死ぬなんて。

 さやかは優しかった。その優しさに強さが見えた。

 目を瞑って彼女を思えば笑っている顔が一番に思い浮かぶ。

 ときたま喧嘩しても、たとえどんなに私の我侭でも、さやかの方から謝ってくれる方が多かった。

 さやかの『ごめん』聞くと、自然と私も『ごめん』を言えた。

 違う高校に通うことになっても、さやかと私は強い絆で結ばれていて、たとえ毎日会えなくても、頻繁に連絡取り合わなくてもいつもさやかとは繋がっていた気がした。

でも、もうさやかはいない。

 もう、あの笑顔を会うことはできない。

 喧嘩して、さやかの『ごめん』を聞くことも、私があんな風に素直に『ごめん』を言えることも、たぶんもうない。

 なぜさやかはあんなに怯えて死んだのか?

 事故なんかじゃ絶対にない。

 なにかが……なにかがさやかを――。





 その夜、警察からさやかの遺体が返ってくるということで通夜が行なわれる。

 かおりは制服を着てかなり早めに葬儀場へ向かった。

「かおりちゃん」

 会場へ付くと喪服のさやかの母親がかおりを出迎える。

「おばさん……」

「かおりちゃん。ありがとうね来てくれて」

 さやかの母親は涙を堪えながらかおりに頭を下げた。

 かおりは堪らない気持ちになって床に目を落とす。

「かおりちゃん、まださやか警察から返ってきてないのよ。その代わりと言っては悪いんだけど、圭介のところに行ってやってくれないかしら?」

「圭ちゃんの?」

「あの子、お姉ちゃんっ子だったから――私たち以上に落ち込んじゃって……」

 亡くなった娘、そして遺された息子の憔悴に心を痛め、母親はハンカチを濡らす。

「圭ちゃんはどこに?」

「親族控え室に一人でいると思うわ」

「分かりました、行ってみます」

 そう言って頭を下げ、かおりは圭介のところへ向かった。

 畳の親族控え室、圭介はすみっこの壁に凭れ掛かりテレビを見ていた。

 いや、見ているというより、付けっ放しになったテレビを眺めていると言ったほうが正しいかもしれない。

「圭ちゃん……」

「…………」

 かおりの呼び掛けに、圭介は一瞬だけ顔を上げ、かおりを一瞥してすぐに目を伏せた。

 圭介の目の周りには薄ら隈ができている。

 たぶん、昨日からあまり眠れていないのだろう。

 それはかおりも同じである。きっと自分も酷い顔をしているだろう。

「………………」

 かおりは無言で圭介の横に腰を下ろした。

 沈黙。かおりは少し緊張した。

 圭介になんと言葉をかければいいのかと。

 自分も悲しくて苦しい。

 でも、家族であり姉を心から慕っていた圭介の痛みはきっと自分のよりも重い。

 暫らく、テレビの音だけが雑踏のように流れていると、圭介が首を傾けかおりの肩に自身の頭を預けた。

 かおりは少しだけほっとする。

 自分の存在が圭介にとって、少なくとも重荷にはなっていないのだと感じて。

「禿げ山覚えてる?」

 圭介がぼそりとかおりに訊ねる。

 禿げ山とは近所にあるコンクリ―トで舗装された崖のようになっているところである。

「小学校の頃さ、いつも三人で登りっこしたよな」

「うん」

 圭介は思い出に触発され少しだけ微笑んでいる。

「姉ちゃんがよくビリになってたけど、今思うと、俺の方が運動神経鈍いから、勝ちを譲ってくれてたっていうか、落ちないか心配で下から見守ってくれてたんだよな、アレ」

「そうだね」

「姉ちゃん笑ってることが多かったけど、あれでけっこう心配性だったんだよな。そにさぁ、我侭なトコもあったんだぜ。夜に突然プリン食べたいとか言い出してさ、コンビニに買いにいかされたりとかよくあったし」

「そうなんだ」

 かおりの知らない、家族だけが知っていた友人の姿に少しだけこそばゆい感じがする。

「うっうぅ」

 圭介が泣き始める。

 心という器に色々な感情が一斉に注がれ溢れ出てしまったかのように。

 かおりはそっと圭介の手を握った。

 圭介の手の平にはくっきりと畳の跡が付いていた。

「ありがとう、かおり」

「えっ?」

「かおりがいるから……来てくれたから、俺まだ凌げてるんだと思う」

 圭介はかおりの手を握り返した。

 かおりはそんなことを泣きながら言う圭介の中にさやかを見る。

 圭介の中にさやかが確かに息衝いている気がした。

「ありがとう」

 かおりは素直にそう囁く。

 やがて圭介は座布団を枕にして眠った。本当に一睡もできていなかったようだ。

 かおりは立ち上がり圭介のお腹にもう一枚座布団を被せる。

 部屋を後にしようとテレビを消そうとしたとき、


『――市の母子殺人事件で、娘の晶子ちゃんが青いダイアモンドらしき宝石を握り締めていたことが明らかになり、警視庁では事件となんらかの関係があるのか調査を――』

 

 それまで雑音でしかなかったテレビのニュ―スがかおりの耳に飛び込んできた。


 ――青い――ダイアモンド……。


 かおりの脳裏に転落直前のさやかの姿が浮かんだ。

 夕日に照らされた町に舞い上がったさやかの体。

 そしてその首元で確かに輝いていた青い光。

 一昨日さやかが買ったペンダント――自分が欲しくて買い逃したペンダント――その先端に灯っていた、人を酷く魅了する青――。

 かおりは無意識のうちに駆け出していた。



   6



 高山母子殺人事件の捜査本部が所轄署に設置された。

「死亡推定時刻である、午前十一時から午後一時の間、付近で不審人物を見なかったか隣住民に聞き込みをしましたが、今のところ有力な手がかりはありません」

「うむ」

 部下の報告を耳に佐渡は唸る。

「他は?」

「はい」

 丸川が立ち上がり、ビニ―ル袋に入ったブル―ダイアモンドを掲げる。

「鑑識の結果、これは本物のダイアモンドだそうです。ただ、レ―ザ―で肉眼では確認できないほどのシリアルナンバ―が彫られているそうで、これは遺灰から合成ダイアモンドを作る企業のダイアモンドの特徴だそうです」

「遺灰からダイア?」

 佐渡は怪訝そうに眉を顰めた。

「はい。遺骨や遺灰から炭素を抽出し、ダイアモンドを合成する技術があるそうです。最近では少子化や核家族化の影響で、墓守がいなくなるかもしれないという懸念から、墓を建てずに遺灰を合成ダイアモンドにすることが流行しているんだそうです」

「そうか……」

 流行に疎い佐渡は半信半疑といった体で呟いた。

「じゃあ、そのダイアは先立った高山の旦那のものか?」

「いえ。そう思ってその会社に確認したところ、夫が病死してからの一年間の顧客リスト調べてもらったんですが、高山のものはありませんでした」

「ふむ」

 佐渡は丸川の手元の青いダイアモンドを睨むように望む。

 それは蛍光灯の白い光を纏って青く美しく輝いている。

 人間の骨があんなになるのか。

 確かにそれは魅力的なことかもしれない。

 だが、佐渡はどうしても解せないと感じてしまう。

 墓を建てずにダイアモンドに。墓守がいなくなるから。

 少子化・核家族化――まさに現代この国が抱える問題を結晶化しているようで、皮肉めいている。

「警部?」

「っ!」

 つい考え込んでいたところを部下に不審がられ佐渡はハッとなる。

「すまん。あ〜なんだ?シリアルナンバ―があるといったが、そこから誰のものなのかわからんのか?」

「それがちょうどその上に傷があって、ナンバ―を読むのは困難だそうです」

「ふむ」

 佐渡は頷きまたも思案に入る。

 客観的に見れば、このダイアモンドが事件に関係あるものとする根拠はどこにもなく、まったく無関係の確率の方が圧倒的に高い。

 なのに佐渡はどうしても気になって仕方がない。

 このダイアモンドの青が……。

 まるで深い深い感情が込められているようで。

「失礼します」

 会議室に制服警官が入ってきて佐渡に近付く。

「警部。佐藤かおりと名乗る少女が、青いダイアについて警部に話したいことがあると、面談を求めているのですが」

「っ!?」

 佐渡はぎょっとなる。そして、驚きついでに一瞬佐藤かおりが誰だったかが頭の中から飛んでいた。

 佐渡は思い出そうと呟く。

「佐藤かおり……」

「警部。それって昨日の田中さやかの友人ですよっ!!」

 と丸川。

 そうだ、あの娘だ。

 ほんの一瞬だけ、美保と――死んだ娘とダブった。


『なにかに酷く怯えてたんです。アイツがくるとか……夢がどうとか――』


 この言葉を自分に植え付けた。

「他に報告はないな」

 佐渡は部下の言葉を待たずに会議室を飛び出した。




 警察署を訪れたかおりは応接室のようなところに通された。

「お待たせしました」

 応接室に佐渡と丸川が入ってくる。

「青いダイアのことで俺に用があると?」

 佐渡がかおりに訊ねた。かおりはゆっくりと頷く。

「ニュ―スで見たんです。今日、近所で死んだ女の子が青いダイアを握ってたって」

「それで?」

「さやかも、さやかも持ってたんですっ!ペンダントの先に付いた青いダイアをっ!!」

「…………」

 佐渡と丸川は押し黙る。

 かおりは刑事たちから『それがどうしたんだ』と思われていると思い込み、

「関係ないかもしれないけどっ!だけど、私っ――」

「わかってます。落ち着いてください」

 興奮するかおりに丸川が落ち着くよう制する。

「そのペンダントというのはコレか?」

 佐渡はポケットからビニ―ル袋に入れたペンダントを取出しテ―ブルにおいた。

 鎖に銀細工の羽がアクセントになっているペンダント。

「それですっ!」

「そして、これが今日亡くなられた少女が握っていたダイアです」

 丸川がビニ―ル袋に入ったブル―ダイアモンドをペンダントの横におく。

「………………」

 佐渡は白い手袋を填め、ペンダントとダイアモンドをビニ―ル袋から取り出した。

 そしてダイアモンドを摘み、ペンダントの羽の先にあるくぼみに填め込んだ。

「ぴったりだっ!!」

 丸川が驚愕の声を上げる。

 佐渡は眉間に皺を寄せ、

「ということは、アレだっ!――どういうことだ……」

「つまりこういうことですよ、警部っ!田中さやかは転落時このペンダントを身につけていた。転落の衝撃かなにかでこのダイアはこのアクセサリ―から外れ、周囲に転がり、それを高山晶子が拾ったんです」

「わかってるよ、そんなこったぁ!!」

 佐渡は熱り立って、興奮気味に推理を繰り広げる丸川の頭を叩いた。

「だから、そのだな……」

「そのダイアを持っていた人間が立て続けに死んだ」

 言いにくそうにしている佐渡の言葉に、かおりが続けた。


 ごくり


 誰かの唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。

「…………」

 その場にいる三人の間に永遠とも思える沈黙が訪れる。

 三人はダイアモンドに目を落とす。

 すると急激にダイアの輝きと青の深みが増していくような錯覚に陥る。

 それはあたかも自分には魔力があるのだと言わんばかりに、青く青く光を灯す。

「いやはや、やっぱり刑事さんは疫病神のようだ」

 突然聞こえてきた男の声と、人を小馬鹿にしたような拍手。

 固まっていた三人は心臓を跳ね上がらせ、声のした方へ目を向ける。

「牧村っ!?」

 声の主は新聞記者の牧村だった。

 牧村はニタニタといやらしい笑みを浮かべて応接室の入り口に立っている。

「てめぇ。聞屋がこんなとこまできて立ち聞きたぁ、ぶちこまれてぇのかっ!?」

 佐渡は立ち上がり、牧村を怒鳴り付けた。

 しかし、牧村は変わらぬ笑みで言う。

「やだなぁ、刑事さん。今日の僕はただの一般市民。情報提供者としてここにきたまでですよ」

「なにっ!?」

「ふふ。みなさんはホ―プダイアというものをご存じですか」

「?」

 牧村はいささか芝居がかった調子で手を広げ、応接室へ入ってきた。

「とある博物館にある、4・4カラットの地上稀に見る美しい宝石・ブル―ダイアモンド」

「それって確か持ち主が次々に不幸な目にあったっていう、呪いのダイアですよね」

 牧村の説明に丸川が答える。

「その通り、そちらの刑事さんは若いのに博識でらっしゃる」

「いやぁたまたまテレビの特集で見たことあっただけで」

「照れるなっ!」

 牧村の賛辞に、頭を掻いて照れ笑いを浮かべる丸川を佐渡がどつく。

「そのホ―プダイア、今おっしゃられたとおり本当に次々に持ち主を不幸にしたらしいですよ。その中にはかの有名なマリ―・アントワネットも含まれている。言わずもがな、彼女の数奇な運命が不幸であったのはご承知のこと。近年では、あのマリリン・モンロ―も主演映画の中でホ―プダイアを身につけている。彼女もまた、謎の変死を遂げた」

「けっそのホ―プだか、ホ―スだかがどうだってんだ。それは博物館に保管されてんだろうがっ!?」

 佐渡が悪態を吐く。牧村は素直に頷き続ける。

「その通り。ただ、今のは宝石の呪いは実在するという前置きですよ」

「前置きだぁ?」

「ええ。僕、見たんですよ。昨日の田中さやかが転落死した現場のすぐ傍で、高山晶子がそのダイアを拾っていたところを」

「なっ!?」

 驚愕する佐渡たち。これで先の丸川の推理が確信へと変わった。

「てめぇ、それを黙ってみてたのかっ!?」

 佐渡が牧村の襟首を掴み上げる。

「呪われていると知っててっ!」

「はぁ?なに言ってるんですか、刑事さん。その時点で、そんなこと知ってるわけないじゃないですか?」

 相変わらず牧村は卑しく口角を引き上げている。

「そうですよ、警部。呪いかもしれないってのは、田中さやかと高山親子が立て続けに死んだから浮上したことであって、その時点では推測のしようがありませんから。落ち着いてください」

「ちっ」

 丸川に諭され佐渡は舌打ちをして牧村を放す。

「この男は知ってたとしても見逃してるよ!ネタのためには、なんでもするダニみたいな男だっ!」

「さすがは付き合いの長い刑事さんだ、よくご存じで。ただ、これだけは忘れてもらっては困ります」

 牧村は不敵に言う。

「たとえ僕が知っていようが知っていまいが呪いは法では裁けない。当然、殺人幇助にはなりませんよ」

「けっ」

 佐渡は外方を向く。

 牧村の本質は佐渡がよく知っている。

 ネタ――というより、自分が面白いと思うことを徹底的に追い回し、かき乱し、事件を大きくして、自身の快楽を満たす正真正銘のゲス野郎だ。

「そういえば先のホ―プダイアですが、一説には人の心をマイナスに向ける電磁波を発生させるのではないかという仮説もあるそうですよ。そのダイアも一応化学分析をやってみてはどうですか?」

「けってめぇに言われねぇでもやるつもりだったよ」

 牧村の提案に佐渡は強がったようなことを言う。

「ところで――」

 牧村はかおりの方に向き直った。

「あなたは昨日、田中さやかの転落を間近で目撃した方ですよねぇ」

「そっそうですけど」

 かおりは怪訝そうに答える。

 彼女も一見して牧村が胡散臭い人間だと感じていた。

「田中さやかはなにかに怯えていたと証言してらっしゃったみたいですけど、その話詳しくお聞かせ願えたら幸いなんですが」

「…………」

 かおりは戸惑い佐渡の方を見る。佐渡は黙って頷いた。そのことがなんらかのヒントになる可能性もあると思うからだ。

 かおりは意を決してことの次第を話し始める。

「私、さやかに電話で呼び出されたんです。さやかとは別の高校だから。さやか、電話でもすごく怯えてて、それで私、さやかのもとへ向かったんです。さやか駅前のベンチに震えて座っていて、一昨日もさやかと会ったんですけど、そのときとは別人のように顔面蒼白になっていて、私がなにがあったのか訊ねると、昨日恐い夢を見て、起きたらずっと女の人が付き纏ってくるみたいなことを言ってたんです。そしたら、誰もいないのに歩道橋のエレベ―タ―が開いて、さやかそこから私には見えないなにかがやってきたように怯えだして――そして……」

 かおりは哀しみを堪えるように口篭もる。

 佐渡はかおりの様子に心を痛め顔を顰めるが、牧村は容赦なくかおりに質問を続ける。

「そのペンダントを田中さんがいつ入手したかご存じで?」

「一昨日……会ったとき。銀細工の露店で」

 そう、自分が見付けて買おうとして買えなかった――だからさやかが――。

 かおりはとてもそのことを口にはできなかった。

「ふむ。では、田中さんが付き纏われていたという女、特徴かなにか言ってませんでしたか?」

「特徴……」

 そうだ。なぜじぶんはそのことを今まで口にしなかったのか。さやかに聞いたとき、自分の中にはっきりとイメ―ジが浮かんだ――いや、あれは今思えば植え付けれたと言った方が正しいかもしれない――それなのに。

「い――」

 とてつもない緊張がかおりを襲う。

 そうか。口にするのも悍ましかったから、無意識に避けていたに違いない。

「全身に刺青」

『っ!?』

 かおりの言葉に、佐渡、そして牧村が目を剥いた。

「全身に呪文のような刺青を入れた髪の長い女だと言ってました」

「っあぅ」

 佐渡は腰砕けになりソファ―に座る。

 そして牧村は、

「あっはっはっはっはっ――」

 狂ったように大笑した。

「うはははははっ、刑事さん。あんたの娘の罪は死してもまだ消えてらっしゃらないようだっ!」

「このっ!!」

 佐渡は飛び上がるように立ち上がり、牧村の顔面を殴り付けた。

「くっ」

 堪らず牧村はよろめく。唇の端が切れ血が一筋垂れた。

 それでも牧村は薄笑いをやめない。

「これは立派な傷害ですね」

「このっ!!」

「やめてください警部っ!?」

 頭に血が上り、またも牧村を殴り付けようとする佐渡を、丸川が羽交い締めにして止める。

「ふふ。訴えたりしませんから安心してください。はは、なんせ僕は刑事さんのスト―カ―ですからね。それに――」

 牧村は踵を返す。

「刑事さんに付き纏っていたおかげで、ほんとうに面白くなってきましたし」

 牧村は背中を向けたまま手を振り、部屋を後にした。

「牧村あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 佐渡の怒号が虚しく響く。

「はぁはぁ、丸川放せ」

「でっでも――」

「けっ。殴りに行ったりしねぇよ」

「そうですか――?」

 丸川は半信半疑に佐渡の拘束を解いた。

 佐渡はもう牧村を追い掛ける気力もないといったように、フラフラとソファ―に腰掛け俯く。

「…………」

 暫らくの静寂。

 そして、

「嬢ちゃん……もう、帰んな」

「えっ!?」

 ボソリと放たれた佐渡の言葉にかおりは耳を疑った。

「でっでも――」

「友達のことは事故だ。もう、これ以上関わるな」

「そんな――」

 そんな風に言われてかおりが納得できるはずがなかった。

 ここまで来て事故?――そんなはずない!

 青いダイアモンドの呪い――そして、刺青の女に対して、大人二人がこれほどの反応を示した。

 それでただの事故だと言われて、はいそうですかと引き下がれるものか。

「事故のはずが――」

「もう、勘弁してくれっ!?」

 佐渡は顔を上げ叫んだ。目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

「もう、嬢ちゃんみたいな若いもんが死ぬところを見たくねぇんだよっ!!」

「…………」

 佐渡はゆっくりと立ち上がると、ふらふらとした足取りで部屋を出ようとする。

「警部、どこへ?」

「煙草、吸ってくるだけだ」

 丸川の問いに、佐渡は疲れ切った様子で答えた。



 屋上の塀に凭れ掛かり、佐渡は煙草に火を点ける。

「ふぅ」

 紫炎を吐きながら天上に目を向けた。

 今日はあいにく曇っていて星一つ見ることができない。

 しかし、佐渡はほっとする。

 天の頂で輝く月はどことなくあのブル―ダイアを彷彿とさせるからだ。

「ここにいたんですか、警部」

 丸川が屋上に顔を見せる。

「喫煙スペ―スにいないから探しましたよ」

 そう言って、丸川も佐渡の横で塀に凭れ掛かった。

「なんか用か?」

「いえ、一緒に煙草でもと思いまして」

 丸川は内ポケットから煙草を取り出し吸い始める。

「お前……煙草吸ってたっけか?」

 佐渡は驚き丸川に訊ねた。

 佐渡の記憶では丸川は禁煙派だったはずである。

 丸川は苦笑いを浮かべ、

「最近吸い始めたんですよ。軽いやつですけど」

 と照れ乍ら言った。

「ふ〜ん……なんでまた?」

「なんでですかねぇ」

 丸川は勿体ぶる。

 そしてぼやくように言った。

「こういう仕事してると、吸わずにいられないっていうか――酒はあんまり飲めませんからね……」

「………………」

 いつも頼りなげな丸川の顔が急に男のものとなった――佐渡はそんな気がした。

「因果な商売ですよね、刑事って」

「いっちょまえなこと言いやがって」

「いて」

 佐渡はなぜか少し嬉しくなって、それを誤魔化すように丸川の頭を小突いた。

「ところで警部。刺青の女――なにかご存じなんですか?」

「…………………」

 丸川は真剣な口調で訊ねた。

 佐渡は無言で携帯灰皿を取り出し、吸い殻を入れる。そして、二本目の煙草に火を点けて、ぽつりぽつりと語り始める。

「淀川葵……。十年前……服毒自殺で死んだ女子高生だ。失踪から数週間後――通っていた高校の校庭で素裸で倒れているところを発見された。全身に……呪文のような刺青を彫られた姿で――」

「全身に呪文のような……」

 丸川は想像が付かないといった体で呟く。

「耳なし芳一、あれがイメ―ジとしては近いだろ」

「ああ、なるほど」

「もっとも、彼女の場合は長い髪はあったし耳までびっしりと刺青が彫られていたがな」

「…………」

 丸川はぞっとして固まる。

 全身に呪文の刺青を彫られた女子高生の遺体。服毒自殺なら外傷はなかったのだろう。なのにこれをほど怖気を誘うものもないだろう。

「煙草、灰が落ちるぞ」

「あっ」

 丸川はあわてて自分も携帯灰皿を取り出し灰を中に落とした。

「それほんとに自殺、なんですか?」

 そんな異様な遺体が本当に自殺なのか?

 丸川は至極当然の疑問を投げ掛ける。

「当時も自殺か他殺かで議論は尽くされた。だが、結局のところ遺書が直筆だったのは間違いなかったし、原因もはっきりしていたから自殺と断定された」

「原因?」

「…………」

 佐渡は深いため息とともに脂を吐き出す。

「いじめだよ。首謀者は――」

 佐渡は左手で両目を覆った。

「俺の娘を含む同級生三人だった」

「あぅ」

 丸川は言葉を失う。

 佐渡は二本目の煙草も吸い終わり、吸い殻を携帯灰皿に押し込んだ。

 そして、妙にさっぱりとした口調で言う。

「娘もその二年後、交通事故で死んじまったよ」

「…………」

 丸川は佐渡になんと声をかけていいか分からなかった。

 佐渡は、もう吹っ切れてるんだよ、と言わんばかりに軽く笑う。

「ははっ。そして淀川葵をいじめていた他の二人も同時期に事故で亡くなってんだな、これが」

「っ!?」

 丸川は愕然とした。

「それってまさか――」

「言うなっ!!」

 佐渡は丸川の言葉を強く制する。

「あれは事故なんだ」

 佐渡は思いっきり塀を殴り付けた。

「あれは事故なんだよ」

「…………」

 そう自分に言聞かせたい、そう思い込みたい佐渡に、丸川はそれ以上言葉を発することはできなかった。

 それも、呪いだったんでは――などと。





   7



 翌朝。

「くっしょう!なにやってんだよ、かおりのやつ」

 圭介は携帯電話を弄くりながら葬儀場から出る。

 さっきからかおりに電話をかけているのだが通じないのだ。

「昨日も、勝手に帰っちまうしよう」

「やぁ、田中圭介くんだね」

 葬儀場の敷地を出たところで突然、圭介は男に声を掛けられる。男は真っ赤な単車を乗り付けていた。

「…………」

「僕はこういうものなんだけど」

 怪訝そうに押し黙る圭介に男は名刺を差し出した。

 名刺には毎朝新聞記者・牧村宗也とある。

「きみは一昨日亡くなった田中さやかさんの弟くんだよね」

「くっ」

 圭介は牧村の言葉にイラついて眉間に皺を寄せた。

 しかし、牧村は気にせず話を続ける。

「きみは知っているのかなぁ?ブル―ダイアモンドの呪いを」

「?」

「羽を象ったペンダントの先についた青いダイアモンド。きみは見たかい?」

「あっ」

 圭介は思い出す。さやかが死ぬ前の晩、嬉しそうに見せびらかしていたペンダントのことを。

「その様子じゃあ知っているようだね」

「…………」

「実はあのダイア。お姉さんが転落したときにペンダントから外れたようでね、それを拾って持ち帰った女の子が昨日、母親共々亡くなっているんだよ」

「なっ!?」

 圭介の顔色が驚愕と変わった。それを面白く思った牧村は得意げに告げる。

「ふふ。そして昨晩、お姉さんの友達のかおりちゃんがニュ―スを見てそのことに気付いてね、刑事さんに話していたんだよ」

「かおりがっ!?」

「そう。あの青いダイアモンドは呪われているってね。かおりちゃん、ずいぶん思い詰めていたみたいだよ」

「………………」

 圭介は信じられないといった様子で口を手で押さえた。その様子を見る牧村の表情は至極恍惚に満ちている。

「ふふ。そうそう、話は変わるけどあの青いダイアモンドはね、実は七年前にも人を殺しているんだよ」

「っ!?」

「少なくとも確実に三人は殺されている。どう?興味が湧かない?」

「なんで俺にそんなことを――」

「なんでかな?」

 解せないと声を震わせ訊ねる圭介に、牧村はとぼけたように言う。

「そうだね。敢えて言うなら、きみには知る権利があると思ったから――かな?」

「…………」

「興味があるならその名刺の裏に書いてあるURLにアクセスしてよ」

 圭介が不審そうに名刺を裏返して見ると、そこにはボ―ルペンでウェブペ―ジのアドレスが書かれていた。

「ペ―ジが開らかれたらまず、パスワ―ドを打つようにようになっているんだ。パスワ―ドは―――」

 牧村の瞳に深い濁った光が灯る。

「〃青いよどみにひかれて〃」

「青いよどみ……」

 圭介は慄然と呟く。

 ――青いよどみにひかれて――その言葉に底知れない不安を覚えた。

「きっと面白いものが見れるよ」

「くっ」

 圭介はそこまで聞くと駆け出した。

 牧村はそんな圭介の背中を見送り、

「いい」

 舌舐めずりをする。

 いつみてもいい――被害者の遺していったものたちの、苦しみや哀しみに歪む表情――そして、真実を突き付けられたときの、驚きと猜疑心に満ちた表情は。

「さて、そろそろ事件の首謀者にもご登場願おうか」

 牧村はヘルメットをかぶると、真っ赤な単車に股がり走りだした。



 かおりは自宅ダイニングでパソコンの画面と睨めっこしていた。

 昨晩、警察署から帰ってきてからさやかの通夜にも顔を出さずにずっと、寝ずにパソコンを弄くっている。

 それはブル―ダイアモンドの呪い――そして、刺青の女のことを調べるため。

「…………」

 ブル―ダイアモンド、いわゆるホ―プダイアについてはずいぶん詳しくなった。


 ホ―プダイアが歴史に登場したのは1666年。寺院の石像の目に填めてあったブル―ダイアモンドをフランスの貿易商が取り外して加工し、ルイ14世に献上したことに始まる。その後、そのフランスの貿易商は破産しインドからの帰りに溺れかけ、さらに帰国と同時に野犬の群れに襲われ食い殺された。

 後にブル―ダイアモンドはマリ―・アントワネットのもとに渡り、彼女はフランス革命に巻き込まれ処刑。

 その後もダイアの呪いの猛威は止まることを知らず、ダイアを盗んだ宝石商の息子は自殺。ときを経て、入手したイギリスの実業家ユリアソンは数日後に落馬で死亡。

 1839年、ブル―ダイアモンドはロンドンのオ―クションに出品され、それを落札した実業家ヘンリ―・フィリップ・ホ―プは数年後に破産し彼自身も死亡。その後、ホ―プ家が四代に渡ってダイアを所有するも一族の威光は地に落ちていった。

 その後、カルティエのもとを経てアメリカの新聞王エヴァリン・ウォルシュ・マクリ―ン婦人へ渡り、マクリ―ンの息子は交通事故で死亡、娘も睡眠薬の飲みすぎで死亡し、その数ヵ月後にマクリ―ン婦人も肺炎で死亡した。


 牧村の言ったとおり、ここまでの実例が列挙されれば宝石の呪いは実在するのかもしれない。           

「…………」

 しかし、かおりの知りたかったのはその伝説のダイアモンドのことではない。

 さやかの手にしたあの小さなブル―ダイアモンド。

 そして、大の男二人の顔色を変えた刺青の女――そのことに関しては一向にヒットする気配がない。

「ふぅ」

 いい加減かおりが疲れ果ててきたところで家の呼び鈴がなった。

 かおりの家は古いアパ―トでありダイニングに直接玄関がくっついている。

 かおりが玄関扉の覗き穴から覗くと、圭介が不機嫌そうに立っていた。

「圭ちゃん」

「なんで電話にでないんだよ」

 かおりが玄関を開けると、圭介は開口一番に文句を垂れた。

「あっごめん。たぶん携帯バックの中で気付かなかった」

「…………」

 圭介は勝手知ったると、かおりの家に上がり込む。

 かおりは圭介に出そうと冷蔵庫から麦茶の入ったペットボトルを取り出し、グラスに注いだ。

「かおり」

 圭介は深刻な口調でかおりの背中に問い掛ける。

「ブル―ダイアの呪いってなんだ?」

「っ!?」

 圭介の言葉にかおりは固まった。麦茶がグラスから大量に溢れ、かおりは慌ててペットボトルを立てる。

「なんで……」

 かおりはゆっくりと振り替える。圭介の顔はいつになく険しい。

「今、牧村っていう新聞記者に聞いた」

「――――っ!?」

 かおりはよろめく。

 『もう、これ以上関わるな』――そう自分に告げた刑事の言葉が急浮上してくる。

 圭介にはこのことに関わってほしくなかった。

 圭介を巻き込みたくないということ――それ以上に、圭介には自分の罪を知られたくない。

「パソコン借りるぞ」

 圭介はイラついた様子で言い、今の今までかおりが使用していたパソコンの前に座る。

 そして、ポケットから名刺を取り出しURLを打ち込み始めた。

「なにをっ!?」

 かおりは慌てて圭介の後に回り込む。

 圭介がエンタ―キ―を押すと、

「これは――?」

 なにかのウェブペ―ジが開かれた。

 画面いっぱいに薄暗い水面の波紋を広げているCGが映っている。

 圭介がマウスを操り、エントリ―のアイコンをクリックするとパスワ―ド入力画面が表れた。

 そして圭介はゆっくりとキ―ボ―ドで打ち込む。

 『青いよどみにひかれて』と――。




   8



 佐渡はブル―ダイアモンドを持って科捜研に向かった。

「あら、惣一朗」

 科捜研の相沢麻衣子は訪れた佐渡に親しげに挨拶する。

「最近、響子が電話かけても繋がらないことが多いから、また無茶なことしてんじゃないかって心配してたわよ」

 麻衣子は佐渡の幼なじみであり、佐渡に麻衣子と大学が一緒だった元妻・響子を紹介した仲人でもあった。

「けっ大きなお世話だ。別れて十年以上も経つのに、とやかく言われる筋合いはねぇよ」

「あら。慰謝料が滞ったら困るから言ってんでしょ、きっと」

「あっそうかよ」

 佐渡はいじけたように外方を向く。内心、元妻に心配されたと思って少し嬉しかっただけに余計腹が立つ。

「そんなことより、仕事だ」

「これを調べればいいの?」

 麻衣子は、佐渡に手渡されたビニ―ルに入ったブル―ダイアモンドをしげしげと見つめて言った。

「成分分析すればいいの?」

「できることは全部やってくれ、科学者の意見が聞きたいんだ」

「急ぎなの?」

「ああ、なるべく急いでほしい」

「う〜ん」

 佐渡の以来に麻衣子は渋るように唸った。

「実はさぁ、未明にひき逃げ事故があって、今日はその塗料の分析とかに追われそうなのよね」

「たのむ」

「わけありなのね」

 いつになく真剣な幼なじみの頼みに、麻衣子はしょうがないと頷く。

「わかった。頑張ってはみる」

「すまない」

「はいはい。忙しくなりそうだから帰った帰った」

 おどけた調子で麻衣子が佐渡を追い返そうとすると、

「麻衣子、気をつけろよ」

 佐渡が重々しく麻衣子に釘をさした。

「なにが?」

「そのダイアを持った人間が立て続けに死んだんだ。俄にそのダイアの呪いじゃないかって話もでてきてる」

「呪い?馬鹿馬鹿しい」

 麻衣子は佐渡の言葉を笑い飛ばす。

「呪いだって馬鹿にできねぇぞ。現にスプ―ンダイアっていう、馬鹿でかい宝石が――」

「それホ―プダイアでしょ?どういう脳の構造でスプ―ンになるのよ」

 恐らく、ホ―クと間違え、さらにスプ―ンなった二段階構造である。

「だいたいね。そのホ―プダイアだってたんなるこじつけよ。あんな高価な宝石を欲しがるのは物欲が強い人間ってことでしょ?物欲が強いイコ―ル、リスキ―な生活を送りやすいから自ずと破滅傾向にある。マ―フィ―の法則ってやつよ。それに世の中に不幸な目にあって死ぬ人間なんか何人いるのよ。だいたいね、そのホ―プダイアを最後に所有していたウィストン氏は十年間ダイアを持ってたけど、これといって不幸な目にあったっていう話はないんだから」

 生粋の科学者である麻衣子は呪いなどという非科学的なものをまったく信じていない。そんな彼女に佐渡は圧し殺した声で告げる。

「そのダイアを持って死んだ女子高生が、あの淀川葵の死んだときの姿を見たと言ってたとしてもか?」

「っ!?」

 そこにきて麻衣子の顔色が変わる。

 麻衣子も淀川葵のことは知っていた。

「俺だって呪いが本当にあるなんてことは信じちゃいねぇ。ただ――」

 佐渡は沈痛な面持ちで口篭もる。

 当然、麻衣子は淀川葵をいじめていたのが死んだ佐渡の娘・美保だと知っており、その美保とも交流があった。

 麻衣子から見て、ひいき目を覗いても、美保は利発で明るい子でとてもいじめの首謀者になるような娘には思えなかった。

 今更、十年も前の、それもすでに亡くなった娘の過ちを穿り返さなければならない佐渡の辛い立場も、麻衣子は十分すぎるほど理解できた。

「わかったわ。細心の注意は払う」

 麻衣子は佐渡に対しての同情の意味も含めてそう告げる。

「気をつけろよ」

 二度目の忠告を口にして、佐渡は科捜研を後にした。




 佐渡は丸川を連れ市内にある養護施設を訪れる。

「お待たせしました」

 応接室で佐渡たちが待っていると、施設の園長である中年女性がやってきた。

「園長の加藤です」

 園長は刑事二人に慇懃に礼をする。

「さっそくですが――」

 形式的な挨拶をすませ、佐渡は園長に話を切り出す。

「十年前亡くなられた淀川さんのことでしたね」

「はい」

「正直、今思い出しても心苦しいですよ」

 園長はそう言って涙ぐむ。

「淀川さんはホントにいい娘さんでしてね。生まれて間もなく母親を病気で亡くし、父親も彼女が小学生の頃に事故で亡くして……それでも彼女は不幸な生い立ちにいじけることなく、一生懸命勉強して私立の進学校に特待生として入学できて――それがあんなことになるなんて」

「心中お察しします」

 佐渡は小さく頭を下げる。

 佐渡は必死で心が潰れそうになるのを堪えた。

 そんな娘をいじめぬいて殺したのは自分の娘なのだ。

「それで、淀川さんの葬儀のことなのですがそれはこちらの園で?」

 丸川が園長に訊ねる。

「ええ、国からの補助金もでましたので私どもが喪主を務めました」

「遺骨の方はどちらへ」

 それが本題である。

 立て続けに死んだ人間が持っていたブル―ダイアモンド。それは遺灰から作られたものであった。

 そして佐藤かおりの証言により、そのダイアの基となった遺灰は、十年前、全身に呪文の刺青を彫られた姿で自殺した淀川葵のものではないかという推理が成り立ったのだ。

「遺骨は確か、赤井くんが引き取っていかれたんじゃなかったかしら」

「赤井?」

「ええ、赤井修一くんです。ちょっと待ってください」

 園長は立ち上がって本棚からアルバムを引っ張り出してくる。

「この子です」

 園長はそう言って佐渡たちにアルバムを見せた。そこには学制服を着た少年が写っている。

「この子もこの園の?」

「はい」

 佐渡の問いに園長が頷く。

「淀川さんより三つ年上で、淀川さんが亡くなった当時はもう、社会人になって園は出てましたけど。とても小さい頃から、淀川さんと親しくて、たぶん当時は恋仲だったんだと思います。葬儀の席で自分が責任持って供養するからと言うので、私たちもその方が淀川さんが喜ぶと思い任せました」

「………………」

 佐渡は内心信じられないという思いでいっぱいだった。

 当時、淀川葵の自殺は話題となり、いじめ問題は刑事事件にまで発展した。にも関わらず赤井修一の存在は浮上していない。遺骨を引き取るほどの恋仲だったのなら、刑事裁判の証人や民事訴訟の原告として名乗り出てくるのが普通であろう。

 淀川葵のいじめ問題において、佐渡の娘を含む加害者の罪の追求に一番尽力をしたのはあの牧村である。

 衝撃で固まる佐渡の代わりに丸川が園長に訊ねる。

「その赤井修一の居場所は分かりますか」

「いいえ」

 園長は頭を振った。

「淀川さんの葬儀の後、数か月くらいして赤井くん私たちにも告げずに住んでいたアパ―トを引き払ってしまったようで、それからはぱったりと連絡はないんですよ」

 そこまで聞いて佐渡たちは園長に暇を告げた。

 佐渡は車の助手席に乗り込むと俯いて目を瞑った。

「大丈夫ですか、警部」

 運転席の丸川が佐渡を気遣う。

「ああ」

 佐渡は目を瞑ったまま答えた。

「丸川、署のやつらに指示しろ。遺骨ダイア製造の会社に赤井修一の依頼デ―タがないか。赤井修一の現在地。そして――」

 佐渡は顔を上げ吠える。

「牧村をしょっぴけ」

 やつは必ずなにか知っているはずだ。



   9



 郊外にある小さな町工場で赤井修一は働いていた。恋人をあんな形で亡くしてからというもの、職も住むところも転々とし、最後に行き着いたのが静かで誰も自分を知るものがいない小さな町だった。

 都会の喧騒が軋む心を誤魔化してくれると思った時期もあった。それでも過去は変わらず自分を責め立てる。

 結局、過去のない場所での時間だけが自分の居場所となっていったのだった。

 今では新しい婚約者もできた。工場の社長の娘だ。

 修一の歯車は十年経って少しずつ回り始めていた。

「修一さん、お客さんですよ」

 修一が工場で作業していると、婚約者で事務員でもある美智子が彼を呼びにきた。修一は作業を中断し、美智子のもとへ。

「お客さんって?」

「あちらの方ですよ」

 美智子が指し示した先を向くと、真っ赤な単車を乗り付けた男が立っていた。

「牧村さんっ!」

 修一の顔が晴れる。彼は嬉しそうに牧村のところまで走った。

「お久しぶりです、牧村さん」

「ええ」

 修一と牧村は堅い握手を交わした。

 昔、牧村は淀川葵のいじめ問題について加害者側の罪を徹底的に追求したことがある。そのことに少なくとも修一は感謝の念を抱いていたし、その後も牧村が修一の借家の保証人になったり、何度か就職の世話をしたりしており、修一にとって牧村は感謝してもし尽くせない大恩人であった。

「彼女が?」

 軽く会釈をして事務所に戻った美智子を見て牧村は訊ねる。

「この間、電話でお話した婚約者です」

「へぇ、とても人柄のよさそうな方でよかったじゃないですか」

 牧村はいつものような嘲笑ではなく、心底喜ばしいと優しく微笑んで言う。

「ええ、僕にはもったいないくらいの女性です。とこで、今日は?」

「少し訊ねたいことがあってきたんですが。修一くん、昨日はニュ―スをご覧になられましたか?」

「あっいえ」

 修一は極力ニュ―スを見ないようにしていた。昨今のニュ―スは悲しい事件の報道が多すぎる。それを見ると自分の過去に触発されてしまうからだ。

「昨日、幼い女の子と母親が不審死する事件がありましてね。その女の子が握ってたんですよ――」

 牧村はそこで声を潜め修一に耳打ちする。

「青いダイアモンドを」

「っ!?」

 修一は絶句する。

「その前の日も、青いダイアを持っていた女子高生が死んでいる」

「それは――」

 修一は取り乱し牧村に詰め寄る。

「それは本当ですかっ!?」

「ええ」

 牧村は神妙に頷く。

 そして、

「あの宝石、あなたが作ったんでしょ?」

「あぅ」

 修一は泣きそうになって牧村の顔を見る。

 尊敬さえしていた人間に自分の愚考を見抜かれてしまった。

「あなたが淀川葵の遺骨から作ったものなんでしょ?あの三人を呪い殺すために」

「違っ――」

 修一は懇願するように頭を振る。

 そんな修一に牧村は囁き、

「きみには失望しました」

 ととどめを刺した。

「それでは失礼」

「待って――待ってよ、牧村さん!!」

 縋るように助けを乞う修一を残し牧村は単車を走らせる。

「牧村さんっ!!」

 サイドミラ―に走って追い掛けてくる修一が写る。やがてそれは小さくなって消え失せた。

「ふははははははは」

 牧村は単車を走らせながら大笑する。

 赤井修一――お前は本当にいいおもちゃだった。恋人を失ったときの絶望も、仇を取ったときの罪悪感も、俺をいい人と疑わなかったその純朴なところも、全てが快楽の糧となった。

 だが、ここらが潮時だ。

 お前が過去を忘れ、幸せを手にするというなら。

「いらないおもちゃはごみ箱行きだ」

 新しいおもちゃも手に入れられそうだからな。





   10




 ――青いよどみにひかれて――それは十年前、猟奇的な自殺を遂げた淀川葵に関する事柄を牧村の主観によってまとめられたウェブペ―ジだった。



 [淀川葵の死]


 20XX年・12月25日早朝、巡回していた守衛が校庭の真ん中で倒れている淀川葵の遺体を発見する。素裸に全身梵字のような呪文の刺青が彫られており、その遺体はまさに異様の一言に尽きた。

 淀川葵はその一ヵ月前から失踪しており、警察に捜索願いがだされていた。

 失踪してから遺体となって発見されるまでの一ヵ月間、淀川葵がどこで何をしていたのか警察は捜査したが有力な手がかりはえられていない。記者は、呪いを信仰する宗教団体に隔離されていたという噂を耳にするが、いずれにせよ根拠は見当らなかった。

 淀川葵の死因は毒物の服用による中毒死であった。当初、その尋常ではない姿や脱がれた衣服が見当らないなどの理由から、他殺か自殺かで議論がなされたのだが、彼女の自室から大量の遺書が発見されたことにより当局の見解は自殺に落ち着いた。



 [遺書の抜粋]


 記者は遺書の概要を入手することに成功した。ここではその一部を抜粋する。


『わたしはこの数か月の間、同じクラスの白石美保、佐々木あすか、安達ちひろの三人にひどい仕打ちを受けてきました。


 (中略)


 はじめは中間テストの結果発表の後、白石さんたちにわたしがカンニングしたのだろうといちゃもんをつけられたことから始まりました。わたしがそんなことしてないと言っても、乞○があんな成績取れるはずないと罵られ殴られました。


 (中略)


 いじめはだんだんエスカレ―トしていき、他のクラスメイトまでわたしを無視するようになりました。原因は高橋さんたちが学校裏サイトとかいう掲示板にわたしのあることないことを書いていたからだと思います。


 (中略)


 わたしは幼い頃に両親を亡くし、よくいじめられたりしたので今回のことも堪えようとしました。でも、もう堪えられない。あいつらは、わたしの命だったものを便所で紙屑と一緒に流した。絶対許さない。(後略)』


 このように、淀川葵は壮絶ないじめにあい自ら命を絶ったのだ。



 [加害者の横顔とその後]


 ここで淀川葵をいじめぬいた三人のことに触れたい。

 三人の中で中心的存在だったのが白石美保である。彼女は中学の頃からトップクラスの成績であり、高校に入って自分よりも成績が上だった淀川葵が気に食わずいじめという非道な行為に走ったと推測される。

 ここで特筆したいのが、白石美保の父親は警視庁の刑事であることだ。自分の娘の管理もできない人間が、果たして市民の安全を守ることができるのだろうか。

 白石美保・佐々木あすか・安達ちひろの三人は当然刑事告訴されるが、被害者が自殺しているいじめ事件の罪の実証は難しく、結局三人の問われた罪は学校裏サイトに書き込まれた淀川葵に対する誹謗中傷(中にはヌ―ド写真と淀川葵の顔をコラ―ジュした写真まであった)における名誉毀損のみであった。よって、三人には執行猶予つきの判決が下り、事実上のお咎めなしとなった。

 これでは淀川葵の死は報われない。被害者は苦しみ、のた打ち回り死を選んだのにも関わらず、加害者は実名報道もされぬまま残りの人生をエンジョイするのだろうから。

 と、ここまでは連日の報道でご存じの方もいると思う。

 しかし、事件は終わっていなかった。

 淀川葵の死から二年後の10月9日。定時制高校に通っていた安達ちひろが登校中、大型トラックに跳ねられ即死する。

 同日深夜、アルバイト先から帰ってきた佐々木あすかは事現場の落下物の下敷きになり死亡。

 さらに翌日、白石美保は予備校の屋上から転落死した。

 彼女たちの首にはお揃いと思われる、ブル―ダイアモンドのついたペンダントがしてあった。

 これは果たして偶然なのだろうか。

 淀川葵の遺体に彫られた異様な刺青、あれはまさしく彼女が死に際に残した呪いなのではないだろうか。

 青いよどみを灯すダイアモンド。

 淀川葵は自らの命を武器に復讐の罠を用意していたのだ、そう記者には思えてならないのだ。





 そのサイトには、このような文章とともにさまざまな写真も公開されていた。

 白石美保・佐々木あすか・安達ちひろの三人の写真も実名で曝されている。

 そして、淀川葵の生前の写真。そして、どこから手に入れたのか、あの刺青が彫られた遺体写真まで公開されている。

 そして最後のペ―ジに張りつけてあったのは、

「ブル―ダイアモンド」

 かおりはフロ―リングの床にへたり込む。 画面上にでてきた、青い光を灯す宝石を望んで。

「かおりっ!?」

 圭介はしゃがみこみ放心するかおりを揺する。

「わたしのせいだ」

「えっ!?」

「わたしのせいでさやか死んだんだ」

 かおりは茫然と呟いた。そんな彼女に怒気孕んだ声で圭介は問う。

「なに言ってんだよ、かおり」

「だって、あのダイアのペンダントはわたしが見付けたの!」

 かおりは叫んぶ。      

「あの露店を見付けたのもわたし。わたしが買おうとして……でも、お金が惜しくて渋ったから、さやかが買って……わたしが――」

「違うっ!?」

「違わない。さやかはわたしの身代わりなって……くっくぅ――」

 泣き崩れるかおりを圭介は抱き締める。

「頼む、かおり。そんな風に思わないでくれよ」

 圭介も泣いていた。

「だって……」

「俺はそんなこと思わない。思いたくない!たとえ、あのダイアが呪いのダイアだったとしても、かおりは悪くない」

「…………」

「俺は誰かを恨んだりしない」

 圭介は声を震わせて言う。まるで自分に言聞かせるように。

「たとえ、淀川葵の呪いが姉ちゃんを殺したんだとしても――俺には姉ちゃんより大好きな人が目の前にいるから、守らなきゃいけないから――」

「圭ちゃ――」

 圭介はかおりの言葉を自身の唇で塞ぐ。

 それは二人にとって初めてのキスだった。

 涙と鼻水で少し塩っぱかった。



 11



 時刻は午後九時を回る。

「警部、やはり宝石製造の委託会社のリストに赤井修一の名がありました。七年前のものだそうです」

「そうか」

 部下の報告を受け佐渡は小さくため息を吐いた。

 予想どおりだった。七年前といえば娘の美保が事故死した年である。

 やはりあのダイアが……。

「赤井の現在地は?」

「それがまだ」

「牧村はっ――」

「所在不明です」

 怒鳴るように訊ねる佐渡に対し、部下の一人は申し訳なさそうに答える。

「くそぉ!!」

 佐渡はぐうで思いっきりテ―ブルを殴り付けた。

 佐渡の苛立ちが捜査本部を凍り付かせる。

 そのおり、

「警部っ!」

 丸川が息を切らせて飛び込んできた。

「赤井修一と名乗る男が母子殺害捜査本部の責任者に面会を求めてきました」

「なにっ!?」

 向こうからやってきた……。

 赤井修一はすでに応接室に通されていた。佐渡は丸川を連れ猛然と応接室へ向う。

「あんたが赤井修一さんか?」

 佐渡の問い掛けに修一は力なく首肯く。

 そして圧し殺した声で、

「ダイアは――ダイアはどこだ……」

 修一はそう訊ね返した。

「やっぱりあんたがあのダイアを作ったんだな。委託会社に記録が残っている」

「ダイアはどこだっ!?」

 佐渡の問いに聞く耳もたず、怒鳴るように訊ねる修一。

「質問に答えろっ!お前はあのダイアが呪われていることを知っていたのかっ!?」

 佐渡も負けじと怒鳴り返した。互いの焦りが応接室の空気の密度を濃くする。

「知ってたさぁ」

 修一は溢れ出そうになる感情を必死で押さえこむように呟いた。

「それが葵の最後の頼みだったからな」

「っ!?」

 佐渡の息遣いが荒くなっていく。

 それに呼応するかのように修一も捲くしたてた。

「葵が死んだ日の朝、僕のところにも遺書が郵送されてきた。自分の遺骨でダイアを三つ作ってほしいと。それはきっと呪いのダイアになるから、あの三人に送り付けてほしいって。僕は必死で働いて金を稼ぎ、ダイアを作ってあいつらに送り付けた。半信半疑だったけど、それで葵が報われるならって」

「てめぇが――」

「警部っ!」

 佐渡が修一に掴み掛かろうとする。それを丸川が寸でのところで制した。

「てめぇが娘を殺したのかっ!!」

「――娘……」

 修一が血走った目を佐渡に送る。

 佐渡は叫んだ。

「白石美保は俺の娘だっ!!」

「っ!?」

 それは魂の叫びだった。

 修一の口元が怒りで激しく歪む。

「てめぇが娘を――なんの関係のない女の子まで巻き添えになった――」

「あんたの娘が葵を追い詰めたから悪いんじゃないかっ!!あんたが、娘のしつけもできてなかったから悪いんじゃないかっ!?」

「くぁ……」

 佐渡と修一、その両者の目から涙が零れ落ちる。

「葵がどんな思いで死んでいったのか――僕がどんな思いであのダイアを作ったのか――あんたにわかるのかっ!?」

 修一は蹲る。

 当時の感情が爆発的に蘇って。

 どんなに時間が経とうとも、忘れることができたと思っても、過去は今に追い付き遺されたものたちを蝕み続けた。




 葵のお腹の中には僕の子供がいたんだ。

「修ちゃん。わたしもう駄目みたい」

 葵は虚ろな目で僕に言った。

 妊娠二ヵ月でまだ目立っていなかったとはいえ、僕たちの愛すべき小さな命は、あの三人の執拗な暴行によってこの世から消え失せた。

「ゆるせない。ゆるせないよ」

 葵は声を震わせる。

「でも、一番許せないのはわたしなの」

「…………」

「だって、修ちゃんとの子供殺されたことより――お母さんの形見のダイアを、便所の紙屑と一緒に流されたことの方が――辛いだなんて」

 葵はいつも小さな青いダイアモンドがついたペンダントを付けていた。

 いつか聞いたことがある。それは病死した母親の遺骨から作られた形見のダイアなのだと。

「ごめんね。修ちゃん――ごめんね」

 震えて謝り続ける葵を見て、僕は決心して立ち上がった。

 僕だって葵と同じ気持ちだった。

 まだ見ぬ消された命よりも、いま目の前で傷つけられた葵を見ているほうがよほど辛い。

「殺してやる。僕がお前をいじめた奴らを全員殺してやるっ!」

「やめて」

 熱り立つ僕の足に葵が縋った。

「なんでだよっ!?お前をそこまでいじめた奴なんか生きてる価値なんかないだろっ!?」

「わかってる!わたしだってそう思う!!だけど、そんな人たちのために修ちゃんが捕まるなんておかしいよっ!?」

「――葵……」

「わたしも修ちゃんもなにも悪いことしてないんだよ。それなのに修ちゃんだけ捕まるなんて、わたし堪えられない」

 葵はこのとき、本当に身も心もボロボロになっていた。

 そんな彼女を支えるためにも、今、自分が捕まるわけにはいかないと、僕は犯行を思い止まった。

 でも、すぐに後悔することになる。

 葵がなにも告げずに失踪したからだ。

 必死で捜し回ったが、一ヵ月後彼女は見る影もない姿で自ら命を断った。

 最後の我侭なのだと、俺に――青いよどみ――作ってほしいと言い残して。





「嘘だ」

 佐渡は頭を抱え崩れる。

「美保が――赤ん坊の命まで――そんなぁ」

 誰かをいじめぬくのも十分大罪だ。

 でも、それだけじゃなく生まれてくるはずだった命さえも娘は奪っていたのだ。

「あぅ――あ……」

 なにをどうしたらいいのかわからない。

 佐渡は呼吸の仕方さえも忘れそうになっていた。

「警部っ!」

 丸川が力強い口調で声を張り上げた。

「あのダイアを処分するべきです!」

「っ!?」

 佐渡ははっとなる。

「科学的根拠とか、証拠品だとかそんなの関係ない!あれはこの世にあっちゃいけないものですっ!!」

「麻衣子っ!?」

 佐渡は慌てて携帯電話を取出しダイアを渡した科捜研の相沢麻衣子かける。

「早く出ろ、早くっ!」

 一向に繋がらない。ツルルルという呼び出し音の流れる分だけ、佐渡の不安が増大していく。

 そして不安が的中した。

「警部っ!」

 部下の一人が応接室に飛び込んできて告げる。

「科捜研の相沢先生がっ――」





 科捜研の相沢麻衣子は割れたビ―カ―の破片で首を切られ絶命した。

 麻衣子の部下が涙ながらに語る。

「相沢さん、ここのところ徹夜が多くて、僕帰って休むように言ったんです。でも、まだ調べごとがあるからって、僕も手伝うって言ったんですがほとんど私的なことだから自分だけでやるって言って、ダイアを検査機にかけてそこのソファ―で仮眠なされたんです。僕はそれを見てから、帰宅したんですがこんなことに――」

「――――」

 佐渡は幼なじみを亡くした哀しみと、自分への怒りで、気が狂いそうになるのを必死で押さえて叫ぶ。

「ダイアはっ!?ダイアを探せっ!!」

 佐渡の指示で部下たちが一斉にあのブル―ダイアモンドを捜索し始める。

 だが、

「どこにも見当りません」

 検査機の中からも、物やガラスが散乱した床や机の上にも、どこにもない。

「くそぅ、なんでないっ!?」

 打ち拉がれる佐渡に、丸川が警備室から戻ってきて告げる。

「警部、この部屋の監視カメラの映像見れるそうです」

「分かった」

 佐渡は丸川と共に警備室へ向かう。

 警備室の小型モニタ―にあの部屋の一時間くらい前の映像が映し出された。

「…………」

 俯瞰ふかんで映し出される部屋。

 ソファ―で麻衣子が寝息を立てている。

 回転式のリモコンで早送りしながら見ていると、麻衣子の様子が変わった。

「ストップ、巻き戻して」

 どうやら、麻衣子は夢にうなされているようだ。

 暫らくして彼女はがばっと体を起こす。

 キョロキョロと辺りを見回したかと思うと、今度は一点を見つめて固まる麻衣子。

 麻衣子は跳ね上がるように立ち上がって、

『嘘よ。なんで……』

 なにかに怯えるように後退りする。

『そんな、なんであなたが――』

 バリン

 突然、机の上にあったビ―カ―が音を立てて破裂した。

『いやぁ』

 麻衣子が後向きにすっころぶ。

 ビ―カ―の破片が宙に浮き、

『ひぃ』

 麻衣子の喉元を切り裂いた。

 麻衣子はびくんびくんと痙攣して床に倒れ臥す。

 白い床に赤い鮮血が広がっていった。

「…………」

 佐渡は口元を手で押さえる。

 幼なじみの死ぬゆくシ―ン――とても見ていられるものではない。

 それでもなにかの手がかりになるかもしれないと、佐渡は目玉をひん剥いてモニタ―を見続ける。

 それから暫らくして館内の人間がどっと駆け付けてきた。

 麻衣子の生死を確認しようとするものもいるが、ほとんどが野次馬と化している。

「止めろっ!」

 佐渡が怒鳴るようにリモコンを操作している人間に指示を出した。

 画面がストップモ―ションに切り替わる。

「見ろ」

「これは――」

 佐渡の指差す先に一人の男が映っていた。

「牧村っ!」

 丸川が唸る。

 そして佐渡は叫んだ。

「牧村だっ!牧村がダイアを持ち去った!牧村を捜し出せっ!!」

 もう一人もあのブル―ダイアモンドの犠牲者を出してはなるまいと。



  12



 かおりは帰宅し深いため息を吐く。

 あの後、圭介と共に葬儀場へと行き、さやかの葬儀に参列した。

 葬儀はつつがなく進行し、火葬とその後に行なわれた親族の集まりにも手伝いとして参加したので、こんな晩くになってしまった。

 かおりの母親も仕事を抜け出し葬儀には参列したが、仕事がまだ残っていると早々と退散していった。

 まだ帰りついていないところを見ると、かなり忙しいようだ。

「はぁ」

 かおりは制服のままベッドにダイブする。

 ここのところまともな睡眠が取れていなかったため疲れ果てていた。

 目を瞑ると、細かい夢を見ては、現実に引き戻され、また夢に入る。

 うつらうつらしていると、やがてかおりは本格的な眠りに入っていった。





「警部っ!牧村宗也をしょっぴきました」

 刑事二人に挟まれて、牧村が捜査本部へ連行されてきた。

「刑事さん。逮捕状もないのにこの扱いはないんじゃないですか?」

 牧村は余裕の笑みを浮かべ佐渡に申し立てる。

「緊急逮捕だ」

 佐渡は目を血走らせ唸った。

「ふっ緊急逮捕?罪状は?」

「宝石の窃盗罪だ」

 それを聞き牧村は大笑して言う。

「アッハッハッハッ!窃盗ごときで緊急逮捕が成立するんですか?それに証拠があるのかも疑わしい」

「証拠ならある。てめぇの姿が麻衣子の死んだ現場の監視カメラに映っていたっ!」

「ふふ、それだけでは証拠とは言えないでしょう」

「てめぇいい加減にしろっ!!あのブル―ダイアをどこへやりやがったっ!?」

 佐渡が怒鳴り、牧村に掴み掛かろうとしたとき、

「牧村さんっ!?」

 署で待たされていた、赤井修一が捜査本部に飛び込んできた。

「牧村さんがなにかしたんですか?」

 修一は動揺を隠せない様子で、佐渡に訊ねる。

 そんな修一を見て牧村は嘲笑う。

「ふっまだ、生きてたんですか?修一くん」

「へっ?」

 修一は耳を疑う。

「あなたの作った宝石で少なくとも四人の無関係な人間が死んだ。いや、表ざたになっていないだけで、或いはこの七年間で大量の骸を生み出しているのかもしれない。それでもきみはおめおめと生きてられるのかい?」

「そんな、牧村さんなんで――」

 修一は信じられないと崩れ落ちる。

 葵が死んで十年間、修一にとって牧村は本当に優しく、

 身内のない彼にとって兄や親以上の存在だった。なのになぜ――。

「そういえば刑事さん。あんたも彼と同罪ですよね」

「っ!?」

「私が散々、宝石の呪いについて忠告して上げたのに、あなたはお友達の科学者にあの宝石を預けたりして」

 ニタニタと笑いながら牧村は言った。

「牧村ぁ!」

「落ち着いてください、警部!」

 牧村に飛び掛かろうとする佐渡を丸川が制する。そして、丸川は牧村を睨み付け問い掛けた。

「牧村宗也。お前がもし、宝石を盗んだとして、お前ならどこへ持っていく。誰に渡す」

「…………」

 牧村は無表情になって丸川から目を逸らした。

「…………」

 落ち着け、考えろ。

 丸川の言うとおり、今はこいつの挑発にのっている場合じゃない。

 佐渡は必死で冷静になろうとする。

 俺が牧村ならどうする。牧村はなにを求める。牧村はなにがしたい。

 佐渡は床に泣き崩れている修一に目をやった。

「っ!?」

 佐渡の脳裏に二人の顔が思い浮かんだ。

 一人は娘の美保。

 そしてもう一人は――。

「まずいっ!」

 佐渡は走りだしていた。






 かおりは夢を見ていた。

 とてもリアルな、そして悍ましい夢を。



『てめぇ生意気なんだよっ!?』

『乞○が学校くんな!』

『臭いんだよっ!!』

 女の声で罵倒され続ける。

 頭を押さえ付けられ、お腹を蹴られる痛みが異様に生々しく感じられる。

『やめて、助けて』

 自分のものではない助けを乞う声が自分の口から発せられる。

 やがて場面が切り替わる。


 黒いパソコン画面だ。


 名無し〉淀川葵は援交してるって。

 名無し〉まじでぇ!さすが乞○(笑)

 名無し〉男のナニしゃぶった金でシャ○やってるんでしょ?

 名無し〉アハハハ、洒落きいてる(爆)

 名無し〉便所がまじ学校くんなっ!

 名無し〉消えろ、淀糞が!!

 名無し〉死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね――

  


 永遠に書き込まれる罵詈雑言の数々。


 淀川葵の裸の写真がアップされた画面が現われ、一万円でなんでもしますと下に書かれてある。


 水の流れる音。


『なんで乞○がこんなものもってんだよ』

『パパに買ってもらったんだろ』

『生意気ぃ』

『お願いやめて、それはママの形見なの』

 葵の懇願する叫び声。腹に激しく蹴り付けられる衝撃。

 青い宝石が水洗便所に流されていく。


 そして、世界は真っ暗になった。


『殺してやる』

 不気味な声が世界に響く。


『殺してやる』


 淀川葵っ!?


 あのウェブペ―ジで見た彼女の遺体とそっくりな姿が現われる。


 全身、梵字の呪文の刺青を彫られた女が首を絞めてきて――




「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 かおりは目が覚めた。

 全身びっしょりと汗を掻いている。

 夢の中で蹴られたお腹がなぜか痛い気がした。

 喉も物凄く渇いていたので、かおりはふらふらとした足取りでダイニングに向かった。

「っ!?」

 ダイニングの電気を点けるとなにかが玄関の方で光った。かおりが恐る恐る目を向けると、

「なっなんでっ――」

 玄関のコンクリ―トの床に青い光が灯っていた。   

 青いよどみ――さやかを殺し、次々と命を喰らったあの呪われたブル―ダイアモンドが落ちている。

「うそっ」


 ぴちゃ


 自分の真下で水の垂れる音がした。ゆっくりと下を見ると、自分の股の間から真っ赤な血が滴り落ちていた。生理はまだ先のはずなのに。


 ガタガタ


 誰もいないはずの奥の部屋で物音が聞こえてきた。

 かおりは恐怖で動けない。

 なにが起こっているのか、なにをすればいいのか、まともに思考が働かない。


 キィ


 玄関がゆっくりと開かれる。

「―――っ!!」

 淀川葵――全身に呪文の刺青が彫られた女が姿を現わした。

 かおりは腰を抜かす。そして這いつくばって玄関から遠ざかろうとする。


 バン


 奥の部屋の窓が思いっきり開かれた音がした。

「…………」

 ゆっくりと顔を上げると、淀川葵が窓から這い上がってきた。

「いやっいやっいやっ」

 かおりはじたばたする。

 淀川葵が迫りくる。

「きゃっ」

 かおりは淀川葵に首根っ子を捕まれ引きずられた。

「やめやめやめぇ」

 壊れた蓄音機のように懇願をするかおり。気が付いたら彼女は、窓から半身を宙に出していた。

 引き摺り落とされる。

「かおりっ!!」

 玄関の扉が開かれた。



 牧村は科捜研からダイアを盗み、新聞受けからかおりの家の玄関に放りこんだのだ。

 理由は圭介をポスト修一に仕立てるためである。

 新しいおもちゃ、自身の快楽のために圭介の一生を食い物にする。その第一歩としてかおりは格好の犠牲だと判断したからだ。

 そのことに直感で察した佐渡は、

「かおりっ!!」

 かおりの家の玄関に飛び込んだ。

 そして見る。かおりが見えないなにかに押されるように窓から半身を出しているところを。

「待ってろ」

 佐渡はかおりに駆け寄り、彼女の腕をつかんでひっぱろうとする。しかし、尋常ではない力がかおりを押しており、中に引き込むことができない。

「くっくそ」

 このままではかおり共々自分も落ちる。

 佐渡の脳裏に絶望が過ったとき、

「かおりっ!!」

 圭介が部屋に飛び込んできた。

 圭介はかおりを引き上げるのに加担しようとしたが、途中で思い止まってダイニングに引き返す。

「これが――」

 圭介は玄関に落ちていたブル―ダイアモンドを拾い上げる。

 そして、台所のコンロの火をつけ、

「こんなものがあるからっ!!」

 青いダイアを火の中に投げ込んだ。

 ブル―ダイアモンドが――青いよどみが炎に包まれる。

「うわっ」

 かおりを外に押し出していた力が消え、佐渡はかおりを部屋の中へ引き入れると同時に引っ繰り返った。

「はぁはぁはぁ」

 かおりはそれまで窒息していたかのように激しく息をする。

「大丈夫か、かおりっ!?」

 圭介はかおりを抱き締めた。

「坊主、お前はいったい?」

 どうしてここに?と言う言葉を含めて佐渡が訊ねる。

「おっさんがすごい、形相でかおりの家に走っていくのが部屋から見えて、かおりがあんたに襲われやしないかと思って」

「あっそ」

 佐渡は圭介の答えに苦笑いを浮かべた。

「圭ちゃん……」

 かおりはか細い声で呟く。

「燃えてる」

「えっ?」

「淀川さんが燃えてるよぉ」

 圭介と佐渡には見えていない。しかし、かおりの目にははっきりと見える。

 あのブル―ダイアモンドと同じように、真っ赤な炎に焼かれる淀川葵の姿が。

「苦しそう」

 図らずも夢の中で淀川葵が体験したことの一部を共有した今、彼女の苦しみや無念がかおりには痛いほどわかる。

 かおりは葵への同情で圭介の肩を涙で濡らす。

「これでよかったんだ。彼女だってこれ以上関係ない人間を呪うのは本望じゃないはずだから」

 圭介はかおりの頭を撫でながら慰める。

 そう、本当に恐ろしいのは淀川葵でも、彼女が用意した呪いでもない。彼女を呪いに駆り立てるまでいじめぬいた人の心、そしてこんな哀しい呪いまで利用しようとする人の心が生み出す歪みこそ、もっとも醜く恐ろしいのだ。

「そうだね」

 かおりは頷く。

 自分だけが見送れる――淀川葵が燃え尽きて、消えていく様を。


 ブル―ダイアモンド――彼女が遺した、彼女が命をかけて生み出した呪いと共に。



 かくて、一つの事件は終わった。

 牧村宗也は翌日、窃盗罪と捜査妨害の容疑で逮捕される。

 そして数ヵ月後、赤井修一は自責の念にかられ自宅で首を吊って自殺する。

 牧村の思惑そのままに。











    青



  青い青い(いのちがよどむ

  赤い命を喰らう



  どうして気付けなかったんだろう

  あの人が変わっていくことに

  とてもとても大切な人だったのに

  どうして見つめなかったんだろう

  あの人が去ってしまう前に

  とてもとても大好きな人だったのに


  月が落ちてゆく        

  暗い海の底に              

  風が連れてゆく             

  あの人の残り香を      



  青い青いいのちがよどむ

  赤い命を喰らうとき

  哀しみとか

  苦しみとか

  永遠の孤独がさまよう

  抜け出せぬ宝石ラビリンス





             みゆ貴茂



 



   エピロ―グ



 とある町の駅前、

「これ超可愛くない?」

「マジ、可愛いんですけど」

 女の子たちが露天に並ぶアクセサリ―に目を輝かす。

 女の子が手にした指輪には、人を酷く魅了する青い宝石がついていた。






  青いよどみ――あと二つ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 一気に読ませていただきました。面白かったのは牧村の存在です。人の不幸が快楽になるとは、いい感じに開き直ってますね。それにしても佐渡の亡くなった娘がいじめっこの美保で、その美保の面影をもってい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ