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第8話 わたしの個室

 評定が終わり、王様と宰相様は奥へと行ってしまった。

 スマホと小銭入れはメイドさんに返してもらった。

 ニコラス副団長はふぅとため息をつくと立ち上がって全身鎧の人に歩き出し頭を下げた。

「団長、細事に付き合わせて申し訳ない。」

「いや、王の前とあらば私も必要だろう。ところで、彼……彼女でよかったかな。紹介してもらえると助かるのだが。」

 そう言われるとニコラスさんから手を引かれ団長さんの前に出された。

「あの、団長さんでよろしいのですね。小野寺雅と申します。以後よろしくお願いします。」

「うむ。団長のウィリアム=ナイツだ。異世界からやって来たということはこの世界の常識にも疎いだろう。

 騎士団は他国の侵略や魔物の襲撃から国を守るために結成された。

 近年は他国の軍事増強に対応すべく予算を増やして対応しているが、一方でスラムや開拓地への予算が減らされている。

 君の手腕に期待したい。」

 団長がなぜか私に頭を下げる。

 どんだけ期待されてるのさ!?

「過大な評価をありがとうございます。微力を尽くします。」

 礼には礼を、私も頭を下げる。

 そこに兵士団の人がやって来た。

「国を守るのはこちらも同じこと。自分たちだけの手柄にするのは困るな。」

 それに騎士団長答えて曰く、

「騎士団周辺はともかく、スラムもあまり巡回されていないと聞いておりますが……。

 門の内側から攻められるのは嫌ですよ。」

「フンっ、言われずとも。」

 そう言うと兵士団の人は謁見の間から出て行った。

 入れ違いにローブの3人が近づいてきた。

 ちなみにローブの色は白、赤、黄と3人違っていた。

 何とかレンジャーか!?

 白いローブの人が前に出る。

「オノデラさん、この度は任命おめでとうございます。

 技術本部長のガイ=アルシミーです。よろしく。」

「ありがとうございます。よろしくお願いします。」

 そう言いながら握手した。

「オノデラさんは技術本部技術相談官として副本部長と同格の役職となりますので、執務室を技術本部に置かないといけないのですが、この後の都合はいかがでしょうか。」

「この後ですか、友人と買い物に出ようと思っているのですが……。」

「では、ご友人も一緒に来られるといいでしょう。時間はとらせませんから。」

「わかりました。友人と話してくるので少しお待ちいただけますか。」

 そう言うとガイさんは首肯してくれたので、私は来た道を引き返す。

 この屋敷の扉前で別れたのでそこで待ってくれていると思う。

 屋敷から出る扉を開けるとビアンカさんとアントニナさんはどこかへ行ってしまっていた。

 扉の脇にいる騎士さんに話を聞くと、ある建物と建物の間の路地に入って行ったとのこと。

 嫌な予感がするが、その路地をのぞいてみる。

 するとなんとビアンカさんがアントニナさんの唇を奪っていた。

 ビアンカさんはアントニナさんの後頭部と背中を両の手を使って抑えていた。

 アントニナさんは涙を流し、ビアンカさんの胸を両手で押し拘束から逃れようとしていたが力が入っていなかった。

 が、アントニナさんがこちらを見て私の存在を確認すると、ビアンカさんの胸を叩く。

 そうするが、ビアンカさんはこちらを一瞥しただけで、キスを止める気はないみたいだった。

 アントニナさんの瞳に怒りが宿ると、ビアンカさんはキスを止めて飛び離れた。

「愛し合う相手の舌を噛み切ろうなんて、行儀が悪いですよ、アントニナ」

「だって、あの娘が見てるって気づいてたじゃない!それなのに続けようとして!」

「そういえば来てましたね。ミヤビ、どうしたのですか?」

「技術部の人が私の執務室を作りたいから買い物前に来てほしいって言うんだけど、ビアンカさんは問題ありませんか?」

「別にいいですよ。今日は非番ですし、問題ありません。」

「ではそのように伝えてきます。ビアンカさんはここで待ちます?」

「それもいいですね。」

 そういうとビアンカさんは再びアントニナさんに襲い掛かるが、アントニナさんの平手が一閃。

 泣きながら私の脇を抜けると外に出て行ってしまった。

「振られましたね。」

「そうですね。ですが彼女は私のもとに戻ってきます。」

 ビアンカさんが叩かれた左ほほをさすりながら近づいてくる。

「どうしてわかるんですか?」

「そういう風にしたからに決まっています。」

 ……怖い。




 その後、私とビアンカさんはガイさんと他2名に連れられて研究本部に来ていた。

 レンガ造りの2階建てで、上から見ると回の字のようになっているらしい。

 真中は緑豊かな憩いのスペースであるとともに、爆発が起こった際の避難と復旧作業の拠点になるらしい。

 そんなところに足を踏み入れると、入口から赤絨毯が敷かれている。

 敷かれているのは入口、入って右手の通路の途中までであった。

 なぜ途中までかといえば、本部長室の前までであるからだ。

 本部長室のドアを開けると、そこはまだ本部長室ではなく2畳ちょっとの小さな部屋になっており正面にまたドアが、左手に秘書と思われるの女性の方がいた。

「お帰りなさいませ本部長。」

「ああ、何か変わったことは?」

「得にはご在ませんでした。」

「そうか、ドアを開けておいてほしい。」

「かしこまりました。」

 そう言うと、正面のドアの鍵を開け、ドアを開くとドアストッパーで閉じないようにしてくれた。

 正真正銘の本部長室に入ると、正面には2人座れるようなソファが二つとその間にテーブルが、左手には本部長のデスクと本棚、そして会議用の長机が2つと椅子が14席あった。

「座って待ってて欲しい。」

 と本部長が言うので会議用の席に座らせてもらう。ビアンカさんは隣に。

 赤ローブと黄ローブの人は本部長より先に座る気はないのか、立って待っていた。

 本部長は本棚をがさごそすると、次に机をがさごそしている。

 秘書さんは紅茶をふるまってくれた。

 秘書さんが紅茶を配ってくれている最中、本部長が尋ねた。

「スクレテール、ここの図面はどこにある。」

「図面でしたら、総務課ではないでしょうか。お取りしてきましょうか?」

「ああ、頼む。」

 その言葉のやり取りの中、紅茶を配り終えた秘書さんは図面を取りに外に出て行ってしまった。

 本部長が机に座ると赤ローブと黄ローブの人も席に着く。

「それではまずは自己紹介からですね。改めて、ガイ=アルシミー、ここの本部長です。」

 次に赤ローブの人が、

「ジェフロア=フラム、炎の研究をしている研究第1部の部長をしている。」

 次に黄ローブの人が、

「わしはヘトヴィヒ=ブリッツ、雷の研究をしている研究第3部の部長じゃ。」

 と自己紹介してくれた。

 私も知られているとは思うけど自己紹介する。

「本日、技術本部技術相談官を命ぜられました、小野寺雅です。この世界風に言うとミヤビ=オノデラです。

 こちらの方にはあまりいられないと思いますが、よろしくお願いいたします。」

 関わらないと思うけどビアンカさんも自己紹介する。

「騎士団のビアンカ=ダンデニヤです。以後お見知りおきを。」

 と、ビアンカさんの名前を聞いてちょっと空気が変わる。

「あの、『女子狂わせ』のビアンカか!?」

 赤ローブの人が驚くとビアンカさんは、

「そんな通り名もありましたね。」

 と、飄々としているが、私は通り名があること自体聞いていない。

「ど、どうして?なんでそんな呼ばれ方されてるんですか!?」

「いや、女の子かわいがりすぎてたら警戒されちゃいまして。最近は5歳くらいの女の子も近寄ってくれなくなりました。」

 と、ビアンカさんは遠い眼をしている。

 そこに秘書さんが戻ってきてくれた。

「こちらが1階、こちらが2階の図面になります。」

「ああ、ありがとう。」

 そう言って本部長が図面を受け取ると机に広げた。

 技術本部は総務部と1~6の研究部に分かれていて、1階入り口の辺が総務部、入口から見て左の辺が研究第1部、右の辺が研究第2部、2回に第3から第6までの研究部が存在した。

 そのため、私の部屋となりそうなのは1階入り口の反対の辺の部屋になる。

 本部長や部長は割と大きな部屋を渡そうとしてきたが、こちらとしてはほとんどいないのに大きな部屋を占有するのはもったいないと思う。

 そんな私が目を付けたのが、端にある物置部屋だった。

 本部長室の応接セット(ソファとテーブル)は置けそうで、奥行きがあるため、自分のデスクを入れることも可能だと思う。

 そんな部屋と本部長は心配するがここは一つ下見に行こうと提案する。

 乗り気な私には部屋を見せたほうがいいと思ったのか、本部長は折れた。

「スクレテール、64番の部屋の鍵を持ってきてくれ。部屋の前にいる。」

 というと、席を立って歩いて行くのでついていく。

 部屋を出て右に行き、角を左に曲がるとつきあたりを右に、その左奥が私の部屋候補だ。

 部屋の前への到着と秘書さんが鍵を持ってきたのはほぼ同時だった。

 鍵を開けて中に入る。

 あまり掃除されていないのか、ちょっとほこりっぽかった。

 窓にはブラインドが下ろされておりちょっと暗い。

 中は使われていない椅子や机、棚でいっぱいだった。

 しかし、この部屋を綺麗にすれば十分に使えると思った。

「本部長、本部長の部屋のソファとテーブルって横に置けますかね?」

「幅は十分ある。後は入口が通るかどうかですね。最悪中で組み立ててもらいましょう。」

「本部長、本部長の仕事机って奥に置けますかね?」

「それも入口が通るかどうかですね。こちらも中で組み立ててもらいましょう。」

「では、本部長。この部屋いただきます。」

「わかりました。」

「あと、この世界って電話ってあるんですか?」

「電話、どのようなものでしょう?」

「遠くの人と会話できる道具です。おそらく、騎士団に付きっ切りになると思うのでこの部屋に私と連絡が取れるものを置いておいて困ったときに使ってもらえればと思ってるんです。」

「ああ、念話の魔道具ですね。イヤリング、ブローチ、ネックレス、ブレスレット、リングとタイプがありますが何がお好みでしょうか?」

小さいのがいいかなぁ、離さず身につけておくのがいいかな。

「ネックレスでお願いします。あと、この部屋に置くその魔道具は大きくても長距離会話ができたり障害物の影響が出ないようなものがあればそれにしてください。」

「わかりました。最新鋭の魔道具を付けさせていただきましょう。」

「あとは、在室してるかどうかわからなきゃいけないか。磁石ってあります?」

「ありますが、何に使うんです?」

「鉄板に十字の溝を入れてそこにインクを付けます。十字に溝を入れたら4区画に分かれますが上2つに『在室』と『不在』と彫り込みを入れます。

 磁石はその下につけます。在室していたら『在室』と書かれたところの下に磁石を、不在にするときは『不在』と書かれたところの下に磁石を置くことでいるかどうかわかります。」

「なるほど、作りましょう。」

「あとは『不在の際は魔道具でご連絡ください。』とか『あなたのお悩み解決します』とか扉に張って置いていただけますか?」

「スクレテール。」

「はい、そのようにいたします。」

 あ、秘書さんに仕事振った。

「では、こんなところでしょうか。」

 とりあえず部屋について色々言うネタがなくなった。

「部屋の改装には時間がかかるでしょう。ひとまず念話の魔道具ができたら騎士団のほうに連絡させていただきますよ。」

 本部長はそのように言うので、そのようにお願いしておく。

「それでは、今日のところはこの辺でお暇させていただきます。」

 そう言うとビアンカさんを連れ立って建物の外にでる。

 太陽がほぼ真上にある。朝食を抜いていたことを考えるとさらにお腹が減ってきた。

「まずは、腹ごしらえですね。」

 ビアンカさんもそうらしい。

「そういえば、私はお金持ってないけどビアンカさんは持ってます?」

「多少はというところですね。高ければ騎士団の付けにしてしまえばいいのです。信用はありますから応じてくれるでしょう。」

 ……そういう人が多いから経理担当が忙しいんじゃないだろうか。

「では、街に繰り出しますか!」

 そう言うと私たちは街へと続く坂を下り始めた。

 その時は食事と買い物で頭がいっぱいだったのだ。

 この後、服を返しにアントニナさんの家に行って修羅場になることなど頭の片隅にもなかったのだ。

累計1400PV、350ユニークアクセスありがとうございます。

これまで適当に書いてきておりますが、アドバイス等ありましたら感想なりレビューなりいただけると助かります。

今後ともよろしくお願いします。




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