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第7話 転移から24時間以内に仕事を得る方法

 前回「異世界の初日はこうして終わった。」とか言っていたが、そうは問屋が卸さなかった。




 騒がしいので目を覚ますとまだ夜は明けていなかった。

「だから女性の部屋に男は入れないと規則で決まっているでしょう。

 入りたければ女の子を連れてきてください。」

「しかし、この部屋に身元不明のものがいると情報提供があったのは事実!

 部屋の中をを改めさせてもらおうか。」

 ドアをはさんでビアンカさんと男性の誰かが言い争いをしていた。

 起き上がり、あくびを一つ。

 部屋の中はろうそくの明かりも消え真っ暗だ。窓から入るほのかな明かりだけが扉の前に立つビアンカさんを映す。

「どうしたんですか、ビアンカさん。」

「あ、起こしてしまいましたか。申し訳ないです。」

「それより、外にいるのは誰なんですか?」

「憲兵ですよ。女性もいるはずなんですが、どうもこの石頭は融通が利きません。」

「その憲兵さんは何の用でこっちに来てるんですか?」

「通常、身元不明者は町を警備している兵士に引き渡して家族や身元保証人になる人を探すんです。

 あなたの場合、尋問でこの世界に家族や知り合いがいないとわかったのでうちで保護したのですが、どうにもそれが許せない人がいるみたいですね。」

「それで、私はどうすればいいんですか?」

「あなたは女の子の憲兵が出てくるための囮になってもらいます。」

「それビアンカさんしか得しないんじゃないですか?」

「そんなことありません。これだけ騒げばトラブルの原因が誰でどのような問題があるかはっきりわかるはずです。

 そうすれば、事情を知っている副団長やアートのとった質疑応答書が無視されることはありません。

 情報がない状態で判断されることは危険極まりないですからね。」

こうして話している間もドアを叩く音と怒号が聞こえてくる。

「何で憲兵さんはドアを開けて入ってこないんですか?」

「騎士団の宿舎では、異性の部屋に入ることは禁止されていますからね。

 入ってきたら、自分で自分を捕まえなければいけません。」

 その辺は律儀なのね。

「女の憲兵を連れてきてください!話はそれからです!」

 ビアンカさんはそう叫ぶと窓際のいすに座った。

「ミヤビさん。昨日は急にほったらかしにしてしまって、申し訳ありませんでした。」

「いえいえ、お湯を用意してもらっただけで十分です。ありがとうございました。」

「私は副団長の命を実行したまでです。それも放り出してしまいましたが……。

 こうやって話すのはあのときの違いについていろいろ考えていて、それを整理したいからなのです。

 聞いていただけませんか?」

「考えていたって……ビアンカさん寝ましたか?」

「一睡もできませんでした。それほど私はあのときの事象について悩んでいるのです。」

「……わかりました。悩みに悩んで眠れないときもあるのでしょう。私でよければ話してください。」

「ありがとうございます。まず初めに話しておきたいのが、私は何人もの女性を手篭めにしてきたということです。」

「大丈夫です。それは知っています。」

「私は上流階級から下層階級まで、ありとあらゆる女性と関係を持ってきました。」

 上流階級って……問題にならなかったのだろうか。

「わたしは、女性の肌を見るのが大好きです。その中でも服を脱ぐときが一番心が躍るのです。

 自ら服を脱ぐ女性を観るのも、私が脱がすのも好きなのです。

 ですが、あの時は少し違いました。」

「あの時?」

「はい。あなたの胸を覆う下着の留め具を外した時、いつもより嬉しさを感じなかったのです。」

 頭の病気じゃないかな。相槌を打ちながらちょっと心配する。

「私が思うに、それは下着の違いによるものではないかと考えました。

 一瞬で外れてしまうあなたの下着よりも、少しずつ肌が見えてくる我々の下着のほうが楽しみが長く続くと思うのです。」

 気持ちはわからないでもない。

 私もロールケーキのような巻いてあるものは外側から食べていくし、ミルクレープのように積層構造になっているものは上から順番にはがしていくタイプだ。

「なにより、この布を剥がしていく時、徐々に赤くなっていく表情を見るのが楽しいのです。」

 その気持ちは残念ながらわからない。

「ミヤビさん。そういうことなので、この私の下着を着けてはもらえませんか?」

「着けません!」

 ビアンカさんはがっくりとうなだれた。

 あした○ジョーのラストシーンのように真っ白に燃え尽きた感じだ。




 そんな茶番をしていると空がだんだん明るくなってきた。

 やっと部屋の中がうっすらと見えてきたので、私はベットから降り、空いているいすに座った。

 部屋の外では相変わらず憲兵さんが叫んでいる。

 そんな状況も変化するときが訪れる。

 女性憲兵が到着したのだ。

「憲兵のアントニナ=ニクーリンだ。扉を開けなさい。」

 まずビアンカさんが復活した。

 そして私にハンドサインで暗いほうに行けと指示を出してきた。

 とりあえず一番暗いビアンカさんのクローゼット前に体育座りをして目立たないようにしておく。

 ビアンカさんは注意深くドアを開けて来訪者を確認する。

「入ってください。」

 ビアンカさんが扉を半分ほど開けると、件の女性憲兵さんがするりと入ってきた。

 金髪碧眼、身長はビアンカさんより少し低い。

 金属の全身鎧で両手剣を使っていた騎士と違い、憲兵さんの装備は革の鎧に片手剣を提げていた。

 そしてドアの鍵を閉めるビアンカさん、徹底している。

 そしてビアンカさんが窓辺のいすに座ると、憲兵さんもドア近くのいすに座った。

「それで、話にあった身元不明者はどこだ?」

「……あなたはこの部屋に入ったとき、どのような振る舞いをせよと命ぜられたのですか?」

「今は仕事中です、お姉様。公私の区別はつけなければなりません。ご容赦を。」

「……次が楽しみですね。」

「それで、身元不明者は?」

「そこにいますよ。窓のほうに来てください。」

 そう言われたので、立ち上がると明るい窓辺に立つ。

「なんだ、まだ寝間着か。登城するので支度を。」

「彼女は寝間着しかもっていません。今日市場に見に行こうとしていたもので。」

「寝巻きしか持ってない!?では今までどうやって暮らしてきたのだ!」

「昨日行った尋問の質疑応答書を観ればわかりますが、彼女は紅い寝巻きの他、何も持たずにこのサンギネロに降り立ったのです。」

「なんとも大変な人生だな。かといって登城しないわけにはいかない。身長や体型は?」

「身長は自称150センチ、細身で胸もお尻も小さいです。最悪男の子の衣装を使うこともできるかとは思います。」

「ほう、弟の衣装が合うかもしれないな。すぐに取ってこよう。」

 そう言うと、アントニナさんはドアの鍵を開けて出て行った。

「お知り合いですか?」

「ええ、これの一人です。」

 そう言うとビアンカさんは小指を立てる。まぁ、世界が違っても同じ意味なのだろう。

「もう1つ、サンギネロってなんですか?」

「この世界の総称です。あなたの言う地球のようなものでしょうか。」

「最後に、男の子用の服がぴったりってどういうこと!?」

「ぴったりとは言ってません。男の雇用でも着れると言っただけです。

 はっきり言っておきますが、あなたの体型は子供といって差し支えないほど未熟です。

 そういうのを剝くのも楽しいですけど。」

 ここに危険人物がいます!女の子逃げてー!




 結局アントニナさんが弟さんの服を持って来れたのは太陽が完全に姿を現した後だった。

 全力で走ってきたのか、息も絶え絶えだ。

 私はビアンカさんに、

「さすがにお疲れの様子なので、着替えてる間に飲み物でものんで休憩してもらったほうがいいんじゃないですか?」

 と訊くと彼女もそれに同意してくれた。

「さすがに疲れたでしょう。食堂で朝食の準備をしている時間です。

 誰かいるでしょうから、水でももらって休憩してください。」

 ビアンカさんが言うとアントニナさんは感謝の意を示した後部屋の外へ出て行った。

 彼女が持ってきたのは、白いブラウスと黒いスラックス、そして黒い革のベルトだ。

 ブラウスは襟、袖、前身ごろのボタン穴の脇にフリルがついていた。

 特に袖は手品で花束を出したかのようにふんだんにフリルが使われていた。

 スラックスははく前に体に当ててみてサイズを確認すると股下が長かった。

 人種の違いもあるのだろうが、足が長いのがうらやましい。

 とりあえず裾は折ってもらうことにした。

 ベルトはあけられた穴に棒を通して固定するピンバックルタイプ。

 パンツスーツのときは私も使っているので心配はない。

 いざ着替えようとしたとき、アントニナさんがグラスと水が入った1リッターくらいは入りそうな透明なピッチャーを持ってきた。

「やはり監視が必要だろう。」

 とのこと。

 水を飲みながら私の着替えを見物するらしい。

 私はブラウス、スラックス、ベルトとともに机の上に置いていたブラを取ると、何も入っていない通路側のクローゼットを開ける。

 観音開きになっているクローゼットの扉に身を隠しつつ着替えた。

 ブラウスの袖は少し長く萌え袖状態になっている。

 スラックスも長く、裾を上げないといけなかったためビアンカさんにお願いして裾を内側に巻き上げてもらった。

 ベルトは一番細い穴で固定する。

 ビアンカさんは、

「もうひとつくらい穴を開けてもいいのではないですか?」

 と聞いてきたが、借り物に傷をつけるわけにもいかないと辞退しておいた。

 スラックスにはポケットもあり、何とはなしに小銭入れとスマホを入れておく。

 そうして準備ができるころには日もだいぶ昇り、街の賑わいが聞こえてきた。

 と、そこでビアンカさんがポンと手を打つ。

「一応アートから質疑応答書を受け取っておきましょう。」

 そう言うと彼女は部屋から出て行ってしまった。

 見ず知らずの人と二人きりだ。

 人見知りスキルを発動したくなる。

 が、服のお礼は言っておいたほうがいいだろう。

「服を貸していただいてありがとうございます。」

「いや、これで任務が終わるとなると肩の荷も下りる。」

「この服ってこんなに装飾が多いですけど、高いんじゃありませんか?」

「問題ない。金ならある。腐るほどな。」

「もしかして貴族なのですか?」

「ああ。父と兄が領にこもってしっかり仕事をしているらしいからな。

 税収が増えれば私の小遣いも増えるというものだ。」

「ちなみに爵位をお聞きしてもかまいませんか?」

「伯爵だよ。ご先祖様が王様を何度も守ったんだとさ。」

「では、同じ伯爵といっても私のほうが下になりますね。」

「え、あなたのところも伯爵家の一員なのか?」

「はい。といってもこことは別の世界で公爵様より授爵されましたので、お気になさらず。」

「……あなたが授爵したってことは、伯爵令嬢じゃなくて伯爵夫人?」

「お恥ずかしながら……。」

「その若さで何をしたやら、人生とはわからないものだな。」

そんな話をしているとビアンカさんが右手に紙束をつかんで持って帰って来た。

「では、城に行こうか。」

 アントニナさんは空になったグラスとピッチャーもってを席を立ち、部屋の外にいた男性憲兵に食堂に返しに行くよう指示をしていた。

 そんなアントニナさんに私とビアンカさんは付いていった。




 お城までは意外と歩いた。

 いや、お城の中を意外と歩いたといったほうがよいか。

 城門までは5~10分ほどで着いた。

 そこに陳情に来ている人が長い列を作っていたが、警備に当たっていた兵士にアントニナさんが何かを言うと行列を無視して中に入ることができた。

 門を抜けるとそこは石畳の広場になっており、1000名ほどであれば整列できると思われる。

 その広場の端には小さな上り階段がありそこを上っていく。

 途中、再び門がありその脇の石ブロック1個分の穴から老人がこちらを見ていた。

 再びアントニナさんが何か言うと門が開き、更に奥に進むこととなった。

 奥に進むと今度もまた広場だった。

 ただし今度は壁際や建物などは石造りであるが中央部は芝や果樹が植わっていた。

 憩いの空間ぽいねと思いながらも、建物沿いに進むアントニナさんの後を追う。

 すると大きな扉の前で意外な人物、副団長とであったのだった。

「おはよう。よく眠れたか。」

「副団長!どうしてここに!?」

 驚いたのは私だけのようで、他の二人はやれやれとかうんざりしたような表情だ。

「朝から騒がしいって報告がこっちに上がってきたんだよ。

 調べてみたら、技術本部連中がお前の持ってる変な板とか電気とか言う技術に執着したんだとさ。

 ただ、現状お前を保護してるのは騎士団だ。まず技術本部に配属されることはないだろう。

 だから、騎士団ちょっとしたミスに付け込んで大騒ぎをし、手を離れたところでお前が持ってる技術や知識を技術本部が持っていくというお話を考えたわけだ。

 まぁ、騒ぎすぎてあちらの考えた以上に大問題になっているがな。」

「大問題ってどうしたんですか?」

「国王陛下のご登場ってわけだ。いろいろ鼻薬を嗅がせてたみたいだが、沙汰を下すのが陛下なら、その手は使えないしな。」

 そう言うとビアンカさんから紙束を受け取った。

「持ってきてくれると思ったぜ、ありがとな。」

「いえ、仕事ですから……」

 ビアンカさんの表情が硬い。

 緊張してるのかと思い彼女の方をトントンと叩く。

 こっちを振り向いてくれたので最大限の作り笑顔で安心させようとするが、彼女はプッと吹きだすと両膝をついて石畳をバンバンたたき始めた。

 一通りその行為が終わると、笑顔でこちらを向き、

「ミヤビさん、私を殺す気ですか?」

 と言ってきた。

 表情が明るくなったので心配要らないと思うと、

「その程度では死にません。」

 と返しておく。

 すると入室の時間になったのか、扉の脇にいる騎士が扉を開けてくれた。

「さあ、いくぞ。」

 そう言うニコラスさんとともに二人で中に入っていった。




 入り口から続く赤い絨毯の先には謁見の間だった。

 壇上の玉座にいるのが王様かな。その脇にいる人は誰かは知らないが偉い人に違いないだろう。

 その二人の左右に全身鎧の騎士が護衛として立っている。

 壇の下に目をやると左側に全身鎧の兜だけはずした人が一人、右側には革鎧をつけた人と布のローブを着た人が3人ほどいた。

 ニコラスさんのまねをすれば間違いないだろうと左後ろにくっついていく。

 ある程度まで来るとニコラスさんが立ち止まり、片膝を突いて頭を下げた。

 私もまねをしてみる。

「これで関係するものはすべてそろった。これより評定を始める。」

 誰がしゃべってるのかなと上目遣いで見ると、王様のそばにいた偉い人が喋っていた。

「まずは騎士団副団長ニコラス=カッシングより報告を聞こう。」

「はっ!昨日午前、練兵場内に不審な少女を発見。

 一度は練兵場の外に出たものの、その後も練兵場付近でその少女を確認したため、正午に拘束し午後から尋問を行いました。

 尋問中にこのサンギネロ以外の世界から転移してきたものと想定されたため、≪真実の目≫を使い再度尋問を行いました。

 その結果、心ならずもサンギネロに転移してきたこと、保護者もおらず、また所持品も少なかったことから生活に支障をきたすことが明白であったことから騎士団において保護いたしました。

 以上。」

「わしの聴いた話とはずいぶん違うのう。身元不明は間者でうまく騎士団にもぐりこんだなどと言われておったが……。」

 王様の質問にニコラスさんが答えて曰く、

「恐れながら申し上げます。間者であること、また情報収集が任務であることは≪真実の目≫を使った尋問によって否定されております。」

 王様はそれを聞いてうなづくと今度は別の方向から弾が飛んできた。

「陛下、発言をお許し願いたい。」

 そういって前に出たのは革鎧をつけた人だった。

「兵士団としては今回の件は騎士団の越権行為ではないかと考えている。

 都市の治安維持は兵士団の任務である。身元不明者の取り扱いとて同じこと。

 早くその者を引き渡すのだ。」

 兵士団の人の恫喝に答えたのは反対に立つ全身鎧の人。

「あなた方は都合のよい時だけ騎士団の関係地区を街扱いするから困る。

 今回少女の見つかった練兵場周辺で、兵士の巡回を最後に見たのはいつだったか思い出せもしない。

 兵士団の警備計画から騎士団の関係地区周辺が抜け落ちていることも知っている。

 都合のいいときだけ声を大きくするのは止めておいたほうがいい。」

 騎士団の人なのかな、銀色の髪に茶色のフレームのめがねをつけている。

 かっこいい&表情を変えずに毒を吐くため精神的によくないという2面性が見え隠れする。

 兵士団の人もぎりぎりと歯軋りの音が聞こえそうな表情でにらみつけていた。

「陛下、よろしいでしょうか?」

 おおっと、今度は布の服3人衆の一人。

「われわれ技術本部としては別の世界の技術に興味があります。

 使い方次第ではわが国の発展に寄与すると考えております。

 ご覧になってはいかがでしょうか。」

「それはよいな、誰か台を持て。」

 王様がそう言うと、脇からメイドさんが出てきて私の前に台を置いた。

 これに置けばいいのかな……。

 ポケットから小銭入れとスマホを取り出してその上に置く。

 そうするとメイドさんはそれを王様の前に持ってゆく。

「ほう、これがうわさの光る板というやつじゃな……しかし黒いな。」

 使い方のレクチャーもしなければならないらしい。

「陛下、その側面に突起がいくつかあるので、それを押して頂ければ光ります。」

「どれどれ……ほほう、光りおったぞ。」

「陛下、では、その光った面を下から上に指でこすり上げてください。」

「どれ……おお、絵が変わりおった。が、なにがなにやらさっぱりじゃな。」

「陛下、それは私たちの世界の言語ですから、無理からぬことかと。」

「ではもう一つの方じゃな。透明でガラスのようだが触るとやわらかい。これは何じゃ?」

「陛下、それはプラスチックというもので、われわれの世界ではごく一般的な素材です。先ほどの光る板のカバーもプラスチックを利用したものです。」

「ほう、これは先ほどのものと一緒だと申すか。」

「陛下、正確に言えば違う素材になります。プラスチックというのは多くの種類を持つもので、共通の特性があるからこそプラスチックという1つの名で呼ばれているのです。」

「して、その共通の特性とは?」

「陛下、それはどちらも高分子化合物ということです。まず認識しなければならないのは、われわれの世界が小さな粒の集まりでできているということです。

 この絨毯も大きなものですが、それは小さな糸の集まりに過ぎません。

 遠くにそびえる山も、小さな土や砂の塊に過ぎません。

 白く小さな粒の塩や砂糖を水に溶かした時、何も見えなくなるのは見えなくなるほど小さな粒になるからです。

 分子というのはそういう目に見えないほど小さなものだと考えてください。

 分子なら何でも高分子になるというわけではありません。

 高分子となるためには人のように手が2本必要になります。

 たとえば私が分子だったとします。

 私は一人なので分子の数としては1ということになります。

 分子は人と同じように誰かと手をつなぐことができます。

 2人、3人、4人と手をつないでいくことによって、分子の数も2つ、3つ、4つと増えていきます。

 それが100人や1000人、10000人となればどうなるでしょう。

 目に見えなかったものの集まりがやがて目に見えるような大きさとなるのです。

 そういった性質を持つものをいわゆるプラスチックというのです。」

「ふむ、今の話がわかったものはおるか?」

 誰も何も発しない。

 王様は技術本部の人間を情けないとでも思っているのか、軽く首を振る。

「そなたの技術はわが国には猫に金貨をやるようなものじゃな。」

「陛下、私も専門外なものですから難しく説明してしまったと思います。

 わが身の力不足をお許しください。」

「よい。遠き未来の話をされたような気分じゃ。

 して、今後は如何にする?」

「陛下、私は国を守るために戦うものへの装備品の調達に従事してきました。

 お許しいただけるならば同様の職に就くことをお許しいただけないでしょうか。」

「しかしそなたのいた世界とは文字や数字は違うのじゃろう?

 読めるのか?」

「……読めません。」

「では、足手まといになるだけじゃ。実務は任せられん。

 しかし、未来の知恵を手放すのは惜しい。

 のう、宰相。何かいい手はないかのう。」

「適当な役職がなければ作るのもまた一手かと。」

「それもそうじゃな。そなたの名はなんという。」

「陛下、小野寺雅と申します。姓は小野寺、名が雅です。」

「では、ミヤビ=オノデラじゃな。

 評定の結果を言い渡す。

 ミヤビ=オノデラ、騎士団会計課調達監査官を命ずる。

 兼ねて、技術本部技術相談官を命ずる。」

 大層な肩書きがついてしまった。

PVが1,000を超えました。ありがとうございます。

ユニークアクセスも200を超えました。ありがとうございます。

ここからが本番になりますので、これからもよろしくお願いします。

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