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第6話 貞操の危機!?

 異世界に来てしまったとなるといくつか問題がある。

 家がない。

 仕事がない。

 使えるお金もない。

 地理も知らない。

 歴史も知らない。

 礼儀も知らない。

 まさにないない尽くし。

 どうしよう。

 今後のことが思い起こされる。

 夕食まではここでお世話になる。

 問題はその後。

 家もホテルも使えないとなると野宿しかない。

 街の中なら安全かもしれないので、翌朝を想像してみよう。

 食べ物は買えない。

 水は井戸があるかもしれない。

 こんな私にできる仕事はあるだろうか。

 こういう世界は大体コネ採用と想像される。

 そのため、まともな仕事ができるとは考えづらい。

 こういう異世界転移ものだと冒険者になるというパターンがあるが、正直自信はない。

 そうなると最終手段は、この身を売るしかない。

 しかしそれも悪い方向にしか行かないだろう。

 避妊具は出回っていないだろうから、いずれ妊娠し子供ができる。

 しかし子供まで養えるはずもない。

 生まれた子供は明け方教会の入り口に置き去りにしてその幸せを祈るほかない。

 そうやって生活していても、いずれ老いる身であれば、その価値は減少する。

 誰からも見向きもされない私が野垂死ぬ姿が想像できた。

 どうあっても絶望!

 そうなると行動すべきは今から夕食が終わるまでの間。

 その間にこの世界での生活を有利にするためのコネクションを作っておかないといけない。




 そんなことを考えていると尋問は終わっていた。

 気もそぞろな中、「はい」と「いいえ」と「わかりません」を繰り返していたようだ。

「おーい、おつかれだな。

 夕食食べに行くぞ。」

「副団長、質問があります。」

「おう、なんだ?」

「副団長はどれくらい偉いのでしょうか?」

「どれくらいか?

 そうだな、王の直属の騎士団の副団長だからそこそこってところか。」

「例えば、副団長に後ろ盾になってもらって仕事を斡旋してもらうことは可能ですか?」

「できるっちゃできるが、紹介する気はないぞ。」

「えっ……」

 まるで120ミリの徹甲弾が直撃したような衝撃が私を襲った。

 ちなみに本当に直撃したら死体も残らないので注意するように。

 私って不要ですか……

 コネクションを確立させるという生存戦略がボコボコにされると、涙が流れ落ちる。

「おいおい、どうした。」

「だって……わたしって……要らない子なんですよね。

 これから……どうやって生きていけばいいかって……考えると……」

「騎士団の宿舎に泊まればいいだろ。

 飯だって出てくる。

 給料だって普通の仕事よりずっといい。」

「……えっ!だって今仕事紹介する気はないって……。」

「おまえ、装備品の調達を仕事にしてたって言ってただろ。

 うちはその手の人材が足りないからな。即戦力として騎士団で採用する。

 うちで働くんだから紹介する必要はないだろ。経理担当には挨拶しておかないといけないだろうけどな。」

 いつの間にそんな話になったんだろう。

「えーと……つまり……仕事があって、衣食の心配はしなくてよいと?」

「そうだな。」

「体を売ったり、子供を教会の前に置き去りにしたり、野垂死にしなくて済むんですか?」

「どんな想像してるんだ。 うちで働くならそんな心配しなくていいぞ。」

「……あ、ありがとうございます。副団長!」

 不安からの開放とこれからの安定した生活に感謝の気持ちがあふれ出す。

 そのリビドーに突き動かされるように私は副団長に飛びついた。

 ニコラスさんは、倒れることなく私を受け止めた。

「それじゃ、食いに行くぞ。」

 ニコラスさんは私を降ろすと小屋から出て行った。

 私は小走りでその後ろを付いていった。




 小屋を出て1分。

 練兵場の入り口から一番近い建物が食堂のある宿舎だった。

 1階に食堂と鎧や剣を入れる倉庫、女性用のロッカールーム、そしてトイレもあった。

 私はトイレでお花摘みを、副団長は倉庫に着替えにいった。

 トイレは男女兼用で個室しかなかった。

 当然乙姫様はいないのだが、下を水が通っていて出したものは流れていくようになっている。

 ちなみにトイレットペーパーなどという便利なものはなかった。

 代わりにちょっと汚れた布切れが置いてあった。

(……これ使うの!?)

 ありがたく使わせてもらった。

 トイレから出て副団長を待っているとロッカーから見覚えのある人が出てきた。

 鎧から白いワンピースに着替えた4番目の危ない女性尋問者だった。

 彼女はこちらを見るとその目がきらりと光る。

 完全にロックオンされてない!?

 私はなるべく目立たないように壁に背中を預け、目を合わせないようにうつむいた。

 彼女は近づいてくると、私の目の前で立ち止まった。

「部外者がこんなところにいるなんて、尋問が必要なようですね。」

 あなたベットで尋問するって言ってましたよね!?

「いや、その必要はありません。私も騎士団の一員になるみたいですから。」

「おや、そんな小さな体では、あっさりやられてしまうと思いますが……。」

「副団長から装備品の調達が仕事だと言われております。

 あんまり前に立たないとは思いますが……。」

「なるほど……確かにあの部署は人が足りないみたいですからね。

 それで、今日からここで生活するんですか?」

「どうなんでしょう?食べ物と住むところは提供してくれるらしいのですが……。」

 そう私が言うと、彼女は右手で壁ドンをしてくると顔を近づけてきた。

 とても邪悪な笑みを浮かべている

「そうですか。では、一つ予言をしましょう。今宵あなたは私の手に落ちる。

 早く月が昇るといいですね。」

 そう言うと食堂へ向かっていった。

 私は気づいてしまった。

 ここにはあの恐ろしい肉食動物が居るのだと。

「おう、待たせたな。夕食にしようぜ。」

「副団長!」

 私が大声を出すとニコラスさんはちょっと驚いた。

「私って、今日この建物に泊まるんですか?」

「そうだが、何か問題でもあるのか?」

「部屋は?部屋は誰かと同部屋なんですか?」

「ここは基本二人部屋だからな。ああ、だからといって男と相部屋なんてことはないぞ。

 ちゃんと女しか居ない部屋もある。」

「相部屋の相手は誰なんですか?まさか、今日尋問者だった女の人じゃないですよね?」

「よくわかったな。あいつはビアンカ。仲良くしてやってくれ。」

「仲良くなんてしたら行くとこまで行っちゃいますよ。

 この際男性でもかまわないので、他の部屋はないんですか?」

「男女が一緒の部屋に入るのは禁止されているぞ。」

「なら、外のホテルにしましょう。この時間ならまだ空いてるとこあるんじゃないですか?」

「宿舎が空いてるのに宿泊費なんか出せるか。何か嫌なことがあるのかもしれないが、今日は我慢しとけ。」

「そんな!?お願いします。なんでもしますから!」

「何でもするならビアンカの部屋に泊まっとけ。ほら、いくぞ。」

「いやああああああぁぁぁぁぁ。」

 私は引きずられながら食堂に入っていった。




 夕食は素材の味をふんだんに出したスープと焼いたお肉とパンでした。

 手放しでおいしいとはいかないまでもまずくはなかった。

 食べ終わるとニコラスさんは、私を連れて宿舎の2階へと上がっていった。

 階段を上ると右手に曲がる。

 男性部屋のものと思われるドアが左右に無数ある廊下を進むと木製のドア飾りがついたものが奥から3つ見えてきた。

 ドア飾りは剣、槍、そしてハート。

 ニコラスさんはハートマークのドア飾りがかかった部屋にノックをした。

 すると中から満面の笑みを浮かべたビアンカさんが出てきた。

「副隊長殿、エスコート感謝します。」

「ああ、仲良くするんだぞ。」

「はい、もちろんです。」

 ビアンカさんの答えに満足したのか、2度ほどうなずくと私の背中を押した。

 押し出された私はビアンカさんの腕の中にすっぽり収まってしまう。

「よろしくたのむぞ。じゃあ、俺は家に帰るからな。ビアンカ、ミヤビ、またな。」

 といって階下に消えていった。ここからは自分の身は自分で守らなければならない。

「では、ミヤビさん。部屋に入りましょう。何もありませんが歓迎します。」

 後ろから両肩をつかまれているため、操り人形のように動かされてしまうがどうしようもない。

 私はビアンカさんの部屋に入った。

 部屋の中はろうそくの明かりしかないためあまりよく見えないが、正面の窓からは街の夜の明かりが入ってくる。

 部屋の右側に壁掛けの燭台がありそこがこの部屋唯一の光源。

 その下には通路側と窓側にクローゼットと机、いすのセットが1セットずつ置かれていた。

 部屋の左側は2段ベットだ。

 2段ベットといえば体験航海で士官室に泊って以来となる。

 うきうきするが、忘れてはいけないのはこの部屋の主が危険人物ということだ。

「そういえば、着替えはありますか?」

 なんとなしにビアンカさんは聞いてくる。

 一見普通のやり取りではあるが、どんな罠が潜んでいるかわからない。

 答えは「いいえ」だけれど、そう答えていいものだろうか。

 いいえと答えたとすると、

「じゃあ、寝間着貸します。」

 となって、彼女は私の洋服を選ぶことができる。

 その洋服が拘束衣のようなものである可能性がないとは言えない。

 では「はい」と答えるのが正解か?

 でも私は手ぶらでここに来ているし、ずっとこの格好では嘘をついたことが簡単にばれる。

 それに異世界から来たってことは質疑応答見てればわかるだろうし、ここは親切心を信じることにする。

「いえ、今着ているのしかないんです。」

「では、今日のところは私のを使ってください。明日買いに行くとしましょう。

 ちょっと待ってくださいね。」

 そう言うと窓側のクローゼットを開けた。

 中はよく見えないが、フリフリとかヒラヒラとかそういう系が多かった。

 ちょっ、キャミソールとかだめです。サイズ違うからもろみえになっちゃいます!

 と、一部すったもんだあったものの、最終的には半そでのコットンシャツとハーフパンツに落ち着いた。

 私が着ると半そでが7分丈くらいになるだろうが……。

「では寝る準備をしましょうか。」

 そう言うと彼女はドアから外へ行ってしまった。

 何をしに行ったんだろうと色々考えを巡らせるがわざわざフリーにする必要性を感じない。

 数分後、数分後彼女はバケツにお湯を入れて持ってきていた。

「体を拭くので、脱いでくれますか?」

 ……しまった!

 私は北風と太陽という童話を思い出していた。この世界に来て半日が過ぎようとしていた。

 元の世界でお風呂に入ったばかりであったが、半日もいればそれなりに汗をかく。

 そうなれば、汗を拭うという選択肢を選ばざるを得ない。そのためには服を脱がざるを得ない。

 彼女は私に何の抵抗も許さず服を脱がすことに成功する。なんという智謀。経験に基づく作戦だろうか。

「……あんまり見ないでくださいね。」

 私は彼女に背を向けると今まで着ていた紅いパジャマのボタンを外していく。

 その間、彼女はタオルをお湯に浸しているのか、チャプチャプ水音が聞こえていた。

 彼女が微かに動きを見せたのは、パジャマを脱いで上半身が下着姿になった時だった。

「その下着、見たことありませんね。なんというか、そそります。」

 ……聞かなかったことにしよう。

「ここではこういうのは珍しいんですね。ビアンカさんはどういうのを着けているんですか?」

 そう訊くと、彼女はワンピースのボタンを外し始めた。

「脱いで見せなくていいですって」

 慌てて止めるが彼女は止まらなかった。パサリとワンピースが落ちる。

 下着は上下包帯くらいの幅の布を巻き付けたものだった。

「締めすぎるとあんまり体によくないと聞いたことがありますが……苦しくないんですか?」

「大丈夫です。慣れてますから。」

 と言われても、締め付ければ苦しいのは当たり前だ。成人式に振袖を着たときに思い知っている。

 この世界に生きる女性のために下着を発明することも必要なことかもしれない。

「拭くとき邪魔になるでしょ。外してもいいよ。」

「外していいんですか!?」

 ビアンカさんちょっと興奮気味。

「百聞は一見に如かずと言って、まぁ、触ってみるのも勉強でしょう。

 ただし、拭くのは背中だけね。ほかは自分で拭くから。」

「わかりました。」

 ちょっと不安だが、ビアンカさんに任せて後ろを向く。

 ビアンカさんは初めてのブラジャーに興味津々な様子で、いろいろ触っていた。

 胸に触ろうとしてた手はつねっておいた。

 やがて外し方がわかったのかホックを外す。

 ゆったりしたものでも外せば開放感があるのだから、彼女のような締め付け方ではいい訳がないだろう。

 温かなタオルが首筋に触れ、背骨の上を通って背中、腰と拭かれる。心地よい。

 体を温め清潔にすることへの心地よさと、何より彼女の指の力強さがよかった。

 しっかりとした指によるマッサージというか指圧というか、それにより私は骨抜きにされた。

 一瞬このまま身を任せてもよいとさえ感じたほどだ。恐ろしい。

 背中だけといったのにわき腹の辺りまで拭いてきたあたりでストップをかける。

「そこまでで、そこまでで結構です。後は自分でやります。」

 そういって振り返ると、ビアンカさんはなんか変な表情をしていた。

 満足してないのはわかるが、それ以外にも何かを感じているようだ。

「どうかしましたか?」

「なにか、なにか違うんです。これまで幾人も女の子を脱がしたり触ったりしましたが、今回は何か違うんです。」

 何か彼女の心に火をつけてしまったのか!?

 ちょっと身構えたものの、彼女は私にタオルを渡すとふらふらしながら2段ベットの下の段に倒れこんだ。

「あ、お湯は私が捨てるので、そのまま置いておいてください。」

 ビアンカさんはか細い声でそう言うと、枕に顔を伏せてしまった。

 ちょっと不安になるものの、よくよく考えてみると自分に降りかかる脅威をひとまず排除できたことに気がつく。

 この機を逃す手はないということで全身余すところなく拭きつくした。

 いろいろ見るチャンスだったと個人的には思うのだけれども、ビアンカさんはピクリともしなかった。

 眠れる獅子を起こす愚か者はいない。

 私はビアンカさんに借りた寝巻きに着替えようとしたが、ひとつどうしようもない問題があった。

 下着の替えはないのだ。どうしようか迷ったが下はつけることにした。上は寝るときは着けない派だ。

 着替えが終わったら、2段ベットのはしごを上り寝床にもぐりこむ。

 異世界の初日はこうして終わった。


ブックマークが増えてます。

ありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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