第32話 ラジオ計画(練習編)
「始まりました。王都放送協会、放送前日スペシャル。この番組は明日本番を控えるラジオパーソナリティの習熟を目的としたスペシャル番組です。
お相手するのは、技術本部技術相談官のミヤビ=オノデラと。」
「丁ランク冒険者、シネブラ=ヘイル。」
「同じく丁ランク冒険者、ブリジット=カーター。」
「同じく丁ランク冒険者、ルシアンナ=メイ」
「同じく丁ランク冒険者、マドンナ=エメット」
「同じく丁ランク冒険者、レイナ=モルダー」
「以上の6人でお送りしていきます。ところで、このパーティーってシネブラさんとブリジットさんが前衛になるんですか?」
「ああ、私とブリジットが前衛、ルシアンナは中衛、後衛に神官のマドンナと魔法使いのレイナを置いている。」
「では、シネブラさんとブリジットさんに機材を持ってもらって、外に行きましょう。レイナさんはお留守番よろしく。」
「えっ、もう行っちゃうんですか?」
レイナさんが不安そうだ。
「こういうのはパッと行ってパッと帰ってくるのが鉄則ですよ。ではみなさん行きますよ。」
そう言って、冒険者ギルドへ歩いていく。
ラジオの受信機からレイナさんの声が聞こえてくる。
「え、あの、あう。わたし、魔法使いのレイナと申します。出身はこの街の南にあるゲレという村で、そこでお師匠様に能力を見いだされてこの街に来ることになりました。冒険者としてはまだまだ半人前で、今日も薬草の採取に南の平野に行ってきました。幸い戦闘にはならずに済んだのですが、何がいるかわからないところを通るのってすごくドキドキしますよね。あんまりそういったドキドキはしたくないんですけど、これも冒険者の務めとして頑張ります。
あーっと、えーっと、どうしましょう。あ、パーティーメンバーの紹介をしたいと思います。リーダーのシネブラさんは軽戦士でレザーアーマーに左ひじの小楯を装備しています。武器は片手半剣で、相手の硬さに応じて片手か両手か使い分けるみたいです。
もう一人の前衛のブリジットさんはシネブラさんよりも防御を重視していてラメラーアーマーを着けています。武器は片手剣なんですが持ってる盾も武器みたいで大きくてとげとげが生えています。あんなので叩かれたら死んじゃいますね。
中衛のルシアンナさんは特に防御用の装備はしていないみたいです。腰のナイフと背負っている矢筒さえなければ街にいる普通の女の子です。中衛ということで、弓矢による遠距離攻撃とナイフでの格闘戦をするみたいです。
マドンナさんは、えーと、何とかという神様の神官で主に回復を担当する予定です。ただ、武器としてメイスを持っているので、下手なことを言うとメキャっとやられちゃいますよ。
こんな人たちでパーティーを組んでいます。こんなものでどうでしょうか、ミヤビさん。そろそろ冒険者ギルドに着いたんじゃないですか?」
と念話の魔道具からピッという音が出る。レイナさんがヘルプが欲しくて魔道具を起動させたのだろう。
「はい、レイナさんお留守番ありがとうございました。明日も1人で残るだろうから話のネタ考えておいてね。
さて、放送局を飛び出した私たちは今冒険者ギルドの前に来ております。というのも依頼を終えて帰って来た人が大量にいるため中には入れない状態になっております。適当にインタビューをしてみましょうか。こんばんは。」
と並んでいる人の1人に声をかける。
「こんばんは。」
「今日はどんな依頼をこなしてきたんですか?」
「今回はグレイウルフの討伐だ。」
「ほう、グレイウルフ。シネブラさん、グレイウルフとはどういった動物なのですか?」
「グレイウルフはこの街の周囲に分布している。1匹だけなら簡単だが群れを作られるとなかなか手ごわいと聞いている。」
「なるほど。今回遭遇したのは群れでしたか?」
「いや、はぐれモノばかり3匹狩ってきた。」
「いつもグレイウルフを対象にしているのですか?」
「ああ、きれいに倒せると毛皮がいい小遣い稼ぎでな。今回もなかなかきれいに倒せたから期待しているところだ。」
「いい儲けになるといいですね。ありがとうございました。」
そう言ってインタビューを切り上げる。シネブラさんを見ると誰か見つけたようだ。
「シネブラさん、誰か気になる人でもいましたか?」
「いや、気になるというか、同じ村出身の奴がいたからな。」
「ほう、ではインタビューの練習台になってもらいましょう。どこです?」
シネブラさんに案内してもらう。ついでにインタビューも任せよう。
「よう、バーディー。元気そうじゃないか。」
「シネブラか。お前も元気そうだな。今は何やってるんだ?」
「明日の仕事の練習だよ。全く冒険者っぽくないが、報酬は悪くない。今日も薬草漁りか?」
「いや、今日はネズミ退治だ。外周1週見回りは疲れたぜ。」
「何匹か狩ったのか?」
「10匹ってところだな。」
「ついにお前も薬草臭い奴から血生臭い奴に昇格だな。」
「お前はどうなんだよ?」
「まだ先の話だろうさ。今受けている仕事が続く限りはこっちの方が実入りは良さそうだ。」
「そうか。早くこっちに来いよ。」
「ああ、それまでにくたばるなよ。」
という感じでインタビュー終了。
「あのバーディーさんという人はシネブラさんのお友達か何かですか?」
「単に同じ村出身で似たような年だから張り合ってるってだけだな。」
「そうですか。それでは、冒険者ギルドの中に入りたいと思います。ちょっと失礼しますよ。」
と言いながら、カウンターへの行列の脇をするりと抜けて建物の中に入る。酒場エリアは大繁盛だ。
カウンター脇の受信機から私たちの話声が聞こえる。
「皆さん!この放送聞いてくれてますか?」
『うえぇぇい!』
何とも文字にしづらい答えが返ってきた。
「この中で、今日一番稼いだぞって思う人は手を上げていただけますか?」
と訊くとみんな手を上げる。
「皆さん自身があるようです。では、大銅貨以上稼いだぞという方!」
と訊くと半分くらいが手を下ろす。
「半数くらいの方は大銅貨以上稼いだらしいです。では、銀貨以上稼いだぞという方!」
と訊くと4人くらいが手を上げている。
「おお、4名の方が残っています。では、各銀貨以上稼いだぞという方!」
と訊くと1人だけ手を上げている。その人のもとへ向かう。
ワイシャツに黒いスラックスのその男の人は、なんというか特徴がないのが特徴という感じの人だった。
「おめでとうございます。お名前をお訊きしてもよろしいですか?」
「すいません、仕事柄名前は名乗らないようにしてるんです。」
「そうなんですか。ちなみにどのようなお仕事をされているかお訊きしてもよろしいですか?」
「はい。主に身辺調査を行っています。」
「身辺調査ですか。娘婿がどんな人物か調査したり、夫が浮気してるかどうかなんかを調査するんですか?」
「まぁ、そんなところです。」
「なるほど。身辺調査ってそんなにお金がかかるものなんですか?」
「今回の場合は、なかなか難しい相手でしたのでほぼ1カ月費やしました。ただ、その分依頼主も満足してくれた様子でした。」
「それはお疲れ様でした。そしてお答えいただきありがとうございました。冒険者ギルドからは以上になるんですが、レイナさんちゃんと部屋に居ますよね。」
「ちゃんといます。」
「では、部屋に戻るまでの間に適当に音楽を流しましょう。騎士団からの魔道具が部屋の隅にあるので適当に選んで再生してください。」
「はい!」
とレイナさんがパタパタ走り回る音がする。
「それでは音楽スタートです。みんな早く戻ってきてください。」
レイナさんの声とともにマーチが流れてきた。私は自分の手に持つ念話の魔道具に触れると機能を停止させる。
シネブラさんもそれにならって念話の魔道具に触れると機能を停止させた。
「それじゃみんな、明日からも放送で盛り上がってね!」
『うえぇぇい!』
やっぱり何とも文字にしづらい答えが返ってきた。
「では戻りますか。」
5人で冒険者ギルドから放送局に戻る。さっさと終わらせたのでまだ明るい。早めに帰る。
放送局のドアを開けたところでふと思い付く。こうやって人の出入りがある放送局だと、ドアベルとかを使ってもいいかもしれない。
「あ、みんなおかえりー。」
とレイナさんがいすから振りむいて迎えてくれるが、思いっきり声が放送に乗っかっている。
私は音を出している録音の魔道具を適当にいすの上に置くと
「レイナさん、別にお帰りと言うなとは言いませんけど、音を出す魔道具を離してからやってください。」
と怒った。レイナさんはしょんぼりしている。
「それじゃ、放送局に戻ってきたことだし、みんな席に座って今日の感想を言っていきましょう。まずは、レイナさん。」
「ふぇっ!あ、あの、最後は失敗しちゃいましたけど、何とか頑張りたいと思います。」
「次に、シネブラさん。」
「ミヤビのやり方が見れてよかったし自分でもインタビューする機会があったことは喜ばしい。今日の経験を明日の糧にする。」
「はい、では次はルシアンナさん。明日は私の代わりにインタビューしてもらうけど意気込みはどうかな?」
「ミヤビさんのように上手にやるのは難しいと思いますが、全力で頑張ります。」
「では、今日のロケで受信機を持って頑張ってくれたブリジットさんとマドンナさん。」
「鎧の方が重いから、1日中持っても大丈夫だよ。」
「そうですね。私のメイスよりも軽いですから、1日中聞いていられますわね。」
「はい。全員の感想が終わったところで今日のところは終わりにしたいと思います。明日は朝6時からの放送を予定しております。
無理やりにでも起こしますからね。それでは、王都放送協会、放送前日スペシャル。これにて終了です。また明日!
この放送協会は技術本部長、ガイ=アルシミーの提供でお送りいたしました。」
その言葉を最後に送信機を停止させる。
「はい、お疲れ様でした。明日は朝5時にここに集合してくださいね。」
『はい!』
「では、解散。お疲れ様でした。」
『お疲れ様でした。』
冒険者5人が外に出ていく。
「本部長、どうでした?」
「いや、なかなか楽しかったよ。明日からの楽しみが増えるというものです。しかし、角銀貨を稼いだ彼は誰を調査していたのでしょうね。」
「そういうのを気にするのはまた別の機会にしましょう。ところで、提案なのですが、スタジオ入口にドアベルつけませんか?人の出入りがあるのでそういったアクセントがいるかなと思うのですが。」
「そこは君に任せるとしよう。あと、ここの鍵だ。管理よろしく頼む。」
「……私が管理するんですか!?」
「他に誰がいるのかね?」
「本部長がいるじゃないですか!」
「私は私で忙しい。常に付き合うのは難しい。」
「それはこっちでもそうですよ。……いっそのことシネブラさんに丸投げしてしまいますか。」
「君に任せる。」
「了解しました。では、銀行によって受信機をもらってきますかね。」
「そうだな、私も付いていくとしよう。」
本部長と私は銀行で受信機をもらうとそこで別れた。
会計課の部屋に戻ると、鍵が閉まっていた。
夕食に行ったのだなと思うと食堂へ移動する。食堂にはちょうどマリルーさんとアデラさんがいたので、受信機を渡して明日の朝私の机に置いておいてもらうように言っておく。
部屋に戻るとビアンカさんがいた。ちゃんと録音してもらったようで、再生すると大音量の起床ラッパが鳴り響いた。
「ところでビアンカさん、早出の時って何時に起きてます?」
「4時半くらいですかね。」
「その時間に起こしてもらえます?」
「別にいいですよ。」
お礼を言うと、下に降りて夕食だ。そういえばお昼食べてなかったことに気付いた。
空腹な分、食事がおいしく感じた。明日も頑張ろう。
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