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第2話 知らない土地で

 顔に陽が当たる。まぶしい。

 その光から逃げるように寝返りを打つ。

 まだ寝たりないからもうちょっと……ん!?ちょっとまった!

 冷静に考えてみよう。陽が当たったということは朝になっているということだ。

 そして私には夜中に終わらせなければいけない仕事が残っていた。

 急に頭が冴えてきた。そして冷や汗が出てきた。

 寝過ごした!完全に寝過ごした!

 いまからやって間に合うか!いや、やるしか選択肢がない!

 がばっと身を起こすと、そこは仕事場ではなかった。




 小鳥の囀る声が聞こえる。きょろきょろと周りを見渡す。

 そこは簡単に言ってしまえばヨーロッパの町並みの中に作られた学校のグラウンドみたいなところだった。

 杭とロープでグラウンドは四角く囲われており、地面はロードローラーで締め固められたように固そうだった。

 内側にはかかしみたいなのが数体立っていたり、小屋が何棟か建っている。

 グラウンドでは西洋のお城に飾ってあるような鎧を着た人が何十人かで行進をしていた。

 うん、夢だこれ。

 目の前の光景に呆然としながらも冷静になって考え直す。

 夢なら時間経過はほとんどしていない可能性がある!一刻も早く起きないと!

 私にとって一条の希望の光が降り注いだ。

 その場で立ち上がると夢から覚める方法その1を試してみる。

 夢から覚める方法その1とは頬をつねってみることだ。

 時間がないので確実を期して両手でつねってみた。

 痛い!そして目が覚めない!

 その1が失敗したのでその2に挑戦する。

 夢から覚める方法その2とは両手で頬を張ることだ。

 時間がないので確実を期して強めに叩いてみた。

 すごく痛い!そして目が覚めない!

 その2が失敗したのでその3に挑戦する。

 夢から覚める方法その3とは夢の中で相当の恐怖体験をすることだ。

 例えば何かに追われている状況でビルとビルの間を飛び越えようとして失敗して地面に激突する瞬間に目が覚めるということを経験した人はいるだろうか。私は経験した!

 飛ぶ明晰夢は練習したから、上空から落ちるのでいけるかな。

 両手を合わせて精神を集中させ、自分の足が地面から浮くことをイメージする。

 イメージして!雑念をなくして!浮け!飛べ!

 念じてみるものの一向に浮かぶ気配がない。

 ……どうしよう、万策尽きた……。




 途方に暮れていると鎧の集団がこちらに向かって歩いてきていることに気付いた。

 邪魔にならないようにしないといけないよね。

 私は近くのロープをくぐると、座って休めそうな街路樹の陰で一休みしながら彼らの様子を眺めていた。

 彼らは私のいた角に来ると90度方向を変え、また行進を続けていた。

 私が何かやらかしたからこっちに来たわけじゃなくってよかった。

 安堵のため息をもらすとふと空を見上げた。

 広い木の葉の合間から光が差し込む。

 空は青く、白い雲は少ない。いい天気だ。

 わけのわからないところで一人ぼっちという極限状態に、少し現実逃避してしまう。

 いけないいけない!現実……現状をさっきのことも考えつつ整理しよう。

 痛みでは夢から覚めなかった。

 また、自分の見ている夢だと自覚して夢をコントロールすることもできなかった。

 ということは、夢ではないのかもしれない……。では、現実なのだろうか……。

 ヨーロッパに旅行に来ればこのような町並みを見られることだろう。

 もしも私が二重人格でもう一人の人格が仕事も航空券の手配もやってくれてここで意識が変わったということがありえるだろうか。

 しかしこれも重大な欠点がある。

 私は海外旅行に行ったことがないためパスポートがない。

 作るにも時間がかかる代物だ。

 もしもこの仮定が成立するならば私は数週間単位で意識をもう一つの人格に明け渡さないといけない。

 あ、もしここが地球の上ならGPSでどこかわからないかな……。

 いつもスマホを入れている左のポケットを探る。

 スマホはあった。ただし、圏外になっている。

 マップアプリを開き、現在位置が表示されるボタンを押す。

 これで海外にいるってことになると帰るの大変だな……。

 スマホががんばって現在位置を特定しようとしてくれている。

 30秒……1分……それ以上待ったかもしれない。

 スマホは現在位置を特定できなかった。

 こんな広いところでGPSが使えないわけがない!これで2重人格海外旅行説は消えた!

 可能性のひとつが消えたことに喜びつつ、私はやらなければならないことに気づく。

 スマホはあったけど、他の所持品を確かめないと……

 まず装備品は赤いシルクのパジャマ上下と下着上下、迷彩のサンダルと仕事場でつけていたものと同じだ。

 ただ、地面の上で寝返りを打ったりしたからか土が少し付いていたので軽く手で払っておく。

 所持品は左ポケットのスマホと右ポケットの小銭入れ、そして首から提げる身分証だけだった。

 サバイバルには向かないね……する気もないけど。

 気を取り直して現状確認を続行する。

 夢の可能性も低く、現実でもなく……とすると異世界とか?

 異世界、そして異文化コミュニケーション。

 言葉とか文字とか違うんだろうな……。

 思わずため息が出てしまう。

 英語でさえも苦手なのに、他の言語となるとお手上げだ。

 気が進まないけど、とりあえず聞き耳を立ててみよう!

 といっても聞こえてくるのは行進している鎧の集団の掛け声ぐらいなものだ。

「いっち!いっち!いっちにー!『そーれ!』いっち!いっち!いっちにー!『そーれ!』」

 ……日本語か!?

 使っている言語が日本語ってことはここは日本なのか!こんなテーマパーク造られたとか知らないよ!

 一気に気が抜けた。

 言語が一緒ってことは意思疎通はなんとかなる!

 そう思うとここが安全地帯のように感じられてきた。

 安全地帯にいる今こそ夢から覚める方法その4を試すとき!

 夢から覚める方法その4とは夢の中で寝ることだ。

 両腕で目に光が入らないようにしながら木陰に横になる。

 緊張して疲れていたのか、変な環境でも寝入るのは早かった。

ブックマークしてくれた方ありがとです。

応援されたと思って頑張ります。

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