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第19話 4日目の(忙しい)午後

 仕事場に戻る途中にレストラン街で昼食を摂ることにした。

 お昼は魚の塩焼きにサラダ、パンとした。

 マリルーさんは物足りなそうだけど、肉ばっかりの食事に飽き飽きしていた私としてはこの選択は間違ってはいないと思う。

 あれは動く人用のメニューだから動かない人にとっては害にしかならない。

 まだ自覚は無いがウエストは気になる。

 そんなヘルシーな食事をしているところで、私はマリルーさんに一つお願い事をした。

「マリルーさん、数字を教えてください。」

 私がそういうと、マリルーさんの目が点になった。

「ミヤビさん、数字読めなかったの!?もしかして文字も?」

「はい、恥ずかしながらさっぱりです。」

 そう答えると、マリルーさんはメニューを取り出して私の差し出してきた。

 受け取ったが、何がなにやらさっぱりだ。

「それじゃあ、上から読んでいきましょうか。」

 いきなり勉強会が始まりそうだった。

「いや、帰ってから、帰ってからで結構です。」

「こういうのは言い出したときが一番いい時と言いますのに。」

 とちょっと残念そう。

「ひとまず、帰ったら数字を教えてください。」

「いいよ。」

 そう約束をすると、食事を終えて仕事場に戻った。




 仕事場に戻ると、マリルーさんは机の上に積みあがった書類に泣きそうになっていた。

 できれば外勤簿の記入ぐらいはやりたいところだが、文字がわからないって辛いです。

 マリルーさんに全部書いてもらうと私もサインしてセゴレーヌさんに持っていった。

「・・・・・・ミヤビさん、こういうのは行く前に書くものですよ。」

 と怒られる。

「すいません、いいアイデアが浮かんだのでつい・・・・・・。」

 恐縮するものの、セゴレーヌさんは自分のサインをしてくれた。

「それで、いいアイデアって?」

 そう訊かれたので、手元に20面ダイスを持ってきた。

「・・・・・・これは?」

「カードの番号を決めるためのサイコロです。これから決めるカードの番号をこれで決めます。」

「えーと・・・・・・それは1番から順番に決めていくのじゃだめなのかしら?」

「それではカードの偽造が容易になってしまいます。」

「偽造ね。警戒しすぎじゃないかしら。」

「こういうのはやりすぎるくらいがちょうどいいのです。」

 そういって外勤簿を受け取ると、いつもそれをしまっている棚に入れる。

 次はカード入れる名前と番号を設定しなければならない。

 発注しなければならないからアデラさんの担当かと思い声をかける。

「アデラさん、幹部用のカードの発注について話したいんですが、時間はありますか?」

「ごめんな。今から食堂用の材料の受領なんだ。その後でいいか?」

「それより、食材の受領について気になります。ついて行っていいですか?」

「おう、かまわないぞ。」

 ということで、食材の受領の様子を見に行くことになった。




 食堂に併設している厨房の奥、そこには保冷庫があった。

 外は暑いが、中はひんやりというよりも寒い。

 中で待っていると凍えそうだったので外に出るとよりいっそう暑く感じる。

 しばらく待っていると荷物を満載した馬車が到着した。

 積み荷は木箱に入っており中身は見えない。

 するとアデラさんたちが動き出した。

 従卒の二人が連携して馬車から木箱を運び出すとアデラさんはふたを開けて中身を確認する。

 中身は玉ねぎやジャガイモ、ナスやトマト、トウモロコシやカボチャ等の野菜と解体されたお肉、鶏肉は原型が残っているので分かった、それと小麦粉だった。

 木箱を保冷室に入れるとアデラさんは巾着袋を御者に渡した。

 じゃらじゃら音がするので、代金を払っているのだろう。

 その後馬車は来る時よりも勢いよく走っていった。

 いくつか気になったのでアデラさんに質問する。

「アデラさん、領収書ってもらいました?」

「領収書なんかなくてもいくら払ったかなんてわかるよ。いつも同じ金額だもんな。」

「いつも同じって、野菜だと旬に合わせて変わってくるでしょうに。」

「確かに季節によって中身が変わるな。でも、同じ人数分の材料だし、同じでいいんじゃないか。」

「駄目です!」

 思わず叫ぶとアデラさんがびくっとした。

「同じ人数分の材料といっても、お金はその材料に見合った額でないといけません。

 食料品街でこれらの物がいくらで売っているのか調査し、その価格の上下に合わせて支払う額も上下させなくてはいけません。

 国民からの税で賄われている組織なのですから、大切な税を無駄に使ってはいけません。」

 少々説教っぽいことを言ってしまったと思い少し反省する。するとアデラさんが苦渋の表情で答えてきた。

「言いたいことはわかるんだ。ただ、人が足りないんだ。さっきも見ただろう。

 二人で運びながら一人が中身を確認する。それで精いっぱいだ。これとは別に剣や鎧の補充、修理なんて来たら朝から晩まで休む暇なく仕事しなきゃいけない。

 そんな状態で価格の調査なんかできやしない。」

「増員要求はされたんですか?」

「会計課に増員されても、マリルーの下につくだけさ。23人もいて解決できない問題だからな。

 とっとと付け払いなんて禁止にしちまえばいいんだ。」

 そういうとアデラさんは石ころを蹴飛ばした。

「では、もう少しの辛抱ですね。」

 そう私が言うとアデラさんは疑問の表情を浮かべる。

「付け払いについては近々禁止になります。そして新しい制度を導入します。

 新しい制度では、付け払いのような取引の取りまとめは銀行が行い、騎士団はその報告を受けるだけになります。

 20人くらいは仕事がなくなるんじゃないでしょうか。」

 それを聞くとアデラさんはにやりと笑った。

「それは楽しみだな。10人ずつもらうか?食事より楽しみなことができちまった。」

 そう言うと仕事部屋に戻っていく。

「そうだ。何か話があるんだったよな。」

 道すがら、アデラさんが話しかけてくる。

「そうでした。騎士団の幹部の名前を紙に書いてほしいのです。」

「何だそんなことか。何に使うんだ?」

「今度、幹部用に魔道具のカードを購入します。そのカードに名前と認識番号をつけるので必要になります。

 認識番号はこちらでつけるので、名前だけ片側に書いてもらえれば大丈夫です。」

 それを聞くと、アデラさんは従卒の1人に指示を出してくれた。




 仕事部屋に戻ると、マリルーさんから数字を書いた紙をもらう。

「上から0、1、2、3ときて最後が9です。」

 確かに10個文字がある。

「ありがとう、マリルーさん。今度は文字も教えてくださいね。」

 そういうとマリルーさんはほほ笑んでうなづいてくれた。私は自分の席に戻ると書かれた文字の隣にアラビア数字で0、1、2、3、と書いていく。

 そしてサイコロを確認し、0から9まで文字が間違っていないことを確認する。

 サイコロを振ってみると、あまりの大きさにテーブルから飛び出てしまった。出た目は1らしい。

 小さな数字が出ることは少し悲しい。

 また、あまりに大きく作りすぎてしまったため、床で振るしかないのも悲しい。せめて絨毯でもあれば……。

 と思っていると、アデラさんの従卒の人が幹部の名前を紙に書いて渡してくれた。

 これでサイコロを振る必要が出てきた。

 セゴレーヌさんに絨毯の敷いてある場所を訊いてみる。

「絨毯が敷いてあるとなると団長の部屋くらいね。」

「そこって入れますか?」

「入れるけど荒らしちゃだめよ。ついてきて。」

 そう言うと部屋を出て行きそうになるので、数字を書いた紙と幹部の名前を書いた紙、鉛筆、サイコロを持って後に続く。

 セゴレーヌさんは別の部屋に入ると2つ鍵を持って出てきた。

 建物への入口正面にある階段を上ると正面にあるのが団長室だ。

 鍵を開けて入ると、小さな部屋に入る。技術本部長室にもあった秘書室だ。そこにある扉を開くと団長室だ。

 団長室は大きな部屋だったが、中には個人用の机がぽつんと置いてあるだけだった。あまり使われていないのだろう。

「じゃあ、終わったら鍵を閉めて返しに来てね。」

 そう言うとセゴレーヌさんは去っていった。

 ちょっと机を借りてその上に紙と鉛筆を置く。そしてサイコロを振る。

 どこにぶつけてもいけないように勢いは弱く、しかし偏った目が出ないようにスピンは強く振る。

 第1投の結果は9。1人目のカードの1文字目は9になった。マリルーさんにもらった紙を見ながら名前と思われる文字の横にこちらの世界での9を書く。

 そこからサイコロを振っては数字を書くという動作の繰り返しが始まった。




 18人分の16文字、288回もサイコロを振るとさすがに数字は覚えてきた。

 やることが終わったらすぐに退散するに限る。紙と鉛筆、サイコロを持つと団長室と秘書室の鍵をかけ仕事部屋に戻る。

 セゴレーヌさんに鍵を返すとアデラさんの従卒の人にカード用に名前と認識番号を書いた紙のコピーをお願いした。

 コピー機はないので手書きでの写しとなる。応援してるよ、従卒の君。

 コピーしてもらっている間、アデラさんに今日の予定を訊いてみる。

「食材の受領も終わったし、後は大丈夫だろ。」

 とのことだったので、コピーが終わったら連れだすことにする。

 外勤簿を持ってきて、アデラさんに書いてもらう。めんどくさがりながらも書いてくれるアデラさん、やさしい。

「行先は?」

「魔道具製作所と銀行ですね。」

「何だ2か所も行くのかよ。」

 と言いつつついてきてくれるアデラさん、やさしい。

 外勤簿にサインしてセゴレーヌさんに持っていくと、

「また外出するの!?」

 と困惑したような感じで言われた。電話で呼び出せるなら待っていたいんですけどね……。

 そうこうしているうちにコピーが終わった。

 1枚をセゴレーヌさんに渡す。

 これを銀行と魔道具製作所に渡してくると伝えると、

「ちょっと、私の番号4949とか悲しくなるじゃない。振りなおして。」

 と言ってきたが、

「サイコロの目は変えられません。」

 と謎の言い訳をしてアデラさんを連れ出した。




 騎士団の施設が集まっている地区からは街の中央部に向けて1本太い道が通っている。

 その道を行くと東西の大通りと城と南門を通る道の交点につく。銀行はその近くだ。

 銀行につくと、見知った行員さんがいたので声をかける。

「こんにちは。バンカー支店長はいらっしゃいますか?」

 と訊くと、

「こちらで少々お待ちください。」

 と中に入れてくれた。

 このまえまっていた部屋に通されると、すぐにバンカーさんがやってきた。

「どうされました?」

 と訊かれたので、紙を渡して、

「幹部の認識番号が決まったのでお伝えしに来ました。」

 と伝える。

「仕事が早いですな。」

 と褒められるが、次があるので長居もしていられない。

 別れの挨拶をしてさっさと抜け出すと次は魔道具製作所に行く。

 魔道具製作所ではカード用の回路を急ピッチで制作していた。

 邪魔するのは悪いが、店長のおじちゃんに出てきてもらう。

 紙を渡して、

「この名前と番号でカードを作ってください。彫金の店はそちらで選んでください。

 この前は金の猫の看板を掲げたお店に頼みましたので、そこを選ぶと勝手がわかっていていいかもしれません。」

 というと、

「白銅の板分値上げさせてもらうからな。」

 とのこと。大銅貨1枚使って白銅のカードを作ってもらったのでそこはしょうがない。

 すると、アデラさんが四角い銀貨を2枚店長に渡した。

「特例で前払いだ。釣りはいらねぇ。」

 なんとかっこいい。すると店長さんは、

「明後日までには作る。」

 と言っていたが、銀行と店の調整に1週間かかるので、

「1週間は納品しなくていいですよ。」

 と返すと、ちょっとがっくりしていた。やる気が空回りしている感じがする。

「最終的には650枚ほど作ってもらうので、量産するスピードが上がるのは望ましいです。」

 と言うと、また気合が入ったようだった。




 そんな感じで外回りから帰ってくると、仕事も終わり夕食の時間だった。

 仕事部屋に戻るとマリルーさんがいたので、夕食に誘ってみた。

 もちろんオッケーが出る。一端部屋に戻って着替えをする所でビアンカさんとも合流する。

「今日は何でしょうね。」

 とビアンカさんがつぶやくと、

「ステーキ、マッシュポテト、コーングラッセ、かぼちゃのポタージュ、レタスとトマトのサラダ。」

 とアデラさんが答えた。

 まさしくその通りで、未来予知でもできるのかと思ったが、献立は先に決まっていてそれに合わせて品物を持ってきてもらうらしい。

 そんなこんなで、4日目が過ぎ去っていった。


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