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第16話 交渉の前に

 翌朝は早めに起きた。

 まだ太陽がわずかに顔を覗かせているような時間にビアンカさんが支度をしていたのだ。

 訊けば、今日は城の警備の日なので早出をしなければならないとのこと。

 朝食ぐらいは一緒に食べようと、ビアンカさんを追って食堂に行く。

 朝早いのでまだ席はガラガラだった。

 カウンターで食事を受け取る。

 今日も朝からお肉ですか……。

 適当にビアンカさんと向かい合って座る。

 ビアンカさんの目が充血していたのでどうしたのか訊くと、また眠ってないらしい。

 一晩中、ブラとショーツの根絶方法を考えていたそうだ。

 その努力には敬意を表したいが、無駄なことだと思われる。

 食べ終わるとビアンカさんはロッカールームに、私は部屋に戻るのだが、別れる前にビアンカさんがまた大銅貨をくれた。

「今度は大切に使ってくださいね。」

 今度はって、昨日の出費が無駄なものだと思ってるんでしょうか。

 まあ、何も言ってない私もいけないんでしょうけど。

 部屋に戻ると、早速仕事着に着替える。今日はキャミソールをアンダーウェアに少し水色っぽいワイシャツ、濃紺のロングスカートで行く。

 着替えると、ビアンカさんの机の脇に洗濯物を入れるかごがあり、そこにビアンカさんの服が入っていることに気づく。

 これは洗濯に出しておいてと言うことなのだろう。

 私も昨日着た服やら寝間着やらをかごに入れるとドアの外に置いておく。

 これで準備万端なのだが、始業時間にはまだまだ時間がある。

 といってもほかにやることもないので、仕事場に早く行くことにしよう。

 と思い部屋の前まで行ったのだがドアには鍵が掛かっていた。

 仕方がないので宿舎に戻ってくると、そう言えばマリルーさんたちが隣の部屋にいると話していたことを思い出し向ってみることにする。

 お隣の部屋は剣のドア飾りがかかっている。

 コンコンと2回ドアをノックする。

「はーい。」

 とマリルーさんの声。

「おはようございます。ミヤビです。」

 カチャリという鍵の開く音が聞こえると、マリルーさんがドアを開けてくれた。

「おはよう、ミヤビさん。まだアデラちゃんが用意してるところだから、入って待ってて。」

 そう言って中に入れてくれる。

 アデラさんはいすに座ってこちらを振り返る。

「おう、おはよう、ミヤビ。」

 そう言うと再び後ろを向く。三つ編みはほどいており、癖が付いているのかウェーブがかっている。

 マリルーさんは屈んでアデラさんの髪を三つ編みにしていく。

 私は空いているいすに座った。

「そうだ、二人にちょっと訊きたいんだけど、銀行でお金を借りたことってあります?」

「ないなー。」とアデラさん。

「ミヤビさん、銀行からお金を借りるって、凶作で生きていけなくなった農家さんとかこれから商売を始める商人さんとか、家を買う人くらいしかしないよ。」

 とマリルーさん。

「そっか。でも、お金って借りたら返す時って借りた額よりも多く返さないといけないと思うんだけど、そんな話って聞いたことない?」

「うーん。あ、凶作といえばかなり昔に冬も越せないような大凶作の時があって麦を貸してもらったら翌年の収穫期に倍にして返せーって言われたって話は聞いたことがあるけど。」

 とアデラさん。

「小さいころ近くに商人になった人がいて、その人は2年で倍にして返さないといけないとか言ってましたっけ。結局、お店なくなっちゃいましたし。」

 とマリルーさん。

「ふーむ、結構厳しいね。」

「それがどうかしたの?」

 とマリルーさんが聞いてくる。

「昨日カード作ったでしょ。それの会議を今日するので、そのための情報収集ですよ。」

「え、なんか参考になった?」

「なりましたよ。ありがとうございます。」

 そう話しているとマリルーさんが編んでたアデラさんの三つ編みも結び終わり、最後に先を髪と同じ赤のリボンで結ぶ。

「はい、準備できました。」

「いつもありがとな。」

 二人が立ったので私も席を立つ。

 出勤の時間だ。




 会計課室に入るとまだ早いのか従卒の人が数人しかいなかった。セゴレーヌさんはまだのようだ。

 従卒の人にも借金の話を訊いてみる。

 するとある程度パターンが見えてきた。

 食料のための借金は1年で倍にして返す。

 仕事のために使う消耗品、材料や冶工具のための借金は2年で倍にして返す。

 家や美術品、装飾品など買わなくても賃貸で済んだり、無くても生活に支障のないものは3年で倍にして返す。

 4年以上の借金は聞いたことがないらしい。

 そのうち、セゴレーヌさんが出勤してきた。

 昨日と同じようになんか悩みがありそうな感じだ。

「セゴレーヌさん、おはようございます。」

「はい。おはようございます。」

 声をかけると外面モードになるのか、ニッコリ笑顔だ。

「セゴレーヌさん、銀行からお金借りたことってあります?」

「えっ!?」

 何かすっごいびっくりしている。

 そして首根っこをつかまれると廊下に連れ出された。

「どうしてわかったの?」

 小声で問い詰められる。

 私も小声で返す。

「いえ、ただ単に訊いてみただけです。何か買ったんですか?」

「……よ。」

 聞こえなかったので耳を近づけてみる。

「ドレッサーよ。3面鏡の。」

 ほうほう。

「では、3年で倍にして返すんですか?」

「何で知ってるの?」

「従卒の人に訊いてみたら、生活に必要じゃないものは3年で倍にして返すというパターンが見えてきましたので。」

「そう……。」

 ちょっと遠い眼をした後、こちらをにらんでくる。

「誰かに言っちゃだめよ。」

「言いませんってば。」

 そう約束をすると部屋に戻る。

「あ、そうだ。セゴレーヌさん。紙と鉛筆ってどこにありますか?」

「消耗品ならあなたの机の後ろ辺りの戸棚の中ね。」

 そう言われたので、戸棚を開けて探してみる。

 するとA4サイズより少し幅広の紙と削られた鉛筆を見つけた。

 早速取り出すと、自分のデスクに戻って計算する。

 3年で倍になるということは3乗して2になる数を求めなければならない。

 1.3の3乗は2.197。

 1.25の3乗は1.953125。

 1.26の3乗は2.000376。

 大体この辺だ。つまり年利26パーセントほどとなる。

 これを日割計算する。

 1か月30日と仮定して、26パーセントに30/365をかける。

 すると、月2.136……パーセントとなる。

 これが今日の会議の目安となる。

 私は会議が始まるのを待った。

ブックマークが増えてます。

ありがたいことです。

これからもよろしくお願いいたします。

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