第14話 昨日と明日の約束
マリルーさんに案内されて銀行に来た。
「たのもー!」
と扉を開ける。たくさん置かれた椅子と長いカウンターは世界共通らしい。
「お客様、本日はどのようなご用件で?」
行員さんが訊いてくる。
「私は騎士団の小野寺雅と申します。新しいビジネススキームを考案したので決定権のある方とお話がしたいのです。」
そういうと、行員さんは奥から初老の紳士を連れてきた。
「この支店長のロスポ=バンカーです。お話を伺いましょう。」
そういうと、カウンターの中にある個室に案内してくれた。
中には5人掛けのソファが2つと間にテーブルがあった。
右側のソファを勧められたのでそちらに座る。
「あらためまして、騎士団の小野寺雅と申します。本日はこのような機会を作っていただきありがとうございます。感謝の言葉もございません。」
「いやいや、こちらこそ面白い話が聞けそうで心が躍るようです。」
「ご期待いただけて光栄です。早速話を始めましょう。」
そう言って今日作ったカードを取り出す。
「こちらは本日作成しました≪真実の目≫の機能を持つカードです。これにより私たちは付け払いの問題を解消しようと考えております。」
「騎士団の団員が付け払いをするというのは噂には聞いておりましたが、問題とは一体どのようなことですかな?」
「身内の恥になるので話すのをためらわれますが……。付け払いがあったことを騎士団の方で把握した際に、誰が付け払いをしたのかという確認に現在は多くの人材を投入しているのです。しかし、付け払いの際にこのカードが必要になることになれば誰が付け払いをしたのか明白になります。」
「確かに、このカードのように名前が書かれており、かつ≪真実の目≫の機能も持っているとなれば本人確認としては十分でしょう。ですが、なぜ本銀行に話を持ってこられたのですかな?」
「私は、民間でできることは民間でやるべきと思っております。どの店で誰がいくら使ったかということをこちらで把握する必要はないのです。
私は銀行には店と騎士団の間に入っていただきたいと考えております。
誰がいくら使ったのかという情報を店から銀行が受け取り、銀行が一時的に店に代金を払う。
銀行はその情報を1カ月ほどとりまとめて、騎士団側に請求し、騎士団は銀行に支払う。
そして騎士団は騎士に支払う賃金から銀行に支払った分を天引きする。そういう仕組みを作りたいのです。」
「話はわかりますが、それでは銀行に利がないのでは?」
「手数料を取ればよいでしょう。1取引に付き銅貨数枚や、取引額の数パーセントを手数料として騎士団に請求するのです。
騎士団はその手数料を騎士に支払う賃金から天引きする。悪くない話だと思うのですが。」
「なるほど。こちらの業務は増えるものの、貸し倒れの心配はなく、騎士団と協力することによって社会貢献もできる。良い話ですな。」
「ありがとうございます。」
「手数料の設定はこちらで決めてもよろしいのですかな?」
「申し訳ありませんが、私では何とも……。後日、騎士団の会計課にいらっしゃって私の上司とお話しいただければと思います。」
「直接顔を見て話をするのがお互いに良いですからな。明日の午前中にでも窺わせていただきましょう。」
(急だな。早い方がいいというのはわかるけど)
「わかりました。上司にアポイントをとっておきましょう。」
そう言うと互いに立ちあがって握手をする。
マリルーさんはポカンとしている。話に付いていけなかったみたいだ。
「マリルーさん、話は終わりました。帰りましょう。」
といってマリルーさんの手を引き銀行を出ていく。
そのまま帰ろうかと思ったが、大事なことを忘れていた。
「マリルーさん、ちょっと衣料品街に行きましょう。」
そう言って適当に歩き出そうとするとマリルーさんは復活して、
「そ、そっちじゃないですよ。こっちです。」
と案内してくれた。
衣料品街まで来ると一番通り寄りのお店にマリルーさんと入る。昨日来たお店だ。
「こんにちわ、下着はできてますか?」
そう言いながら入ると、昨日見た女性の店員さんがいた。
彼女は私を見つけると、恩人にでも会ったかのような表情をした。
「あのような下着をご紹介いただきありがとうございます。早速試作品を作り私たちも付けさせていただいておりますが、今までの下着は何だったのかと打ちのめされる思いです。
見本の品と試供品と持ってきますので、少々お待ちください。」
待っている間、マリルーさんと話そう。
「マリルーさん、マリルーさんは細長い布を巻きつけて下着にしてます?」
マリルーさんはきょとんとして、
「それ以外に下着ってあるんですか?」
と問いかけてきた。
「それ以外にあるから訊いたんじゃないですか。」
と返すと、
「私は見たことないなー。」
と返ってきた。
そんな会話をしていると店員さんが袋を持って帰ってきた。
「中に見本と2つほど試供品を入れております。よろしければ試着室でご試着ください。」
やはり、持って帰る前に試着しておかなくてはいけない。
試着室に入ると私は全部脱いで下着の着心地を調べる。
まず、もともと着けていたもの。これは当然ピッタリ。
次に、試供品の白い上下。まずブラのホックを確かめる。
ホックを合わせると左右に広げてみる。しっかりと縫えているのかホックにゆがみ等は発生しなかった。
今度は装着してみる。あまり布地の伸縮性がないのか、胸がちょっと苦しい。もう1回言いますが、胸がちょっと苦しい。
ショーツもはいてみる。やはりゴムのような素材が少ないのか、ちょっと窮屈な感じがする。
最後に、試供品の黒い上下。こちらもホックは大丈夫。
着けてみると、こちらはやや大きめに作っているのか先ほどのような苦しさはあまりなかった。
せっかくなので黒い下着の上から服を着て試着室の外に出た。
「白い方は少しきつく感じました。が、黒い方は素晴らしいです。どのような違いがあるのですか?」
と定員さんに聞くと、
「白い方は見本の大きさそのままで作ったのです。しかし、見本のような伸縮性に富んだ素材がなかったため、黒い方は少し大きく作ったのです。」
とのこと。私正解。
「白い方はお店に飾るなり売るなりしてください。黒い方はいただいてかまいませんか?」
「どうぞお持ちになってください。」
ということで無料で下着いただきました。
白い下着を返す前にマリルーさんに見せびらかす。
「というわけで、これが新しい下着です。どうです?流行の最先端ですよ?」
「……わ、わたしも作ってもらってもかまいませんか?」
「ええ、マイスターの紹介ですので、勉強させていただきますよ。」
というわけで、現代風下着派が1名増えました。
試着室でのマリルーさんの採寸が終わると店を出て帰社(?)した。
「……というわけで、明日の午前中、この街の銀行の支店長のロスポ=バンカーさんが調整のために来られます。
つきましては、手数料もしくは手数料率の見積りを立てていただけると助かるのですがいかがでしょうか。」
帰ってきてセゴレーヌさんに報告する。
セゴレーヌさんは報告が進むたびに頭を抱え具合を深くしていった。
「22名で解決できないことを他人に押し付けるなんて、いくら取られるかわかったものじゃないじゃない!
大体このカードはいくらするんですか。魔術具がいくらすると思ってるんですか!」
「騎士団の問題だと思うから足元を見られるのです。これは相手にとってもチャンスなんです。
騎士団以外にも兵士団、お城にいる文官と王国から給与をもらっている人間はたくさんいるんです。
そういった人たちが、このカードをもっていたらどうなると思います?
1か月単位で生活していたのが倍になるんです。財布のひもは緩みます。
カードが利用されれば銀行は手数料で大儲けです。
これも後々提案しようと思ってましたが、分割払いという払い方もあるんです。
何カ月も何年も貯金しなければ買えなかったものでも、その貯金する分をカードへの支払いに回せば、今すぐに買えるんです。
購買意欲が高まれば、経済が回り、街は発展し、税収は増えます。
そうすればもっと良い装備を、もっと多くの装備を買うこともできるのです。
利に聡い方であればその辺りもよく考えているはずです。
ですのでそう無茶な要求はされないでしょう。」
「……それで、カードはいくらだったの?」
「私から報告させていただきます。」
マリルーさんが声をかけてきた。
「カードは付け払いで払われており、製作所からの請求では1枚につき銀貨1枚と。」
「銀貨1枚ぃぃぃいいい!?……そんなもんでよかったのね。助かったわ。」
さっきまでの怒りが嘘のようだ。
「あっ、そうだわ。こんな大事なこと、団長も副団長もいないんじゃ決めようがないじゃない!
明日の午前中はこちらにいらっしゃるようにアポイントを取ってください。」
そう言うと、従卒の一人が駆け出していく。
後は野となれ山となれ。
そう思いながら1日目の勤務は終了した。
今日のところはこれで終了です。
読んでくれた方、ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。