第13話 試作品作成
魔道具製作所に到着するとマリルーさんはびっくりしていた。
「ここ、うちと取引のある製作所さんなんですよ。ここで作るんだ。」
なんだか感慨深げなマリルーさんを引っ張って中に入る。
中は一見すると雑貨屋だ。四方の壁に棚が取り付けられ、そこにいろいろなものが置いてある。
ヘラさんは店員さんに店長を呼ぶように言うと、店の奥からローブを着たおじちゃんが出てきた。
「ヘラちゃん、また何か作ったのかい。」
「騎士団の依頼でこんな回路を作ったっす。これを白銅で挟むらしいっす。量産できるっすか?」
おじちゃんは回路をじっくりと見ると、
「魔石の加工が大変そうだけど、可能だよ。」
といってくれた。
「白銅で挟んでカードにするんですが、表面に文字を入れたいんです。ここでできますか?」
と訊くと、
「それは彫金の類だね。鍛冶屋街に彫金の店があるからそっちに頼んでくれ。」
とのこと。
「マリルーさん、この店の位置覚えてますか?」
「何回か来たこともあるので大丈夫ですよ。」
「では、店主さん。この回路の量産をお願いします。
彫金屋さんで白銅を持ってきたらカードへの加工をお願いします。」
そういうとマリルーさんを引っ張って鍛冶屋街へ行く。
当然、道を知らないのでマリルーさんに案内してもらう。
鍛冶屋街に着くと、やはり剣や槍などの武器や兜や鎧といった防具が所狭しと置かれている。
そういうお店に用があるわけではないので、必然的に武器や防具を置いているお店ではないところに注目する。
すると金色の猫の看板に文字彫りをしているお店を見つけた。
マリルーさんとともに入ると、男の店員さんと猫が出迎えてくれた。
「ここでは白銅は扱っていますか?」
「はい。扱っておりますが。」
「これくらいの四角い板を2枚下さい。」
そういうと両手の親指と人差し指で長方形を作る。
「かしこまりました。何か加工は必要でしょうか。」
「なるべく薄く、角は丸く、片方は表面に16桁の0とミヤビ=オノデラと文字を彫ってください。」
「かしこまりました。先払いで大銅貨1枚いただきます。」
ビアンカさんから貸してもらったなけなしの大銅貨を渡す。
「1時間ほどでできるかと思います。1時間後にまたご来店ください。」
そう言われたので、お昼を食べようとレストラン街まで行くことにする。
といってもやっぱり道がわからないのでマリルーさんについていく。
今日のお昼はフィッシュアンドチップスとハンバーガーでした。
ファストフードだけどたまにはいいよね。なかなかおいしかったし。
支払いはマリルーさん任せだけど……。
食べ終わって彫金屋さんに戻ると加工ができていた。
2枚とも同じ寸法、薄さは2枚で1ミリにも及ばないだろう。
片方には16桁の文字とその下に私の名前らしき文字が入っている。
一応マリルーさんにも見てもらったが、大丈夫そうだ。
私はお礼を言うと、魔道具の製作所に向かって飛び出した。
しかし、道がわからないのでやっぱりマリルーさんに連れて行ってもらう。
魔道具製作所に戻ると、ヘラさんが粉末にした水晶を持ってきてくれていた。
正直忘れていたのでありがたかった。
魔道具屋の店長さんは早速見本を見ながら回路を1つ仕上げていた。早い!
早速私たちの持ってきた板とくっつけようとしてみる。
板は大きさも十分で回路がはみ出すこともない。
表面に文字を書いてない板を置くとその上に回路を重ねる。
その上に黒い液体をかけると文字が書かれたほうを上にしてもう1枚の板を押しつける。
そうしてできた魔道具のサンドイッチをクランプで軽く固定し、しっかりとくっつくのを待つ。
そうして待っている間、一つの疑念が巻き起こる。
(文字が書かれたほうに水晶の粉を付けると文字が見えづらくなる。そうなると裏に粉を付ける必要が出てくるが、それでも動くのかな?)
専門家に聞いてみた。
「どっちでもいけるっすよ。」
よかった。
しばらくすると固まったのか店長さんがクランプから外したカードを持ってきた。
黒い液体が四方から零れて固まっていたが、それをやすりで削り取ると厚さ2ミリもしないカードができた。
最後の加工も店長さんにやってもらう。
裏面に糊を垂らすと薄くのばし、その上に水晶の粉を振り掛ける。
糊が乾くまで30分、ひたすら待つ。
「ところで、これの用途を聞いていなかったっすけど、なにするんっすか?」
ヘラさんが訊くとマリルーさんもうんうんとうなづく。
「これは本人確認のためのカードです。このカードの表面には私の名前が入っています。それを相手に確認させて、『私はミヤビ=オノデラではない』っていうとカードが赤く光って本人だと確認するんです。」
「なるほど、それを使って付け払いを行っている人を特定するんですね。」
「まあ、そんなところだね。」
そんな話をしていると、店長さんがカードを持ってくる。
私はそれを大切に手に取ると、右手に持って天にかざしこう叫んだ。
「私は、小野寺雅ではない!」
そうすると、赤い光が降り注いだ。
試作品が完成した。
私は涙が出そうになったが、これで終わりではない。
「ありがとうございますヘラさん、店長さん。では、まだ行くところがあるのでこれで失礼しますね。」
「代金貰ってないぞ。」
「騎士団の付けでお願いします。」
そういうとマリルーさんを連れて外に出た。
これで終わりだと思っていたのかマリルーさんはびっくりしている。
「マリルーさん、銀行に連れて行ってください。」
連続投稿は後1話ぐらいです。