第12話 初出勤&初外勤
その後、マリルーさんとアデラさんと部屋の前で合流すると3人で宿舎を出る。
二人とも恰好は一緒でオリーブグリーンのベストとスラックス、白いブラウスだった。
ビアンカさんは鎧に着替えるらしく、階段を下りたところで分かれてしまった。
外に出て歩いて1分、向かいの建物に到着した。
ここに会計課があるらしい。
入り口から左に曲がって通路の奥に部屋があった。
中はかなり広かったが、それに比して人も多かった。
みんな上は白、下は緑色だった。ドレスコードがあるなら先に言って欲しかった。
2メーター四方の机を卓上パーティションで仕切って4人で使っている。
この机が6つ。
あと幅2メートルほどの個人用デスクが4つ、うち3つは窓を背にしており、もう1つは奥の壁を背にしていた。
その個人用のデスクには、愁いを帯びた表情をした女性が一人座っていた。
金色の長い髪はややすすけて見えた。
アデラさんが私の手を取ってその女性に向かって歩き出す。
「課長、オノデラさんを連れてきました。」
課長と呼ばれたその女性は表情をにこやかにすると立ち上がった。
そのままアデラさんに連れられて課長さんの前に出る。
まず一礼。
「騎士団会計課調達監査官を命ぜられました、小野寺雅です。」
「騎士団会計課長のセゴレーヌ=リッシュです。歓迎いたします。みなさん、注目願います!」
そういうと会計課に居る人間の目がこちらに注がれる。
「騎士団会計課調達監査官を命ぜられました、小野寺雅です。至らないところがあるかと思いますがご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。」
そして一礼。
会計課の人たちは拍手して迎えてくれた。
「オノデラさんの席はあちらになります。足りないものがあったらなんでもおっしゃってくださいね。」
私の席は壁際の席だ。他の机には資料がびっしりだが、私の机には何もない。
私は自分のいすを持つとセゴレーヌさんの隣に座った。
「マリルーさんから聞いたのですが、付け払いのためにかなりの人員が割かれているとか。」
「そうなのです。今この部屋には24人の従卒がおりますが、その内22名がこの問題に割かれております。」
「そこで、付け払いについては禁止する旨、団長から通知いただき、騎士団と市民に周知徹底するのはいかがでしょうか。」
「やはりその手しかないのでしょうか。あまり規制で縛るようなまねはしたくないのですが・・・・・・。」
「代替案も考えております。ただ、それが技術的にどうなるか確認したいので、技術本部に行きたいのですが・・・・・・。」
「まぁ、技術本部に。では外勤簿に書かないといけませんね。」
そう言うと書類の山から1つの冊子を取り出した。
「これに日付と行く場所、名前とサインをお願いします。」
私はその冊子を受け取るとマリルーさんの元に急ぐ。
「マリルーさん、付け払いの解決のために外勤に行きましょう。
ということで、私の分も記入をお願いしたいのですが・・・・・・。」
マリルーさんは快く快諾してくれた。さらさらと記入欄に必要事項を書いていく。
「では、ここにオノデラさんのサインをお願いします。」
そういって冊子と四角い鉛筆を渡してきた。
とりあえずこの世界の文字はわからないので漢字で小野寺と書いて、セゴレーヌさんに渡す。
セゴレーヌさんはちょっと首を傾げたが、そこに自分のサインも記入していく。
「はい、手続は完了です。2人とも行ってらっしゃい。」
にこやかに送り出された。
まだ土地勘がないのでマリルーさんに技術本部まで連れて行ってもらう。
中に入ると本部長室へ。
幸いドアは開いており、秘書室の中に秘書のスクレテールさんの姿が見える。
「スクレテールさん、本部長は中におられますか?」
「はい、在室しておりますが、どうなさったんですか?」
「ちょっと発明案を持ってきたのでご意見をいただければと思いまして。」
「そうですか。本部長、オノデラ相談官です。」
「入ってもらってくれ。」
スクレテールさんに部屋に入るように促される。
部屋に入ると本部長は自分のデスクに座っていた。
そんな本部長にソファに座るよう促されたのでソファに座る。
「昨日の今日で部屋はまだできていないが・・・・・・。」
そう言うと本部長もソファに座ってくる。
「それとはまた別件です。≪真実の目≫についてお聞きしたいのですが?」
「第6部のヘラの専門だな。スクレテール、ヘラを呼んでくれ。」
その声にスクレテールさんはバッと駆け出すとあっという間に一人の女性を連れてきた。
身長は私より小柄、衣装はダボダボの白衣。
オレンジ色の髪は整えられておらず、あちこちにはねていた。
長さも伸びに伸びて、目が隠れてしまっており、後ろも腰ぐらいまである。
「ヘラ、こちらに。」
と本部長に促されるとヘラさんもソファに座った。
「はじめまして、技術相談官の小野寺雅です。こちらは騎士団のマリルーさん。」
マリルーさんとともに礼をする。
「こちらこそはじめまして。研究第6部のヘラ=マイスターっす。」
「では、お聞きしたいのですが、≪真実の目≫はあなたの専門でよろしいですか?」
「そうっす」
「以前、騎士団で≪真実の目≫を見たときは手のひらに乗るほどでしたが、さらに小さく、薄くすることは可能ですか?」
「そうっすね。回路だけならかなり薄くすることはできるっす。サイズとしてはこんなもんっす。」
というとヘラさんは両手の親指と人差し指で長方形を作る。
「ただ、出力する水晶が問題っすね。」
「あの光る部分ですね。水晶以外に利用できないのですか?」
「他のものだとちょっと色が濃くなるくらいで、透明じゃないとはっきりとはわからないっす。」
「例えば、水晶を砕いてちりばめたらどうなりますか?」
「砕くっすか?やってみないとはっきりとはわからないっすけど、それならかなり薄くできそうっす。」
「では、早速試作品を作りましょう!」
そういうと、私はヘラさんの手を取って部屋の外に出て行く。
が、研究室の場所がわからない。
改めてヘラさんに案内してもらう。
本部長室近くの階段を上がるとすぐに研究室だった。
研究室はまさしくラボであり、さまざまな実験道具が所狭しと置かれている。
「ちょっと待っててほしいっす。」
そういうとヘラさんは引出を開けてみたり棚を覗いてみたりして、そのうち目標物を見つけたのか、こちらに持ってきた。
なにやら金属線やら宝石のようなものやら魔方陣やらブラックボックスやらが付いた回路を見せられた。
「これが、今の≪真実の目≫っすね。ここから薄型化していくっす。」
「では、そちらはお願いします。私は水晶を砕いてますかね。」
「それはお願いするっす。」
そういうとサイズがばらばらな水晶片と薬研というゴリゴリつぶす装置を持ってきた。
ゴリゴリ水晶片を粉にするという単純作業は時間が過ぎるのを忘れさせた。
ヘラさんのできたという声が無ければ日がくれるまでやっていたかもしれない。
「できましたか。」
「はいっす。これぐらいっすね。」
見ると、金属線は叩いて平たくされ、宝石のようなものは削られてアーモンドの薄切りみたいになっている。
魔方陣はさらに小型化され、ブラックボックスも魔方陣化されていた。
「では、テストしましょう。上に金属板を乗せたいのですが、何かいい素材はありますか?」
「光ることを考えれば銀がいいっすけど、さすがに高いっすね。白銅にするっす。」
そういうと、またヘラさんは引出を開けてみたり棚を覗いてみたりして白銅を見つけた。
白銅のサイズはやや大きいがあくまでテストだ。白銅の表面にのりを塗ると水晶の粉を振りかけた。
「これをこの回路の上に置けば完成っす。」
ヘラさんが回路の上に白銅を載せると、その上に指を置く。
「わたしは、男っす!」
そういうと水晶の粉をまぶした白銅が赤く光った。成功だ。
私は思わずヘラさんに抱きついた。
「後はこれをどう量産するかですね!」
「それなら当てがあるっす。いっつも使ってる魔道具製作所があるっす。」
そういうので、試作品を手にしたヘラさんを先頭にマリルーさんとその魔道具製作所に行くことにした。
まだまだ連続でいきますよー!