第11話 初出勤の前に
ちゅんちゅんという小鳥の声が聞こえる。
それでもまた眠ろうとしていると、今度は大音量のラッパの音が聞こえてきて飛び起きた。
外はまだ完全に太陽が昇ったわけではなく、薄暗い。
ビアンカさんは既に起きていたのか、下着を巻き巻きして上からベージュのワンピースに着替えていた。
「ミヤビさん、朝食の時間です。早く行かないと並ぶ破目になります。」
ビアンカさんは朝から元気です。
私は目をこすりながら起きると、ベッドから降りた。
「では、行きましょうか。」
そういうと、食堂に向かう。
ビアンカさんが言った通り、食堂に入るのに大行列ができていた。
だが、料理を出すのが早いのか、列はどんどん進んでいき、10分ほどで朝食を受け取ることができた。
(朝からステーキ・・・・・・文化が違いすぎる)
食べるところを探して食堂を見渡すが、空いてる席はほとんどない。
2人で探しているとビアンカさんが2人分の席を見つけてくれた。
4人席に窓側に女性が2人座っていた。
「ここの席、空いてますか?」
ビアンカさんの問いかけに二人はコクコクうなづいた。
席に座るとビアンカさんが二人を紹介してくれた。
「こちらは隣の部屋のマリルーさんとアデラさん。ミヤビさんと同じく会計課に属している人です。」
「そうなんですか。はじめまして、調達監査官の小野寺雅です。よろしくお願いします。」
まさかここでこれからの仕事仲間に会うとは思わなかったが、挨拶して頭を下げる。
「会計係長のマリルー=マルシャンです。これからよろしくね。」
マリルーさんは青く長い髪の持ち主で、たれ目の碧眼の持ち主だ。
身長は私より高いが、ビアンカさんほどではない。
「調達係長のアデラ=ペドラーだ。よろしくな。」
アデラさんは赤い短い髪で背中に三つ編みを垂らしている。
身長は私と同じくらいだろうか。この世界にしては小さい。
2人も軽く礼をして返してくれた。
「以前に噂話で聞いたのですが、会計課は忙しいのですか?」
それについてアデラさんが返す。
「忙しいのは会計係だな。うちはそうでもない。」
マリルーさんはちょっと困ったような表情で話す。
「ミヤビさんは入ってきたばかりだから知らないと思うけど、付け払いってわかります?」
「ああ、昨日ビアンカさんが言ってた『高ければ騎士団の付けにしよう』ってやつですね。」
そう言うとビアンカさんはびっくりしたような目でこちらを見る。
マリルーさんはちょっと怒ったような表情でビアンカさんを見るとため息をつく。
「その付けですね。実は『騎士団の付けで』とだけ言う人が多く、誰が付けたのかわからないことが多くてその調査に時間がかかるのです。」
「誰が付けたか、判明できない場合ってあるんですか?」
「もうたくさんですよ。誰かわかれば給料から天引きできるんですが、わからないと備品の購入ということにしてうちで払ってるんです。」
「公金の横領じゃないですか!厳しく対処する必要がありますね。」
「はい。ですが、硬貨を持ちたくないという気持ちもわからないでもないんです。重いですし掏られたりする危険もありますから。」
「なるほど、では硬貨を使わずに支払いができて、なおかつ誰が使ったかはっきりできて給料から天引きできれば良いと。」
「そうなりますね。」
「確認したいのですが、この街に銀行はありますか?」
「銀行ですと東西の大通り沿いにありますが。」
「ほほう、後は技術面ですね。マリルーさん、後で技術本部に付き合ってもらえますか?」
「技術本部?なにするんですか?」
「硬貨を使わずに支払いができてなおかつ誰が使ったかはっきりできて給料から天引きできる仕組みを作るんですよ。」
朝食を食べ終わった後、部屋に戻ってくる。
着替えてたら初出勤だ。
寝巻きを脱ぎ、薄手のTシャツと白いワイシャツ、スパッツにスラックスを着る。
「そういえば洗濯はどうするんですか?」
そういうとビアンカさんは私のクローゼットの上からかごを取り出した。
「これに入れて部屋の前に出しておけば、後は見習いがやってくれます。」
「はぁ、見習いの人って大変ですね。」
「うちに入る人は、短いか長いかは別として、みんなやってきてることだから。」
ちょっと気の毒になりつつ、寝巻きや昨日着た服をかごに入れていった。
今日は連続で投稿します。