第10話 2日目の終わりに
まだ、公務員生活が始まらない!?
それがばれるのは時間の問題であった。
宿舎に戻ると夕食の準備ができていた。
一旦部屋に戻って荷物を置くと食堂に戻って夕食を摂る。
今日はクラムチャウダーと白身魚のムニエルとパンだった。
何の魚かわからなかったが白身魚にしては脂が多く、焼き魚としてはいい出来だった。
食べ終わり、ビアンカさんと部屋に戻るとお互いのイスに座った。
「そう言えば昨日は歯を磨いていないんじゃないですか?」
昨日から今日にかけて色々イベントが多かったおかげで、日常生活でやっていたことが忘れがちになっていたことは否めない。
「そういえばそうですね。でも、この世界では歯磨きってどうやるんです?」
「これを使うんですよ。」
そういうと、1枚の布を見せる。布地はやや目が粗くなっている。
「それをどうするんですか?」
「これを人差し指に巻きつけます。そして口の中に指を入れてゴシゴシするんです。」
「ああ、この世界には歯ブラシなんてないんですね。」
「歯ブラシ……歯ブラシって何ですか?」
「歯ブラシは細い棒の先っぽに毛がたくさん生えているもので、それを口に入れて歯を磨くんですよ。」
「……確かにそんなものはありませんね。では、ミヤビさん、口を開けてください。」
「いや、布さえ有れば自分でできますから。」
丁重にお断りする。とあるアニメのように他人に歯磨きを任せるつもりはない。
「ということで、布をください。」
「はい。私のお古でよければ。」
「ありがとう……って使えるかー!
もっとこう、予備に買っておいたのとかないんですか?」
「そんな、お金出した私に古いの使わせて、お金出してないミヤビさんが新しいの使うんですか?」
「そういうと気が咎められるけど、こういうのはちゃんと自分のを用意しないと!」
「では、新しい布で私に磨かれるのと古い布を使って自分で磨くの、どちらがいいですか?」
「私は新しい布で自分で磨きたいです。」
「そうですか、残念です。」
そういうと机の引き出しから別の布を取り出すビアンカさん。
心なしか先ほどの布よりも若干白く見える。
「では、参りましょう。」
そう言ってビアンカさんは布を持って立ち上がる。
「どこに行くんですか?」
「外の井戸です。」
そうして井戸に着くとむちゃくちゃゴシゴシした。
歯ぐきから血が出たのか、布が真っ赤になってビアンカさんに心配された。
布を綺麗に洗うと部屋に戻って、布を干す。
窓の外にはフックがあり、この布用のハンガーを掛けることになる。
この布用ハンガーは針金ハンガーのJの字になった部分の頭に釣針を上下2段につけたようなもので、上下どちらに布を引っ掛けるのかは大概2段ベットの位置関係と同じらしい。
なので、ビアンカさんが下の釣り針に、私が上の釣り針に布を刺すと、窓の外のフックにかけた。
歯磨きが終わったので次はお風呂代わりの体拭きだ。
ビアンカさんはクローゼットの上からバケツを取り出すとまた井戸に戻る。
そしてバケツの半分ほど水を入れると食堂の調理場でお湯を貰う。
この時、ちょうどよい温度よりも少し熱めにもらうのがコツらしい。
部屋に戻ったら、ビアンカさんの労をねぎらうよう、背中を拭いてあげた。
もうちょっと拭いてほしそうだったが、背中だけ拭いてあげた。
ビアンカさんが全身拭き終わると次は私の番だ。
「後ろのボタンは私が外しますのでリラックスしてていいですよ。」
後ろにある4つのボタンが外されるとビアンカさんの「えっ」という声が聞こえた。
「ミヤビさん、なんで下着着けてないんですか?」
「下着なら服屋に貸してる。」
「そこから下着着けてなかったんですか!?」
「いや、下はスパッツだし。」
「何で言ってくれなかったんですか!?下着なら貸したのに!」
「いや、巻くのはめんどくさいし……。」
「今からでも遅くありません。これを胸に巻いてください。」
「いや、背中拭いてくださいよ。」
「そうでした!」
なんとか背中を拭いてもらうことに成功した。
その後、ビアンカさんに見られながらも全身を拭き終えると一つの疑問が生じた。
買った白いTシャツと黒いハーフパンツに着替えると訊いてみた。
「髪を洗いたいんだけど、石鹸ってあるのかな?」
「石鹸なら普通に売ってますよ。」
衝撃の事実!
「明日買いに行きましょう!」
「いや、明日は訓練があるので……。会計課の人に連れて行ってもらえばいいんじゃないですか?」
「え、でも忙しいんじゃないの、経理担当って?」
「お昼ご飯食べに外に出ればいいじゃないですか?」
「でも、お金持ってないし……。」
「大銅貨1枚程度なら貸しますよ。」
「あ、ありがとうございます。今度お給料が入ったら返します。」
「給料が入ったらと言わず、一緒に寝てくれたら返さなくてもいいですよ。」
「いいえ、給料が入ったら返します!」
そういうと2段ベットの梯子を上り上のベットに逃げ込んだ。
ビアンカさんはため息をつくとバケツのお湯を捨てにどこかに行ってしまった。
ちょっとそれは申し訳なかったと思いつつも、朝早くに起きたためか睡魔に負けてしまった。
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