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初めは憧れだった 2

 一歳の誕生日に見た、あの光の魔法。あれが俗に謂う「祝福魔法」だと知ったのは五歳になってからだ。

 祝福魔法とは、一歳になった子どもにマナを流し込み、魔法的な才能を目覚めさせるためのもの。マナに目覚めた子どもの放つ光によってその才能を示すらしい。マナを受け入れる器が大きい子、すなわち優れた魔法の才能を持った子どもほどカラフルになる。

 父たちが異様に喜んでいたのはこういうわけだ。

 稀に単色の子もいるけど、そういう子は光の強さによって才を計る。光が強い単色は、何か特定の魔法に特化しているのだそうな。

 つまり、俺は親族たちに最上級の魔法の才能を秘めていることを示してしまったのだ。両親からはかなり期待されているようだし、兄たちからは微妙な感情を向けられている。

 良くも悪くも最初から才能が分かってしまう。だから、兄たちは魔法という分野で俺を越えられないと早々に理解してしまった。この国では、いや、この世界では魔術師が支配階級の大半を占めている。力を持った人間が上に立つと思えば当然の結果かもしれない。

 かくいう我が家も魔術師からなり上がった家であり、魔法の力をことさら重視している。

 一番上の兄は父の後を継ぐと決まっているからまだマシだが、二番目の兄は鬱屈とした気持ちを抱えているようだった。

 俺のせいじゃないと言えばそうかもしれないが、事実、俺にも原因の一端があるだけに何だか申し訳ない気持ちになる。劣等感をひた隠しにして、俺に優しく接してくれようとしているだけに、余計に罪悪感が募るし。

 あの誕生日の後、制服のお姉さんが家にやって来た。どうやら俺に超英才教育を施すためらしい。

 お姉さんはブリジットと名乗った。俺が王都の魔術学院に入学できる年になるまで、家庭教師として俺に魔法を教えてくれるそうだ。

 もちろん、一歳を過ぎたばかりの俺には本格的な訓練は無理だ。最初はマナに対する感受性を上げるところから始め、マナをコントロールする練習をしていく。

 普通はこんな早期から訓練を始めたりしない。早くても五歳か六歳くらいでマナの扱いを学び始めるのだ。両親の俺にかける期待値の大きさが分かるだろう。

 多大なる期待を寄せられた俺は、あの頃ブリジット先生を一緒に遊んでくれる人としか認識していなくて、実は訓練だったもろもろを本気で遊びだと思っていた。だって楽しかったし。


 そんな日々を過ごし、言葉が話せるようになった頃。家族に変化が訪れた。

 それまで俺の世話は基本的に母がしてくれていたけど、それがままならなくなったのだ。別に悪いことがあって訳でもなくて、単に仕事が忙しくなっただけ。

 でも、二歳と半年くらいの幼児である俺を一人にしておくわけにもいかない。

 普通の貴族なら生まれた時から乳母がいるもんだけど、俺にはいなかった。両親は慌てて乳母、というか世話係の人選をするはめになった。

 そういう事情で家にやって来たのが、ノーリ・メルローとその息子クリストである。

 クリストは三才になったばかりで、俺より半年ほど早く生まれた。父はクリストを俺の側役候補として期待していたみたいで、俺の行く所にはだいたいクリストが付いてきた。二番目の兄は堂々と兄貴面できる相手が見つかってちょっと嬉しそうだ。ノーリは母の縁戚らしく、仲が良い。

 二人はあっという間に家に溶け込んだ。

 俺は初めてできた同い年の友達に喜んでもらいたくて、マナを圧縮した光弾でお手玉を披露した。ノーリもクリストも綺麗だと褒めてくれたけど、それよりもブリジット先生と両親の喜びようの方が激しかった。大興奮の様子で俺を褒める先生たちがちょっと怖かったのは秘密だ。

 四歳になる頃にはかなり精密なマナコントロールができるようになり、俺はマナを自在に変形させて遊び道具を作っていた。マナを注ぎ込んだ土人形で対戦ごっこなんかもしたものだが、どちらも操作するのが俺であるためにたいてい勝負はつかずに終わる。クリストも戦闘訓練を始めたようで、生傷が絶えなかった。だけど本人はケロッとしていたから、クリストはかなり頑丈にできているらしい。

 この年一番のビッグニュースといえばこれだろう。

 二番目の兄ことオース兄さんは、俺よりも三か月ほど誕生日が早く来る。あの日はオース兄さんの誕生パーティーだった。といっても、一歳の時のアレとは違って、家族と親しい人たちだけのこぢんまりとした宴会だ。

 俺とクリストはいつもより豪華なご飯にかぶりついていた。宴会ってのは酒がまわると大人たちだけで盛り上がるからな。少々見苦しくてもだれも注意を向けないものだ。

 宴も酣。伯父さんの武勇伝やブリジット先生の上司の頭皮事情で盛り上がっていたとき、遅れて会場入りした一家がいた。十二・三才の女の子を連れた女性は、確か母の友人だったと思う。用事で遅れたことを謝りながら、一家は大人たちの輪に入っていった。

 まあそれだけなら、なんてことないんだけど。驚愕の事実が発表されたのはその後である。

 母とあの女性は、女の子を俺にも紹介した。彼女は明るい栗色に翡翠色の大きな眼をもち、とても可愛らしい子だった。


「シェリア・イークスと申します。初めまして」


 澄ました顔で丁寧にお辞儀をしてみせた彼女は、さすが貴族の娘というべきか、所作に品がある。精一杯大人のように振る舞っても、大人になりきっていない初々しさが微笑ましい感じ。

 側で見ていた彼女の母親らしき女性は、満足げに頷くとこう付け足した。


「シェリアはオース君の婚約者なの。将来はあなたの義姉になるのよ。よろしくね」


 俺はポカンと口を開けて女性を見上げた。ビックリしすぎて口を閉じるのを忘れていた。

 母はそんな俺の様子を見てくすくすと笑っているし、シェリアさんは照れくさそうに頬を赤らめた。

 はっきり言おう。心配して損した。俺の罪悪感を返せ! オース兄さん。あんた立派な勝ち組じゃないか、こんな可愛い婚約者がいるなんて!

 あの時はそこまで考えなかったが、似たような感想を持ったのは確かである。きっと俺はすごく微妙な顔をしていただろう。

 それからというもの、シェリアさんは度々家を訪ねてくるようになった。オース兄さんは今から完全に彼女の尻に敷かれている。でも幸せそうにしていた。二人を見てると無性にイラッとするので、俺はオース兄さんをよくからかった。弄りたおした。


 ――このリア充め!

 なぜかそんな言葉が頭に浮かんだ。


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