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砂漠上の遊戯

 塩と胡椒と棗椰。これらが私達の扱う商品だ。

砂漠を行き交い、部族の人数を増やし、金貨を得て蓄えを増やす。

そんな営みを続けている。

 厳しい砂漠では人の数でできることが違ってくる。

多ければ、生き延びる人間も多かった。

たとえそれが切り捨てる人数が多くなることを意味しても。

生き延びる人間の中に自分の息子や娘がいれば、それでよかった。

人間も動物的本能で動き行動する場所にいた。


 そうだ。砂漠というのは一つの表現に過ぎない。

環境とでも状況とでも、いやいっそゲームとでも考えるほうがうまく表現できるだろう。

ゲームボード上の箱庭の中で、ゲーム進行に応じて出てきたカードと手札で乗り切るしかない。

部族の手札数を集めることが勝ちに繋がる生存ゲームだ。

単純化すればそういう世界に私達はいた。



 定期的に来襲する盗賊で私達は時期を知る。

金貨を支払うか、物で支払うか。

貧しい盗賊ならば食料品を求める。豊かな盗賊ならば金貨を喜ぶ。

私達ができるのは商品を増やしておくこと。あるいは金貨を蓄えておくこと。

 ときには部族のなかに強力な手札を得られて、盗賊を退ける時代もあった。

しかしそれは稀にみる僥倖で、たいていの時代は凡庸なカードを切り

何かを奪われることを甘受するしかなかった。


 できることは商品を増やすことと金貨を増やすこと、

とはいえ放浪の民である私達は持ち運ぶ量には限界がある。

限界を超えるものは金貨に変えられなければ捨てるしかない。

ゆえに金貨に変える時期もまた、戦略だった。

当たり前だが金貨は金貨であって、魔法のランプのジンのように何かに変わりはしない。

取引できる場所があれば、それこそいかがわしい錬金術より遥かにたやすく

いろいろなものに変わる力を、確かに金貨は持っている。


 しかし、今ここという生存を賭けた場面では即戦力にならない。

冷たい金属は決して私達の血肉にはならないからだ。

金貨は、ただ来たるべき時期の交換価値を数字で示した物に過ぎなかった。

つまりは私達にとって金貨も商品も、名誉欲にも物欲にも繋がるものではなかった。

やはりただ、部族の数を増やすことこそが私達の目的で

その目的のための駒としての価値でしかなかった。



 ここに一つの時代について、私の記憶を残して置こうと思う。

稀な僥倖、盗賊を退けられていた時代に私はいた。


 私は部族を率いる立場だった。だがあるのは名誉ではない。

部族を増やすためのプレイヤーでしかなかった。

私達の部族といっても集団で放浪しているのではなく

3つの、ときには2つの集団となって砂漠地帯に暮らしていた。

私はそれら各集団の交錯点から生じる事態にただ対応し

部族のカードを増やすことに私のターンを費やしていたに過ぎない。


 始めに得たのは塩だった。未熟な私は下手をうち、ただ塩ばかりが手元に残る。

取引きは塩ばかりでは対応できない。胡椒も棗椰も必要なのだ。

 胡椒を。棗椰を。そうして多様を求め数を求め、気づけば受け継いだ金貨をすべて失っていた。

 

 しかし、がむしゃらな交渉を進める中、貴族とのよしみを得た。

地に根を張る柘榴のような貴族とのよしみは私達の地肉となった。

地に根を張る柘榴は豊満に人間を生みだし、やがてぱくりと割れて地より溢れ出る。

溢れ出た果実を部族は飲み込み、部族は肥える機会を得た。

私の部族が盗賊を退けるカードを得たのはそういう経緯だった。

そうして金貨を望む時期が来た。


 時期がきたと判断してからの私は金貨を得るために部族を動かした。

蜃気楼の果てまで行ってきたと言う者は他部族の享受すべき利益を

緩やかに掠めとり、私達に利益をもたらした。

金貨は増え、水の匂いに惹かれる動物のように

匂いたつ豊かさに惹かれて、他部族が流入するようになる。

 かつてあった4部族、緑場族、幕張族、水瓶族、月の女族

すべてを内包する部族となった私達の青族は一つの勝利を収めた。


 4度の盗賊が来たあとで、対立する白族に私達青族は数で勝り、力で勝ることになったのだ。

私は砂漠を統一し栄光を得た。


 しかしごく単純化すれば、私の人生は一人のプレイヤーの勝敗の記録でしかなかった。

これは所詮ゲームの話だ。

お読み下さいましてありがとうございました。

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