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第7話「戦争じゃ~! のはずが……?」

 まだ朝日が昇る前。空が少しずつ明るくなってきたころ、私はナイルに起こされた。


(ね、ねむい…………)


 昨日は深夜に寝て、今日は朝日が昇る前に目覚める。

 多分4時間も寝れていないわね……

 

 私は目をこすりながら指揮官たちの前に出る。

 指揮官たちは相変わらずキリっとしていた。同じ睡眠時間のはずなのに……


 そして、私はナイルに「激励の言葉をかけてあげてくださいね。それが国王の役目ですから」と言われたので、この100人に激励の言葉を送る。


「今日は決戦の日だ。今までの訓練、経験などを活かし、兵士を最大限使い、国に貢献せよ!」


 こんなもんでいいのかな? 

 数秒空白の時間があって、次の瞬間ものすごい雄たけびがあちらこちらから聞こえてきた。

 そうか、今の言葉をテレパシーでそれぞれに伝えていたのね。

 それにしてもこんな大きな声だと相手に聞こえちゃうわね。まあ、いい……よくないわね。待ち伏せとかされそう。


「それじゃ、全軍進め!」


 また数秒あき、みんな歩き出した。あちらこちらからザッザッと足音が聞こえる。

 って歩くんじゃなくて……


「走れ!」


 思いっきり叫んだからか、間も空かずに全軍走り出した。


 







「山を登るって大変ね」


 なかなか頂上が見えなくて途方にくれる。

 相手が攻め込みにくいってことはこっちも攻め込みにくいのよね。

 ちなみにこの『|カーファン(馬)』は山も登れる。なんかすごいわね。さすが異世界、基礎能力が段違い。


「そうですね。さすが、この国を守ってる山なだけあります。自国から出るのもすごくつらいですね」


 まあ、そういうナイルもカーファンに乗ってるから楽チンなんだけどね。

 兵士はずっと走り続けている。たまに休憩はするが。

 それにしてもこの国の種族、『亜人種』はすごいわね。1時間ずっと走りっぱなしでもスピードが落ちないもの。

 さすがに1時間以降はスピードが落ちるけど、5分くらい休憩すればまた1時間は走れるらしい。とんでもない体力ね。

 ちなみに亜人種の中に、『オーク種』とか『ゴブリン種』みたいなのがあるらしい。私みたいな美女が襲われないか心配だわ……





 いろんなことを考えながら山を登ること体感で5時間ほど(あくまで体感)。

 ようやく山の頂上にたどり着いた。

 猛スピードで登ってきたのにこんなに時間がかかるなんてどんだけ高い山なんだろう。

 私はずっと近くで登り続けてきたブラウンに声をかけた。


「みんな疲れてるでしょうけど、一気に駆け下りて攻めるわよ。他の人たちにもよろしくね」


 我ながらなんて人任せなんだろう。この人でなし! 

 ……自分なんだけどね。

 まあ、こうなったんだからしょうがないわね。せめて私も戦線に参加して戦況を良くしてあげようかな。


「了解しました。すぐに伝えます」


 そんな私の命令でもブラウンは嫌な顔1つせずに従った。

 ……それは私が魔王だからか。


 まあ、、いいや。すぐに駆け下りるわよ!


「全軍突撃~!」


 この世界の文明レベルならそんなすごい戦術なんてないから大丈夫だろう。

 てかそうであってほしいと今になって思う……


 兵士たちは思いっきり山を駆け下りている。よくあれでこけないわね。強靭な足腰な証拠だわ。

 そして、私はもちろん先頭を突っ切っている。あんだけ魔力レアル溜めたんだから大丈夫でしょ。死にゃしないって。


 そんなこんなでふもとまで降りてきたけど……


「さすがに近くで見るとでかいわね……」


 目の前にはこれまた山があった。超えてきた山ほどじゃないけどちょっと予想外。

 山のてっぺんから、地面が山みたいに凸凹してるって見えてたけど……さすがに1つ1つ大きすぎない?

 

「考えていてもしょうがないわね。このまま敵城まで直進よ!」


 山からはちゃんと城が見えた(魔力レアルで目を良くしてやっとだけど)。そこまで距離は離れていない(はず)。

 そして、山を登っては下り、登っては下りを繰り返しているうちにある山の上から敵城が見えた。

 城って言うほどたいそうなものじゃないけど。

 村の中に少しでかい建物があるって感じだな。頭はよろしくないって本当なのね。


「よ~し! このまま攻め込め!」


 兵士たちの雄たけびと共に山を駆け下りる。

 そういえばおかしいな。山を越える前にあんなに大勢で叫んだのに敵は何も用意していない。聞こえていないなんてありえないわよね。100万人の雄たけびなのよ。

 まあ、何があるか分からないのが戦場! とにかく突っ込むわよ!

 ……たしか軍曹は「なんでもかんでも突っ込むやつはすぐ死ぬぞ」って言ってたな……

 でも、まあなんとかなるでしょ!


 そんなことを考えていると村の手前まで来ていた。手前と言ってもかなり離れているが……村の近くだからか、木などもある程度切り倒されていて平野が広がっている。

 そして、ここまで来てぞろぞろと人影が見えてきた。ようやく敵さんの登場だ。

 先頭にはなぜか小さな子供が立っていた。

 小さい子に先陣を切らせるなんてなんて卑劣な……


「止まれぃ!」


 急に大地が揺れてるんじゃと思うような音がして思わず目を閉じて、耳を塞いだ。

 走っているこのカーファンまでもが思わず脚を止めるような咆哮が放たれたのだ。

 誰よ! こんなすごい声だしたやつは!

 目をうっすらと開けると先ほどの小さな子供が目の前に立っていた。

 カーファンの前じゃなくて、カーファンの頭に乗って私を見下ろしている。

 あれ? この子……


「兵士たちの武器を降ろしてくれんかのぉ。こっちは武器すら持っておらんぞい」

「あ! この子は!」


 やっぱりそうだ! あのときの少女だ。

 私がそれに驚いていると、前に乗ってカーファンを操っていたナイルがささやいた。


「とりあえずあちらが武器を持っていないのは本当です。武器を降ろすだけならいいで……」

「おぅりゃあ!」


 ブラウンが立ち直って剣で少女に斬りかかる。

 少女は上体を反らせ何事もないように剣をかわした。


「ブラウンやめて! 全員武器を降ろすように伝えてちょうだい」


 そう言うとブラウンは、でも! と目で訴えてきたが私はそれを制した。

 するとブラウンは諦めたようにテレパシーを使い始めた。

 数秒して、兵士に混乱があったが武器を降ろしたようだった。


 少女はよかったとニッコリ笑った。ピョコっと出てきた尻尾がキュートだ。


「せっかくお前さんとこの、ろうどさんがいろいろやってくれていたのに戦争にしちゃ台無しじゃろ?」

「やっぱりロウドいるのね! というよりロウドがいろいろやっていたってなに?」


 私は驚きを隠せなくて身を乗り出すように聞いた。

 少女は頷いて喋りだした。


「わしが迷子になっているところをおぬしとろうどさんが助けてくれたじゃろ? ろうどさんはあのあとずっとついてきてビカリスまで送ってくれたんじゃよ。

 なんでこんなに親切なのか、後ろに敵襲がいるのか、と最初は警戒したが、一行にそんな気配は起こさん。それで聞いてみて驚いたわ」


『薫様は戦争をしたくないのです。どうか矛を収め、同盟を結んでいただけませんか?』 

 

 私の出来ればな~、っていう気持ちで言った言葉でここまで動いてくれるなんて。敵の拠点のど真ん中にいて、1つ間違えば即死んじゃうのに。

 私は胸に手を当てた。熱い。すごく熱い。

 少女は話を続けた。


「それにしてもすごい男じゃのぅ。敵陣のど真ん中に兵士1人連れず単身で入って、1歩間違えば即死につながると言うのに。おぬしは幸せもんじゃのぅ」


 少女は今度は柔和に微笑み、カーファンから降りて跳んだ。……え?

 カーファンからピョンって降りたとこまではいいけど、そこからひとっ跳びで何十mも跳んだよ!?

 なんか気が抜けちゃった。


「ブラウン!」

「はい!」


 私はブラウンの名前を呼び、ブラウンの目を見据えて言った。


「兵士を連れて帰りなさい。左右に別れた兵士たちも同様よ」

「しかし……」


 ブラウンの口からその続きの言葉は出てこず、しばらく見つめ合ってブラウンが根負けした。


「分かりました。しかし、私は残ります。万が一襲われたりでもしたら命をかけて薫様を守るために!」


 あら~、いいわねその表情といい言葉。私思わず口説かれちゃうかと思ったわ。

 こんな凛々しいイケメン姿の武人にこんな言葉を言われるなんて……私って罪な女ね。

 ……分かってるわよ。これは私が魔王だからこういってるだけだって。

 

「私も残りますよ。薫様のレディエス・メイドですから」


 前を見るとナイルも私を見てそう言った。

 なんか魔王だからって分かってるけど……


「ありがと~ナイル~」


 命をかけてくれるまでに信用してくれてうれしくてつい抱きついてしまった。

 急に動いたためカーファンが暴れるが、ナイルが抑えてくれた。


 そしてゆっくりと少女の方へと歩を進めた。











「ふぬむふむなるほど。だからロウドはああだったのね」

「まだ説明していないじゃろ!」


 少女に的確なツッコミをもらっているここは、あの大きな建物の会議室みたいなところだ。

 カーファンは外でナイルに見てもらっている。

 ちなみにロウドは建物の前で待っていた。待っていましたよ、みたいな雰囲気で。

 さっきの言葉を思いだし、抱きつきそうになったが、なんとか堪える。人前じゃ恥ずかしいじゃない……


 そして、今から同盟とかについてかたっくるしいことを話そうとしているわけだ。正直面倒。


「それで同盟っていったって私はよく分かんないんだけど」


 こんな初歩的な質問をしてきてみんなため息をついている。ちょっとブラウンは私の部下でしょうが、魔王の発言にため息なんてつきなさんな!

 あ~もう、同盟ってあれか? 日英同盟みたいなやつすればOKなのか?

 

「今回は戦争で勝ち負けではなく同盟なので、対等になるように、両方に利があるように項目を決めます。

 例えば、お互いに土地を侵略しない。その証拠として長男など国の後とりをお互い預けあう、などですかね」


 お~、昔の日本みたいね。侍ジャパン!


「でも私は子供いないから無理ね」

「わしも見てくれのとおり小さいので子供はおらぬ」


 ん? 子供ってお互いの後とりとなるような人物=国王の息子なんだよね? ということは……


「あんた王様だったの?」

「ん? そうかいっとらんかったか。まあ、ビカリス帝国じゃから帝王じゃけどな。名前はスレン・ハイレルじゃ」


 こんな小さい子供が帝王……?

 私とブラウンは驚愕の事実に開いた口が塞がらなかった。


「どうしたんじゃ? そんなに驚いて」


 スレンは首をかしげてキョトンとしている。

 いや、そのみてくれで帝王はちょっと……

 そう思っていると、スレンのおつきの物が説明をしてくれた。


「ビカリスは毎回帝王が亡くなると、ビカリスで1番強いものが帝王になるのです。

 さすがにスレン様が優勝したときはビカリスの民全員空いた口が塞がらなかったでしょう」


 なるほど。ていうことはスレンはこの国のNO.1ってことね。こんな小さい子が……恐ろしいわね。

 さすが戦闘能力魔界一ね


 っと、話を戻しましょっか。


「そんで同盟って言ったってどうする~」


 なんかもう投げやりな感じで言うと、


「これからはお互い仲良くやろうってことでええんじゃないんか~?」


 とスレンも投げやりな感じで返事をした。

 

「「ちょっと‘薫様・スレン様’!」」


 見事にハモった、ロウドとスレンのあれ(長いから面倒~)。

 2人は顔を見合わせ、「気が合いそうだな」みたいな視線をかわしていた。

 まあ、お互いに刺激しあわないようにすればいいでしょ。


「そんじゃ、これから仲良くしていきましょ!」

「そうじゃな! 今度遊びに来てもよいぞ!」


 そして抱き合う2人。

 すごく仲がよさそうに見えると思うわ。こんな短時間でよくこんな仲良く出来たわね。




 ……うん。本当に仲がよさそうだわ。だけど……


「「なんでお前らが抱き合うの(じゃ)!」」


 やっぱりロウドのこれからが心配になってきたわ。

 スレンを見るとあちらも心配そうな顔をしている。


「お互いがんばろ……」

「そうじゃな……」


 私たちはガックリ肩を落として意気消沈した。





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