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第6話「ロウドがいなくなった……?」

 朝日が昇ると共に起床。メイドたちが入ってきて部屋を軽く掃除する。その間に着替えを済ませ朝食が来るのを待つ。そして、運ばれてくる朝食を食べる。いつもと変わらぬ日常。

 ただ、一つだけ違うところがあった。


「なんで今日もロウドがいないのよ!」


 私はイライラして思わず大声を出してしまった。

 メイドたちがビクッとしておびえた表情をする。

 すると、一番偉いメイドが口を開いた。


「ロウド様は今日もございません。先週から一度も城へ帰ってきておりませんので」




 ちなみにこっちの世界でも時間は同じようだ。

 1年は365日だし、1ヶ月は大体30日で、1日は24時間だ。ついでに4年に一度のうるう年もある。

 なんか特別なものがあると期待した私が馬鹿だったのかな? 普通すぎてつまんない。

 まあ、空想だと思ってた生き物を見れた時はすごく興奮したけど。ドラゴンとか。火吹いてたな~。




 私は最近ロウドに会えなくてイライラしている。

 魔界のことも聞けないし、私を守るものがいないし、なにより……


「ロウドの顔が見れなくて寂しいし……」


 私はしゅんとうなだれる。誰が見ても分かる。いじけてるのよ。

 メイドたちの息を呑むのが分かる。なんかすごい迷惑かけてるな。


「あ、あの~。薫様……」

「よ~し! ロウドがいない分頑張るぞ!」


 私は周りに迷惑をかけるのが嫌なので、明るく振舞う。

 メイドたちはまた目を丸くしている。


 私はメイドに朝食を持って行かせるように指示を出し、一人になろうとした。

 でも部屋には一番偉いメイドが残っていた。


「どうしたの? もう行ってもいいわよ」


 私が適当にあしらおうとしてもメイドはまだ残っていた。


「私は『レディエス・メイド』の『ナイル・セール』と申します」


 なんか急に名乗られた。

 そういえばここに来てロウドとブラウン意外の者と喋ってないし名前も知らないわね。顔も良く見たことないわ。

 考えて見ると自分がどれだけ人見知りか分かった。あっちの世界では明るく振舞って人見知りとは程遠かったけど、本性なんてすぐに現れるのね。

 そう思い、ナイルの顔を見る。

 年は50ほどだろうか。厳しそうな姑みたいだ。あと、私の想像ではエルフかな?

 そう思うとつい吹いてしまった。


「? どうなさいました? 私の顔になにかついていますか?」

「い、いや。なんでもないわ、フフ」


 姑……ナイルはやれやれといった風に小さく笑った。

 よく分かんないけど場の雰囲気は和んだ。暇だし少し話すそうかな。


「ナイルでいいわよね?」

「薫様のお好きなように」

「それじゃナイルで。

 ロウドって本当に一度も城に帰ってきていないの?」


 それを言った瞬間場の雰囲気が重くなったのは言うまでもない。

 あ~、やっちゃったわ……

 ナイルは少し考えてから話しだした。


「はい、すべてをお話しますね。

 実はロウド様が2日城を空けるなんてことは今まで一度もありませんでした。

 それで私たちは町を探したりとしたのですが、どこにもいませんでした。

 考えられるのは、単騎でどこかの国へ攻めたか、連れ去られたかだと思います」

「単騎で突っ込む馬鹿じゃないからそれはないわね」

「はい、ですのでどこかの国へ連れ去られた可能性が高いと思われます」


 私たちは2人して考え込んでいた。

 しばらく部屋は沈黙に支配される。


 そして、私はその沈黙を破った。


「それじゃ、あのサヘランのスパイが怪しいわね」


 そういうとナイルは、あれ? と言った顔になった。


「え? なぜ知っているのですか? 薫様には話していないような気がしますが」


 そういえば聞いてないわね。

 まあ、いいわ。正直に答えましょうか。


「町を見に行った時、ちょうどスパイが捕まってたのよ。

 それで、どうする? 拷問する?」


 サラッとひどいこと言ったな、私。

 でも、ナイルは、う~ん、と考えた後、答えた。


「そうですね。ここで考えていても仕方ありません。やるだけやってみます」


 そう言ってナイルはお辞儀して部屋を出て行った。

 部屋に1人残された私。部屋に静寂が訪れる。


「とりあえずいつもどおり生活しようかな」


 そう呟き、私も部屋を出て行った。












『それでどうなの? ロウド様はどこへやったの?』

『いや、だから俺は何も知らなふび!』


 訓練所に行って城をブラブラしていたらすごい声を聞いてしまった。

 強固な鉄と思われるもので作られている扉の向こうからすごい怒声と悲声が聞こえてくる。

 おそらくナイルが拷問しているのだろう。声からしてもどんだけひどいことをやっているのか想像できる。


『さっさと吐きなよ! そうすれば楽になるわよ!』

『いや! 俺は本当に何も知らああああ!』


 今度はどっちかっていうと気持ちよさそうな声が聞こえてきた。

 …………この部屋ではいったい何が行われているの?

 変なことを考える前にその場を後にした。

 まさかナイルがそんなことしないわよね……?


『さあ! さあ! 吐きなさい!』

『ああ! もっと! 激しく!』


 ビシバシと鞭のような音も聞こえてきた気がするがこれ以上聞くとナイルの印象が悪くなる気がしたので聞かないようにした。








 特にやることがなく、部屋でのんびりしていると、扉が勢い良く開いた。

 そこには息を切らしたナイルの姿があった。もう年なんだから無理しちゃダメよ。


「薫様! ロウド様の居場所が分かりました!」

「え? あれで分かったの?」


 ロウドの居場所が分かった喜びより、あれで聞き出せたことにびっくりしてしまった。

 私は一旦落ち着き、聞きなおす。


「ロウドの居場所が分かったの?」

「はい! 実はあのスパイは本当に何も知らなくて無関係でした」


 一瞬すごく可哀想に思ったが、喜んでたことを思いだしむしろよかったねと思った。


「それでどこなの?」


 私はさっきまでとは打って変わって真剣に聞く。

 ナイルもその様子を察したのか、1回深呼吸をして落ち着いてから話し始めた。


「ロウド様は『ビカリス帝国』にいます。何をしているのか、されているのかは分かりませんが……」

「分かったわ。情報収集ありがとね。早速ビカリスに攻め入ろうかしら」


 私は重い口調でそう言い、立ち上がった。

 ロウドが今どうなっているのか分からないうちは、一刻も早く助けなきゃ。


 ここ1ヶ月くらいでアスカンタの兵たちも強くなっているはずだしね(発破かけたからね)

 それに万が一に備えて私も魔力レアルを溜めに溜めまくったし。

 それでもまだ腹5分くらいかしら。太らないかな……?

 私は自分のお腹を見て少し不安になった。

 だ、大丈夫よ。きっと……


 ふと、顔を上げると不思議そうにこちらを見ていたナイルと目があった。


「薫様は何をしているのですか?」


 なんか真面目に聞いてきたので困った。

 私はクスっと笑って歩き出した。


「なんでもないわ。それより早くビカリスに行きましょ。これが『魔王になった薫の魔界統括』第一歩よ!」

「…………そうですね」

「なに?! その苦笑い! もう!」


 ナイルと私は扉の奥へと消えてった。









 翌日。朝6時くらいに全兵士を城の前の広場に集めた。

 私は最初に演説? した場所に立っている。

 最初と同じように、声に魔力レアルを乗せて(今度は意図的に)兵士に叱咤激励する。


「我々はビカリス帝国へ攻め入る! 相手は魔界で一番の武力の持ち主だ。だが、お前たちはどうなんだ? 負けていていいのか?! この戦いに勝ち、我々が魔界NO1になろうではないか!」

「「「…………………………」」」


 あれ? おかしいな~。ちゃんと魔力レアル込めたはずなのに……

 もう、めちゃくちゃ恥ずかしいじゃない! 


「もういいわ! 行くわよ!」

「オオオオォォォォォ!!!!!!!!」

「なんでここでなのよ!」


 私の悲痛の叫びは兵士たちの大声疾呼たいせいしっこにかき消された。







「もう……なんなのよ……」

「そういじけずに」


 私は馬に乗ってからもずっといじけっぱなしだった。だって何言っても魔力レアルで大丈夫って思ったら失敗して大恥かいたんだもん。

 それをナイルは慰めようと頑張っている。


「そういえば薫様は馬に乗ったことがないのですか?」


 ナイルはどんどんネガティブになっていく私に話題を振ってきた。すごい頑張ってくれてるわ。私もいつまでもいじけてちゃだめね。


「うん。向こうでは馬なんて乗らなかったもの」


 ちなみに私はナイルと一緒に乗っている。私がナイルの後ろでナイルに抱きつく形で。

 私は一生懸命なナイルに免じて(全部私が勝ってにいじけていただけだが)機嫌を直すことにした。


「ねえ、この馬ってなんていうの?」


 ずっと気になっていたことなのだが、こちらの世界の馬はめちゃくちゃ強そうだ。

 脚なんてムキムキだし、とにかくでかい。乗るとゆうに3mは越す。まあ、この世界の者たち自体でかいのだが……

 あと、なんか1本頭から角が生えてる。黒いユニコーンみたいね。


「これは『カーファン』と言って非常に珍しい馬なんですよ。アスカンタでも、この1頭と精鋭の9頭しかいませんから。

 でもペルメスの住んでいる半島にカーファンの楽園というのがあり、何百頭ものカーファンが暮らしているという伝説があります。実際そんなにいたらすごい戦力になってしまいますよ」


 へぇ~、確かにすごく強そうだしね。


「他に乗れるのってないの?」

「馬はこれだけですが、一応空を移動する『バッファル』や、海を移動する『ソレスト』がいます。これらもペルメスの半島に楽園があるらしいです。

 どれも私たちの種族じゃ乗れませんが……

 ちなみにビカリスはバッファルを自在に操れます。私たちがカーファンを操るように」


 ん? なんかよくわかんなかったけど、空ってことは鳥かな? 海ってことは魚かな? 

 すごい名前ね。インパクト強すぎて覚えちゃったわ。


「あれ? じゃあいつもは全部歩きなの?」

「はい。でも、私たちの種族はすごく脚が速いし、持久力もあるんですよ。ですから、軍隊の移動なんかは、基本走りです」


 えぇ! と思うと同時に、こっちの世界(てか魔界)って基礎体力が段違いなのね、と感心した。


「今回は走らないの?」


 それを聞いて周りを見渡したが、誰も走っていない。


「え? あ、すいません忘れてました。それは薫様が命ずることです。今命じればすぐにでも走りますよ」


 へ~、そうなんだ。じゃあ、いっちょ走りますか!

 私は今度こそ声に魔力レアルを込め(声を大きくして)言った。


「全軍走れ!」


 私の掛け声で全軍走り始めた。

 お~! 今度は成功したわ!

 それに急なことに戸惑わず、すぐに命令どおり動けるなんてすごい統率力ね。日本並みの統率力だわ(多分)。ブラウンよくやったわね!

 私はこの光景を見て感動していた。


「この調子なら結構早くつきそうね」


 馬も結構な速さで走っているので風がすごい。声がかき消されそうだ。それよか、この速さで走ってる兵士って……


「はい。これなら結構速くつきますよ」


 その言葉の後に口を開くものはおらず、馬や人の足音だけが、平野に響き渡った。







 走り続けて山についたときにはもうすっかり日は落ち、真っ暗闇だった。

 私は「ここで陣を作って明日に備えて」と言ってブラウンにおまかせした。

 陣といっても雨を防ぐくらいの簡素なものだった。


 私はブラウンとその他の指揮官クラスの者を呼んだ。指揮官は全員で100人だ。

 ちなみに今回の兵士数は約100万。「そんな指揮官少ないと命令伝わらないでしょ!」と言ったが、「魔力レアルを使い、それぞれ1万人ほどにテレパチア(テレパシー)が使えるので問題ありません」だそうだ。すごいわね……

 そのとおり指揮官はいかにも強そうなオーラを放ってたわ。全員スリムなムキムキだったし。


「それじゃ明日の作戦について話すわよ」



 今夜指揮官を集めたのは明日の作戦を伝えるためである。

 まあ、作戦って言えるほどたいそうなものじゃないけどね。

 全員固唾を呑んで私の話を聞いている。


「まあ、そんなに固くならずにね。作戦って言えるか分からないくらい単純だから」


 そういうとみな、は? って顔になったが見逃してやろう。本当に、は? って内容だから。


「すっごい簡単だから。説明なんてものの10秒で終わるかもよ」

「前置きはいいのでお願いします」


 ブラウンに注意されちゃった。テヘペロ。

 軽く舌を出すと、みんなため息をつきやがった。このやろう!


「じゃあ、説明するわよ。

 20人の指揮官はそれぞれ1万人ずつ兵士連れて中央。

 あと、40人ずつに別れて左右から攻める。

 以上!」


 小学生でも思いつきそうな作戦ね。鼻で笑っちゃうわ。自分で作ったのに……

 これなら兵法の勉強でもしとくんだった。


 指揮官たちはしばらく呆けて、覚悟を決めたようだった。


「それじゃブラウンは私のとこにきて。後は話し合って決めといてね~」


 なんか投げやりになったが、今まで自分たちでやってきたのだ。なんとかなるわよね。

 私はそう思いながら近くにあった木にもたれかかった。

 ブラウンもちゃんとついてきている。


「よし、それじゃブラウンに1つ頼むわね。あの練習をした部隊とそれを回収する部隊を用意しといて。とうとう実践よ」


 私はそれだけ言って休憩場所へと戻って行った。


 私は、いつの間にか一緒にいたナイルに不安を打ち明ける。足音1つしなかったからびっくりしちゃった。


「作戦ってあんなのでもいいのかしら?」


 不安げに言うとナイルは優しく微笑み、


「大丈夫ですよ。自分と自分の国の兵士を信じてください」


 と、言って片手で握りこぶしを作った。







 そして、翌朝。決戦の日。




本当に俺大丈夫かな?

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