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第5話「町へ遊びに……じゃなくて勉強に行こう!」

「おはよう! ロウド」

「おはようございます、薫様」


 今日はいつになく上機嫌な起床だ。

 それもそのはず、今日は町へお出かけ……じゃなくて町の様子を見に行けるからだ。

 今までずっと城の中でHIKIKOMORIひきこもりな生活をしていたので体がうずうずしている。

 そのせいで、昨日興奮してなかなか眠れなかった。って私は遠足前日の幼稚園児か……

 

 ロウドが入ってまもなく、メイドが朝食を持ってくる。

 う~ん、いつもより匂いが香ばしく感じる。思わずよだれが溢れてきた。

 心が弾むと気持ちまで豊かになるのね。


 私は目をキラキラさせ、用意が終わるのを見ていた。

 そして、用意が終わると早速、


「いただきます」


 最低限のマナーとして(ていうか常識として)、叫んで言わなかったが、声もいくらかトーンが上がっているようだった。

 パクパクと、だが行儀良く食べている。

 こっちの食事のマナーは日本とほとんど同じなのですぐに覚えることが出来た。

 といっても一般家庭で言われるようなことばかりだったけどね。くちゃくちゃさせて食べないとか。


「今日は町へ行く日ですね」


 半分くらい食べたときにロウドがしゃべりだした。

 私はぶんぶんと頭を縦に振る。肩甲骨のあたりまで伸びた髪がボサボサになる。

 その無邪気な子供のような私を見て、ロウドは苦笑し、くしで髪をといてくれた。

 その手つきはガラスでも扱うかのように慎重でいて優しい。


 ロウドはくしをしまい、一歩下がるとニコッと笑みを作り一言。


「薫様は、魔王の前に女性です。身だしなみはキチンとしなければいけませんよ」


 私は紅葉した頬を隠すように下を向く。

 最近ロウドがちょくちょくひっかかるようなことを言ってくる。

 それに毎回反応してしまう私もあれなんだが……


 ロウドはまた無表情になると話し始めた。


「それで、今日のことなんですが、町へ行きます。しかし、危険はいつどこからやってくるか分かりません。なるべく危険を回避するために‘変装’して行きましょう」

「分かったわ。それで、どうやって変装するの?」


 内心私は、魔法で姿を変えれたりするのでは?! とわくわくしていた。

 

「え? 普通に服を庶民と同じ物にしたり、顔を隠したりするだけですよ」


 やっぱりそうだよね~。分かってたわよ。

 ちょっとがっかりしながら私は朝ご飯を食べ終えた。




 



 私は今、鏡の前にいる。鏡と言ってもすごく綺麗な石が鏡のようになっているだけだが。

 そこに灰色の布で作られたローブを身にまとい、フードを深くかぶった私がいた。


 そう、今は町に行くために服装チェックをしているのだ。出来るだけ町の人たちにまぎれてもおかしくないように。

 服はロウドが選んで持ってくる。

 最初、服を持ってきたときずっと部屋にいたものだから「出てってよ」と言ったら「薫様をお一人にするなんてとんでもない! 誰かが見ていなければ!」とほざいた。

 「メイドでいいじゃない」って言ったらめっちゃ残念そうな顔をして出て行った。

 だってあの目は完全にアッチのことを考えていたもの。意外だったわ。


 そして、今は着替えも終わりロウドやメイドに町に出てもおかしくないかチェックを受けている。


「ちょっと地味すぎない?」


 私は自分の来てる服を見ながら、不満そうに言った。

 だが、みんなそれには無視で、私を上から下まで舐めまわすように見ていた。特にロウド。

 すると一人のメイドがぼそりと呟いた。


「ちょっと胸のあたりが浮き出てますね。ローブなのに……チッ」

「ちょっと今誰か舌打ちした?!」

「はい、すいません。その胸邪魔なんで切り落としましょうか?」

「……止めてください。全力で謝ります」


 メイドさんの笑顔が私の背筋を凍らせた。末恐ろしい……

 とりあえずもうワンサイズ大きいローブをロウドに持ってきてもらい、それにすることになった。

 ちなみに着替え中、ロウドが覗いていたので火球アピ・スペーラを放とうとしたら尻尾巻いて逃げてった。あんなキャラだっけ?

 

 


 



「わぁ~! すごいわね!」


 町は、たくさんの種族が行きかい、出店がズラーっと並んでいる。

 日本では軍隊で訓練ばかり受けていて、こういう場に来ることは滅多になかったので心が躍る。


「今年は豊作だったので市場も賑わっていますね」


 私が歩いているすぐ後ろを着いて来ているのはロウドだ。

 ロウドはイエローハットをかぶり、黄色いTシャツのようなものに、青いジーパン? を履いている。

 正直かなりダサい……

 てか、町の人はみんなロウドみたい? にラフな格好をしている人ばかりだ。


「ねえ、私思ったんだけどね……逆に目だってない?」


 私は歩くのを止め、前を向いたまま言った。

 顔がピクピク引きつっているのが分かる。声にもすこし怒気が混ざっていた。

 ロウドはいつものようにニコっと笑い、


「はい、そうですね」

 

 めっちゃ爽やかに言ってのけた。

 その僕はなにも悪くないですよ、みたいに爽やかに言ってきたもんだから少し怒る。

 

「おいゴルァ! なにやらかせとんじゃわれ!」


 下から睨みつけるようにロウドの顔を見る。

 ロウドは眉一つ動かさず私の耳元でささやいた。


「……薫様、周りの視線が痛いです。早く去りましょう」

「え? あ……」


 チラッと周りを見るとみんなこちらを見ていた。

 あらら、目立たないようにしてたのに……

 こうなったら仕方ない。


「裏路地にでも逃げるわよ」

「はい、分かりました」


 私たちはみんなの痛いほど強い視線を受けながら裏路地へと逃げて行った。





 



 私たちは裏路地へ逃げてきて、ブラブラと適当に歩いていた。

 裏路地は人が少なく、表通りのような賑やかさもない。真反対だ。

 だが、ここなら人も少ないしフードをとってもいいだろう。

 そう思って、暑苦しいフードを脱ごうと手をかけたとき、


「薫様、いけません。ここは裏路地ですよ。表通りよりも厳重に注意して進まなければいけません」

「ここって治安が悪いの?」


 もしかしたら襲ってくるかもしれないなんて治安が悪い証拠だ。


「はい……魔王がいなくなり、その間に悪党がこういうところに巣食ってしまったのです」


 なるほど、確かに危ないわね。

 でも……


「でも、ロウドがいれば安心よね!」


 私は満面の笑みでロウドに言った。フードのせいで顔は見えなかったと思うが……

 それに対してロウドは、


「無理です」


 キッパリ言った。


「は? そこは『はい、必ず私が守ってあげます』とかでしょ!」


 言っといてなんだが、恥ずかしいわね。

 こんなことを求めてたってまるわかりだし。


「はい、分かりました。

 必ず守ってあげますよ」

「棒読みやめい! もう!」


 私は怒ってドスドスと歩きだした。


「あ、薫様!」

「なによ!」


 私は怒り心頭で聞く耳を持っていない。


「がに股ははしたないですよ」

「うるさい!」


 持ってたわね。聞く耳。

 私はがに股を直してまた歩く。

 周りに人がいなくてラッキーだったわ。








 しばらく歩いてそろそろ表通りに出てもいいかなと思った時だ。道端で10歳くらいの少女? が座りこんでいた。

 私と同じようにフードをかぶっていて、あまり顔は見えなかったが、なんとなく少女だと思った。。

 私はその子に近づいていって話しかけた。


「どうしたの? お父さんとお母さんは?」


 その子はゆっくりと顔を上げた。その時顔を思いっきり見られたが、まあいいわよね。

 その子は思ったとおり少女で、10歳くらいの顔立ちをしていた。こういうのなら私の目は信じられるわね。

 私はてっきり泣いてるものと思っていたが、ケロッとしていた。

 少女は私を見上げて口を開いた。


「道がわからなくなったのじゃ」


 私は思わず笑いそうになってしまった。

 こんな可愛い少女が語尾に『じゃ』なんて珍しすぎるわよ。

 今時おじいちゃんでも言わないよ。


 私は可愛いなと思い、ニコニコしたまま話した。


「家はどこにあるのか分かる? そこまで連れて行ってあげるわよ」


 少女の目はパーッと明るくなり、


「本当か? それは助かるのぅ!」


 と、言って立ち上がった。

 その拍子にフードが外れた。

 少女は慌ててフードをかぶったが、私は見えた。


 ……猫の耳が。

 やばい! 可愛すぎてキュンキュンしてきた! 

 そんな私の後ろでロウドが、


「……もしや……」


 なんて呟いていたけど気にしない~! 今はこの子で頭がいっぱい。

 こんな可愛い子はやっぱり放っておけないわね。


「ロウド! この子を無事に家まで送って上げなさい」


 私はロウドをビシッと指差した。


「え? でも、このお方は……」


 それに対してロウドはなぜか嫌そうにしていた。珍しく少し慌ててるようにも見えた。


「つべこべ言わずに行きなさい!」


 私はそれを制するように上から言った。

 身長の関係で私は見上げてるのだけれど……

 

 すると、ロウドは少し考えた後、


「わかりました」


 とだけ言ってその子を連れてどこかへ行ってしまった。

 それにしても、


「可愛かったな~」


 私はあの猫耳姿を思い出し、恍惚になっていた。

 あれほど猫耳が似合う少女はいないんじゃないかな?

 目がクリクリしてて、まさに童顔って感じで。

 私はなにかいけないものに目覚めそうなほどに発狂していた。

  

 しばらく悶えて落ち着いて来たころに思った。


「ここって危ないのよね……?」


 こんな人通りが少なくて、拉致しやすいところにこんなボンキュッボン超絶美女|(自称)が歩いてたら危ないことになるのは目に見えてるわね。

 そう思うと額に冷や汗が出てきた。

 

「よし、そうとなれば……」


 私は出来るだけ目立たないようにして表通りへと帰って行った。







(これからどうしようかな~)


 私はキョロキョロして歩きながらのんきにそんなことを考えていた。

 一応周囲を警戒はしているのだが、これじゃダメな気がする。敵はいつどこから来るのかわからないのだ。


 とはいうものの、いろんな店があってあれもこれもと目移りする。

 レストランらしきところ、とれたての食品が売られているところ、さらには武具や防具など装備品の店まであった。

 食事や食品にも興味はあったが、やっぱりこの世界の装備が一番気になった。スキルみたいなのもあるのかな?

 とりあえず私は近くの店へと入った。


「いらっしゃい! おや? あんたは魔術師かい?」


 ガッチリした体型で髭を生やした男に、入るなり威勢の良い声で出迎えられたと思えば、すぐに魔術師だと見破られた。

 ってこんなローブ着てるなんて魔術師くらいしかいないわね。

 店は木で出来ていて、明かりは天井にランタンがつるされていた。

 

「はい。ちょっとどんなものが売っているのか気になりまして」


 なんとなく店の主人に私が何も知らないと思われるのが嫌で、ちょっと手馴れてる感を出した。

 主人は「そうか」と頷き「まあ、見てってくれ」と笑顔で言った。雰囲気的にもっと冷たいと思ってたけどそうでもないらしいわね。人を見た目で判断しちゃいかん! って何度も婆ちゃんに言われたことを忘れてたわ。

 

 私は言われたとおり店に並んでいる剣や胸当てなど見て回ることにする。

 剣は入り口右の壁にズラーっと並べられており、胸当てなどの防具は左に一式セットで飾られていた。

 私は剣をまじまじと見てあまりの素晴らしさに触りたくなり、


「触ってもいいですか?」


 と聞くと主人は、


「もちろんいいぜ。ただ、壊さないでくれよ」


 と苦笑混じりに笑って承諾してくれた。

 私はそっと剣を手にとり、その重さに驚いた。


(か、軽い!)


 てっきり鉄や鋼で出来ていると思っていたので重さの違いにびっくりした。

 それでもこの剣はなんでも切れそうなオーラを放っている。


「お、あんたいいの選ぶね。それはこの店の目玉商品だよ」

 

 主人はそう言って笑いながら、


「だけど、魔術師のあんたには関係ないか」


 と言った。

 

「これはなにで出来ているの?」


 そう問うと主人は、


「いやいや普通の鉱石で出来ているぜ」


 その普通が分からないのだが……

 まあ、後でロウドに聞けばいいか、と思い店を後にする。

 おっとその前に、


「また今度来るからカッコイイ杖用意しといてね」


 私はニコッと微笑み、そう言うと、


「ああ、分かった」


 と主人が答えた。

 それで、私は主人に軽く手を振って店を後にした。








 店を出ると人だかり(魔だかり?)が出来ていた。

 何があったんだろう?

 そう思い、私は後ろの方にいる民に声をかけた。


「ねぇねぇ、なにがあったの?」


 私が声をかけた男は振り返り、え? っといった顔で見てきた。


「あんた知らないのかい? 最近サヘランのスパイが潜んでるって噂があっただろ? そのせいで安心して外に出られなかったんだがよ、そのスパイがとうとう捕まったんだよ」

「え? そんなことがあったの?」 

 

 全く聞いていなかったことに思わず固まる。

 なんでまたスパイなんか……平和主義じゃないの?

 

「まあ、こうして捕まったわけだしこれからは安心して外を歩けるな」

 

 男はそう言うとまた人だかりの中を覗いた。


(う~ん、スパイか……)


 私はどうしようか迷っていたものの、スパイは城へ運ばれるようなので後で考えることにした。


(なんか急に遊ぶ気がなくなったな~……帰ろっと)


 私は城へと向かって歩き始めた。





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