第3話「王国の名前? どうしよっかな~」
私の体から勢いよく発射された水の球は敵の放った火の球とぶつかる。
そして、互いに蒸発していき、やがて消えていった。
ふ~、危ない危ない。
と安堵したのもつかの間。向こうの軍勢がこちらに押し寄せてきた。
あら、いつの間にかこちらの軍勢は全滅じゃないの……
そう思っているとロウドが下からジャンプしてここまで来た|(多分)
そして、必死の形相で私に懇願して来た。
「薫様! やつらを止めてください!
今我らの精鋭部隊は遠征でいないのです!
薫様の力だけが頼りです!」
あ~、だからあんなに簡単にやられちゃったわけね。
それじゃあ、どうやって相手を倒しましょうかね。
そこにはなぜか冷静になっている私がいた。
いざ戦いになるとこういう風になるのか、私は。
「ねえ、ロウド。魔力ってどうやれば回復出来るの?」
今の私には魔力がほとんど残っていない。
もう一度扉に触れたが、もう魔力が流れてくる感じはなかった。
「え? あ、はい。
食べ物や飲み物を食べることで回復します」
「じゃあ、ありったけ用意して、今すぐに」
「はい、かしこまりました」
そう言うと、ロウドはその常人離れした脚力で扉のほうへと走っていった。
さて、どうやって全滅させようかな~。
私はあごに手をあてて、考えはじめた。
こうしている間にも敵の軍勢はどんどん迫ってきている。
敵の軍勢はおよそ10万と見た。あくまで目測だけどね。
応戦していたものがかなり減らしてくれたが、さすがに多いわね。
これだけの数を蹴散らす。しかも私一人で。
どうしたましょうか……
「薫様! 食料の、用意が、出来ました!
今すぐ、私一人で、持ってこれたのは、これだけ、です」
後ろから声がして振り向くとロウドが息も切れ切れで私を呼んでいた。
ロウドの後ろには私と変わらない位大きな豚のようなものの丸焼きがドンと置いてあった。大きくない?
「ありがと」
そうとだけ言って私は食べ始める。上品とか気にせずかぶりつく。もう敵が目の前まで来てるしね。
食べていると気づく。全然おなかがいっぱいにならない。これは魔力になっているからなのだろうか?
その証拠にどんどん体の底になにかが溜まってきている感じがする。
私はガツガツと飲み込むように食べていった。
そう考えていると、ものの10秒ほどで平らげてしまった。あの量を……私が……?
自分でも驚いている。
食べ終わったあとは、もう一度敵軍へ目を向ける。
ここら一帯は平野で障害物が町や村くらいしかないため、敵はまっすぐここまで走ってこれる。
今の敵と城の距離、およそ5km。すぐにここまで来てしまうわね。
ここは魔法で一気に蹴散らすか。
私は脚に魔力を集中させ、飛び降りた。あれ? 案外簡単に出来ちゃったわね。ロウドの顔が立たないわ。
ちなみ、下に降りた理由としては、狙いやすいからよ。
上から点で敵を狙うより線で狙ったほうが良いからね。
つまり、ヘリコプターから敵を狙撃するより、同じ地上から狙撃したほうがいいってこと。
私は地面に着地し、敵へ手のひらを向ける。
どでかい火球をぶつけたらいいかな?
私は先ほどと同じように手のひらに火の球をイメージした。
そして、どんどん魔力を込めてどんどん大きくしていく。
「はあ、はあ、はあ」
魔力を膨大に使っているためなのか、息がきれてきた。
魔力をほとんど使って出来た火球は城と同じくらい大きくなっていた。
……これ最強? 私最強?
だが、これを作るのに時間がかかってしまい、敵が1kmまで迫ってきていた。
が、この馬鹿でかい火球を見て足を止めた。
ここで私は気づいた。この大きさじゃ横幅が足りない……と。
どうしよう……
これ以上大きくすることも出来ないし……
その時ある案が閃いた。
薄く伸ばす事は出来ないのかしら?
そう思ったら実行あるのみ! ということで早速やってみた。
魔力の操作は案外簡単だった。
イメージで動かすとそのとおりに動く。私がいつも念力で物を持ち上げようとしてたことがこんなところで役に立つなんて。
そして、火球はどんどん薄くなり、紙一枚ほどまで薄くなった。
これでも十分横幅は広くなったが、まだ足りない。
今度はブーメランの形に整えていく。
円になっていた物を棒状にすることでもっと広くしようと考えた。
するとみるみるうちにブーメランのような形に変化していった。
……上手いこと出来たわ。ちょっと感激。
そして、それを発射……いや、少し腕を後ろに引いてぶん投げた。
「火炎刃!」
また、厨二病が……って今はどうでもいいか。
火炎刃はくの字のまま敵へと向かっていった。ものすごい速さだ。
1kmをものの2秒ほどで飛んでいった。は、速い……
呆気にとられていると、その速さに対応できまかった、ほとんどの敵兵の上半身と下半身が離れた。
「よし! あ……」
ガッツポーズをした瞬間その場に後ろから崩れた。魔力をほとんど使ったからかな。
でも、敵はほとんど倒した。退散するわよね。
だが、敵は退散するどころか、物怖じせずこっちへ走ってきた。
中には私に火球を飛ばしてきた魔術師までいる。
くそう。私はここで終わりなの? 早くない?
そう諦めかけていると馬の足音がしてきた。敵は全員馬なんて持っていないし……
すると、ロウドが私の前まで来て、またもや私をお姫様抱っこした。
「我が軍の精鋭が帰って着ました。もう大丈夫ですよ。城の中で待機しましょう」
優しく微笑むロウドを見て、私はコクリと頷いた。
そして、私は馬の足音と喧騒を聞きながら、ロウドの腕の中で眠りについた。
~~~~~~~
起きるとそこは最初にいた部屋のベッドだった。
窓からは朝日が見える。朝か……
私は何日寝ていたんだろう? 朝ということは1日以上は寝ているね。
ギュルルル~
物音一つしない部屋に腹の音が鳴り響いた。お腹減ったな~。
呆然と座っていると扉が開いた。ロウドだ。
「あ、お目覚めですか。魔王様」
「デジャブかよ!」
ここに来たときと全く同じ言葉に思わずつっこむ。
ロウドはクスクスと口を手で押さえて笑っている。
「魔王はやめてよね」
「承知しました」
「いちいち返事が変わるわね」
「特に意味はございません。
どうぞ朝食です。冷めないうちに」
そう言って後ろからメイドのような人たちが食べ物ののった食器と机と椅子を持って入ってきた。
全員髪をお団子縛りにしていて、質素な服の上にエプロンみたいなものしかつけていない。
あっちのメイドとは大違いなのね。
ベッドの前に木で作られた椅子、机が置かれ、食器も綺麗に並べられ食事の用意が出来た。
「どうぞお召し上がりください」
年配のメイドがきれいなお辞儀をしてそう言った。
それでは、早速いただきますか。
「では、いただきます!」
私は机にある、ナイフ、フォーク、箸のうち箸を手に取り食べ始める。
う~ん、どれも美味しそうだ。
どれを食べようか迷っていると、先ほどのメイドが食材の説明をしてきた。
「右手前にあります前菜はここらで採れる『ボヘオソウ』という……」
なんか面倒なので適当に聞き流す。
う~ん、よく分かんないけどおいし~い!
満面の笑みを浮かべご満悦していると扉がノックされた。
「少しお話したいのですが少々お時間よろしいでしょうか?」
「いいわよ、入ってらっしゃい」
男らしい声が扉の向こうから聞こえてきた。
別に断る理由もないので部屋へ通す。
「失礼します。私は精鋭部隊『トライアン』の隊長、オイガ・ブラウンと申します」
そう言って入ってきたのは、たくましい体つきをした身長190cmほどの大男だった。ロウドよりもでかいわね。
髪がボサボサで寝癖だらけだった。戦士はあまり気にしないのかな。
だけど、顔は目がキリッとしていて、無精髭を生やしているが、それすら似合うワイルドな顔立ちだった。
特に目は、獲物を狙うかのように鋭い眼光を光らせていた。
服装は、まさに騎士を思わせるようないかつい甲冑を身にまとい、隊長であることが一目瞭然である。
「ブラウンね。で、私になにか?」
なんか私偉そうだな。魔王になって気が強くなっているのかもね。自重しなきゃ。
ブラウンは特に気にした様子も無く話しだした。
「先日はわざわざ魔王様直々に戦場へ……」
「魔王は止めて。せめて薫様でおねがい」
これは毎回言わないといけないのかな?
後でロウドに呼び方の統一をお願いしよう。
「はい。それで、続きですが、魔王さ……薫様直々に戦場へ赴かせ、手を煩わしてしまい申し訳ありません。
本来ならばあそこは我々のみで対処するべきです。精鋭がいないとはいえ、訓練した兵士たちでした。なのに簡単に突破されて……
これは私の訓練が足りなかった責任です。申し訳ありませんでした」
「うん、いいよ」
「え?」
深々と頭を下げた次の瞬間、いいよ、と言われて顔だけ上がる。
私は食事をしながら続ける。
「だって相手20万以上に、こちらは5万程度しかいなかったししょうがないわよ。
そんなに戦力差があったのにあれだけ削れてすごいよ。
それに削ったおかげでなんとかなったし結果オーライってことで、ね」
私はなんて心が広いんだ! 最高ね。
そういうとブラウンは腑に落ちていないが渋々納得した。
だが、もう今回のようなことはしたくない。ということで、
「ただし、条件があるわ。
これからは、軍事をかなり強化しようと思うの。今回のようなことはもうしたくないしね。
だから、兵士を的確な指示で動かせる軍師や、訓練させれる人が欲しいの。
あなたはどう? どちらか出来そう?」
そういうとブラウンの目は輝いた。
「今度こそ精鋭でない正規兵でも他国の精鋭と肩を並べれるくらい強くしてみせます!」
「よし、そんじゃよろしくね。たまに私も口出しするかもしれないから」
「はい!」
ブラウンは元気良く返事をして「失礼しました」と部屋を出て行った。
見かけによらず素直な子供みたいで可愛いわね。
ちょうど食事も終わった。
やっぱり食事をとると元気が出るわね。だけど……
「全くたりない……」
腹の虫は治まったが魔力は全く回復していない。
あの時ロウドが持ってきた豚みたいなのは良かったわ。量は今とさして変わらないのに魔力の摂取量が桁違いだったもの。
どうしようか考えていると新たな食事が追加された。
どうやら先ほどのつぶやきが聞こえてたようだ。ごめんなさいね。
ここで食事をしながら、これからについて話していく。
「ねえ、ロウド。これから魔界を統括していこうと思うんだけど話し合いでは絶対統括出来ないところってある?」
扉の横で直立不動にたっているロウドに話しかける。
ロウドは相変わらず急なことでも驚いたりせずに話す。
「はい。どうでしょうか……ほとんど好戦的ですが、絶対となると『ビカリス帝国』ですね」
「ほとんど……それでビカリス帝国ってどこにあるの? そんなにやばいやつらなの?」
ほとんどの国が好戦的でその中でもトップに君臨するなんてよっぽどやばいのだろう。
てか、話し合いで解決する自信がなくなってきた……
「はい。ビカリス帝国はこの国のすぐ隣の真東にあります。距離にすると大体100kmほどでしょうか」
「近くな……い?」
100kmっていったら東京から富士山くらいの距離じゃない?
あの高い山々を越えたらビカリス帝国なんだ。
この前の襲撃もビカリス帝国なんじゃ……?
「彼らは、魔族の中でも戦闘能力に優れた種族でして、『獣魔種』といいます」
犬とか猫みたいな耳がついてるのかな? いや、ここはライオンとか。
それより、やっぱり部族ってあるんだ。いろんなのがありそうね。
なんかわくわくしてくるわね。
「戦闘能力に優れている反面、頭はあまり良くないので話し合いには応じないと思われます」
「了解。ならまずはそこを落としにいくわよ」
「え?」
私こう見えて意外に攻めが好きなの~。なんつって。
「だって戦力的にはそこが一番強いんでしょ?
じゃあ、そこを落とせば他の国は私たちに敵わないって思って話し合いが出来そうじゃない?」
「そうですか……確かにそうかもしれませんね」
ロウドは手をあごに当て深く考えている様子だ。
と、ここでまたもや食事が無くなった。
だが、魔力は全く増えている感じがしない……どんだけ底なしなんだ?
これも魔王になった特典か? ならついでに魔力満タンにしてくれりゃいいのに。
ちょっとロウドに聞いてみようか。
「ねえロウド。魔力って普通はどのくらいあるの?」
「どのくらいと申しますと?」
「例えば、今私が食べた食事。普通ならあれで魔力いっぱいになるの?」
「いいえ、あれだと多すぎて食べきれないと思います。
魔力が多い食材ばかり使ってますので」
それを二回も食べて、なお底が見えないって……私ってすごいのかも。
「ちなみに数値化されてないの?」
「されていますよ。普通の人の『レアルトル』は大体2000kcalです。
今の食事はおよそ3000kcalです」
レアルトルってのは魔力の総量のことかな?
なんか太りそうな気がしてきた……
「ロウドの魔力総量は?」
「私は10000kcalです。自分で言うのもなんですが、この国ではかなり上の方です」
じゃあ、それだけ食べても全く底が見えない私は何なのよ。
とにかく私の魔力総量は‘すごい!’ってことで納得した。
「ちなみにこの国の名前って何? ずっと『この国』って言ってたからわかんないわ」
「はい。薫様の国なので好きな名前で結構ですよ。
ちなみに前魔王がつけた名前は『デカヘ』です。
大きな放屁をしたときに思いついたそうです」
‘でか’い‘へ’だからか……って安易過ぎるわ! 私が言えるこっちゃないけど。
そうね~……
私は目をつぶり、腰に手を当て云々唸りながら考えている。
魔界だし、周りには敵だらけだからな~。威嚇出来るような強い名前がいいな~。
それにどうせならカッコイイのがいいな~。
あと、一回聞いたら忘れないようなドカンと来る名前がいいな~。
そうだ!
「『アスカンタ王国』! これはどう?」
「ほぉ……? まあ、いいですね」
ロウドはほぉ、と言った後、さわやかな笑みを浮かべ同意した。
この笑みを見るとなんだかうれしい気持ちになるな。
適当に考えたのだから、本当に思ってたのと大分(てか全く)違うけどなんとか国名は決まったわね。
「よし! 国名が決まったなら次は今後の目標よ!
今後の目標はビカリス帝国陥落!
この二つを国民に伝えてきて頂戴!」
「はい。了解しました」
そう言ってロウドはスタスタと歩いて行ってしまった。
私は今やる気に満ち溢れていた。
さぁて、これから忙しくなるわよ~!
…………とその前に、
「メイドさん、魔力が全く回復しそうにないの。
もっとたくさん持ってきてくれない?」
メイドは、え? といった顔をしたが、すぐに、
「分かりました」
と、言って部屋を出て行った。
腹が減っては戦は出来ぬ! っていうしね。
自分でも書いていることがわからなくなるときがあります。
「え? なにこれ? 俺頭大丈夫?」みたいに。