第2話「え? 魔法? 使えるの?!」
床も壁も天井もレンガらしきもので造られている廊下を黙々と歩く。ところどころに扉も見えるな。どこにつながってんだろう。
壁には一定の間隔で紫の蝋燭が置かれていて、お化け屋敷を思わせる雰囲気だ。
なんかそれっぽくなってきたじゃないの!
私は目を輝かせ、若干興奮気味になっている。
しばらく――と言っても、ものの30秒ほど――歩くと扉が現れた。
実際は普通にあったのだが、暗いせいで見えなくて現れたように見えただけだと思う。
てか、その前にこれ普通に壁だと思ったもん。
高さは床から天井まで(約5m)、横幅は壁から壁(約4m)。通路のギリギリまで大きくした扉はとてつもない存在感をかもし出していた。なんだろう、この感じ……体の底から沸々と……
「さあ、ここから先は薫様が先頭に立って行ってください。
私は後ろをついていきますので」
そう言ってロウドはささっと横へどいた。
そしてロウドは一言、
「民から、軍隊の者、大勢待っています。堂々たる魔王の姿をお見せください」
そういうともう一歩下がり、私が扉を開けるのを待っている。
おそらくこの先に行くと大勢の民の前に出るのだろう。
でた瞬間私が魔王として生きて行くことが決定付けられるだろう。
そこまで行ったらもう後戻りは出来ない。
私は少し考えた後、扉に手の平をつける。
体がどんどん熱くなって力がみなぎっていく。扉からなにかが流れている感じがする。
「どうせ、後戻り出来る道なんてないわよね」
そうつぶやき扉を開ける。
あんなにでかい扉なのに案外軽く開けれた。魔王になって物理的力ももらえたのかな?
徐々に大きくなっていく歓声。魔界ということもあり、光こそないものの、不思議な感覚に包まれた。まるでプロサッカー選手の入場のようだ。
そして、目の前に広がる光景は……
『うおおぉぉ! 新魔王様!』
『今度は女性ですわ! しかもお綺麗で』
『今度こそ勇者なんか返り討ちに!』
あたり一帯すべてこの国の民で埋め尽くされていた。
私は振り返り、自分のいる建物を見る。これはまさにド○クエに出てくる魔王の城そのものだった。
宮殿みたいな作りで、私は今、その城の王が演説すると思われる、一部の柵がある、出っ張っているところに立っていた。
そして、その回りに数え切れないほどの民がいる。10万やそこらではないだろう。中には戦士と思われる者が半数ほどいる。
みんな私を見ている。
緑色で耳が長く、背丈が小さいゴブリンと思わしき者、たくましい体つきをしたオーガと思わしき者、さらに空には様々な色のドラゴンと思われる者まで集まっていた。
そして、私はここに来て、この光景を見て、この大歓声を受けて、改めて気づいた。
『私は本当に魔王なのだ』
と。
『私がこの世界のトップなのだ』
と。
『私がこの世界を作っていくのだ』
と。
「薫様、みんな薫様の言葉を待っていますよ」
この大歓声の中、不意に後ろから声をかけられたのでビクッとした。
そうか、ロウドは後ろにいたんだった。すっかり忘れてたわ。
ロウドの言葉のとおり、しだいに先ほどまでの大歓声は嘘のようになくなり、静寂が訪れた。
私は何を話そうか困っていた。
『私が新しい魔王だ!』かな? 『勇者なんか返りうちにしてくれる!』かな?
こういうのは最初が肝心だものね。
そして頭の中で言葉を選び、心に響かせるように私はしゃべり始めた。
「私は新しき魔王、橘薫である。
これからこの世界を仕切る……いや、支配していく。
私は人間だ。でも、魔王でもある。
だから、私は魔王として生きて行く。
勇者なんて返り討ちにしてやる。
そのためにはみなの力も必要だ。
私に……ついてきてくれるな?」
うわ~……自分が人の前で話すことが苦手なのは知っていたけど、ここまでとは……
だけど、出来るだけ威厳たっぷりにしてしゃべったつもり……なんだけど……どうかな?
私は遠くを見ていた視線を民の方へと動かす。
だが、視線が民へと戻る直前……
『『『ウオォオオォォ!!!!!!』』』
空気が震える……いや、大地が震えるほどの雄たけびが魔界に響き渡った。
民はみな片手を挙げ、私に忠誠を誓ってくれたのだと思った。
異常に緊張して言葉がおかしかったと思ったが、大丈夫なようだ。
気分が良くなった私はガッツポーズをしようとする気持ちをグッとこらえ、塔の中へと入って行った。
私は扉を開き、中へ入った。後ろからロウドも入って来て扉を閉める。
そして、私はその場に内股で座りこんだ。
しゃべる前まではめっちゃ力がみなぎっていたのにしゃべり終わった後、急に疲労感が襲ってきた。
「フワ~……」
口に手をあてて、大きな欠伸を一つ。
眠気もしてきた。どうしたのかしら?
座りこんで目をこすっているとロウドがしゃべり始めた。
「すごかったですよ薫様。演説の内容はどうあれ、声に‘魔力を込めて’みなを取り込んだのは大変素晴らしかったです!」
「rearly?」
「魔力です」
そう言うロウドはとてもにこやかな笑顔をしていた。この笑顔はとんでもない武器だな。心がときめいちゃう!
私はこの笑顔を見て自分もいつの間にか笑っていることに気づいた。
ってそれより聞きたい事が山ほどあるわ。
「ねえ、声にれある? を込めたってどういうことなの?」
とりあえずさっきロウドが言ったことを聞いてみる。
ロウドは一瞬首をかしげて頭に?マークを浮かべた。だから、そのちょっとした仕草が女心にキュンってくるのよ。
「薫様は何も聞いていないのですか?」
「誰からよ」
「あっちの世界からこっちへ運んだ者です。知りませんか?」
「知らないわ」
あれって召還とかじゃなくて運ぶんだ。
「あの運び屋は安いし、なにより安全に運んでくれるからうれしい限りですよ」
安くて安全なんてア○さんマークの引越し屋みたいね。
「で、肝心のれありーのこと教えてよ」
「あ、はい。この世界では魔族も人間も魔力を持っています。圧倒的に魔族が多いですけど。
あ、たまに例外はいますが……」
ここの世界では人間も魔力を持っているんだ。
「それで?」
「大体みな、その魔力を体の一部に注ぎ込みいろんな特殊能力を持たせることが出来ます」
「ほぉ、例えばどんなの?」
「例を挙げますと、拳に魔力を集中させて、拳を硬化させ破壊力を上げたり、目に集中させ、遠くまで見えるようにしたりと様々です」
「へぇ~、ちなみに生まれつき何が出来るか決まってるの?」
「いいえ、その部位に魔力を注ぎ込むには鍛錬が必要であり、かなり長い時間をかけないとマスターすることは出来ません
逆に鍛錬をすればなんでも身につけることが出来ます。もっとも、才能もかかわってきますが」
なるほど。この世界はド○クエみたいに|レベルアップ(鍛錬)すれば強くなれるのね。
「ちなみにロウドは何が出来るの?」
「まだ極めてはいませんが、脚力を上げれるようにしています。
かれこれ10年はやっているのですが……なかなか厳しいです」
「10年?!」
一つをマスターするためにはどんだけ時間がかかるのよ……
あれ? でもそうなると私って……
「なんで声に魔力を乗せれたの?」
「薫様は特別な力をお持ちでした。
こちらの世界に来てそれが解放されただけです」
え! 本当に私は特別だったんだ!
あ、いや、信じてなかったわけじゃないけど……って誰に言い訳してんだか……
「どんな能力が解放されたの?」
「それは私たちにも分かりかねます。薫様の力ですので」
まあ、そりゃそうか。じゃあ、いいや。おいおい分かってくるわよね。
と、その時先ほどまでの歓声が消え、大きな地響きと共に爆発音が聞こえた。
「な、な、なに?! 何が起こったの?」
急な大きな音にうろたえる私。急なことが起きてもビクリともしなかったロウド。
「おそらく他国の侵略でしょう。今度は腕の立つ魔術師でも連れてきたのですか」
「え? 魔法なんて使えるの?」
それは聞いていない。魔力を集中させて体の一部を強化することしか知らないもの。
「はい。魔力を具現化するんです。
火をイメージして火球を作り出したり、先ほどのように爆発をイメージして空中に爆発を起こしたりと様々です。
ただ、こちらは体を強化よりも、もっと厳しい鍛錬しなければいけません。
もっとも才能も関係してきますが……
昔10歳くらいの子供が魔界に大地震を引き起こしました。ただ、それで魔力がきれたのか簡単に殺せましたけど、あれには正直恐怖を覚えました。人間の力は侮れないと」
これを聞いて私の頭の中は爆発のことを忘れて、魔法のことしか考えないようになってしまった。
年甲斐もなく心が躍る。いや、25歳なら大丈夫かな?
私は特別と言われたのだから魔法が使えるか試してみたくなった。
え~っと、火の球をイメージすればいいのかな?
意識を手のひらに集中させる。手のひらの上で火の球をイメージしながら。
ロウドは私が何をしようとしているのか察したようで少し距離をとった。暴走するかもしれないしね。
「ふぬぬぬぬ……」
集中していると手の上の空間が歪んできた。
と、次の瞬間火花が起こり、火の球が出来た。
最初は直径2cmほどだったが、もう少し魔力を注ぐイメージをすると更に大きくなった。厨二病のときの意味不明な妄想が役に立った。
「わあ! すごい!」
最終的には直径1mほどの火の球が完成した。
私は腕を限界まで伸ばして火に当たらないように注意する。
ロウドは目をひん剥いて驚きを隠せないようだった。私に特別な力があるって言ったのロウドじゃん。
とりあえずここで分かったのはイメージをするにはすごい集中力がいると言うこと。これは慣れれば大丈夫かな?
もう一つは魔力の注ぎ方が分かった。
魔力は血液を手のひらに集中させる感覚でいくとうまく出来る!
と、集中がきれると火の球はフッと消えた。これを飛ばすこととか出来ないのかな?
それより、外が騒がしい……って襲撃があったの忘れてた!
私は爆発はどうなったのか見るため、外に出ることにした。
立ち上がり、歩こうとする。
だが、歩こうとしても足が前に出ずにそのまま前のめりにベチャっと倒れた。
うぅ……痛い……
痛くて鼻をかいているとロウドが慌てて私に近寄ってきた。
「薫様! 大丈夫ですか?
あんなに魔力を使った後で動こうなんてしたらだめですよ」
なるほど、魔力は体を動かすエネルギーみたいなものなんだな。
だから魔力を使いすぎると体が動かなくなると。
すると、ロウドが私をお姫様抱っこをした。
「ちょ! な、なにやってんのよ!」
私は大声でロウドに言った。こんなの恥ずかしすぎる。
だが、ロウドは、
「ダメですよ。今の薫様は魔力がほぼ無くなっていて人形と同様なんですから」
と、言って私を降ろそうとはしなかった。
もう……
自分でも頬が少し熱くなっているのがわかった。
~~~~~
先ほどの扉から出て、外の景色を見てみる。
「なにこれ……」
民が魔王の城の付近で恐怖におののいている。
10kmほど遠くでは、同じ魔族同士が戦っていた。なぜ?
そして、そこには悲惨な光景が広がっていた。
おそらく爆発の被害であろう。大量の血で地面が赤くに塗られていた。
それが、戦いでの血しぶきでどんどん真っ赤に染まってきている。
なぜ見えるのかと思ったら、自然に目に魔力が集まっていた。残り少ない魔力が!
「なんで同じ魔族なのに、戦っているの?」
私は戸惑いを感じながら質問をした。
「最初に言いましたよね、『魔族を統括してほしい』、と。
その言葉のとおり魔族では魔王がいなくなり、元は一つであったこの国はいくつかの国に分かれてしまいました。
そして、それぞれの国が、我こそこの魔界を支配する、と戦争しているのです」
混乱中の私でも分かるようにロウドは説明してくれた。
ただ、説明しているときのロウドの顔には少し哀愁が漂っていた。
……あの前魔王のせいか……
それよりも民を避難させなくちゃいけないわ。
自衛隊でもまずは、民間人の命が大切って教わったもの! (確か)
「ロウド! 民を避難させるわ。とりあえず、城の中へ!」
「はい。かしこまりました」
そう言うとロウドは私を優しく降ろし、ここから飛び降りた。
……飛び降りた?
ここは城の上のほうだよ? 目測では下まで30m――10階建てのマンションくらい――あるのに……
私は匍匐前進のように両方の肘と膝で、体を柵のところまで持っていった。
そして、柵の間から下を覗く。
ロウドの脚の周りに白いふよふよしたものがものがまとっていた。
へぇ、あれが魔力を体の一部にまとわせるとできるんだ。
それより、あのマントのひらひら気にならないのかな?
下の民は、上から誰かが落ちてきたことに気づき、着地する場所を開けた。
ロウドはそこに着地する。フワリと着地した。カッコイイ……
そして、なにやら指示を出し民を城の中へと避難させている。
うん、頼もしくもあるわね。
でも、なんで最初から民は城の中に避難しなかったんだろう?
城に入ってはいけない、みたいな法律でもあるのかな?
そんなこと考えていると遠くから視線を感じた。しかもめちゃくちゃたくさん。
案の定、視線を向けると敵はこっちをガッチリ見ていた。
こちらの兵士であると思われる者たちは人数が減ってきている。突破されるのも時間の問題か。
と、思った矢先、一際目立つ、黄色のローブを着て、杖を持っている魔術師と思われる者が、私に杖を向けている。
ん? まさかそこから攻撃するつもりじゃ……
次の瞬間、杖の先にその者の倍はある火の球を作り出し、私目掛けて発射した。
あ、やっぱり発射出来るんだ。
なんて考えている場合じゃない。どうしよう。
球はかなり速く、着弾するまで20秒ほど……いや、もっと短いかもしれない。
私が慌てているとロウドがこれに気づいたようで、
「扉に触れてください! そして、水の球を作ってぶつけてください!」
と、叫んだ。
私は持っている力を振り絞り、扉まで這った。
そして、扉に触れる。
すると、どんどん力がみなぎってくる。
血が流れてくる感覚がする。
なるほど、あの不思議な感覚は魔力が扉から体に流れていたのか。
力が戻った私は立ち上がり振り替える。
すると、火の球はもう目の前まで来ていた。
私は手のひらを火の球へ向け、急いで直径2mほどの水の球を作り、発射しようとする。
その時、どうやったら発射出来るのだろう、と思ったが自然とどうすればいいのか浮かんできた。
そして、そのとおり魔力を噴出するイメージで水の球を発射する。
う~ん、なんか言ったらカッコイイよね。そうだ!
「水球!」
厨二病再発……
なんか書いてて恥ずかしい気持ちになりました(〃∇〃)
本当にあんなこと言ったら恥ずかしくて気功派撃てる気がします(自分でも何言ってるか分かりません)