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第1話「ここが魔界なの? 急に受け入れられるか!」

 柔らかく、暖かい朝日を浴びて気持ちがいい。……朝日?

 寮の窓とカーテンはちゃんと閉めたはずだし、鈴は私より、絶対遅く起きるから開けることはないわよね。

 ということは……泥棒?!

 

 私は跳ね起きて周りを見渡す。

 私の勝負の黒レースのおパンティーは無事?! 私のEカップのブラジャーは?!

 そこで大きなことに気づいた。


「…………ここどこ?」


 私はちゃんと寮にある普通の二段ベッドの下の段に座っていた。

 

 だけど、今いるこの空間が違う。場所が違う。

 いうならば、王宮の中にある、王のための部屋。

 馬鹿でかい部屋の真ん中にポツンと二段ベッドがあり、

 天井には、むちゃくちゃでかいシャンデリアが飾られていて、

 壁は見るからに高級そうな壁紙が使われ、

 床の絨毯じゅうたんも高級感丸出しだ。


 そして、一つある窓の外には朝日が昇っているといるのにどんよりとした風景があった。

 なんかドラゴンっぽいのも見える。……マジで?


 そこで私は気づいた。

 そうか分かったぞ。ここは……


「魔界だわ。私はとうとう魔界に呼び出されたのね!」


 私はテンションがいきなりMAXまで上がり、大声で叫んだ。

 あの噂は本当だったんだ!

 何十年に一度、魔界とつながるってのは本当だったんだ!

 

 夢だと思うところを本当に呼び出されたと思うところが私らしい。

 ちょっと頬をつねってみたが、ちゃんと痛かった。夢ではないらしい。

 

 そのとき、扉の向こうから足音が近づいてきた。

 大声を出したから遠くまで聞こえちゃったのかな。

 誰が来るのか、何をするのかといろいろ不安になりながら足音が近づいてくるのを聞いていた。


 そして扉が勢いよく開く。

 そこには走ってきたのか、服装が少乱れた、吸血鬼らしき人物が立っていた。

 犬歯が長く、漆黒のスーツにマントを羽織っている。

 しかも意外に爽やか系イケメンときた。私好み~!


 吸血鬼は乱れた服装を整え、まずお辞儀をしてこう言った。


「お目覚めですか、‘魔王様’」

「……ん? もう一回言って」


 なんかさりげなくすごいワードが聞こえた気が……


「はい。お目覚めですか、‘魔王様’」

「もう一回」


 聞こえてるけどもう一度聞いておく。なんか現実味が沸かない。まあ、もう一度聞いても現実味が沸くってわけじゃないけどね。

 

「はい。お目覚めですか、‘魔王様’」

「……きたー!」


 とうとう私の時代がきた!

 思わず胸の前で右手を思いっきりガッツポーズをする。

 女の子だというのに、はしたない…… 


「ほらね、私が言ったように魔界はあったんだよ!」


 私は興奮気味で二段ベッドの上の段にいるであろう鈴に話しかけた。

 だが、返事は一向に返って来ない。

 吸血鬼はえ? といった顔をしている。まるで一人でしゃべっている人を見るかのように。

 私はベッドから降りずに立ち上がり、上を覗く。


「鈴……あれ?」


 やっぱり鈴の姿はなかった。

 二段ベッドごとこっちに来たから、てっきり鈴も来ていると思っていたが違うのか。

 まあ、それは仕方ないことよね。私は選ばれたのだから!

 

 それより、私が魔王ということは……


「私が魔王に選ばれたってことはなにか特別な力があってのことよね?」

「はい、もちろんでございます。力がないただの人間を呼んでも足手まといにしかなりませんから」


 キャーーーーー! これはきた。もうめっちゃきてるわ! 

 ちなみにどんな能力があるのかな?

 私は目を閉じて自分の体に聞いてみる。

 こういうのは大抵体に聞けば分かるものね。

 こんなときにまで厨二病じゃなくていいのに。いや、こんなときだからいいのか?


「……? 魔王様、どうなさいました?」


 う~ん、なにも聞こえない。アニメはなんで分かるんだろう?

 諦めて吸血鬼に聞いてみる。私は諦めが肝心だと常々思っているのよ(言い訳)。


「ちなみに特別な力ってどんな力なの?」

「はい。魔王様は特別に……」

「やっぱり待って! 言わなくていいわ」


 聞いといてなんだが、途中できった。

 私が急に叫んだから、吸血鬼は目を見開き、少し驚いている。

 聞いたのにいきなり叫んで驚かしてごめんね。


 吸血鬼はすぐに平静を取り戻し、しゃべりだす。


「まあ、魔王様がそうおっしゃるならいいですが」

「自分のことくらい自分で知りたいもの」


 本当は窮地に追いやられて、その時力が発揮する! なんて夢見たいな場面が来ないかな~って思ってたりして。


「ところで話は変わりますが、魔王様……」

「ねえ、さっきから思っていたけど、その‘魔王様’ってのやめてちょうだい」


 魔王様って呼ばれるとなぜか虫唾が走る。

 まあ、敬われているようでいい気もするけど……


「ではなんとお呼びすればよろしいでしょうか?」

「そうね……」


 う~ん、そういわれればそうよね……普通でいいかな。


「薫さん、とか薫様、でいいわよ」

「かしこまりました、薫様」


 様をつけられるとちょっとこそばゆい感じがする。


「それで、なんか話したいことあった?」


 さっき、強制的に話をきったので元に戻す。

 なんか私|自己チュー(自己中心)みたいだな。


「あ、はい。魔王様……もとい薫様には、私たち魔族を統括してもらいたいのです」

「え?」


 って、そりゃそうよね。なにか使命があって呼ばれたんだもの。

 なんでも楽なことばかりじゃない! って私のおばあちゃんの友達の赤の他人の子供の友達のおじいちゃんが言ってた気がするとかしないとか。

 

「正確には、この魔族の支配している領域の管理をしてもらいたいわけです」

「へぇ~。いいんじゃない? 別に」


 よく分かんないので適当にお茶を濁す。

 そういうごちゃごちゃしたこと嫌いです!

 私は楽に生きたいの! (さっきの言葉無視)


「政治、経済、軍事と様々なことをやってもらいますがいいのですか?」


 ん? ちょっと引っかかることがあるわね。


「軍事ってどこかと戦争でもするの?

 魔王だから戦争地帯に行けとか言われてもイヤよ」


 確かに自衛隊で体を鍛えてきたけど、ここは魔界だ。

 あっちの常識が通じるはずがないもの。

 突然火を吹いたり、銃がきかなかったり多分即効で死ねるもの。


「あ、大丈夫です。戦争地帯に行かれることはまずありません」

「よかった……」


 手を胸にあて、安堵する。

 

「ただ、勇者とかいう人間共のリーダー的なやつが薫様を倒そうとしてきますが……」

「え、ええ?!」


 そうか、常に魔王と勇者はセットなのね…… 

 しかも対立という形で。たまには仲良くしといてほしいわ。迷惑なんですけど~。


「そのために勇者が薫様のところまでたどり着けないよう、軍事をするわけです」


 なるほど。納得したわ。ようするに私が軍隊を作ったり、指揮をとって勇者をぶちのめせばいいわけね。

 軍事は得意だわ。一応自衛隊で兵士のまとめ方みたいなやつもやった(気がする)し!


「でも、それって上手くやらないと勇者が私と一対一で戦わないといけなくなるのよね?」

「はい、そのとおりでございます。

 あと、魔界は今、国が分裂しているのでそれを統括する際、話し合いをしますが、それに応じない場合も武力で黙らせます」


 ……軍事は特に頑張ろう。

 戦うなんて真っ平だ。

 こんなか弱い女性を戦わせるなんて人じゃない! (自衛隊:現役)


「ちなみに前の魔王は勇者にやられちゃったの?」

「いえ、前魔王様は

 『政治とかいろいろ面倒になっちった。テヘ。もう働きたくないんで探しちゃだめよ。キャピ』

 とのことで逃げられました」


 一体どんなやつなんだろう? 前の魔王は……

 息が合いそうだ。ぜひ会ってみたい。




「それはそうと、薫様が目覚めたのなら式典を挙げましょう。

 新たな魔王の誕生です!」


 吸血鬼は初めて声のボリュームを上げた。それに少しびびる私……

 私の反応に気づいたのか、吸血鬼はコホンと小さく咳払いをした。


 あ、忘れてた。今更だけど、


「あなた名前は?」

「あ、申しておりませんでしたか。

 私の名前は『ヴァイバー・ロウド』と申します」

「じゃあ、ロウド! でいいわよね?」

「薫様のお好きなように」


 そして、ロウドは『早速式典の用意をしてきます』と言って部屋を出て行ってしまった。

 部屋に静寂が訪れる。無音だ。正確には無音のときに聞こえるキーンと耳鳴りのようなものが聞こえる。

 

 ……暇になった。

 いや、なんかいろいろごちゃごちゃしすぎて考えたくなくなった、のかな。

 ここで厨二病なら『魔界を俺の力でまとめ上げる!』みたいなことを言いそうなのだが、私はそう思わない。

 私の厨二病はたいしたことなかったな……それは喜ぶべきとこか。


 とりあえず、部屋の中を探索しよっかな。にしても眠いな……体もすごくだるい。

 こっちに来たときになにか体に負荷がかかったのだろうか?

 

 それはさておき、よいしょとベッドから降りると、あっちの世界では体験したことのない感覚を味わった。

 絨毯だ。足がとても柔らかく、暖かいものに埋もれた。

 虎の毛皮とは比べ物にならない! (触ったことないけど)


 そして、シャンデリア。ベッドで影になっていたから、あまり光を受けなかった。

 だが、こうして出て見るととても神々しい光に体が包まれ、気持ちが安らぐ。

 まるで母に包み込まれているようだった。


 ん? 待って。ここ魔界でしょ?

 こういう光は苦手なんじゃないの?

 基本魔界ってのは薄暗くてジメジメした雰囲気だとばかり思っていたんだけど……

 まあ、いいわ。ほかのところを見てみましょ。


 扉と反対側には大きなベッドがドンと置いてあった。何人用だよ……。

 ベッドに近寄ってみる。


 歩いていてちょっとした発見をした。足跡が絨毯につかない。毛が長いと足跡がつくと思っていたが、これは弾力性? にも富んでいてすぐに元に戻るようだ。

 そんな豪華な絨毯が使われているのだから、ベッドはさぞ気持ちがいいだろう。

 私はベッドの前まで来ると手をついた。

 

「へ? うわ~……」


 ついた手はみるみるうちにベッドへ沈み込んだ。

 そして、手を抜くと少しずつ元に戻っていき、やがて最初と同じように戻った。


 これらって何で出来てるんだろう? 後で聞いてみようっと。


 そして部屋を見渡す。

 そういや、この部屋ってあまり家具みたいなの置いてないのね。


 すると、あるものが目に止まった。


「なんだろう、あの蝋燭ろうそく


 私は目を輝かせながら扉の両隣にある‘紫色’の蝋燭と火を見ていた。

 ようやくザ・魔界って感じのものが現れたわね。

 

 私はまた近づいていく。

 興味があるからか、さっきより早足で歩いている。


 私は紫色の蝋燭に近づいてまじまじと観察する。


「なにこれ? 全く見当もつかないわ」


 試しに息を吹きかけてみるが、火は消えるどころか揺れもしない。

 ただ、ずっとメラメラと燃えている。

 う~ん不思議よね。


 ちょっと手をかざしてみる。

 自然と体がその行動をした。よく分からないが、脳が勝手に判断した。

 蝋燭に手をかざす。


「あれ? 熱くない……」


 と思ったら火が私の手のひらに吸い込まれるように消えた。

 

「え? え、あ……ええ?!」


 私は自分の手のひらをガン見してた。もうめっちゃ。

 だって急に火が手のひらに吸い込まれたんだよ! 

 

 なんか信じられなかった私はもう一つの蝋燭の火にも手をかざした。

 やっぱり火は手のひらに吸い込まれるように消えた。

 

「え~!? なに?! なにが起こったの?!」


 ちょっと興奮しつつ、そうパニクっていると、扉が開いた。


「まお……薫様。式典の用意が出来ました。私について来てください」

「え? あ、はい」


 そういわれて、私は困惑したまま部屋を出た。

 わけの分からないことが多すぎる!

 なんか魔王になってるし(ちょっとうれしいけど)、魔界を統括しろとか言ってるし、蝋燭は変だし……

 これはかなり豪勢なおもてなしをされなきゃ許せないな。(一応許す)

 困惑しつつ、そう思いながらロウドの後をついていく。

 

 部屋を出るときに気づいたのだが、眠気が少しなくなっている(気がする)。

 体のだるさも先ほどより軽減されている(気がする)。

 ……一体なんなのよ?




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