第18話「なんで決闘なんて?!」
山々が連なるペルメス半島。
上空は魔女のスープのような不気味な色をした雲が渦巻き、ある一定の高度に生物を確認すると雷を落とす。
よって生物はある一定の高度よりも舌での生活を強いられている。
ペルメスの者たちも例外ではない。
彼らは低高度に生息しているわずかな食べ物をとったり、動物を狩ったりして暮らしている。
彼らはその高い身体能力でペルメス半島に生息している生物の中で頂点に君臨している。
その拳は岩を砕くほどに力強く、その蹴りは真空刃を生み出すほどに鋭い。
ペルメス半島にいる魔物たちは彼らを恐れ、逃げ回るような生活をするしかなかった。
そのようなペルメスの者が楽しみにしているのが‘決闘’。
自分より強いと思う者、まだ手合わせをしていない者などとなにかを賭けて決闘をする。
それは、彼らが戦闘民族であるが故に楽しみにしていること。
特に外から来た者への期待は大きい。
『どのような戦い方をするのか』『自分がもっと強くなれるような技はあるか』などと思いながら、村の全員は外から来た者との戦いを見る。
彼らは強さに貪欲なのだ。どれほど強くても足りない。
それはおそらく昔、自分たちの民族が巨大な相手に負けてしまったことが原因の1つであろう。
その強さの糧となるべく1人の女性が決闘場へと歩いていた。
左右は高くゴツゴツ山に挟まれ、岩陰には多くの魔物がギラギラとした目で獲物を狙っている。
見るからにすごく強そうなのになんで襲って来ないんだろう? こっちは私と村長と真面目そうなペルメスの3人しかいないのに。
あっちは確認できるやつだけで20は超えてる。すべてが狼のような風貌だ。
まあ、襲って来ないのは良いことだけど。
それにしても長いな~。結構歩いたわよ。
私は村長たちに案内されて、決闘場まで歩いている。
村長の家を出て分かったのだが、ここは‘過酷’だ。
木などの植物は一切生えておらず、平地などほとんど見当たらない。
土は水分を含んでおらず、すくうとサラサラと手から零れ落ちる。これじゃあ、作物を育てることも敵わないだろう。
それに上空にはあの変な色した雲でしょ。あれは本当にまずかった。
そんな環境で暮らしているペルメスの者たちは本当にすごいわ。
ってそんなことどうでもいいや。
とりあえず、勝ってロウドたち助けてもらって、同盟結んで帰ってゴンタウルを征服しないと。
ペルメスさえいれば100人力どころじゃないわね。
しばらく歩いて、ふと顔を上げると決闘場に到着していた。
半径10mほどの円の形で柵が置いてあり、周りには他のペルメスたちが所狭しと並んでいた。
おぉ……スレンちゃん並……いや、それ以上の者たちがこんなにたくさん……
ってよく周りを見たら、周辺だけじゃなくて山の方にもいるじゃない!
…………多分1万はいるんじゃない? あの強さが本当なら確かに1国くらい滅ぼせそうね。
あれ? 私ここから生きて帰れる?
確かペルメスは誇りが高いって言ってたから多分約束は守るはずよね。
その前に私村長さんに勝てるかな? この大人数の頂点なんでしょ? 不安になってきたわ~。
「よ~し! 観客も集まったことだし早速やろうぜ!」
村長こんなに子供っぽかったっけ?
あまりの急変っぷりに私は驚きを通り越して呆れていた。最近呆れるのが多いな。
そんな村長と私以外の護衛? をしていた者たちは決闘場の柵の外へと避難する。
あ~、そろそろ本当にやらないといけないのよね……だるいわ~。
ま、相手を動かせなくしたらいいのよね。さっさとやっちゃ……
「それでは始めようか! ルールは簡単。どちらかが死んだら終わりだ!」
「ちょっ! そんなこと聞いてな……」
言い終わる前にカーンとゴングのような音がして、ペルーは構えた。
全く、殺し合いなんて冗談じゃないわよ。こちとら死ぬなんて論外なんだから。
そんな私とは反対にペルーは笑顔で一直線に私に向かっていた。
目を『グッダー』して動体視力を強化していたから、ペルーの桁外れの速度にもついていけた。
私は瞬時に全身をより強化して迎え撃つ。
ペルーは私が迎え撃つ姿勢を見せると嬉しそうに笑う。殺されるかもしれないのにね。
私は万が一にも死ぬことはないわ。いつも私の周りには薄く透明な風魔法の『防壁』で覆っているのだから。
でも、今回は倒さないとダメだから少しは『ブースト』にも魔力を割かないと。
一瞬。一瞬でここまで考えた。私の頭はどうなったのかしら。この前までちょっとしたことで知恵熱出しそうだったのに。
って今はそんなことどうでもいいわ。もう目の前までペルーは来てる。
私はペルーの繰り出した右アッパーを上体を逸らして避け、ついでにカウンターでペルーの顔に1発お見舞いしてやった。
でも、驚くほどペルーの顔は硬く、こっちが痛むほどだった。
その硬さに一瞬怯むとペルーはその隙をつき左手で私のカウンターで放った右手をつかんだ。
次の瞬間私は遥か上空へ投げられていた。
身を捻って下を見る。決闘場が豆粒……とは言わないがりんごくらいの大きさほどになっている。
だが、そこにはペルーの姿がない。
瞬時に私は背後に無詠唱で土壁を作った。
案の定0コンマ何秒後に土壁はペルーの踵落としによって粉砕された。
全く冗談じゃないわ。今の壁だってナイルの本気の攻撃をいともたやすく受け止めたのよ。それを皹どころか粉砕って……
「はははははは! 面白いなカオルは! これが魔術というやつか!」
ペルーは珍しいものを見るような目で見てくる。その間も次の攻撃をしようとしているが。
私はそれを阻止するため温度を極限まで高めた火球を弾幕のように放った。ちなみに具体的には6000度。あ、これ当たったら死ぬわね。
さすがに、空中じゃ、身動きはとれな、いでしょ……
『さすが……』の『さ』の部分でペルーの姿が消えた。もちろん周りには足場になるようなものなんてない。
一瞬で過ぎ去った火球は一定の距離で消滅する。
それよりペルーは?! 少し現実から目を背けて動けないなんてほざいてたけど、もう認めざるを得ないわね。
ペルーは空中で移動した!
あ、私も風魔法でやればなんとかなりそうね。
でもあの早さで動くのは無理だわ。
さてどこに行ったのやら。
と見渡しているとペルーが下で私が落ちてくるのを待っていた。
あ、そういえば私って投げられて今は絶賛落下中だった。
私は空気のクッションを何個も作り、徐々に落下スピードを落としていく。
そして最後はふわりと優雅に着地する。
地面につくなりペルーは拍手で出迎えた。
「いや~! 本当に面白い物持ってるな! 俺も使いたいな~!」
お、なんだか食いついてきた。これはチャンスか?
「じゃあ、こうしま……」
「まあ、それはこの死闘が終わった後だな! よし!」
私の言葉を聞かず、ペルーは徐に私へ一直線に向かってきた。
今度は両手を前で交差させ、体を丸めている。さながら弾丸のようだ。
私はペルーの体当たりに備えるべく、重心を低くして受け止めようとする。確か突進とかは重心を低くすることが大事って聞いたような、ないような……
って考えてるとペルーは私へ体当たりをする。
くっ、重いわね。でもこれくらいじゃ負けてられないわ。
せっかく話し合いが出来そうなのに話を聞いてくれないのなら無理にでも押さえつけないと。
私は数10cmほど後退したがなんとかペルーの体当たりを受け止めることができた。
よし! 今だ!
「ペルー! 聞いて! 私は殺し合いはいやなの。だから試合にして。相手を戦闘不能にしたら勝ち。もちろん殺すのはダメよ」
とか言いながらさっき当たったら絶対死ぬような攻撃したけどね。
ペルーはそのとんがった耳をピクピクさせて話す。
「馬鹿を言うな! 最初はお前も殺すのに戸惑うような攻撃だったが、さっきは確実に俺を殺しにきてただろ!」
「うっ……」
それを言われると言い返せない。
つい、というかうっかり……ってそんなんじゃ許されないわよね。
ペルーはそう言うと弾かれるように私から離れた。
途端にペルーは尋常じゃないほどの殺気を放った。
あ~、これは『今まで手を抜いてたけど、本気出しちゃうぞ』宣言みたいなものね。
冗談じゃないわ。もうこの半島ごと消し去ろうかしら。あ、ロウドたちがいるか……
いろんな魔法覚えたけど、どれも私の魔力のせいで高威力になりすぎちゃうのが問題よね。やりすぎると死ぬし。
って余計なこと考えてると殺されるわ。
あれ? なんで私こんなに冷静なんだろう?
ちなみにこう考えている間にペルーは攻撃を開始していた。
さきほどとは比べ物にならないくらい、速くて重い。
かろうじて防御は出来るが、それ以上となると厳しい。
でも本当になんで冷静なんだ? 1発でもまともにくらったら逝けるような攻撃の嵐なのに。
ま、馬鹿だからそういうのは考えないようにしよう。ここで知恵熱とか大変なことになるしね。
私が考えるのを止めてペルーの無力化だけに意識を集中する。
多分肉弾戦は絶対無理ね。死なない程度の魔法で倒すか。
私がペルーをまっすぐ見ると私の変化を感じたのかペルーは止まった。
「やっとやる気になったか。目が据わったな」
私は動きの止まったペルーに掌を向ける。
「『防壁』」
私はペルーを鉄の箱のようなもので閉じ込めた。
このくらいはすぐ壊されるだろうから、すぐにもう1つ魔法を唱える。
「『閃光』」
おそらくあの箱の中はすさまじい光で満ちているだろう。
次の瞬間防壁の上の部分が壊され光が漏れる。
光は1秒ほどでおさまった。が、ペルーは出てくる様子がない。
ペルーはどうしたものか、なかなか出て来ない。その間に3秒が経った。たった3秒だが、その3秒が命取りになる(はず)。
とりあえず私は箱に向かって『土球』を放つ。もちろん加減はする(上手くいくかわからないけど)。
鉄の箱は無残にも粉々になりあたりに散らばる。
ペルーはと言うと。
「あれ?」
箱が砕けてその跡には何もいなかった。
血もないから多分脱出したんだろうけど、それなら私は気づいたはず。
キョロキョロと周りを見渡すがどこにもいない。
「上空か!」
そう叫んで上を見るがペルーはいない。
上を見た次の瞬間、下の地面が盛り上がってきた。
「……っ! 下なの?!」
そう言うと同時にペルーが飛び出し、私に蹴りを食らわせる。
「っかは!」
私は土が盛り上がったことで地面を離れてしまい、身動きがとれないままペルーの蹴りをわき腹にくらった。
私はそのまますごい勢いで地面と並行して飛んでいく。
柵に当たるほんの少し前で『緩衝』を使い、柵の前に落ちる。
うわ~、もろにくらったよ。これわき腹逝っちゃったかな?
私はすぐに『治療』を使って痛みを和らげる。完全にはなくならないのね。
私が立つと、ペルーは容赦なくこちらへ走ってきた。身を低くしてまるで弾丸のように一直線にこちらへ向かっている。
まともに動けないので私とペルーの間に土壁を幾重にも出現させる。
瞬く間に壁が壊されていくのが音で分かる。
でも、そのおかげでコンマ数秒は時間が稼げた。
私はすぐに魔法を唱えた。
「『火炎刃』」
土壁は目くらましとして出現させただけだ。時間稼ぎでもあるけど。
私はあの攻撃をくらって少しイラついたのかものすごい高威力で放った。
大きさはそこまで大きくないが、その分膨大な魔力がこもっている。
火炎刃は一瞬で壁をいくつも切り裂き……だが、途中で起動を上へ変えられて山の上部を切断した。山はこちらへ向かって落ちてきそうだったが、ペルメスが数人行ってそれの起動をずらした。あれ? 切ったのって山だよね?
そんな馬鹿みたいな強さを見せた数人よりも目の前で肩で息をしているペルーへと私の視線は注がれた。
安堵の表情をした、ペルーが両手をだらんと力なく下げて私を見ていた。その手からは血がポタポタと落ちていた。
だが、その表情はまるで怒ったお父さんから逃げ切ったような安心と嬉しさが混ざったような顔だった。
おそらくペルーは掌に精一杯魔力を注いで、火炎刃を受け止めて上へと弾いたんだろう。
でも、それでほぼ魔力を使い果たして動けない。
魔力とは生命エネルギーだ。それが尽きるというのは死を意味する。
ペルーは立っているのがやっとだろう。
と、かくいう私も魔力は底をつきそうなんだけどね。
いくら魔力があるからってあれだけ高威力の攻撃、高硬度の壁、高効果の回復を使えばなくなるわよね。
そういうことで私は徐に手を胸の谷間へと入れる。忘れてたけど私って胸あるのよね。正直戦いには邪魔なんだけど……
そこから取り出したのは小瓶だ。ロウドが前買ってきてくれた魔力の回復する不思議な飲み物。
私はそれを飲む。力が戻ってくるのを感じる。でも、いくら効果があるといっても小瓶。そこまでは回復しなかったわ。
さて、ペルーはどうするのかしら。ちょっと聞いてみる。
「ペルー! もうあなた魔力が底をつきそうでしょ?! まだやるなら死ぬわよ!」
「?! そうか…………なら最後の一瞬まで全力で戦うまでだな!」
「ちょ! 本当に死ぬわよ!」
ペルーが忠告を無視して両手を顔の前でクロスさせ、私に突撃してくる。
だが、それはさきほどまでの勢いがなく魔力を回復した私なら片手で止めれる。
片手で止めるとペルーはまだ戦うというふうに右足で蹴りを入れてきた。
それを私は止めていた手を押すことでペルーの体勢を崩し阻止した。
ふぅ、なんか戦闘民族にありがちな展開よね。強敵と戦うとき力の限り戦うってやつ。
確か、限界を超えて相手を倒すとか、急な覚醒で相手を倒すとかいろんなパターンがあるわね。……私って悪役設定?
とりあえず面倒になる前に私は終わらせることにする。
「ペルー、しばらく寝ててね」
「ぐふっ……」
私は体勢の崩れたペルーへ脳天チョップを食らわして気絶させる。
瀕死も同然のペルーは簡単に倒れた。
もうわけわかめですな( ̄Д ̄;)