第17話「ペルメスと会っちゃったわ」
さて、何から聞こうかしら。
私は縛られたままペルメスのお兄さん『ペルー』と向かい合っていた。
ちなみに私はベッドの上に乗せられている。もし襲い掛かってきたら消し炭よ!
ベッドはさすがにアスカンタとかに比べるほどのものじゃないけど、この毛皮のシーツ? は暖かくて気持ちがいい。
部屋は本当にただの寝室で、ベッド以外に特に目立つものはない。
部屋を見渡していたらペルーと目が合った。
相手も目が合うのを確認したら話しだした。
「トコロデココニキタホントウノモクテキハナンデスカ?」
ペルーはいたって真面目に聞いてきた。
いや……本当のって言われてもな~。本当に友達になりにきただけなんだけど……
とりあえず言ってみる。
「本当にあなたたちとお友達になりに来たのよ」
「ウソヲ……」
そう言いかけて止まった。
なんだろう? こういうのってだいたい目を見て真実を暴く! ってパターンよね。ま、本当だからこうして止まったのかな?
お兄さんはしばらく私の目を見るとハァとため息をついて俯いた。
「ところで私の仲間は? 私はどうやってここに来たの? 最初は牢屋っぽかったのになんでここに移ったの?」
すっかり忘れていた疑問を一気にぶつける。
本当になんで聞かなかったんだ?! ってレベルの質問よね……落ち着いていると思ったけど、実際テンパっていたのかな?
ペルーは顔を上げて私を見る。
「アナタノナカマハ、ワカラナイ。アナタハムラニオチテキタ」
「落ちてきた?!」
つまりあれか? 私は雷に打たれて山の奥の方に吹き飛ばされて、ちょうど落ちたのがペルメスの村ってこと?
……都合よすぎでしょ。
ま、細かいことはきにしな~い。それが私だもの。
「ま、いいわ。それで、私をこんな風に縛りあげて何をするつもりなのかしら?」
色っぽいポーズをとり、いかにも誘ってるように見せる。
「アー、チガイマス。ソウイウコトハシマセン。シバッテイルノハ、アバレタリシタラ、コマルカラデス」
「でも、魔法の存在を忘れてるんじゃない? こうすれば簡単に切れるわよ」
私は後ろを向いて手をペルーに見せる。
そして人差し指にライターほどの火を出してロープを焼ききる。ちょっと熱かったな。やけどしたのは回復魔法でちょいちょいと治す。
ペルーは「オオ!」と驚いていた。って驚いてたらダメじゃん。
「スゴイデスネ」
「で、私を助けてくれたわけよね?」
私は足のロープも焼ききりながら聞く。
「ハイ、ソウデス」
「目的は?」
「…………シンセツ、デハダメデスカ?」
聞いてくる時点でダメでしょ。
完全になにかあるわ。
「だめ。何を企んでるの?」
「タクランデ……?」
「何をしようとしているの?」
ちょっと小難しい言葉が出ると通じないわね。
子供に話しかけるくらいじゃないといけないかもね。
「なにを考えてたの~? 教えて欲しいな~」
あれ? なんか違う感じになっちゃった。
けど、伝わったのかペルーの目つきが変わった。
あれ? やっぱり違くない? なんか血に飢えた獣みたいなギラギラした目つきになってるよ?
ペルーは背筋を伸ばし、凛とした顔つきになって私を見た。
え? ちょっと、いきなりそんなことを……優しくしてね。
なんて1人芝居をしているとペルーが大声で言った。
「ワタシ、ペルーハ、カオルニケットウヲモウシコム!」
「はい?」
ちょっと唐突で分からないな~。
聞いてみましょう。
「えっと、なんで急に……いきなり決闘するの?」
「ワタシタチハ、ツヨイモノトタタカイタイ。タダソレダケダ」
なんて理由! さすが戦闘民族ね。しかも急によ! 話しの流れを感じなさいよ!
って言ってる場合じゃないわね。こんな化け物と1対1なんて絶対お断りだわ。命がいくつあっても足りないわ。
…………いや、待て私。さっきこの人魔法を見て驚いていたわね。
つまり魔法という概念がないんじゃ?
なら勝算はある(はず)。
「いいわよ。でも条件があるわ」
「イイダロウ。キコウ」
「それじゃあ、1つだけね。私が勝ったら私の国と同盟を結んでちょうだい。とりあえず私魔王で魔界を統括しなきゃいけないから」
ペルーは「トウカツ?」と首をかしげていたが、内容はわかったらしい。
「イイダロウ。ワタシニカッタラ、ソウシヨウ」
よし! そうと決まれば早速……
「ってペルーは村長の許しもないのに勝手に同盟を結ぶなんて約束していいの?」
すると、ペルーは、なにを言っているんだ? と顔をかしげて、
「ソンチョウハ、ワタシデス。ダカラダイジョウブ」
マジか……
獣魔族と同じなら、私はこの村で1番強い人と戦わないといけないの?
見た目でそこらへんの若造だと思ってたのがダメだったわね。人は見かけによらず。いい教訓になったわ。
まあ、諦めて作戦でも練りますか。
「デハサッソク……」
「ちょっと待って」
私はすぐにでも武器を持って戦おうとするペルーを止めた。いや、マジで危ない。
ペルーは焦らされた子供のように、なんでだよ、と講義の目を向けていた。
「私も雷に打たれて体が傷ついてるし、精神的疲労もちょっとやばいから‘休ませて’」
私は途中の意味が分からなくても、いいたいことが分かるように最後の「休ませて」を強調して言った。
ペルーは「アァ」と言って武器を置いた。セ、セーフ。
すると、ペルーは「スコシマッテ」と言って部屋を出て行った。
私がなんだろうと待っていると、なにか緑色の玉を持ってきた。いや、その緑色は体に悪いでしょ。
緑に少し黒が混ざったような色をしている玉を喜々として持ってくるペルーは何がしたいのだろう?
すると、ペルーは私の隣まできて緑色の玉を差し出した。
「……この怪しい物体を食べろと」
「ダイジョウブ。トテモヨクキクオクスリデス。コレデスグニキズハナオル」
いや、本当はもうすでに回復魔法で全快したんだけどね。
でも、怪しまれるとすぐに戦わないといけないと思ったので我慢して飲み込んだ。
まるで苦いお薬を飲む子供のようだと自分で思った。
「とりあえず体の傷はなくなったと思うわ」
「エ? ハヤイヨ」
なんか結構驚いていたが、すぐに思いだしたように言い始めた。
「デハ、スグニケットウのジュンビヲ……」
「私疲れたから寝るね。お休み~」
私は強引に話をうちきった。
掛け布団と思わしき毛皮に包まって寝たフリをする。
これでとりあえず明日まで延ばせたらな~。
「……ハァ。シカタガナイ。アキラメル」
しばらく黙った後ペルーは諦めて部屋を出て行った。あ、村長の部屋なのにごめんね。
てか、村長見た目では……って見た目で判断しちゃいけないわね。10歳くらいの女の子が皇帝なこともあるんだから。
そう考えている間に村長や他の者の足音や気配はなくなった。
あ~、こういうときに気配を察知する魔法とかあればいいのに……
魔法は基本攻撃系しかないのでそういう魔法がない。
ちなみに光はもともと相手の視界を奪うほどの強い光だったのを、最大限弱くして今のライトのようになっている。
まあ、それでも前の世界のLEDより明るいけどね。
「それはそうと、戦うって言ったって私どうすれば……」
忘れてたけど、魔力どうなったのかな。結構使った気がするんだけど……
もし戦いの途中でなくなったりしたら私には戦うすべはないわよ。
そう思ってどうやって魔力を回復させようか考えた。
「確かガイルは『周囲の物で魔力が宿っているものなら吸い取れる』って言ってたわよね……」
私はぶつぶつと1人言を言っている。
はたから見れば危ない人と思われるような単語を連発している。ま、前の世界ではだけどね。今の世界なら平気。
私は、周囲の物から魔力を吸い取れることを思い出して魔力が宿ってるっぽいものを探す。
う~ん、多分宝石とかありそうよね~。
そう思って部屋を探索してみる。勝手に部屋の中見てすいませ~ん。
私は立ち上がり部屋を物色する。
といっても本当に何もないわね。
って考えてみれば侵入者を1人にするんだからそういう金目のものは隠すなんて当然よね。
「チッ」
珍しく舌打ちしてベッドに寝転んだ。
まあ、魔力は出来るだけ節約して決闘で使いまくるか。
でも、決闘で勝ったとして他のペルメスの者に連続で戦いを挑まれたりしないだろうか? 村長の仇~! みたいな。
そうなると私に勝ち目はなくなるわね。
ってロウドたちはどうなったのかしら。基本大丈夫だと思ってたから気にしてなかったわ(本当は忘れてた)。
条件につけたしとこうかしら、『私の仲間を見つけて来てくれる』とか。
いや、いっそのこと仲間が見つかるまで決闘はしないとか。
でもそうすると…………
そうごちゃごちゃと考えているといつの間にか意識が途切れていた。
~~~~~~~~~~~
早朝、朝1番。日の出と共に部屋のドアを蹴破ってきた者がいる。
「カオル、ケットウダ!」
「お母さんあと5年……」
私はそういうともう1度毛皮に包まった。
日の出と共にだから多分時間は4,5時くらいじゃない? 早すぎるわよ。
いや、最近の生活がだらしなかっただけで、軍隊の時は朝からトレーニングしてたしな~。
よし! 起きよう!
そうは思いつつも体が動かない。
うわ~、体は完全に怠け者だよ……
「ソウカ、アトゴネンダナ。ワカッタ」
「そこで分かるんかい!」
なんと、あれだけいうことを聞かなかった体が条件反射のように起き上がったではないか。
私のお笑い魂なめんなよ! (そんなもの今までなかったけど)
ツッコミを入れるとペルーは目を輝かせ「アイツノイッタトオリニナッタ」と呟いていた。自分の言葉をしゃべれよ、そこは。
それより、もうペルーは完全武装でいつでも戦えますって主張しているようだった。
右手には身長と同じくらい大きな大斧。しかも刃の部分は両刃で両手を広げても届かないくらい大きかった。
そして、足や、胴には金色に輝く鎧を着ていた。頭にはなにもない。
銀色の髪をしてんだから鎧も銀にしときなさいよ。ま、これはこれであり……かな?
それはおいといて、どうしましょう。
別に今戦ってもいいけど、ロウドたちが心配だわ、馬鹿以外。
「ナラ、スグニタタカウゾ」
「ちょっと待って。もう1つだけ条件があるの」
ちょっとムッとしたが、話は聞いてくれるようだ。
「アマリタクサンジョウケンガアルト、オソイカカルゾ」
「大丈夫。私の仲間知らない? 大事な仲間なの」
「イヤ、シラナイナ。ソレデ、ナニヲシテホシイ?」
多分察しはついているだろうが、聞いてきた。
まあ、仲間のことをいえば察しはつくだろう。さっさと言おう。
「私の仲間を探してほしいの。あなたたちならここに住んでいるから地形とかわかるでしょ」
「ワカッタ。モシ、オマエガマケテモナカマダケハココカラカエシテヤル」
やった~! しかも私が負けても私の仲間‘だけ’は助けてくれる……え?
仲間‘だけ’ってことは私どうなるの?
まさか想像してた性奴隷ルート突入しちゃうの?!
…………これは絶対負けられない。
なんか1人で勝手に解釈して決意を固めたところにペルーの連れが口を出した。
「では、早速私たちの聖なる決闘場へと案内します」
「分かったわ……ってすごい流暢にしゃべるのね」
「いや、私たちもあなたたちと同じ言語なのですが……」
「え? 村長?」
村長を見ると舌を出して私を小馬鹿にしていた。
イラつくよりも呆れるわ。なぜに片言でしゃべってたの?
ご丁寧に難しい単語がでたら首をかしげる演技までして。全く理解不能だわ。
「遊んでたんだー」
だそうだ。
意外に村長ってお茶目なのかな?
いや、待てよ。最近待てよって心に言うの多いわね。
じゃなくて、ペルーは私を油断させるためにわざとやっていたのかしら?
片言なら、ペルメスが外と隔離されていると思うし、魔法に驚けばペルメスが魔法を使えないと思わせることが出来る。
あ、普段使わない頭を使ったから知恵熱出そう(そこまで使ってないはずなのに)。
でももうひと頑張り。
私を油断させた目的。それはなんだろう?
おそらく、決闘するためかな。戦闘大好きな者たちだし。
ってこんなこと普通は気づくことばかりだわ。私の馬鹿さ加減に落胆するわ。
「それじゃ、決闘場に行こうぜ」
村長が昨日の丁寧な姿勢を全く感じさせずにそう言って部屋を出て行った。
ペルーって見た目の年齢は違うのかな? あまりにも顔とか態度が子供らしくなっているし……
ていうか、村長=1番強いってのは合ってるのかな? 村の長だよ? 普通は1番年老いている人がやるんじゃ……もしかして、ああ見えて実はおじいちゃんだったりして……ないない。
まあ、とりあえず決闘で勝てば全部解決よね。かる~くコテンパンにしてこようかしら。
私は非常に軽く考えて決闘に臨んでいた。