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第14話「それじゃあ、帰りますか!」

 私たちは今ガイルの家へと向かっている。

 ついうっかりおいてきてしまったナイルを迎えに。

 あ~、なんであの子はいつも迷子になるのよ。子供か!

 私は心の中でちょっと逆切れ気味になりながら全力疾走している。

 

「薫様、そう怒らずに。気づかなかった私たちにも責任はあるわけですし……」


 私の表情から心情を察したのか、ロウドがなだめてくる。

 全く、本当に困った子だわ。

 ちなみにスレンちゃんは走るのが面倒になったのでアルフォの背中でおねんね中だ。ペルンと『遊んで』疲れたのね。スレンちゃんの寝顔は本当に女神だわ~。何回目だろ……

 さて、そろそろガイルの家に着くころかな。

 私はちょうど見えた1戸立てのまあまあな家の前で立ち止まった。


「ナイル~! いるんでしょ~!」

「は~い!」


 中から無邪気な可愛い子供のような返事が聞こえてくる。

 そして、1人の美女が現れる。


「え~っと…………誰ですか?」


 最近ナイルとあまりしゃべってなかったし、ろくに顔も見てなかったからか、ナイルの顔が思い出せない。

 いや、今目の前にいるのがナイルだとは思えないのだろう。

 だって最初に話して顔を見たときは50くらいの姑みたいな者だったのよ。ちなみにアスカンタでは珍しくエルフ。

 そして今目の前にいるのはどうみても20代後半の美女。

 

「何をおっしゃってるんですか薫様。私ですよ、ナ・イ・ルですよ」

「え~!」


 なんかこれにはみんな大分驚いている様子だった。

 だってあの50くらいの姑がいまや、20代後半くらいに若返ってしかも美女だ。

 顔の皺はなくなり、まさにピチピチ。

 髪はお団子結びにして、前の薄い緑色が、今は太陽に光を浴びてキラキラと光ってとても美しいエメラルドグリーンになっている。

 ……やっぱりありえない。


「あ、みなさんありえないって顔していますね」


 しかもなんか若い子って感じのしゃべり方しているし。


「私ってエルフじゃないですか。実はここの出身なんですよ。両親は2人とも冒険家で、私も連れて行ってもらっていたんですけど、ある日迷子になっちゃいまして。それでアスカンタに着いてなんとか食いつないでいたんですよ」


 いや、それよりもなんでそんなに若返ったのか……

 私が苦笑いしながら目で早く話せと訴えていると話しだした。


「それで、私は親のつてであいさつとか回っていたら、みんな私より年上なのにどう見ても若いんですね。なんで? って聞いたらエルフ独特の美容があるらしく、それをやってもらったらこうなりました」


 ナイルがニコニコととても嬉しそうな顔で言う。

 私って王様なのよね……? 

 王様ってメイドとかとこういう風にしゃべるっけ……?

 ま、堅苦しいのは嫌いだからいいけどね!

 それにナイルのこの笑顔を見れただけでもよしとしよう。おいていったことには特に怒ってないようだしね。


「ところでみなさんは今までどこに行っていたんですか? 急に家が静かになって……」

「それより! もうこの国は出て行くから荷物まとめましょ!」


 強引に話を終わらしてみんなに提案する。

 ロウドたちは全員聞くなりそさくさと自分の荷物をまとめにいった。

 さ~て、私もまとめてきましょうか。

 ナイルの横を素通りして……とはいかずナイルに腕をガシッと捕まれた。

 そして、首より下は全く動かず、顔だけがぐるっとこちらを向いた。

 怖い! 怖すぎるよナイル! 美形の者がやってるから余計に!


 かくして、私はナイルによる拷問をうけ(あのときの悲鳴が出るようなものではない)全部吐かされた。

 いや、実際捕まって首が動いて全部吐き出したんだけど、ちょっとナイルが怒っててね……

 私王よね? って疑問を持ちながら拷問を受けていた。








「あれ? 薫様どうかなさいました? ずいぶんと顔が赤いですよ」


 そして、ようやくナイルの拷問から解き放たれたときロウドたちがみんな外で待っていた。


「確かにのぅ。どれ……って熱! 薫、おぬし体もすごい熱を持っておるぞ。まるで『激しい』運動をした後のような」


 激しいの単語にビクッとしてしまった。いけないいけない、平常心。

 でも、正直まだ体の火照りはとれそうにないわ。

 ナイルったらすごく激しいもの……


「薫様の荷物も一緒にまとめておきましたから。もちろんナイルも」

「ありがと」

「ありがとうございます」


 私はお礼を言ってニコっと笑うのに対し、ナイルは両手を前で重ねて頭を深く下げた。きらびやかに光るお団子にした髪がまぶしい。

 あれ? なんか私よりロウドのほうが扱いがよくない? 私ロウドの主人よね? ナイルも私の従者よね?

 なんかフレンドリーになりすぎた気もするが、細かいことを気にしててもしょうがないわよね。幸いこの世界ってすごいゆるいし。無断で皇帝が旅に出るくらいだし。

 まあ、そんなことは後で話すとして……


「用意もしてくれたことだし、早速出発しましょうか」


 みんな頷いて一斉に歩きだす。

 今度はちゃんとナイルも着いてきている。ついでに影が薄くなってきたブラウンも。

 スレンちゃんはお昼寝を十分したからか、元気ハツラツだ。

 さ~て、次はどこに行こうかな!

 そんなことを考えながらサヘランを出るべく、城門へと歩いていった。









 目の前には高さ10m、幅10mほどの城門がそびえている。

 あ、あれを動かすのか……ま、スレンちゃんがいれば大丈夫よね。

 年下の子(しかも幼女)に力仕事を押し付けるのはちょっと罪悪感があったけど、今は大丈夫。

 すぐに思いだしたんだが、スレンちゃんは魔界1の身体能力を持つんだからこれくらい朝飯前よね。

 いや、そういう問題じゃないだろ、とか1人で心の中でツッコミんでいるとブラウンが前に出た。


「最近俺の出番がなさすぎなんでやらせてください」

「あ、うん。いいわよ」

 

 出番がなさすぎって、自分で言うのね。まあ、そのとおりだけど。

 私が許可を出すと「ありがとうございます」と言って1人前へ出た。

 ブラウンは城門に手をつくと魔力レアルを腕に集中し始めた。白いオーラのようなものが見えるわ。

 かなりの量の魔力レアルね。今までただ、私たちについてきたわけじゃないってことね。

 最初より魔力レアルの使い方が上手くなっているわ。





1分後


「すいません……」


 城門はうんともすんともいわず、諦めて帰ってきたブラウンはひどく落ち込んでいた。

 まあ、あれね。修行あるのみね。これからちょくちょく話を振ってあげるから。

 これを見ると私がどんだけ楽に魔力レアルを操れているか分かるわ。

 

「そんじゃ次は……」

「私に行かせてもらえませんか?」


 珍しくロウドが自分からやりたいと言ってきた。

 私はもちろんOKして今度はロウドが礼を言い、前へ出て行った。

 お~、ロウドの方が纏っている魔力レアルの量は大きいわね。さすがね。

 ロウドは城門に両手を着く。しっかりと腰を落として踏ん張りがきくようにしている。

 お~! なんか動きそうな‘雰囲気’だわ!




1分後


「すいません……」


 さっきのブラウンと全く同じように落ち込んだ様子で帰還です。

 全く……自信満々で行きながら、全く歯が立たずに帰るって恥ずかしいことこの上ないわ。

 ……なんか最近私って毒舌になってきている気がするわ。気のせいね。

 それにしてもこの2人はどうして急に自分がやるなんて言い出したのかしら? 出番が少ないから?

 それかただの男の意地みたいなものかしら? 力比べみたいな。

 そう考えているとナイルがとぼとぼ帰ってくるロウドを見て大きくため息をついた。


「ハァー、全く2人ともなにやっているんですか。私が手本を見せてあげますよ。いいですよね? 薫様」

「え? あ、ああいいわよ」


 もういいってこと前提なのね。

 ますます私、王なのか怪しくなってきたわ……

 まあ、それでもいいと言うと「ありがとうございます」とぺこりとお辞儀をしてから前へ出た。

 行く瞬間ナイルの目がキリッとしたものに変わった。

 次の瞬間ナイルの両腕が半端ない量のオーラが包み込んだ。

 みんな唖然としてオーラを見ている。

 オーラは片腕でナイル2人分ほどの大きさをし、灼熱の炎のようにメラメラと動いている。

 そして城門の前へ立って片手を出す。

 え? まさか片手で?

 予想は的中し、ナイルは可愛らしい声で「えい!」と言って城門を弾き飛ばした。

 

「ふ~、これですよ! このくらい楽にやらなければいけませんよ」


 ナイルはこちらへ向き直り、ブラウンとロウドを見て言った。

 なお、スレンちゃんは目を輝かせて「わらわもやるぞい!」と言ってどこかへ跳んでいってしまった。少しして何箇所からなにかが壊れる音がしたが私は知らない。

 アルフォは目を見開いて驚きはするも、すぐに平常心を保っている。

 ロウドはぶつぶつと「私だって蹴り開けるならばあれよりも派手に……」などと言っていたので無視する。

 ブラウンは素直に「すごい……」と感心していた。

 ペルンはニコニコしていて、おつきの者は頭を抱えて「修繕費が~!」と嘆いていた。

 …………ん?


「ってペルン! あんたなんでここにいんのよ?!」


 つい普通にあんたの様子まで観察しちゃったじゃない。

 てか、いつの間に……


「カオルが城を出た時から着いて行ってたよ」

「このストーカー!」


 私が条件反射で放った上魔法の『火炎槌(フローガー・メルテン)』でペルンは吹っ飛んでいった。

 いけない! あの気持ち悪い笑みを見てつい……

 私は上魔法の回復を施そうと近寄る。


「……………・」


 やっぱ止めた。

 この子火を纏った鎚に打たれたのになぜか幸せそうな顔をしてるもの。

 生粋のマゾね。

 ま、これはおつきの者がどうにかしてくれるでしょ。

 と、思ったがおつきの者は慌てるどころか眉1つ動かさず、「全く……」と言ってため息をついていた。

 日常茶飯事なの? 本当に全くだわ。

 

「ふふふ、これくらいで僕の愛が焼き尽くせると思うなよ」

「気持ち悪いわ!」


 背中にいも虫が這うようなおぞましい感覚に襲われた。

 そして、また『火炎鎚(フローガー・メルテン)』で吹き飛ばした。

 今度はサッと城門へ振り返って門をくぐる。

 

「さっさと行くわよ~」


 ロウドたちはクスッと笑って、頷いた。

 なんかいろいろ魔法も使えるようになったし、サヘランとも仲良くなれたし、万々歳ね。

 私たちはゆっくりとした足取りで歩を進めた。

 ちなみにスレンちゃんは城門の外で待っていた。まさか全部はかい……扉を開けてきたんじゃ……

 まあ、いいわ。それよりも『グレイル』を呼んでほしいわ。


「アルフォ、グレイル呼んで」

「かしこまりました」


 アルフォは指笛で甲高い音を出すと、しばらくしてグレイルが現れた。

 食事中だったのか、口にはでっかい豚のような魔物をくわえていた。もちろん3つの頭全部に1頭ずつ。

 グレイルは降り立つと豚をゴックンと丸呑みしてゲップした。ゲップって……


【もう帰るのか?】


 低く、貫禄のある声が聞こえてくる。 

 バッファルが知能が高くて人間の言葉を理解出来るらしい。話しているのはよく分かんない。テレパシー的な? 

 だって口が動いてるように見えるけど、絶対しゃべってる口じゃないもの。

 

「そうよ。やることやったしもう帰るわ」

【……………………】


 見事に無視を決め込んだ。

 焼き鳥にしてやろうか……これでも竜殺しの魔法も覚えたんだからね。

 

「まあ、いいわよ。それじゃみんな帰りましょ~」


 私は1番最初にグレイルの背に跳び乗った。

 やっぱりふかふかで気持ちがいい。

 このまま夢の世界へレッツゴーしたいわ。

 気持ちよくてもふもふしてたらみんな乗ってきた。

 ナイルはロウドにお姫様抱っこされて。

 むー、なんか気に入らないな……

 

「アルフォ早速出発よ」

「え? かしこまりました」


 なぜかアルフォは疑問符を浮かべたが、すぐに消した。どうしたのかしら……


「目標はアスカンタ! よろしくお願いしますグレイル」


 グレイルは「ギャアァァァ」と叫んで飛び立った。

 普通にしゃべらないのかよ!

 まあ、それよりこれで安心してストーカーに悩まされずに眠れるわ(まだストーカーから1日だけど)。

 それじゃ、眠りますか……


「私眠いから寝るね~……おやすみ~……」

「お休みなさいませ」


 ロウドがそう言って私は夢の中へ入っていった。

 入る直前に、「カオルの寝顔可愛い」なんて聞こえた気がしたけど、今は睡魔の方が先決だ。


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