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第9話「やっと出発?! 待ちくたびれたわ!」

 朝日が昇る少し前。空が白み始めたときに私は起床する。

 起床するとそれを待ってたかのようにメイドが部屋に入ってくる。

 メイドは私の着替えを手伝ったり、ベッドのシーツを変えたり、掃除をしたりと仕事は様々だ。

 メイドが入って少し後に私のおつきの物が入ってくる。そいつはいつも私がしっかり目を覚ましたときにやってくる。どうして分かるのか不思議だ。

 

「おはようございます。今朝食をお持ちいたします」

「おはよう。よろしくね」


 うん、いつもどおりの光景だ。

 いつもどおり…………


「ねえ、ロウド」

「はい、なんでしょうか? 薫様」


 私はさっきからまっすぐ前を見たまんま視線を動かしていない。

 声はなぜかいつもよりトーンが下がっている気がする。


「私たちの次の目的地ってどこだっけ?」

「朝食が用意出来ました。温かいうちにお召し上がりください」


 私が「待て!」と言おうとしたときには、もうすでに部屋を出た後だった。

 …………ロウドめぇ。露骨すぎるわよ! あのときは賛成したくせにとんだ卑怯者ね!


 


 私たちは最初に泊まった村で次の目的地が『サヘラン皇国』に決定した。

 しかし、ロウドたっての希望で一度城へ帰ることになった。

 なんでも「せめて着替えや、食料。武器など最低限のものくらい用意させてください」とのことなので許可した。

 だが、いざ帰ってくるとどうだ。ロウドらしくもなく、だらだらと引きずって一向に行く気配がない。

 それほどサヘランへ行きたくないのだろうか。なにか嫌な思い出があるとか?

 

 まあ、そんなことどうでもいい。

 私が行きたい行きたいと言い続けて1週間。もう我慢の限界だ。


「ははは! おぬしら本当に正規兵か? 弱いぞ!」

「「「もう動けないです……」」」


 ……早くしないとうちの兵士が全滅させられちゃうしね。


 スレンちゃんは、


「暇だからアスカンタの兵士を鍛えてくるのじゃ」 


 とか、言ってうちの兵士を片っ端から『遊んで』いった。

 

 とにかく、早く出発しないと被害が増えるばかりよ。

 今日こそは出発するわ! 準備出来ていなくても勝手に行くからね!

 

 そう心に決めて私は朝食をかきこんだ。

 あ、王様なの忘れてた。てか私女だから王女様なのか……ま、細かいことはどうでもいっか!

 

 私はさっと食べ終わり、ロウドに抗議に行くべく扉を開けた。

 だが、扉を開けて私は固まった。

 そこには大荷物を持ったロウドが立っていた。


「あ、ちょうどよかったです。もう出発しますよ」


 突然のことに呆然としていたが、


「行かないんですか?」

「行く行くすぐ行くよ!」


 ロウドの言葉で我に帰った私は喜びを体全身で表していた。

 そうと決まればすぐにでも行動に移さなきゃ!


「さっ! 早く行こ行こ! スレンちゃんたち呼んで来ないと!」

「薫様すごいはしゃぎようですね。なんか変なものでも食べましたか?」

「料理長の手料理!」

「分かりましたちゃんと伝えておきますね」

「そんくらいの冗談通じろや!」


 私は1人で騒ぎながらスレンちゃんたちのいる訓練所へと向かった。







「あちゃ~……やっぱり遅かったわね」


 訓練所はひどいありさまだった。

 私の兵士たちが山積みにされて、その天辺にスレンちゃんが勝ち誇った顔で立っていた。お前はガキ大将か。

 アルフォとブラウンは諦めたのか、横で談笑していた。自分の兵士がやられてるのによくもまあ、楽しそうに。


 私は横にいるロウドに言った。


「だから言ったでしょう? 早くしないとだめだって」

「はい……すいません」


 あれ? なんか素直に謝ったわね。どうしたのかしら?

 まあ、いいわ。そんなことより今は旅立ちの時よ!


「スレンちゃん! やっと出発よ!」

「お~! ようやくか。待ちくたびれたのじゃ!」


 スレンちゃんは軽くピョンピョンと跳ねて兵士の山を降りた。

 地面に降りてからもピョンピョン跳ねてうれしそうだ。

 

「ようやくですか。ロウドさんはかなり用心深いですな」

「いやはや……待たせてしまって申し訳ありません」


 アルフォは顎の白髪をなでながら言った。やっぱり老紳士って感じよね~。

 そんなアルフォの前ではやっぱり腰が低くなるのね。


「では、早速出発ですか?」

「そうよ! すぐ行きましょ!」


 さすがブラウン、分かってるわね!

 

 よし! これでメンバーもそろったことだし出発しますか!


「よ~し! 行くわよ!」

「「「…………」」」

「ここは『お~!』っていう流れでしょ!」

「「「お~?」」」

「疑問形はやめなさい!」


 なんだかんだでようやく城を発つことが出来るわ。

 ところでなにか忘れてる気がするけど……


「私を忘れたなんて言いませんよね? ちょっと呼ぶのが遅れただけですよね?」

「もももちろんよ! わ、わ、忘れたなんてありえないわよ! 親友じゃない!」


 突然後ろからおぞましい声が響いてきて一気に心拍数が上がったわ。

 ナイルってあんな声出せるんだ……そんじょそこらの不良より怖いわ。


「今度は本当にメンバーもそろったことだし……?」


 今度は念入りに人数を確認する。うん全員いるわね。


「出発~!」

「お~! なのじゃ!」


 返事してくれたのはスレンちゃんだけ……なんて良い子なの! 

 あとでアメちゃん上げよっと。







 そして私たちは城門をくぐって町へ出ようとしていた。

 ちゃんとカーファンの『ピッキー』(ちゃんと名前があったらしい)を連れて城門の前まで来た時、アルフォさんが、


「あ、私たちの『グレイル』ちゃんに乗ります?」

「へ?」


 急によくわかんない名前を出されて間抜けな声が出てしまった。


「薫様は常に間抜けです」

「は?!」


 ロウドがボソッと悪口を言ってきたので思いっきり脚を蹴ってやった。脚があらぬ方向に曲がってるけどナイルさんがなんとかしてくれるわよね。

 てか、やっぱりロウドってテレパスでしょ。なんで考えてることが分かるのよ……

 そうやって顎に手を当てて考えていると、


「……そうやってすぐ顔に出るから分かるんですよ……うっ」


 と、指摘してきた。そんなに顔に出るのかな?

 って、それより早く治してあげてよ、ナイル。罪悪感が芽生えるじゃない。

 なんか私たちがいろいろやっていたのが終わるとアルフォさんが話し始めた。待っててくれたのね。すいません。


「ビカリスからずっとついてきているんですよ。ほら」


 そう言ってアルフォさんは上を指差す。

 

「うわ! なにあれ?! 鳥?!」


 思わず大声になってしまった。

 でも、あれだよ! 頭が3つあるんだよ! 

 もしかして、あの有名な怪鳥?!

 真ん中の頭からは雷、右は炎、左は氷をはくというあの怪鳥?!


「降りてきなさい『グレイル』」


 アルフォさんはそう言うと指で輪っかを作り、指笛を吹いた。

 するとグレイルは急降下して、地面ギリギリで急ブレーキ。

 そのときの風圧で吹き飛びそうになったがロウドが支えてくれた。

 それよりもめちゃくちゃでかい。何mあんのよ。

 私は思いっきり見上げていた。


「これって、『バッファル』?」


 ナイルが好奇心むき出しの目でグレイルを見ている。めっちゃジロジロ見ている。


【あんまり見るな小娘】


 低く、威厳のある声が響いてきた。


「え? 誰か喋った?」

「グレイルですよ」


 アルフォさんが言うならそうか。

 って納得出来るか! え? 鳥が喋ってる?

 するとナイルがハッと何かに気づいたようだ。


「バッファルは魔物と違って極めて高度な頭脳を持っていると聞いたことがあります」


 でも現物は初めて~、といいながら物珍しそうにジロジロと見ている。

 

【だから見るなといっとるだろうが!】


 私たちは思わず耳を塞ぐ。

 グレイルの咆哮ともいえるような大声が私たちの鼓膜に響く。

 なんて声? を出すのよ。体全身が震えたわ。

 みんなはどんな顔をしているのか見る。

 ロウドは相変わらずすました顔でたっている。……ん?


「ロウド、耳についてるのなに?」

「え? なんて言いましたか?」


 ロウドは耳に入っていた物をとって、もう一度言ってくれ、と言ってきた。

 OKそれがなにか分かったわ。


「それ、耳栓でしょ? こういうときって、自分より主人が優先じゃないの?」

「いえ、薫様は自然と魔力レアルで耳を守っていらっしゃったので必要ないかと」


 ん? そんなことした覚えはないけど……


「おそらく本能的に自身を守ったのでしょう」


 む、また顔に出てたか。

 それより本能的って……私の体便利すぎるわね。

 

「ナイルさん、あまりグレイルを見るのはやめてください」


 アルフォさんは別にとがめる口調ではなく、普通に言った。

 注意遅すぎるでしょ!

 と一応心でつっこんでおく。


「はい。分かりました。

 しかし、バッファルに見られるのが嫌だという思考はない気がしますが……」

「はい、確かにそのような思考はありません。ただ……」


 アルフォさんは少し間を空けてから口を開いた

 

「グレイルは女子おなごに見つめられると照れて暴れまわるのです」

「「「…………は?」」」


 想定外のことに私たちは目が点になった。

 え? 恥ずかしい? 鳥が? 

 もうわけわからん!


「はは……そういうことねわかったわ」


 けど、とりあえず無理やり納得する。

 ロウドたちも半ば考えることを放棄しているが納得した。

 

「それでは私たちは別に見ても大丈夫なんでしょうか?」


 ロウドが質問する。


「いえ、あまりおのこに見られると今度は不機嫌になって暴れます」


 とんだ照れ屋さんね! 

 ……触らぬ鳥にたたりなし。あまり見ないようにしよう。


「それで、見るだけでも嫌なのに乗ることなんて出来るの?」

「はい、乗ることについては特に嫌がらないので」


 もうなんなの?! 

 まるで………………よね!

 

「どうなさいました、薫様。まるで自分の頭の悪さに嘆いている者みたいですよ」


 相変わらずロウドは人の心を読むのが上手いのね。

 そう思いロウドを見ると、


「いや、何回もいいますがとても顔に出ているので分かりやすすぎるのです」


 ときっぱり言われた。

 どうせ脳筋の私にポーカーフェイスなんて無理ですよ。馬鹿はすぐに感情が顔に出ちゃうもんね。


「……もういいですか?」


 アルフォさんがかなりうんざりした様子で聞いてきた。

 そういえばこういう場面何回もしてきたわね。ごめんなさい。

 私は、ごめんなさいと頭を下げるとアルフォさんは口を開いた。


「とりあえず乗って行きましょう」


 そうして私たちはグレイルに跳び乗った。

 そして私は先ほどのことなんて記憶の彼方へ追いやって、意気揚々と、

 

「よし! しゅっぱ……」


 出発、と言おうとしたところでさっきの失敗を思いだした。

 人数を確認する。


ばんごー(番号)! 1!」

「「「…………」」」

 

 知らないから当然よね。

 今更これくらいで落ち込んでいられないわ。

 私は人数を数えていった。


「あれ? 1人足りない」


 おそらくいないのはナイルだ。どこに行ったんだろう?

 下を見てみると、むくれたナイルが私たちを見上げていた。最近メイドってこと忘れてないかしら。

 そうか、ナイルは脚に魔力レアルを込めることは出来ないのね。

 私はタンと飛び降りてナイルをおぶさった。

 その時耳元で、


「ありがとうございます」


 と言った。

 案外素直じゃないの、なんて思いながらグレイルの背中に乗る。

 でもちょっと考えれば。メイドが主人に助けてもらったら礼を言うくらい当然よね。てか、しなかったらおかしい。


「じゃあ、今度こそ。しゅっぱ~つ!」


 ……………………あれ?

 出発って言ったのにいっこうに飛ぶ気配がない。

 私はあんなにはしゃぎながら言っての羞恥か、どんどん顔が赤くなっていった。

 そのときアルフォさんが一言。


「グレイルは私の言うことしか聞かないんですよ」

「それを早く言ってよ~!」


 ということで改めて掛け声をやってもらう。

 アルフォさんは私たちを見わたす。目で準備はいいかと聞いているんだと思う。

 そして私たちは頷いた。私はちょっと睨んでやったけどね。

 アルフォさんは息を吸って、


「それでは、出発してください」

 

 いつもの淡々とした口調で言った。

 

「なんであんたらはいつもそうなのよ~!」


 私の声はグレイルの羽ばたく音でかき消された。




読んでいただきありがとうございますm(_ _)m

これからも頑張って毎日更新できるように頑張って行きます!

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