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一章(6)

「がッ…、がはっ…!」

 薙咲は地べたに這いつくばって吐血する。速度のある一撃は威力と衝撃と熱を生む。重さは速さを生まないが、速さは重さを生む

 「だから言ったじゃない?せいぜい超越者は超越者止まりなんだよ。勝てやしないの」

 「……そんな超越者どまりのやつをどうして欲しがるんだよ。いらないだろうが…」

 血反吐を吐きながら薙咲は訊ねる。ここまで痛めつけてまで自分を引き込もうとする意図はなんなのか、と

 「君が重要な人材だからだよ。その力は大きいよ。だけれども一人でいちゃ宝の持ち腐れってやつだよ。適材適所、切るべきところで切り札は切るもの」

 「そんな大したもんでもねぇと思うぞ…、自分で言うのもなんだけど」

 「ていうかさ。もう敗色ムードなの?それとも時間稼ぎしてる?何がしたいの?もう降参するのが一番賢いと思うけど」

 完全に勝ちを確信した様子のアリアは説き伏せに入り始めた

 「は?この程度ではい参りましたと言えるようならこんなばかなことしてねぇよ。ふざけんなまだ勝つ気満々だよ」

 ようやく薙咲は立ち上がる。這いつくばっていた時よりもダメージは回復しているようだ

 「やっぱり神桐くんの能力は治癒能力も底上げされるみたいだね。瞬間的な回復能力が尋常じゃないよね。足といい今といい」

 「別にそんなことはどうでもいいんだよ、お前を潰すか潰さねぇかの話だ。」

 「そういう粘り強い熱さとか別に嫌いじゃないけどさ。多分無理だと思うよ?」

 薙咲から返事は返ってくることなく拳が飛んできた。が、アリアの速度は光速。反応された瞬間には吹き飛ばされてしまう。

 しかしあくまでそれは反応されてしまった場合だ。結局反応するのは人並みの反射神経なのである。つまりは反応されなければいい。反応を超える速度で攻撃を叩き込めば勝機はある、薙咲はそう考えていた。だから、薙咲はさっきよりもはるかに速いスピードでアリアの周りを高速移動した。物音は周囲からおぞましい量が聞こえて来るのだが目視できないから反応することができないアリア。

 「あぁ、まぁそうくるよね。別に困らないんだけどさ」

 だから次にアリアがとった行動は単純だった。またアネモネを繁茂させることにより防御の体制に入ったのだ。最高硬度になったアネモネを薙咲が貫けないのはもう証明されている。だから慌てることもなく悠々と構える

 だがこの展開は予想するに事難くなかったはずだ。攻められなければ守る、単純な発想なのだから。ではどうするか。これ以上の能力は超越者には使えない。手詰まりのはずだ

 「だから言っただろうが。俺はもう人じゃねぇ、化物なんだよ。超越者ってだけじゃない、俺の身体に人間らしさなんて微塵も残っちゃいねぇんだよッ!!!!」

 薙咲は前髪をかきあげた。轟!!!と風が巻き起こる。原因は薙咲の前髪に隠れた左目にある。眼の周りは不気味に脈打ち、眼は見開かれ、色はうつろな灰色で満たされていて、瞳孔があるべき位置には紋章があった。血のりでかきあげられた状態で前髪が固まったので顔の左半分が完全に顕になっていた。

 「ソロモンの眷属シャックスよ、奪った能力を俺によこせ!!」

 薙咲の身体全体を赤い紋章が覆い尽くす。その赤さは明るさにやや欠けていてどちらかといえば血のそれに酷似していた

 「…?その眼は一体!?」

 アリアは明らかに驚きを隠せていなかったそれもそうだ。『それ』は世界でも珍しい『聖痕具』なのだから。

 聖痕具とは聖人たちの奇跡に伴っていたパーツやアイテムのことである。神々の一部であったり使用していた品であったりその形は様々である。腕の聖痕具もあれば槍などもある。聖痕具にはそのまつわる神話の奇跡が纏われていて、奇跡を再現することができる。つまりは聖人の力の一部を行使できるのである。しかし行使するには最低限の適性が必要で、その適性も聖痕具によって異なる。世界の隅々に眠っていて、未だに発見されていないものもある

 今薙咲が行使しているのはソロモンの眷属の一つシャックス相手からあらゆるものを『奪う』能力。そして薙咲が最近奪った能力、それは…

 「単純な力押しでとおらないならねじ込んでやればいい」

 回転能力。踏ん張った足から回転させ、パーツごとに回転を伝導させていく。ただしその能力は薙咲本来の能力で増強させているから回転スピードも威力もオリジナルの比ではなくなっていた。ドリルのように回転する拳を弾丸のようなスピードでアネモネにぶち込んだ

 結果は貫通

 たちまちアネモネに穴があき、薙咲の拳が通った

 「そんな…っ!?」

 余裕を持っていたアリアは驚きのあまり反応が一瞬遅れた。アリアがとった行動は、相殺だった。

 光速の拳を慌てて薙咲の攻撃に当てた。だが、高速+回転の威力は決して弱くなく、アリアは反動で吹き飛ばされた

 しかしアリアは吹き飛ばされた衝撃よりも薙咲の左目に対する驚きの方が大きかったようだ

 「なんなの…、その眼は!?」

 「俺は生まれた時点で全て奪われてるんだ。身体のあちこちがいじられていて、本来の左目すらこんなもんに植え替えられていた…!こんな屈辱はない、これほどの悲しみはない…!だから俺はこの眼で、この身体で!片っ端から壊してやるって決めたんだ!!」

 二擊目を決めるために薙咲は再び距離を詰める。空中で再び薙咲は回転を始める。軸足からふくらはぎへふくらはぎから太ももへ太ももから体幹へ、そして拳へと螺旋状に回転のエネルギーを伝導させていく

 「ちぇっ、嬉しい誤算だけどこれじゃ手が抜けなくなっちゃったな。ちょっと本気出さないと」

 そう、さっきまでのアリアはあくまで防御に回っていた。攻撃を自分からは殆ど行っていない、受身の姿勢だった。そしてここでようやくアリアは攻めに回る

 アリアが突然姿を消した。実際には消えたわけではなく目視できなくなっただけ。薙咲のが高速移動だとしたらアリアは光速移動。またしても聖人の次元の違いを見せつけられたのである。薙咲の反応速度は今常人よりも桁違いに強化されてはいるが、光を流石に負うことは不可能だ。どうしてもワンテンポ遅れた反応になってしまう。攻撃の宛を失った薙咲は一旦踏みとどまり、先ほどのアリアと同じ行動をとった。つまりは防御

 ギャルルルルルルルルルルル!!!と体全体を高速回転させた。しかもオリジナルよりも何倍も強化されている。ほとんどの攻撃は弾かれること必至だろう。そこへアリアの光速の一撃が放たれる。

 光が刺すのか、回転が弾くのか

 勝負は一瞬

 回転が弾くよりも速く光が貫いた。

 回転による防御とはつまりは攻撃が面に触れた瞬間に受け流すことにより成り立つのだから、面に触れた瞬間に回って受け流されるよりも速くその面を貫ければ攻撃は通る

 アリアの腕が、薙咲の腹を貫いていた。けれども血を吐く薙咲の口は笑っていた。相手が高速で動いたら手の打ちようがないことは予期できていた。だからこそ薙咲はセオリー通りに守り、台本通りに貫かれた。そして0距離でアリアを捉えることができた。

 「この距離なら…、外さねぇ…」

 息絶え絶えに薙咲は腕を振り上げた。けれどもアリアの顔は呆れというか、哀しみの表情を浮かべていた。

 

 なぜなら、そこで薙咲の意識が切れていたからだった

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