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一章(5)

 「今お前なんつった?」

 薙咲が止まらないわけがなかった。それほどにその言葉は、存在は大きかった。『それ』は憎悪の対象であり、生きる意味であり、全てだった

 「だから、神桐君が目の敵にしてる『聖人』なんだって」

 「わかったそれで十分だ、ちょっと表にでろ」

 それゆえに一言で煽るのには十二分だった



 近年における全国的な区画整理で自然は一定量を残しなくなった。昔でいう自然豊かな公園などはなくなったが『運動』公園は今でも存在する。公園をなくして、インドアな子供が増えてどんどん国民の肉体が幼少期から軟弱になっていくのをよしとしなかった国の方針により一定距離間隔でアスレチック遊具を設置して、サッカーのコートの半分くらいの広さのグラウンドスペースを設けてあるといった仕様になっている

 そんな量産設置されている運動公園のグラウンドスペースに薙咲とアリアはいた

 「で、なに?神桐君はなんの根拠もない私の挑発に乗ってくれちゃったわけ?」

 「お前の軽口が事実ならここで潰すし、ウソだったとしてもそんな口が聞けないようにしてやるから変わんねぇよ」

 「怖いこと言わないでよ、女の子相手にさ。デリカシーないあなぁ」

 頭に血が上りつつある薙咲に対しあくまであしらう様なアリア。温度差が広いやりとり

 「あいにくデリカシーなんて必要な人生送ってないからな」

 「私に負ければ嫌でも身につけることになると思うよ」

 「さっきからイラつかせるセリフばっか吐くな、そんなに殺されたいのか」

 「じゃあ早く始めようよ。テストも兼ねてるんだから」

 アリアのそのセリフが引き金となって薙咲が先に動いた

 「10分で死ね」

 直線的に殴りかかる。ただし超スピードで、だが

 地面が凹む。砂塵が舞う。地面に敷き詰められているのは天然の土ではないのでどこか変なにおいが風に乗る

 「やっぱりさ、どこかイマイチ足りないよね。足、そんなにやばいの?」

 土煙が切れるとほんの数十センチ移動するだけでアリアは初撃を避けていた。それどころかしゃがんで薙咲の怪我している足を眺めていた

 「あぁ、せっかく治ってきていた傷口がまた急に負担かけちゃったから開いちゃったのね。血がすごいよ」

 「ッ!!」

 薙咲はそのまま怪我した足を振り抜いてアリアに蹴りをいれようとしたがまたしても手応えはなかった。気づけば少し離れた場所にアリアは立っていた。

 「女の顔を躊躇なく蹴ろうとするかな普通…」

 リアクションをとることもなくすぐ次の攻撃に移る薙咲。やはり片足というバランスの悪さが影響していつもより出力が少ない。ヒラリヒラリと躱されていく

 「さっきからさ、ワンパターンで面白くないね。芸がないよ。パワーもなくて芸もないとかがっかりさせないでよ」

 「…さっきからベラベラうっせえんだよ」

 そこで一旦薙咲は攻撃の手を止める

 そこで初めてアリアは気づく。薙咲の足の傷口の出血が止まっていることに。傷口が、塞がっていることに

 「もう…、塞がっている!?そんなあの傷が直ぐに塞がるわけが…」

 「火力が足りないってんならお望みどおり出力を上げてやるよ。俺もこのままじゃ飽きるしな」

 そう言って薙咲は再び距離を詰める。ただし先程とは比べ物にならないスピードで。傷口の不自然な治癒を考慮しても直前までの比ではない。とりあえず常人が目で捉えられるレベルではなくなっていた。

 超速にで猛攻を再開する。秒間50発、それが薙咲の攻撃のスピードだった。流石にアリアもこれを全て追いきることはできなかったようだ。みるみるラッシュが叩き込まれていく。

 が、全て防がれていた。全て受け止められていた。ただし彼女の肉体によってではない。全身を大樹が覆っていた

 「ちっ、何だその気持ち悪い能力。肉体改造じゃないところを見ると聖人っていうのはまんざらデタラメってわけでもないのか」

 「気持ちわるいとは心外な。やはり一度デリカシーってもんを叩き込んであげるべきね」

 「今の俺は鋼鉄だって歪めるほどの力だってのにたかが樹程度で無傷ってのが気に食わねぇ」

 「大した力自慢だけど、これはただの樹じゃないわ。聖樹アネモネ。私が司る聖人のルーツはウェヌス。別名ヴィーナス。庇護と愛の神。そしてウェヌスと同一視されているアプロディーテーのアネモネの樹の逸話がこの樹の正体。私の血液によって生成が可能。そしてヴィーナスは金星の象徴。この晴れた夜に、植物の栄養である光、金星の光を受けることによってその効果は相乗される。そしてこの樹にヴィーナスの庇護を込めれば絶対の防御。多分あなたにこれを貫くのは無理だよ神桐君」

 つらつらと語ったアリアを薙咲はケッと一蹴した

 「別にわざわざ語ってくれなくてもよかったんだけど、まぁネタバレご苦労さまってとこだな。そんじゃ、まあ自信に溺れたまま死ねよ」

 瞳孔を見開いて殺意を込めて薙咲は拳を振るう。しかしアネモネの防御を貫くことはできない鈍く、重い音が夜の公園に響く。だが決して無意味なわけではない。少しずつ異変はあった

 「なに?この力…。少しずつ威力を増している!?この力、いくら超越者でも人知を超えているわ!!あなた、ただの肉体強化の能力にしては少しネジが飛んでない!?」

 「あ?人知?んなもん俺にはねえよ、生まれついた瞬間からニンゲンやめてんだからよ」

 慌てるようにアリアは身を覆うアネモネを増やしていく

 「…ッ!!」

 少しずつ攻撃を防ぐアリアの顔が苦しくなっていく

 「確かにさ。お前のアネモネってのはとてつもなくかてえがよ、お前さっきなんつった?『血で生成』してるっつったよな?つまりは一応限界があるよな?生命を維持するために血液量を一定以上保たなきゃいけねぇんだからさぁ!!」

 つまりは、根比べ。アリアの防御に限界が来るか、薙咲の超火力がどこまで出るか

 「そう、ね。でもあなたにも限界がある。火力の限界じゃない、『時間』の限界が」

 以前から薙咲を調べていたアリアは知っている。薙咲の能力使用時間には制限があると。だからといって薙咲は焦りを見せない。ひたすら力で押していく。そしてとうとう、薙咲の拳がアネモネを穿った。大樹を貫きアリアの体に迫る。

 

 そして一瞬。 

 

 ゴシャッ、と肉と骨がひしゃげる音と共に時が止まる。

 時が動き出し、叫んだのは、薙咲だった

 「が、あぁァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!??!!!」

 引き抜いた薙咲の腕がひしゃげていた

 「ごめんね、あたしそんな簡単な女じゃなくてさ。持ってる性質一つじゃないの」

 よく見ると体に届くギリギリ手前でアネモネの層が残っていた

 ふぅ、と一息つきながらアリアは片手で頭を押さえた

 「それにしても若干貧血かなぁ。少しアネモネ使い過ぎたかも」

 苦悶で顔を歪めながら息絶え絶えに薙咲はアリアを睨めつける

 「お前…っ!何を…ッ」

 「『堕天使ルシファー』それがあたしの持つ二つ目の性質。聖人の対極に存在する世界から隠されてきた負の人外、悪魔。あたしは聖人と悪魔の間に生まれたハーフ。聖人と堕天使の性質を両方受け継いだ呪われた存在なのよ」

 「は…?『悪魔』?そんなもん聞いたことも…」

 薙咲の戸惑いを待つこともなくアリアの一撃が彼を襲った

 光速。薙咲の超スピードを遥かに、次元的に超えた一撃が薙咲の下腹部を襲った。正確には当たる直前で引いていたのだが余波の熱と衝撃波が彼を容赦なく吹き飛ばした

 「だから、忌み嫌われた裏の存在なんだよ。ちなみに象徴はウェヌスと同じ金星でもあり、光をもたらす者を意味する。つまりさっきまでのアネモネは一段階やわだったって事だよ。残念だったね。私の一撃は金星の力を受けた『光』そのものだよ。諦めたほうがいいよ」 

 

 

 

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