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一章(3)

「おいてめぇ、今なにしやがった…?」

(そう、今のは防がれたというよりは受け流された感覚だった…。しかしそんな素振りはなかった…、あの瞬間に何かがあったはずだ)

しかしその何かがわからない以上正面から攻めるのは賢くない

「いやいや、特になにをしたわけでもないよ?防いだだけだ。攻められたら防ぐ、普通だろ?」

そう言って襲撃者はヘラヘラと笑う

「じゃあ名前くらいは聞かせろよ、気が向いたら墓標くらい立ててやるぜ?」

未知の相手に薙咲は挑発する。別に不安で粋がっているわけではない。なにがあろうと負けない自信が目に宿っていた。

「識鑓、識鑓神楽<しきやりかぐら>だ。立つ墓標はお前のだがな」

ギャリリリ、と識鑓は腕についた螺旋の小手を擦り合わせた

「神桐薙咲、花森高校一年B組。普通の高校生のフリしてるが、てめぇ『超越者』だろ?

俺はここの依頼でてめーを潰すために雇われたんだよ」

「へえ、大層なバイトだな。つかここ襲うのバレてたのかよ…。そういうてめぇも『超越者』だな。さっきのタネもそうだろ」

「さぁな、じゃんけんする前に自分の分出す手を教えるやつがいるか?バカじゃねぇんだから自分で考えろよ」

そう言って識鑓は駆け出した。間合いが詰まる中薙咲は考える。

(なんだ…?衝撃を受け流す能力?いや、それだったらあっちから突っ込んでくるハズはない。それにあの腕と足の金属具の意味がわからない…。だからといって黙ってこのままあいつの攻撃を素直に受けるのはマズイ。得策は、なんだ…⁉)

「立ち尽くしてどうした?あきらめたのか?」

気づけば識鑓の拳が飛んできていた

「チッ…‼」

薙咲は急いで身を翻して躱した

はずだった

「!?」

拳の軌道が明らかにおかしい角度で曲がった

予想外の動きに薙咲は反動できず、腹部にまともにに拳を食らった

「がぁッ…!!!」

10mほど吹き飛ぶ薙咲

(なんだこれ⁉並の威力じゃねぇ…ッ‼)

「だからさぁ、『超越者』同士でやりあってるのになに普通に躱してんだよバカか?バカなんだろお前」

退屈そうに識鑓は薙咲を睨めつける

(やべえ鳩尾もろだわ…、きっつ…)

腹を抑えながら薙咲は立ち上がった

「あー…、ガハッ、悪い悪いあんまりにも小物っぽいからさ、やる気わかなくて…。ちゃんとやってやるよ」

(なんだあの気持ち悪い拳の軌道。それにあの威力、この二つに関係はあるのか…。最初のガード…、クソわかんねぇな。こっちから攻めるか)

「減らず口はいいからさ、さっさと来いよガキ」

くいくい、と識鑓が挑発する

「言われずとも期待通りブチ殺してやるよッ‼」

加速、加速、加速

薙咲のスピードは常人の目では終えないほどになり一瞬で識鑓の目の前まで迫り、拳と蹴りラッシュを1秒10発の速さで繰り出した

だが

(この速さで、手応えが一発たりともない…⁉反応してるのか⁉いや、そんな俊敏さはなかったはず…。こいつなんの能力だ…⁉)

全て力が受け流される

埒が明かない、攻撃が通らない。そんな焦りに駆られ、薙咲は一撃重いのを打つことにした

跳躍、しかも並の高さではない。さっきまで壊滅させていた施設の高さの二倍は跳んだ

「あれ、あいつどこいった」

(やはり、目で追えていない…。あいつはどうやって防いでるんだ…?)

必死に考えながら薙咲は急降下した。自由落下の威力を込めた踵落とし。普通なら身体が粉砕するはずだ

識鑓はようやく薙咲の位置にに気づいたようだ

「あー、上か。つかたっけーな。あんなの食らったら死ぬわ」

と、腕を十字に交差して防御の構えをとった

(あんなのでこの速度の踵落としを防げるとおもってんのか?それともやっぱり防御に絶対の地震を持っているのか…)

そして2人は衝突した

結果

「アァァァァァァァァッ‼」

悲鳴を上げたのは薙咲だった

攻撃を弾かれ、その速度のまま地面を転がされた挙句、ふくらはぎの部分が抉れていた

「痛そう〜、大丈夫?なわけねぇよな。そろそろタネも割れたかなー」

足を抑えながら薙咲は識鑓を睨みつけた

(畜生、そういうことか…!あいつ…)

「てめぇ、回転してやがるな?」

「そうそうよくわかったな、俺は全身の関節が発達した超越者でな、それに合わせて皮膚の伸縮も発達してるんだよ。そして俺を担当した研究者が言うにはな関節部に特殊な筋肉が出来てるらしくてな、秒間20回転するらしいぜ?」

だから薙咲は初撃を受け流され、高速ラッシュも流され、踵落としはあの螺旋状のエッジによって薙咲は弾かれると同時に抉られたのだ

拳の軌道が曲がったのは拳が曲がったのではなく、上半身の回転だ。身体ごと回ればいくらでも軌道は変わる

なぜ反応していないのにラッシュを受け流せたか、それは触れられた瞬間に回転させる。反射が出来上がっているからだ。『超越者』は開発されていく。その能力を有効にしていくために、研究者に作られ、研究者に育てられる。能力に身体を適応させていくのだ

「ガチガチの『超越者』だな、反吐が出るぜ」

薙咲は吐き捨てるように言った

「優れた人間として生まれてんならより優れようとするのが本能だろ?」

当たり前だろと言わんばかりの顔で識鑓は返す

「いくら人外になろうが、それは優れてる証だ。優越感に浸るのが普通だぜ?」

「意見が合わねぇな、俺は『超越者』になってから人間であるという自覚は捨てた。こんなのただの化け物だ」

抉れた右足を引きずりながら薙咲は立ち上がった。

「そして俺から全てを、人間すらも奪ったこんな世界を潰すと俺は決めた。『超越者』なんて今まで何度もやりあった。そして何度ももぶちのめした。お前ももう終わりだ。お前がベラベラしゃべったおかげで攻略法がわかった」

「たかだかガキが、しかも『超越者』が世界を潰す?俺たちは『聖人』の足下にも及ばないんだぜ?身の程をしれよ。しかもなんだって?俺が終わり?てめぇの攻撃は全部回転して弾くんだぜ?」

「おしゃべりは終わりだ。もう『時間』がない」

片足が使えない薙咲は四つん這いの姿勢になり、両手片足の三本で加速した。

「無駄なことはやめけよ、俺がてめぇのその夢物語を潰してやるよ」

ギャルルルルルルと識鑓は全身を高速回転させた

攻撃のアドバンテージはスピードが圧倒的な薙咲にある。だが全て弾く識鑓。

最後の衝突

ぶっ飛ばされて地面に這ったのは識鑓だった

「身体のパーツが回転するだと?ならその関節の継ぎ目は固定されてて回転しねぇんじゃねぇか。お前の担当は無能だったな」

関節部にありったけの拳をいれた薙咲は片足で踏みとどまることもままならず、殴った時に殺しきれなかった勢いで地面を転がって横たわっていた

「あー、時間ギリギリだったかなー。金回収して帰ろう」

出かける前に久留穂アリアにいったバイトという表現はあながち間違っていない。薙咲は潰した施設の金を回収して生活費にしているからだ。もちろんそのままではなくロンダリングしてから使っている。元々学生には有り余る大金なので薙咲はいつもレートを気にせず交換している

すでに時刻は夜中の11時、下手すれば補導されるなと考えながら金を回収し終えた薙咲は帰路についた

足の怪我は目立つので適当に施設から応急処置用の道具を見つけて包帯ぐるぐる巻き状態だ。


足を引きずりながら家の近くまで行くと、家を出る前と既視感を覚える景色が目に入った

「…ずいぶん遅くまでバイトしてたんだね。しかも足、怪我したの…?」

久留穂アリアが立っていた




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