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一章「人外な人間の反旗」

一章(1)


2080年4月9日、東京都を走る地下鉄にその少年は乗っていた。朝の眠気と瞼の重さに負けそうになり、イヤホンを耳にねじ込み、やや大きめの音量でお気に入りのバンドの曲を流していた。顔左側を前髪が覆い隠しているのも相まって一層気だるげに見える通勤、通学の時間帯なので吊り革に捕まり、脱力しながらも立っていた。今日は入学式でこれからの生活よりはやや遅めの時間なのにこんなんでこれから大丈夫なのかねなどと欠伸をしながら考えていた。だがなかなかに混雑した電車の中でちゃっかり人口密度の薄い場所に陣取っているところは抜け目無い。

電車に乗り込んでから三回目の欠伸をしたところで、肩に手が置かれた。

「よっ、相変わらず朝は弱そうだな薙咲」

この少年の名前は神桐薙咲(かぎりなぎさ)

そんな薙咲に話しかけたのは須ノ谷克也(すのがやかつや)、単発で茶髪な快活な外見にメガネをしている少年だった。

「ん?あぁ、おはよう克也」

応えながら薙咲はイヤホンを抜いた。

「入学式の日からそんなんでダイジョブなん?」

「よくさっき俺が考えてたことがわかったな」

「自分で思ってたんかい…」

苦笑しながら克也がポケットから小さい紙パックを取り出した

「お前まだ毎朝野菜ジュース飲んでんの?」

「おう、当たり前だろ。日々の栄養源だ」

「まさか春休みも飲んでたんじゃねーだろうな」

「一日一リットル欠かさず飲んだぜ!」

「お前そのうち体が緑黄色になるぞ」

薙咲は顔を引きつらせながら言う

「バカお前野菜大事だぞ、どれくらい大事かと言ったらな、ハンバーグの脇に添えてあるミックスベジタブルくらい大事だぞ」

「お前それ結局緑黄色野菜じゃねぇか…」

溜息を吐き更に気怠さを増していく薙咲だった

目的の駅に着き、改札を通ると克也がふと思い出したように言う。

「そういや俺らが入る花森高校ってさ、超越者がいるって噂聞いたか?」

「へぇ…、そうなのか」

興味なさげに返すが克也の方からでは前髪で顔が隠れているので表情が見えず驚いているのかも興味の有無もわからなかったが構わず続けた

「しかしまぁ超越者の話ってあんま表に出ないから信憑性も薄いけどさ、逆にそういう話題が出たってことは本当の可能性もあるんだよな」

「なんにしても俺らみたいな一般の学生には関係ないだろ」

気だるさの抜けない声で薙咲は返す

「お前そろそろシャキッとしろよなー、このままいくと第一印象ネクラで決まりだぞ」

「目立たないくらいがちょうどいいんだよ、わかってねぇなぁ…」

「お前は目立たないどころか人と接触してないだろうが。中学のお前とか暗すぎてもやしかと思ったわ」

克也が薙咲の頭を小突きながら言う

「バカお前、小学校の頃の俺は凄かったんだぞ」

軽くムキになって薙咲は言い返した

「ほう、聞かせてもらおうか」

「クラスメートと遊んだことがあった!」

「俺でよければいくらでも遊んでやるから…」

胸を張る薙咲を見て同情の視線を送る克也

「やめろ、憐れむんじゃない…」

「なにお前コミュ障なの?」

「は?むしろ俺コミュ賞だから」

「いや意味分かんねぇし…」

「俺はコミュ障なんじゃなくてコミュ力を使わないだけだ」

「苦しい言い訳だな。今年はお前そのコミュ力使えよな。あんなお前は見てられん」

薙咲の髪をわしゃわしゃとかき乱しながら克也は笑いかけた

「…まぁ、ぼちぼちな」

そんな感じのやり取りをしていると二人はもう校門をくぐっていた

「はぁ…、やっぱそこそこいい学校だよなぁここ」

ここ私立花森高校は創立十数年の割と新しい学校だ

施設も綺麗で使っているものも新しい近代的私立校である

「まぁ通えればどこでもいいがきれいに越したことはないな」

あまり反応を示さない薙咲でも感心するほどなのだ

「あ、おいクラス貼り出されてるぜ見に行こうぜ薙咲」

「ん、あぁ」

掲示板のほうに寄っていくと他の生徒も群がっていた

「これじゃ見に行けねぇなぁ…、見えるか薙咲?」

「んー、俺はB組でお前はAだな」

「別々かよー、心配だなー主にお前が」

「うっせほっとけ。体育館行こうぜ」

教室に行くのは式のあとで、入学式は直接体育館に集合して行う形式らしく、クラス発表を見終えた生徒はわらわらと体育館に入っていく

「じゃあな」

「ん」

そして二人はクラスの位置に移動するために分かれた

Bという看板を頭上に掲げた生徒がいたのでそこを目指す

集団にたどり着いたはいいが並び方がわからない。しかしそこで周りの生徒に効かないのが薙咲だ。周りの動きとささやき声に耳を傾け、少しずつ情報を補強していくのだ

少し待つと並び方の方針が全体で固まってきたみたいなのでそれに従う

ちなみにクラスの中心人物に近い未来成りうる人間は大抵この時から頭角を現し始めている

「出席番号順に並ぶらしいぞー」

と爽やかなスポーツマンみたいなやつが仕切っているのを見て薙咲はクラス内カーストの頂点をぼんやり把握した


そして薙咲は入学式を最初から最後まで全部寝た

校長の名前も生徒会長の話も何も頭に入れずに眠たい頭を引きずって教室に向かった

教室に着くと出席番号順に生徒証と手帳のデータを携帯端末に入れた。クラス名簿もついでに入れたらしい

今となっては超薄型タブレットを折りたたんでコンパクトにしてある携帯が主流だが二十年前まではスマートフォンという系統の端末が主流だった。超薄型タブレットを折りたたんだ方がスマートフォンより薄いんだから技術の発達は凄まじい

大体の支払いは電子マネーで済むし、最近は紙幣を見ることのほうがレアだ

授業も机に埋め込まれた中型タブレットで行うし、授業中のメモはフォルダに保存して携帯に移して持ち帰ればいい。紙を使うのなんて試験の時だけだ

配布が終わると自己紹介の時間になった。薙咲の自己紹介はというと

「神桐薙咲です。仲良くしてください…」

いつも通りだった

その後HRは解散し、薙咲も流れるように帰ろうとしたところ、克也から待てのメッセージが飛んできたので教室の机に座って足をぶらぶらさせることにした

「いいや、自販いってコーヒーでも買ってこよう」

そうひとりごちして教室を出ると人にぶつかった

「きゃっ」

「うおっ」

薙咲はびっくりしただけで済んだがぶつかってしまった相手は尻餅をついてしまった

「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」

薙咲は慌てて手を差し出した

「あ、はい…。こちらこそすいません…」

立ち上がらせると相手もボソボソと謝っていた

相手は女の子だった。目はどこかボーっとしていて髪は肩までくらいで猫のような雰囲気の子だった

「怪我とかしてない?」

「はい…」

「そっか」

「…」

会話が続かなくなって気まずくなったので薙咲は自販に向かうことにした

「それじゃあごめんね」

そう言い残して小走りで去った


初日から運のなさにため息をつきながら自販を眺め、目当てのコーヒーを見つけてポケットに手を突っ込むとあることに気づいた

「あれ、携帯がない…」

身体のあちこちを探してもない

薙咲はもう一度ため息をつくことになった


気落ちして教室に戻ると机の上に携帯が置いてあった

「あれ…?」

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