一章(9)
改造制服というには原型がほとんど残っていなかった。形くらいしか残っていない。ありとあらゆるスペースにポケットが取り付けてある。大きさも様々だ。短剣でも入りそうな形もあればノートでも入りそうな大きさのものもある。逆に飴玉くらいしか入らなそうなもの、昔でいうSDカード程度の小さいもの。そんなさまざまなポケットが襟から脇のような場所にまであるのだからもうびっしりという表現以外思い浮かばないレベルだ
「あり?もう僕のターン?まーだささやんの自己紹介してないんだから急いじゃだめだよ」
「ちょっと!俺のことそう呼ぶのやめてくださいって言ってるじゃないですか!普通に名前で呼んでくださいよ」
目つきの悪い男が呆れ半分のような表情で言う
「ささやんはささやんでしょう、笹垣貴也くん」
「普通に貴也って呼んでくれればいいんすよ、そんな変なあだ名つけずに!」
薙咲に対するものとは違い、ポケット男に対する笹垣の態度はどこか角がない。ポケット男は笹垣の認めるような男なのだろうか。そんな人間関係の機微にふけっているとポケット男から声がかかった
「この子は笹垣貴也ね、二年生。いい子なんだけど口と目つきが悪くてね」
「いやこんな奴にとるたいどなん「それで僕の名前だどね、神楽十六夜だ。よろしくー。ポケットが気になったんだっけ?これは趣味というか性分でね、いろんなものを携帯しておきたい質なんだ。たとえばこの胸ポケットはね、ほら、レモンキャンディ。お近づきの証にあげよう」
ペラペラ喋りながらキャンディを差し出す神楽に首をかしげながらも受け取る薙咲。イマイチポケットの異常さにまだ納得が言ってないようだが、それ以上神楽は語る気はないようなのでもう何も聞かないことにした
残るは二人だが普通の生徒会なら残る役職はもう決まっている。会長副会長、つまりはトップ二人ということだ。今までよりさらに警戒して生徒会室円卓の最奥へ視線を送る
するとまずは男のほうから声を発した。体格がよく肩幅のがっしりした据わった目をした男だ
「騒がしい連中ですまないな、まぁそれだけ気をもむ必要がないとも考えてくれよ。俺は副会長の織田凱嶄だ。みんなはガイさんなんて呼ぶがな。昨日の映像は見たよ、アネモネを貫くなんてすごいじゃないか、うちの一年じゃ誰もそんなことできないんじゃないか?その爆発的な能力、期待してるよ」
今までとは打って変わってしっかりした言葉を投げかけられてなぜか薙咲は一瞬面食らっていたが直ぐに立ち直った
「いや別にまだ入ると決めたわけじゃないが‥・、っつーかよくそんなにウェルカムな態度取れるな」
「まぁ約一か月前から君を取り込もうと決めてたからね」
「今まで気づかなかったのがほんとに不甲斐ねぇ‥・」
深いため息をつく薙咲
「まぁそういう仕事に適した子もいるからうちには。場合によっては聖人の目すらごまかせるようなね」
ここにいる連中はどうやらある程度の化物ぞろいらしい
「聖人の目をごまかせるは言いすぎなんじゃねぇの?うぬぼれが強いのか」
「一人で聖人皆殺し目論んでるような子に言われたくなかったなぁ」
「…、まぁそれもそうだ」
惨敗してるところを見られてる以上変に粋がってもみじめなだけだと薙咲は悟った
「アリアとやりあってるからわかるだろうけど、ここのレベルは君をがっかりさせるようなものではない自信があるよ」
「それは俺が決めることだ」
もうほとんど入らない意思がなくなってることに薙咲は気づかないまま、織田の隣にいる最後のメンバーに目を向けた。生徒会長は女子だった
顔は何となく入学式に出てたので見覚えがあったが近くで見るとまたいんしょうがちがうものだと薙咲は体感した。とても手入れのされた長い黒髪をポニーでくくり、顔だちは鋭くも綺麗でまるで刃だった。
「ん?アタシの番かね?本来ならほとんど自己紹介いらないはずなんだけどねぇ、入学式で十分すぎるくらい話したから。まぁアンタは清々しいくらいに上の空だったどころか途中寝てやがったけどねぇ」
顔はめちゃくちゃにこにこしてるが生徒会長、頬がとてもひきつってらっしゃる
ことに薙咲は気づいた。ずいぶん前から注目されていたんだ、入学式の時も注視されていて当たり前だということに気付いた
「うんまぁ、正直何も聞いてなかった」
「てめぇ加入したら直々に礼儀ぶち込んでやる」
女子の口から出てはいけない言葉遣いが聞こえた気がしたが全力で気のせいだったことにした
「じゃあまぁサービスでもう一度細かく紹介してあげようかね。花森高校生徒会長の北条彩寧一応あの北条家の血をひいていて聖人でもある」
「どうなってんだ…、この学校聖人の安売りでもしてんのか…」
「安くはないはずよ、その辺のよりはね」
勝気な目は譲らない。自信に満ち溢れている
「まぁ俺も実際やりあったのは久留穂が初めてだし何とも言えん」
「あれ、初だったの?それにしちゃあ食い下がったね」
「超越者相手なら場数は踏んだから、あとは勘だろ」
「戦闘慣れか、まぁあとは普通じゃない度胸というか覚悟は感じたよ。良し悪しは置いておいてね」
「当たり前だ、背負うもんが違う、その辺の奴と比べるな」
「ふーん、まぁ息巻いてるようにしか見えないけども」
ここの連中はみんないちいち癇に障る言い方をするなと思いながらもこらえる。役職的に久留穂より上の実力者ぞろいと考えるのが妥当だ
「じゃあ別に入らなくてもいいな?めんどくせぇ」
「それとこれとは話が別なんだよ。ようはアタシたちはお前を飼い馴らすといっているんだ」
「頭湧いてるのか、ンなこと言われてはいそうですかと首輪つけられるやつがいるとでも?」
「頭悪いのはお前だ神桐、いつから選択権を持ったつもりでいた。選択肢はあってもそれを選ぶ権利は今お前にはない。なぜならもう一度ずたずたにしてでも頷かせてやるからだ」
もはや女子高校生のしていい表情ではなくなったいる生徒会長、この顔を校内にばらまいてやりたいと神桐は切に願った。
「やってみろよ、さっきから脅しでもしてるみたいだけどよ、さっさと行動で示せよ」
「大我、ぶち込め」
「了解っと」
薙咲の隣にいた大我が腕を振りかぶったので薙咲は守りの姿勢をすかさずとった
が、壁に吹っ飛ばされた
「ッ!?????!!!?」
壁に着地するように受け身をとる薙咲。かるく壁がへこんだ感覚がした
「あまりなめた態度とってると雑巾のように引きずってでも連れて行くぞ?」
「なんなんだよこの動物園みたいな生徒会は…」
床に降りながら薙咲はつぶやいた
しかし視線をあげたころには薙咲は詰んでいた。
足は凍りついていて
こめかみにはマグナムの銃口が押し付けられていて
首筋には刀が添えられていて、目の前に生徒会長が立っていた
動けずにいる薙咲の顔に北条生徒会長は手を添えた
「これが現状よ、理解した?」
「…迎え入れようとしてる連中のやることじゃねぇな」
「答えは変わった?」
北条の親指がそっと薙咲の頬を撫でた
怖気が走ったと同時に、薙咲の頬がパックリ裂けた。血があふれていく
「この状況で頷く以外選択肢ないじゃねぇか…」
薙咲はひきつった笑いを浮かべながら舌打ちした
そして腹を据えた
「好きにしろ、生かすも殺すもこの生徒会のもんだ」
「ようやく理解したね、素直な子は嫌いじゃない」
殺気を消して北条は別人のようににっこり微笑んだ
世界から抗おうとする、あってもなくても変わらないような小さな歯車が、それよりも少し大きい歯車に噛み合った瞬間だった。
また、世界は少しずつ動きを変えていく