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こっくりさんと異世界にいるんだが。  作者: 亜架 耀香
一遍
9/12

【八】


 かちり、かちりと。

 時計が、ただただ、時を、刻む。


「・・・帰って、来ないね」


 時田の呟きさえ空気にとけて、消えていく。


 文月が階下に向かって、約三十分。大して長くも無いはずのその時間が、俺らにとってはもう今は天国なんじゃないかと思うほど長く感じる。


 文月が、何を考えて一階に向かったのかはわからない。

 だけど、一人で何かをやっているのはたしかだ。


 助けに行った方がいのか?だけど、無知の俺が行ってもなんの役にもたつはずがない。寧ろ、足手まといだ。

 俺はもう、あいつを信用してるんだ。それに、俺らのために命を捨てるようなやつじゃない。


 さっきから何度も何度も繰り返している自問自答が、また始まる。


 でも何度考えても結果は同じだ。

 結局、俺はあいつを信用してやるって決めたのだ。


 だからくそ、もう待ってやる。


 忠犬佑馬公にでもなってやるよ、くそ。犬だか馬だかはっきりしろよ、くそ。


 ガラッ


「文月・・・」


 やっと、帰ってきた。文月は険しい目つきで教室を見回し、どうだった、大丈夫か、とざわめく教室を横切って行く。


「文月、あの虫はなんだったんだ」

                     「また、お前が関係してるのか!?」

        「心当たりって、なんだったの」

  「どうなったの」     「俺たち、もうここでも生きてけないのか」


 狂ったように、勝手に叫びだす少年少女たち。


 文月は冷ややかな目で彼らを見渡すと、勢いよく教卓を蹴った。


 ガンっ・・・


「黙れ、五月蠅えよ」


 食事をとりあげられ、なんでどうしてと泣き叫ぶなにか(・・・)を見るかのようなめつきで言い放つ。


 普段、文月はこんなにものにあたったりするやつじゃない。周りの人間に気に入らないことがあれば本人に堂々言うし、言ってもどうにもならない、天気だとか、愚痴だとか、そんなのはきっと全部飲み込んでいるのだ。声にして愚痴も言わないし、ものにあたってストレスを散らすことも無い。


 そんな文月が椅子を蹴るのだから―。


「―まただ、俺は。二回目だ」


 暫くの沈黙の後、文月が重々しく口を開いた。


「すげぇ単純明快に言う。俺らが、不法侵入者として―支配者に、目をつけられてる」


「支配者・・・?」


 突然の耳慣れない言葉に、俺も首を傾げた。どうしても王道もののモンスターゲームを想像してしまうのは俺だけだろうか。


 しかも、なんだ、「俺は二回目」って・・・。

 いやな予感しかしないじゃないか。


「不法侵入者と支配者っつーのは・・・なんとなく、わかるよな。簡単に言えば、政府のほかに無理矢理この世界を動かそうとしてるのが支配者。不法侵入者っつーのは、人の世界から故意的に共鳴の世界に来ることだ。これは、正統派の政府も費正統派の支配者も不法侵入者としてみなしている」


 ・・・おかしい。それはおかしい。


「おかしいだろ。だって・・・、俺たち、|故意的になんかこの世界来てないぞ《・・・・・・・・・・・・・・・・》」


「そうだ。だから―おかしいんだ」


 つまり、どうして俺らが不法侵入者として見られているのかわからいのは文月も一緒なのだ。


 ・・・整理する。つまり、例の虫たちは支配者がおくってきた使い魔みたいなもの。こんなものがあるのも、さすが異世界だ。

 そして、俺らは不法侵入者としてみなされているらしい。もちろん、無実だ。もともとこの世界は二つの世界から故意なく送られてきてしまった人々のためにある世界。だから、俺らはこの世界にいる権利がある。

 つまり、不法侵入として見られるのは、“妖力の世界”から、または“人間の世界”から『転送』という各世界を行き来できる力を使って“共鳴の世界“共鳴の世界”に来てしまったときのみなのだ。

 まあ、人間に『転送』は使えないのだが。


「じゃあ、俺らはなんで・・・」


 呟く時田を見つめる、文月の表情が気になった。


 ミジンコを見るような気持ちで見つめないと、まったく気づかないほどの表情の揺れだったが。

 いつもと同じような、見下したような、澄ましたような、凛とした表情に見えたが。


 俺は、文月の苦々しい、そして苦しげな表情に気づいていた。

 

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