【六】
突然現れた巨人を拳一発で消滅させた文月はあの後、他にもいろんな“予知”を見せてくれた。
次に吹く風は何秒後か、その風によってベランダに舞い込んでくる落ち葉は何枚か、そのほかにもクラスのリア充女子による憧れのあの先輩との関係は今後どうなるかなど、その場ではなんの役にも立たない物も一瞬目を閉じ、尻尾を震わせただけで当ててしまった。まあ、先輩と今後いちゃつけるかなんて当てたところで証明できないからあまり信頼関係てきには証明できていないのだが。
ちなみに、まだ不満そうな時田は一時間後くらいには機嫌が直ってまたいつもどおり変な賭けとかやりだすそうだ。よかったよかった。
「てかお前ら、頼めば俺がなんでも教えてくれるとか勝手に思うなよ。これはあくまでお前らに俺を信頼させてパシ・・・、信頼させて・・・信頼させるためにやってるだけなんだ。今だけだぞ」
まあ、こんなかわいらしい姿にそうなんどもなりたくないんだろう。それにしても、俺らはあいつを信頼した途端パシられるらしいぞ、みんな。
「だから、もし俺らに危機が迫ってたりしても気づかねぇこともあると思う。さっきも見たろ、あの巨人。ああいうのが来てもいいように備えとけ」
俺らよりもこの世界のことをよく知っている文月の言葉には説得力があった。しかもこいつ、めっちゃしゃべるようになったな。ゴリラだかオラウータンだかも自然とリーダーを決めるっていうが、この群れのリーダーは文月か。まかせたぞ。
だけど俺は正直、この世界がどんな世界だとか、どんな風に暮らすだとか、そんなことに興味もない。
ただ、自分の目で見た世界を知りたいのだ。
ベランダに出て身を乗り出し、広い校舎の周りを見回す。
校庭の周りの様子は、元のそれとはまったく違っていた。
整備されたコンクリートの大通り、その上を走る車、それに沿うようにたった美容院や歯医者やコンビニ。そこにあったはずの風景は、すべてもう記憶の中だけだ。
目の前には、広大な田園が広がっていた。
整備されず、砂利だらけのあぜ道、その上を歩く野良犬、重そうに首をかしげた稲、置かれた自転車。のどかな空には雲雀の小さな群れが、さえずりを響かせながら高く飛んで行く。
さすがは異世界だ。
この校舎だけが、くりぬかれているように不自然に浮いている。
人影は見られず、ぽつりぽつりと見える民家も藁ぶき。遠方にのぞめる山脈も、神聖なるなにかが息づいているようだ。
こんなところだから、やはりさっきの巨人みたいな地球外生命体てきなものもいるのだろうか。一般的な模写はあれだ、タコ足で腰がUFOみたいになってるやつ。それじゃつまらない。牛がちっさくなったみたいなのが空飛んでたり、妖怪みたいな形相のおやっさんが出てきたり、神隠しにあった子供が財宝もって帰ってきたり。
っやっばい、俺・・・めっちゃ、この状況を楽しんでる
自分でも抑えきれないような興奮に、思わず口を押えて目を輝かせる。
正直、うんざりしてたんだ、きっと。
もちろん、学校はそれなりに楽しかった。
時田をはじめ、クラスのみんなが俺の存在を認めて話しかけてきたし、俺から話しかけても拒絶することなく、むしろ喜んで答えを返してくれた。
だけど、そんな平凡な日々を抜け出していきなりこんな異世界だ。
興奮せずには、いられない。これはやばいぞ、本格的に。暴風雨のなか取り残された洗濯物みたいにぶわっさぶわっさ心が揺れまくってる。
これが、俺が求めてた―。
「―お前、何やってんの」
「ん、いや。これからの素敵な出会いを想像してたんだよ」
「・・・そう、お前変わってんな」
そう言いつつも、煙草でもふかしてそうなヤンキー面で俺の隣で景色を眺める文月。
「なあ、お前、ここが妖力の世界でいうどこらへんだかわかるか?だってここ、“人間の世界”で高校があった場所
とは風景全然違うし」
「知らない。そんな、どこでも知ってるわけじゃない」
また少し、ぶっきらぼうになってきた。
「そうか。でも―・・・、頼りにしてるからな」
その言葉に、文月の眉が、蟻の足の幅くらいだけ少しぴくりと動く。
「・・・勝手にしとけ。言っとくけど、俺はわざわざお前らを助けたりしねぇから」
「あ、そう」
文月は本当に、相変わらずだ。そんなにたくさんの時間を一緒にいたわけではないが、そう思う。
それに正直、あまりわからないがどこかほんの少しだけむずがゆそうにしている文月はかわいかっった。
誤解のないように言っておく。
俺はホモでもショタコンでも、季節外れの変質者でも、なんでもない。