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昼食を食べるのに人を呼び出すとは、なかなか自分も染まってきたなと思った。


――――

メール履歴を呼び起こし、以前合ったことがある遊び相手を呼びつけた。

『友達にドタキャンされました(涙) 気晴らしにどこか遊びに行かない?』

――――


昼食後、その相手とホテルへ行った。休日はだいたい、こんなことの繰り返し。

今日の相手は、以前知り合ったアパレル関係の店員で、長身細身だった。

一通りコトが済み、日が傾く。

相手は別れ際に金銭チップを渡してきた。『今、お店が順調だから』と。ここで財力を見せるのは、自分を繋ぎとめて置きたいという心理からだろうか。それとも自身の自惚れか。

『売り』をしたみたいな感じがした。が、相手がくれるというのだ。貰わない手はない。

陽が沈んだ頃合だというのに、街は未だに熱気が立ち込める。まるで街全体がドーム状の施設の中なんじゃないかと思えるほど。

今日の栄養補給も済んだので、とりあえず帰ることにする。

ホテルに行っている間に、ミキからまたメールが来ていた。






『じゃあ、部屋行けばいいね!お店が終わってからだから、とりあえずどっかで遊んできなよ☆』


メールの内容を見る限り、夜の仕事自体は続けている様だ。

あの飽きやすい感じたっぷりなヤツが、よく続いていると思った。これは後に本人に聞いた話だが、夜の店といえど簡単に潰れるらしい。なので、現在は4件目だという。

時間換算すると、結局1年程度で店を転々としていることになるのだとか。

何故かアイツは、そんな事を嬉しそうに語っていた。

勝手に泊りに来ると言うわりには、どこか外で会おうみたいな言い回しなのは、いつものこと。

その辺りは無視することを自分は学んでいた。

下手に外で会うと、例にならって、ラーメンにつき合わせられる。もしくは迎えに来いという意味か。

どちらにせよ、陽が落ちても暑いままの街を、好き好んで歩き回りたくはない。

部屋に戻り、冷蔵庫からジュースを取出し飲む。シャワーを浴び、窓辺で夜風にあたる。

ミキの仕事は深夜に及ぶ。つまりアイツがやって来るまでは、結構時間があるのだ。

タバコを取り出す。タバコを吸い始めたきっかけは、やはり大学の連中が関わっているが、決して依存はしていない。それは自身を持って言える。日常生活をしている上では、殆どタバコは吸わない。

だが、帰宅してからこういった空き時間があると、止まらなくなる。

何かしなくてはと思い立つも、すぐに気分を制して、何もしないよう勤める。

普段の生活が厳しい為か、休日まで生産性を求めてしまう自分に、嫌気が差す。

『何か』をしても、しなくても、ストレスが溜まらないようにすることが大事だ。

「……」

結局パソコンを開き、仕事の書類を整理した。往来の生真面目さは、なかなか抜け落ちていないらしい。それは随分と良い事ではあるのだろうが、今の《・・》自分には邪魔だ。

なんとなくテレビをつける。

最近のバラエティの質の悪さには、誰しもがいきどおりを感じているに違いない。

結果、録画していたドラマを見ることにした。

内容は、二人の刑事が事件の真相を追うアクション系のものだった。

こういうモノも、最後は警察内部の闇に触れていき、最後はそれを公開する流れなのだろう。

適当に話の流れを予測する。

たとえ予想通りでなくても、そのドラマを最後まで見る気が無いので、どちらでも困らない。

精々日常での話題つくり程度だ。前回の内容も覚えていない。

興味もないので、斬新とも思わない。

BGMとしての機能と化したテレビ。それに対する感心なんて余分だった。

カタカタ。カタカタ。

キーボードを打つ音と、ドラマのセリフが交差する。

依然、日付は変わらないまま。書類整理を終えると、やはりタバコを吹かし始めた。





その日の深夜。

ミキが部屋に着てからの事は、恐らく誰もが予想通りの展開だったに違いない。

予想の差があるとするなら、せいぜい『シャワーを浴びた』か、どうかだろう。

どちらからという訳でないがコトに及ぶ。

どれほど間、乱れたか。それともあまり時間は経過していないのか。

互いに互いを求めるようなキスをする。

一瞬。頭をぎる不安、疑念。

(ほんとにミキは求めてくれているだろうか……)

だが今は、僅かな疑念も、感じる熱によって薄れていく。

何もかも壊したくなるように狂いたい。

体中の熱を吹き飛ばしたい。

原始的とも思える欲求が、アタマを満たす。叫びたくなる快感は、足先から頭まで一色に塗りつぶされる。

ミキの手も体温も視線も、今は独占中だ。

そう思うと、カラダの芯がかゆくなるような感覚がする。

それが気持ちいい。

それが恐ろしい。

今は一番自分が我侭になれる時。ミキのことを無視して快感に浸る。

躯体カラダは独占している。しかし、心にまでは手が届かない。

その空白感が心地よく、

その距離感がどうにも虚しい。

世界の果てまで行ったかのような。一方通行でも構わない。

深い海に沈むような息苦しさ。

荒くなる自分の息遣いは、恐らくもう限界なのかもしれない。





翌朝。

といっても、やはり10時頃。自室のベッド。

ほとんど昨日と同じ姿をしていた。

昨日と違うところは、部屋ここにもう一人いること。

そのもう一人が、冷蔵庫を勝手に開けて、中身を漁っている。

「あれ?ジュース勝手に飲んだな?」

勝ってに上がり込み、勝ってに居座りつき、家主不在中に知らない他人を連れ込むようなヤツのセリフじゃないと思う。

無言で訴えるも、通用しないのは判りきっている。

しぶしぶ|(?)ミネラルウォーターのボトルを出したミキ。ガラステーブルの前に座り込んで、携帯を弄りだす。

互いに付き合ってる訳じゃないことは自覚している。だから互いのことは基本的に干渉しない。

だが、ミキのメールの相手が気になってしまうのはどうしようもない。

……。

昨夜、良かったのは確かだ。

首輪を付けたつもりでも、やはり掴み所のない男。いつでも、飛んで何処へでも行ってしまいそう。

そんなコイツが、羨ましい。

我侭なんじゃない、コイツはただ単純に素直なだけなのだ。

間違いも正解も、ミキはきっと関心ない。

だから憧れ、つまり憎たらしい。

すべて見透かしている様で、その実、何も考えていない様で。

ミキと一緒に居ると、自分もそう成れそうな気がした。が、コイツ居ないことを思うと、やはり自分が定まらない。

結局、満足いく自分がイメージできない。

白でもない。黒でもない。しかし、どちらにでもなってしまう自分

何もかもがあやふやで、スッキリしない。

コイツのせいなのに……。

きっと、コイツのせいなのに。

「ミキ……道明ミチアキ。やっぱりなんか、つまらない」

タバコに火を付けながら、上半身裸の男は、振り向きもせず返事した。

「え?……ああ、そう」

___END

楽しんで頂けたでしょうか。

最後の1行が言わせたかっただけですが、それだけじゃ面白みがない。

ということで、ユウキの1人称は『自分』になりました。


アダルティかつワイルドな男感が出せていたでしょうか?

途中で気付かせないように、言葉選びが楽しかったです。

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