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陽はすっかり昇っていた。

ベッドから起きてシャツを羽織る。

夏だからといって何も着ないで寝るのは、我ながらだらしないと思った。

寝起きの低血圧に、気ダルさを隠さない表情をしてるに違いない。

とりあえずタバコを探す。ガラステーブルの下に財布と一緒に投げ出されていた。

自分では割と真面目な性格だと思っていたが、案外横着なようだ。

一人暮らしも長くなるので、もう習慣となってしまっているのだろう。

早速一本ふかす。

……。

そうだ。

今日は土曜日。仕事もないから、ゆっくりしてられる――


『ピンポーーン』


――わけでもなかったらしい。

時計を見ると10時を過ぎたくらい。何か約束事や用事があっただろうか?

覚めきらない頭で考えながら、今週末のスケジュールを思い出す。

昨夜は仕事を切り上げてから帰宅し、近くのクラブへ行った。

ナンパして喋って、それから……。

……。

『ピンポーーン』

寝起きの部屋の主の思考を無視して、呼びコールが再び鳴る。

まだ頭はスッキリしないが、今週末は予定は入れていない筈だったが。

玄関へ向かい、ドアを開ける。

そこに立っていたのは、小柄なスーツ姿の女性。

いかにも真面目そうな雰囲気と、初々しいほどに着慣れていない感じを出すスーツ。

彼女は、出てきた自分の顔を見た途端に、

「え?あ、あの、……え!?え!?」

なんて慌て始める。

自分の顔をまじまじと見たかと思うと、何故か表札を探し始めた。

(おいおい。表札はあっても、名前なんて入れてないぞ?)

呼び鈴を押しておいて、こういう反応なのは、どういう了見か。

咥えタバコのまま、

「なに?なんかの勧誘?新聞も取ってないんだけど」

と言うと、スーツの女性は

「え?あっ。ここの方でしたか?すいません。私、部屋を間違えて訪ねたみたいで……」

と、あたふたする。何も書いていない表札をまだ見ている。

それを聞いて

「ふうん。じゃあ」

そう言ってドアを閉める。

ドアが開いた瞬間のキラキラした表情が、一瞬にして驚きへと変わる様は、正直イラッときた。

キッチンに向かい、冷蔵庫から適当にペットボトルジュースを取出し、そのまま飲む。

少しは頭がスッキリしてきた。



ようやく昨晩のことを思い出した。クラブでナンパした相手と、飲みに行き、そのまま帰ってきたんだ。

良かった。特に"メンドウな事"はしていない。なっていない。

携帯のアドレス帳を開く。

仕事用、友人用、その他、遊び用。

とりあえず、昨晩増えた遊び用のアドレス数件を一気に消す。受信メールの相手が判らないのは纏めて着拒。



夏の午前。

まだまだ熱い日常。

一時間ほど、テレビをつけてボーっとしていただろうか。

唐突に、クーラーを求めて避難地《図書館》出かけることにした。


部屋を出るとき、なんとなく表札を見た。

『トノミヤ ユウキ』

……。

下手な字で自分の名前が書いてあった。

マジックで。

表札はプラスチックのプレートを固定具に差し込むものだ。

……。

自分以外の者の下手な字で自分の名前が書いてあった。

油性マジックで。

どうせ犯人はわかっている。

プレートを引き抜き、裏返しにした。

『外出内』

……っ!

くそっ!外出内ってなんだ?外出中じゃないのか?

いや、字の問題じゃない。たとえ字が合っていたとしても許しがたい。

犯人に今度会ったら、問い詰めて縛り上げてやる。 




マンションでのひとり暮らしを始め、もう4年だろうか?

大学を卒業してからずっと使ってる部屋には、案外散らからないものだと感心した。自分の性格が出ているだろうか。

物を買わないで遊び歩いていたのが原因な気もしないが。

大学の友人達は、『物が少な過ぎ』などと言っていたが、正直生活に関わるのはテーブルとベッドだと思った。なので、それ以外はあっても無くても困らないのだろう。

実際、レポートも資料も電子化された現代。パソコンひとつで社会を渡るのは簡単だ。




昔の話だ。

昔と言っても自分が大学生だった時のこと。

大学時代の友人、ミキ。

アイツはよく笑うヤツだった。

仲間内でもアイツの評判は良く知れている。

いわゆる『遊んでるヤツ』。

特定の相手と付き合うようなことをせず、毎晩遊び歩くなんて常。相手からはよく金も貰っていたんだとか。

ミキ本人の弁としては、

『金目当てじゃないし、お互い楽しんだんだから問題ない』んだとか。

行き当たりばったりの様で計算尽くした様でもある。

自由奔放なヤツだと思う。すべて自分中心なその振る舞いに苛立ちを覚え、それと同時に憧れた。

周りの評価を気にせず、己を通した生き方。

自分自身に絶対の信頼と自信を持つ……、ということだと今のうちは勘違いしておきたい。

そんなアイツと、真面目を絵に描いたような自分。いつからウマが合うようになったのか。

ミキと似たような仲間と一緒に居ることが多くなり、夜はイロイロと遊びを仕込まれた。

ミキからはよく、

『お前、背高いし顔もイケてる。遊ぶのに困らないんだから、真面目に生きてたら損だよ』

なんて言われてた。

真面目……か。

自分のなかで、ミキの生き方がどういうモノか判らなかった。

気に食わない一方で、同じ様に振舞いたい自分がいる。

規則や世間体を守るのが正しいか?

自分の思うままの未来に歩むのが正解か?

楽しいことを楽しむのに、何故悩むのか、自分も判らなかった。

いつだったかある日。

そんな悩みともいえないようなことをミキに話したとき、アイツは

「つまんない。とりあえずアタマん中、飛んじゃえばどっちがイイか判るでしょ?」

と、キスしてきた。

「たまにはイイ事しようゼ!お前は遊びが判ってないから悩んでるんでしょ?」

と笑うアイツの顔は今でも覚えている。……というかアレはレイプ魔の顔だ。目がヤバかった。

その後でも、やっぱりわからない。

とにかくアイツに憧れてた。そのことだけは再確認できた。

ただ、それだけだった。



炎天の元、陽に居る夏虫共の合唱が脳にウルサイ。

内心はそんな風なのに、外面はどこ吹く風。涼しい顔をして街を歩く。

マンションから歩いて15分くらいの位置に、図書館がある。

最寄のコンビニより近い立地条件というのは、どうかとも思った。が、仕事柄調べ物に適している図書館が部屋から近いのは、儲けものなのだろう。

コンビニ弁当に頼るような生活はしていないので、丁度いいのかもしれない。

法務局《お役所》で働き、仕事帰りに資料になりそうな物を漁り、借りてきた冊子を部屋で読みながらパソコンで、アウトプットを作る。そんな生活《日常》だ。

部屋でインターネットも出来るが、ネットの情報は量が多い分当てにならない。

書類や書籍ならそれ自体がソースになり、確実な前例として突き付けられる。○○参照と書いておけば済むのがなにより手間が掛からない。


図書館に着くまでに何度もハンカチで汗を拭いた。シャワーを浴びたいと思った。

しかし、シャワー室のある図書館は全国の何処にも無い。そう考えると漫画喫茶の方がグレードが高いように思える。流石に料金を取っているだけのことはある。

時刻は12時頃。

世間の夏休みともなれば、学生達が集まる場所。受験を控えた学生は、開館とともに来るヤツも居るので、学習ルームの隅という昼寝場所ベストポジションが取れなくなることもある。そうなるとレファレンスルームしか使えない。寝ている隣に誰か座るなんて、最悪だ。


建物内に入ると、まず資格コーナーへ向かう。

適当に資格取得の参考書を手に取り、学習コーナーへ。

狙い通り、隅の席は空いていた。座席に座り参考書を適当に開き、寝る。

洗練された一連の動きには、1ミリの動揺も無い。コレも、ミキたちに教わったものだ。

目を閉じ、午後から明日にかけてのスケジュールを考える。

昼食を取り、都心で服でも見て回ろうか。晩はまたナンパして、遊びに出かけようか。明日は朝から飲めるところに出かけようか。今年に入ってまだ海に行っていないな。暑いのは嫌だけど。

今では毎日の様に遊びあるいている。給料という供給がある分、学生の頃より遊んでいる。

仕事の方は、自分のペースを調整できるようになれば、いつも忙しい風を装えるので、いつも定時で帰れるし、無理難題を押し付けられることもない。出世する気はないのだが、給料は上がって欲しいので、淡々と続けている。

自分は何故か、役所で勤められる程には勉強は出来た。ミキたちとつるんでいた自分が、何故かと今思うと不思議だ。

アイツらは、勉強している感じがしなかった。でも、自分の知らない、さまざまなことを知っていた。中でも感心したのが、世渡りの上手さだった訳だが。

なにせ、他人の自分に対する評価を下げることで、自身の活動のハードルを下げるという荒業をやってのけていた。

遅刻常習犯なら、そのうちに遅刻をカウントされなくなるだなんて発想は、目の当たりにした時目眩を覚えた程だ。

他にも、発言力のある教諭には、さも友達かのように接し、他の教員より近しい関係を築き上げる。

そんな様なコトばかりしていた。


ぶっちゃけ、最後のオチがしたいだけ。

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