taro side
風呂から上がり、寝室に戻った僕が見た光景は、なんとも信じがたいものだった。
ベッドの上に、布団も被らず大の字で眠る1人の少女が居たのだ。
目を瞬いて状況を整理する。彼女は、クロがとうとう拾ってきた人間、女子高生である。
「風邪、引きますよ」肩を揺すってみたものの、疲れからかぐっすり眠っており、起きる気配はない。
それにしても……。
「……無防備」バスローブで大の字は無いだろう、大の字は。年下は範囲外だからよかったもの。というよりも、僕は男として見られていないのだろうか。もっと警戒するべきだろう。
足を閉じさせ、再度呼びかけてみる。
「僕の寝るスペースがないんですけど……えっと、花子さん?」
「……やめて、下さい。トイレの、花子さんみたいで、いや」むくっと彼女は起き上がるなり、俯きながら小さな声でそう言った。
「じゃあ、花子?」
寝ぼけているのだろうか、彼女は僕の着ているバスローブの袖をキュッと掴み、首を横に振る。
なんだろう……。クロやサーに感じるのとはまた違う愛おしさを、彼女に感じた。ような気がした。
「そうですねぇ、じゃあ」自分で花子だと言っておいて、そう呼ばれるのが嫌だなんて、困ったもんだ。
そう思いつつも、違う呼び方を必死に考えている自分が居て少し驚いた。
今日が初対面で、ましてや10歳の年齢差。どう考えても有り得ない。
ウチに来いと言ったのは、昔の自分を思い出したのと、保護者的な立場と感情で言ったはずだった。
でも今、彼女に袖を握られ、それだけなのに不覚にも心拍数が……正常ではないように思う。
「……?」
急に胸元に重みがかかったので不思議に思い、下を見てみると、そこには、向き合って座っていたはずの彼女が、前のめりになり自分にもたれ掛かっていた。
「ええと、大丈夫ですか」
「……はな」
「え?」
「はあ、な」
「ああ、呼び方の事ですか」
「…………」
しばらく待ってみたが、返事が返ってこない。彼女、はなの額は、まだぴったりと自分にくっついたままである。もしかして……。
ヒョイと顔を覗き込んで見てみれば、すやすやと寝息をたてている。まぁ予想通りだが。
どうやら本当に疲れていたらしい。
「けど、無防備すぎです」溜息混じりだったが、これが呆れから出たものではないという事は自分でも分かった。
何気なく、気持ち良さそうに眠る彼女の頬を摘む。小さくて、やわらかかった。
もう一度摘むと、「はふ」そう声をもらし、面白いくらい凄く嫌そうな顔をする。
起きないよう注意しながらも、その後も何度か試みた。
「ぬぬ」
「ぬぬって」変な声と顔に笑わせてもらったのは言うまでもない。
ああ、なんだ、僕は普通に笑うことも出来るのかと気づいたのは、もう少ししてからだった。