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高速化

作者: 赤椛

世界は、高速化の一途を辿っていた。

通信速度は最早どんな所に居ても一瞬で情報を届けるレベルにまで達し、飛行機は国と国との所要時間をどんどん削った。人間だって、毎年のように100メートル走る時間を少しずつ短くしているのだから、車は言うまでもない。

だが、そんな便利な世界で、ある優秀な博士は一人憂いでいた。

「どうしたんですか?」

優秀な博士の優秀な助手が尋ねる。

「この間、通信速度を0.001秒短くした……」

「実験は大成功。ますます、人々は便利になるじゃないですか」

助手は次の発明の図面。リクライニングシートを倒す速度を早める機械をいじりながら言う。

「そう、それだ。私達は本当に便利になっただろうか?」

「当たり前です。地球の裏側に数分で行けるジェット機。注文した次の瞬間には出来あがる調理器、全てわれわれ人類に必要不可欠なものですよ」

助手は敢えて、この博士の優秀な発明品をあげて、早くこの図面に取り掛かってもらおうとした。

「そう、もうそれは我々にとって無くてはならない。それはなぜか? 私は、ある一つの疑問を持ってしまった。余分な時間を削りに削って、進んでいくこの世界。何にもなかった時代より、一日が短くなっているのではないだろうか?」

助手は働く手を止めた。

「何をおっしゃいますか」

「昔、読んだ小説に、時間泥棒というものが出てきた。まさにそいつがこの時代の時間を盗んでいるのではないだろうか? そうでなければ、こんなにも便利になった世界で、何故、こんなにもまだ時間が足りないのか? おかしいじゃないか」

納期が明日の機械を指さしながら、博士は言う。

「時間が減ってるなんて、そんなわけないでしょう」

「いいや、そうに違いない。昔はもっとたくさん時間があったのだ、だが今は少なくなってしまった。そうでなければ、昔の人は一体どうやって生活していたというのだ? 睡眠高速機も、自動調理器も、光ジェット機もない……雑用だけで一日が終わってしまうではないか!」

「歴史の教科書には少なくとも、昔の時代の方が時間が長かった、なんて書いてませんでしたよ」

「誰も気が付かなかっただけだ。時間とは、相対的なものだ。こうなったら、私達が過去に行って確かめるしかない」

そう言うと、博士はリクライニングシートの図面を投げやり、新しく図面を引きだした。

もともと優秀な博士だったので、数ヵ月後、助手とともにタイムマシンを作り上げた。

「これがタイムマシンと言うやつですか」

「そうだ、早速乗り込んで、時間がたくさんある時代に行ってみる事にしよう」

「もし、博士の仮説が正しいのなら、その世界で仕事を終わらせて、遊んで、休めるというわけですね」

淡い期待を寄せ、二人の科学者はタイムマシンに乗り込んだ。

何十世紀という時を、当然高速化されたタイムマシンは一瞬でその時代に二人を送り届けた。

「やった成功だぞ!」

確かに時間は二人にとっては無限のように感じられた。

「やっぱり過去の方が、時間が長いんだ!」

眠っても、眠っても終わらない一日。二人は久々の休暇を満喫した。

「しかし、古代人は本当に動きが遅いですな」

博士たちが滞在した三日間、全くと言っていいほど動かない古代人達。

「まぁ、そんな事はどうでもいい。過去には沢山時間がある。それだけで十分だ」

二人は満足そうに帰って言った。


古代人達の目に、高速化している世界の高速化された未来人の動きなんて入らなかった。それよりも、明日からいよいよ開通するリニアモーターカーに皆の注目が注がれていた。

古代の人々は互いに手をとり合い、喜んだ。

「これで、また便利になる!」

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