表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

第7話 シシ肉の煮込み

「Bだって!すごいね!お祝いしなきゃ」


 ギルドを出た瞬間、マイが言った。さっきまでの涼しい顔が嘘みたいに、少し浮き足立っていた。


「ここの酒場のシシ肉の煮込みがおいしいんだよ。行こう」


 引っ張られるままについていった。


 酒場は賑やかだった。カラフルな髪の人間が酒を飲んで笑っている。マイは慣れた様子で奥の席に座った。常連らしい。


「これとこれ」


 メニューを指差して注文した。メニューの文字が読めた。日本語だった。でもマイは気にしていない。


 料理が来た。シシ肉の煮込みだった。匂いが懐かしかった。山梨で食べたイノシシの煮込みに似ていた。


「おいしい?」


「ああ」


「よかった」マイが笑った。「これからダンジョンに二人で潜れるね。ダンジョンってね、層になってて、深くなるほど強い魔物が——」


「なあ」


 遮った。


「何か欲しいスキルとかある?強くなりたいなら、私が——」


「なあ」


 もう一度言った。


 マイが口を閉じた。


「この世界、なんかおかしくない?」


 静かに言った。マイが固まった。


「何が」


「全部。文字が読める。飯の匂いが懐かしい。お前が日本語を喋ってる。それだけじゃない」俺は続けた。「お前、俺のこと知りすぎてる。何が食べたいか、何が怖いか、どこに連れて行けばいいか。なんで全部わかるんだ」


 マイは何も言わなかった。


「してみたいことない?とか、何か欲しいものない?とか、さっきから俺に聞いてるよな。まるで、俺が何を答えるか確認してるみたいに」


 マイの目が揺れた。


「それは——」


「お前はなんでこんなに親切にしてくれるんだ」


「助けてもらったから」


「そうなんだけど」


 俺はシシ肉の煮込みを見た。本当に懐かしい味だった。異世界の料理がなぜこんなに懐かしいんだ。


「そうなんだけど、それだけじゃない気がする」


 マイは俯いた。


 長い沈黙だった。酒場の喧騒だけが続いた。


 顔を上げた時、マイの表情が変わっていた。さっきまでの必死さが消えていた。


「……もう無理」


 小さく言った。


「ごめん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ