第3話 迷い人
目が覚めた時、少女はこちらを見ていた。
焚き火の前だった。いつの間にか火が起きている。俺が作った火ではない。脇腹の傷は完全に塞がっていた。さっきの光のおかげだろう。
「起きた」
少女が言った。日本語だ。言葉が通じる。それだけでだいぶ助かった。
「ああ。助かった、ありがとう」
少女はじっとこちらを見ている。
「どこから来たの」
いきなり聞かれた。
「日本。山梨って言ってもわからないか」
少女は少し黙った。
「日本」
発音が妙に正確だった。カタコトでもなく、聞き慣れない様子でもなく。
「知ってるのか」
「え、あ、うん。昔、同じことを言った人がいたって、聞いたことがある」
「同じこと?」
「日本から来たって。迷い人って呼ばれてた」
迷い人。なるほど、俺もそういう扱いになるらしい。
「日本って上手く発音するんだな」
「そう?」
「昔にいたなら、おかしくないか」
少女は答えなかった。焚き火を見ていた。
「名前は」と俺は聞いた。
「マイ」
「俺は、あーニックネームでいいか、カイだ」
マイはカイ、と繰り返した。
「ここはどこだ」
わずかに間があった。
「アオイタ」
「アオイタ」
聞いたことのない地名だった。そりゃそうか、異世界だもんな。
「帰りたい?」とマイが聞いた。
「わからない」と俺は答えた。「今すぐじゃなくていい」
「そう」
マイはそれだけ言って、また黙った。その沈黙は、どこか安心したような色があった気がした。気のせいかもしれない。
「ギルドってわかる?」とマイが言った。
「名前だけ」
「強い人が登録するところ。カイくらい強ければ、登録した方がいい。仕事もあるし、情報も手に入る」
「お前も登録してるのか」
「うん」
「連れて行ってくれるか」
「うん」
マイは立ち上がった。思ったより身軽だった。さっきまで気を失っていたとは思えない。
——借りを返すのは、まだ先になりそうだ。




