第1話 みんな悪くない
マイが話し終えた時、東京は静かだった。
スカイツリーの上から見える街に、明かりはなかった。電気が死んでいるから当然だ。でも星は見えた。こんなに星が見えるのは、ここが東京だからこそ異様だった。
しばらく、二人とも何も言わなかった。
「パパは、マイのお父さんは」とカイは聞いた。「今どこにいるんだ」
マイは膝を抱えたまま、星を見ていた。
「いない」
「いない、というのは」
「疲れてたんだと思う。1年くらい、魔法の使い方を教えてくれた。魔素の定義とか、魂の仕組みとか、どういう魔法が魔力が少なくて済むかとか。それまでの日本で研究されてたことを全部。そんな感じに、あたしが生きていける方法を教えてくれた」
マイは少し間を置いた。
「それが終わったら、いなくなってた」
カイは何も言わなかった。
「怒ってないよ」マイが言った。「パパはずっと疲れてたから。あたしも、そんなに仲良くなかったし」
そう言いながら、マイは傍らに置いていた古びたノートを取り出した。
「これ、パパのスクラップ帳。あたしが目覚めるまでの記録が書いてある。最後の方は18歳になるまで開けるなって言ってた」
カイに差し出した。
「どうして日本から人がいなくなったのか、最後の方に書いてあると思う。でもあたし、まだ読んでない。怖いから」
「怖い?」
「あたしに関係してることだって、パパが言ってたから」
カイはノートを受け取った。厚みがあった。長い時間をかけて書かれたものの重さがあった。
「読んでもいいか」
「うん」マイが言った。「読んだら返して」
カイはノートを開いた。
マイは星を見ていた。カイが読んでいる間、何も言わなかった。風だけが吹いていた。
どのくらい経ったかわからない。
カイがノートを閉じた。
マイが横目で見た。
「返すよ」
カイはノートをマイに返した。
「ありがとう」
また沈黙が来た。
カイは星を見た。マイも星を見た。
「マイ」
「うん」
「お前のせいじゃない」
マイは何も言わなかった。
「誰のせいでもない」
風が吹いた。
マイは膝を抱えたまま、少しだけ小さくなった気がした。泣いているのかどうか、暗くてわからなかった。
カイはそれ以上何も言わなかった。
東京の夜は、静かだった。




