第1話 角うさぎと魔石
罠にかかっていたのは、角の生えたうさぎだった。
最初に見た時は度肝を抜かれたが、もう三日目だ。驚かない。角うさぎ、と俺は勝手に呼んでいる。昨日も一昨日も捕れた。罠の置き場所が良かったのか、それともここに多いのか。まあどっちでもいい。食えればいい。
手際よく絞めて、解体する。父親に教わった通りにやれば難しくない。血抜きして、皮を剥いで、内臓を取り出す。この作業だけは慣れている。山梨で散々やらされた。もっとも、角が生えたうさぎは父親も見たことがないだろうけど。
内臓を取り出した時、固いものが指に当たった。
石だ。親指の爪くらいの大きさで、薄く光っている。きれいだった。三日間で四個目になる。体の中からこんなものが出てくるのは気持ち悪いが、捨てるのも惜しくてポケットに入れた。
◇◇◇
——さかのぼること三日前。
目が覚めた時、俺はまず女神様を探した。
転移したら女神様がいて、チートをもらって無双する。そういうもんじゃないのか。父親の本棚に何冊かあった。読んだことはないが、だいたいそういう話だと知っている。
でも誰もいなかった。
あったのは見たことのない木と草と空だけだ。仏像もなかった。光に飲まれる前に座っていた場所から、どこかに飛ばされたらしい。
チートも当然なかった。頭の中を確認したが、スキルらしきものは何もない。ステータス画面も出ない。念じても無駄だった。
——なんだこれ。
とりあえず状況を整理した。見たことのない植物だらけ。電波なし。電源すら入らないスマホ。狂ったように大きい木々。それから、そこら中に漂う、なんとも言えない濃い空気。
異世界だ、と結論づけた。
あの仏像が転移装置だったのか、それとも光が原因なのか、理由はわからない。でも考えても仕方ない。今ここにいる。それだけが事実だ。
幸い道具はあった。ナイフ、ロープ、水筒、着火剤。父親に叩き込まれた習慣のおかげだ。山に入るなら最低限の装備を持て。その言葉だけは素直に聞いといてよかった。
◇◇◇
現在に戻る。
うさぎを串に刺して火にかけながら、石をもう一度眺めた。
魔石、とかいうやつだろうか。小説に出てくるやつ。価値があるのかどうかもわからないが、とりあえず集めておく。チートのない異世界転移なんて聞いたことがないが、使えるものは何でも使う。それが猟師の息子というものだ。
肉が焼ける匂いがした。腹が鳴った。
——まあ、生きていける気がする。




