愛する手紙
私の王子様はとってもカッコイイのよ!
私が橋から落ちそうになった時、手を伸ばして助けてくれたの。
その時から私は王子様の虜なの!
私は天使。
天使は羽があるでしょ?
羽があるのに、どうして橋から落ちそうになったんだろうね。
きっと、運命の王子様に出会いたかったからなんじゃないのかな♪
わざとってこと?
ほんとに嫌な女〜
でもね、王子様はね。
死んじゃったのよ。
໑ৎ ׁ ׅ♡
目を覚ませば、目の前に広がる光景は信じられないものだった。
赤黒い空が広がり、真っ黒な城が立っていた。
辺り一面が暗い闇に包まれている。
天使、ギフトは力無く立ち上がった。
自身の羽はボロボロに砕け散り、血痕が飛び散り、ほとんどの羽が抜けていた。
ギフトはボロボロになった翼を見つめた。
(こんなの……天使じゃない……)
ギフトは数時間前のことを思い返した。
天空にはいくつもの天使と悪魔が飛び交い、戦争を起こしていた。翼を失った天使は地上へと落ちていき、命を失った。
ギフトは目の前で王子様が殺された。
王子様は血痕の着いた羽を動かそうと試すが、結局力無くその場に倒れた。
信じられなかった。
ギフトは王子様の傍へより、泣き崩れた。
「どうして……どうして私を置いて居なくなるのですか?!」
ギフトは王子様の手を握った。
冷たい手だった。
ギフトの目の前に天使が迫ってきていた。
ギフトは死ぬことを選び、目を瞑る。
いままでに感じたことのない痛みを受け、ギフトは気絶した。
(気絶して空から落ちたはずなのに……どうしてこんな暗いところにいるの?もしかしてこれが地上なの?)
ギフトが戸惑っていると、前から低い男性の声がした。
「……おやおや、これは、可愛らしい堕天使じゃないか」
ギフトが声のするほうを向くと、そこには黒く長い髪をした男性が立っていた。
男性は凛とした美しい顔に、黒いローブを被っており、とても只者には見えなかった。
しかも、男性からは異様なほどの闇のオーラを感じ、ギフトは血だらけの足を引きずり後ずさりした。
男性はその様子に不敵な笑みを浮かべた。
「そんなに怖がらなくていい。しかし、天使を見たのはいつぶりかな」
男性はギフトに近づき、ギフトの腕を乱暴にあげた。
「痛いっ……」
ギフトは男性の強引な力に抗えなかった。
男性とギフトには圧倒的な体格差があり、ギフトは釣り上げられた魚の様に身体を震えさせることしか出来なかった。
男はギフトの全身を興味深く舐め回すように見た。
ギフトは怖くなって泣き出した。
「うぅ…王子様……助けて」
ギフトの言葉に男は笑みを浮かべた。
「王子様?」
一瞬、男の腕の力が緩んだ隙に、ギフトは男から離れた。
「そうよ!王子様!私の好きな人なの!」
ギフトの泣き叫ぶ様子に、男は眉を下げた。
「そうか。お前には好きな人がいるのか。天使にも、そんな感情はあるんだな」
男がギフトに再び手を伸ばす。ギフトはその手を叩き弾いた。
「やめて!王子様以外の男の人に触られたくないの!」
男は弾き飛ばされた手を見つめた。それから不敵に笑い、ギフトの腰を両手で掴んだ。
ギフトは突然のことに暴れるしかなかった。
「ちょっと!やめて!やめてってば!」
抵抗するギフトが面白いのか、男はさらに口角を上げた。
「恋する天使……興味深いな。お前、名前は?」
ギフトは男の問いを無視してそっぽを向いた。
すると、男はギフトを床に優しく下ろした。
ギフトは慌てて、男の反対方向へと走り出し、翼を広げた。そして、空を飛ぼうと翼を広げ、宙に浮いた。
(私は、天国へ帰らないと!)
再び翼を動かすと、翼が思ったように動かず、バランスを崩して地上に転げ落ちた。
「痛いよぉおおお!」
ギフトは再び泣き出した。
男は後ろからギフトに話しかける。
「お前の翼では、もう空を飛ぶことが出来ないんだ」
男はそう言って不敵に笑った。
ギフトは自分の羽を見つめた。
(こんなにボロボロだから……もう飛べないのね……)
ギフトは涙を流しながら、もうおしまいだと思った。
王子様は死んでしまった。
もう、私には居場所がないのね。
ギフトははっと顔を上げ、男を見つめた。
(いや、違うわ……。終わってなんかいない)
ギフトは震える足で立ち上がり、男の前まで歩いた。
男は無表情のまま、震えるギフトを支えた。
「どうした?」
ギフトはつぶらな瞳で男を見つめる。
「お願い……可哀想な私を拾って!」
ギフトは男の目を見つめる。その目はまるで、捨てられた犬の寂しい瞳だった。
男はギフトを見つめて不敵に笑った。
「いいぞ」
男の満足そうな表情にギフトは目を光らせ、力強く男に抱きついた。
「きゃー!ありがとう!貴方は私の恩人よ!」
男は急に抱きつくギフトに困惑した。
「……情緒不安定だな」
ギフトは男から一旦離れ、微笑みながら男の手を包み込む様に握った。男の手は氷の様に冷たかった。
男は嬉しそうな天使を見て不敵に笑った。
「俺の名はレター。闇の王だ」
「闇の王?」
ギフトは首を傾ける。
「ああ、そうだ。俺は随分と前からここの城にひとりで住んでいる」
「ひとりで?!寂しくないの?」
「寂しい?そんな感情は知らない。俺は生まれた時からずっとひとりだからな」
「そんなことないわ!本当は寂しいと思っているはずよ!」
ギフトの必死な顔に、レターは当たり前だと言わんばかりの表情でギフトを見つめた。
ギフトは繋いだ手を見つめた。
(私が触れるまでは、温もりを知らなかったんだ……)
ギフトは顔を上げた。
「これからは寂しくないね!私とふたりで暮らせるんだから!」
ギフトはにこっと笑った。
その表情を見て、レターは不思議そうに眉を下げた。
「不思議な奴だ。お前は王子様を失ったのに、それでも笑っているなんて……」
「笑わなきゃいけないの!王子様の分まで生きることを楽しまなきゃなの!」
ギフトの真剣な表情でレターを見つめる。
ふたりは数秒見つめあって、レターが視線を外し、歩き出した。
握った手は離され、慌ててギフトはレターに着いていった。
レターについて行くと、そこは城の中だった。
黒い外装とは裏腹に、内装は白く、本物のお城のようだった。
ギフトは当たりを見渡し、目をハートにした。
「素敵♡王子様にお似合いなお城ね!」
レターはギフトを気にせず、王座に座った。
王座はふたつあり、恐らく片方はレターの王妃が座るところなのだろう。
ギフトはふふっと微笑み、隣の王座に腰を下ろした。
「ひとりで住んでるのに王妃の席が用意されているのね!」
ギフトは興奮気味に足をバタバタさせた。
レターはその様子を見てため息を着いた。
「想像以上に騒がしい女だ」
ギフトはレターの言葉を無視して立ち上がり、レターの上に座った。
ギフトはレターを笑顔で見つめた。
「私がここへたどり着いたように、貴方の運命の王妃もここへたどり着くに違いないわ!たのしみね!」
レターは視線を外し、嘲笑った。
「どうぜ女はろくな奴がいない。お前みたいな声が高くて耳が痛くなるような……」
ギフトはうるさいレターの口を手で塞いだ。
「女の子への悪口はだめよ!だいたい、私は声が高くないよ!」
「うるさい……」
「うるさくないわよ!」
ギフトはふんっと拗ねたようにそっぽを向いた。
(王子様はもっと優しかったのに……こんなに顔が怖くて、意地悪じゃなかったのに……)
ギフトは王子様を思い出し、うつむいた。
目から涙が溢れ出して止まらなかった。
「うぅ……どうして私を置いて、死んじゃったの……」
言葉にしても、王子様には届かない。
それでも、涙も言葉も止まらない。
「会いたいよ……」
今すぐに会って抱きしめたい。
でも、そんなことはもうできない。
王子様は死んでしまったから。
ギフトはレターの胸に顔を寄せた。
少しの温もりに今はとても安心した。
「うぅ……ずっとそばにいるって言ってくれたのに……」
ギフトと泣きじゃくる様子をレターは無表情で見つめた。それからギフトの頭に手をぽんっと置いた。
ギフトは突然のことに驚き、固まった。
レターはそのままギフトの頭を優しく撫でた。
「うるさいから、少し静かにしろ……」
言葉は冷たく鋭いが、ギフトを撫でる手は温かかった。
レターの優しさに、ギフトは更に涙を零した。
「うう……」
レターはギフトを見つめ、口を開いた。
「お前、名はなんという?」
「なんで、今聞くの……」
「いいから答えろ」
ギフトは泣きながら答えた。
「ギフト……」
レターは不敵に口角を上げた。
「そうか、お前は天からの贈り物だったのだな」
ギフトはしばらくの間レターの胸の中で泣いた。
王子様、聞こえてる?
どんなことがあっても、私は貴方だけよ。
愛してる。




