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「コード・オブ・メモリア -虚構に咲く約束-」  作者: ささみやき
第二章 霧の谷へ

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第6話 『危惧すること』

村を出てすぐ、石畳の道はやがて土の小道へと変わった。

両脇には背の低い草が広がり、朝露に濡れた葉が陽光を反射してきらめいている。

春人はスリッパの底に伝わる土の感触を確かめながら、ユウと並んで歩いていた。


「この道、王都まで続いてるのか?」


春人が尋ねると、ユウは頷いた。


「うん。昔は交易路だったらしいけど、今はほとんど使われてない。霧の谷を越えるのが危険だから、みんな避けるようになったんだ」

「それでも、地図には道が残ってるんだな」

「記憶の塔に関係する道だから、完全には消されないんだと思う。封記騎士団が通ることもあるし」


その言葉に、春人は少しだけ眉をひそめた。

“封記騎士団”――記憶を封じるために病者を回収する、塔直属の騎士団。

まだ見ぬその存在に、春人は漠然とした警戒心を抱いていた。

それは、ただの不安ではなかった。

“封記騎士団”という名に込められた響き――記憶を封じる者たち。

その役割があまりにも重く、冷酷に思えたからだ。

ユウによれば、騎士団は塔直属の精鋭で構成されているという。

彼らは感情を見せず、命令に従って淡々と病者を回収していく。

村人の間では、「一人で百匹の魔物を相手にできる」と噂されるほどの実力を持ち、

その黒外套は“記憶の影”と呼ばれて恐れられていた。

「戦うための騎士じゃない。記憶を守るための騎士なんだ」とユウは言った。

だが、春人にはその“守る”という言葉が、どこか“封じる”ことと同義に聞こえた。

彼らがもし、ミナの存在を知れば――

容赦なく彼女を塔へ連れていくだろう。

その確信が、春人の胸に静かに根を張っていた。

いずれにせよ、記憶の塔に目指すならば、封記騎士団との衝突は避けられないだろう。


「なぁ、ユウ。ミナのあの状態って……長く続くと、やっぱりまずいのか?」


春人の問いに、ユウは少し首を傾げながら答えた。


「うーん……たぶん、大丈夫だと思う。少なくとも、今すぐ命に関わるって感じじゃない。どうして?」


春人は少しだけ言葉を選びながら、視線を前に向けた。


「この旅、俺たちにとって――かなり過酷なものになる気がする。精神的にも、体力的にも」


ユウは足を止め、春人の顔をじっと見つめた。

そして、口元に薄く笑みを浮かべる。


「……それを承知の上で、旅に出るって決めたんだろ? まさか今さら、おじけづいたのかよ、ハル」

「違う。そうじゃない」


春人は即座に否定した。

その声には、迷いではなく、確かな危機感が滲んでいた。


「俺が気になってるのは……この旅に“戦う力”が必要になるんじゃないかってことだ」


風が吹き抜ける。

草の匂いが、微かに緊張を和らげるように漂った。


「魔物が出るって話もあるし、封記騎士団のこともある。もし、ミナを守るために誰かと戦わなきゃいけないとしたら――俺たち、ちゃんと立ち向かえるのか?」


ユウはしばらく黙っていた。

その瞳は、春人の言葉の奥にある“覚悟”を見つめていた。

そして、静かに答えた。


「……わかってる。僕も、ずっと考えてた。でもさ、ハル。戦えるかどうかじゃなくて、戦う“理由”があるかどうかが大事なんじゃないか?」


春人は目を見開いた。

ユウの言葉は、年齢以上に重く、まっすぐだった。


「ミナを助けたい。その気持ちがあるなら、僕たちはきっと、必要な力を手に入れられる。そう信じてる」


春人は、少しだけ笑った。


「……頼もしいな、ユウ。15歳とは思えないよ」

「ハルが隣にいるからだよ。僕ひとりだったら、こんなこと言えなかった」

「なあ、ユウ。やっぱさ、ある程度はバトルのシミュレーションしといた方がいいと思うんだよな」


春人がふと立ち止まり、空を見上げながらぼそっと言う。


「……ほう。それはつまり、どういう意味かな?」


ユウが片眉を上げて、ニヤリと笑う。

春人は肩をすくめて、にやっと返した。


「模擬戦、やってみようぜ。軽くでいいからさ。お互いの実力、知っておいた方がいいだろ?」

「……ふっ、言ったなハル。後悔しても知らないからな?」

「お手柔らかに頼むよ、先生」

「その余裕、すぐに消してやる」


風が吹き抜ける草原の真ん中で、二人は向かい合った。

それは、ただの遊びじゃない。

これから始まる旅に備える、最初の“本気”だった。







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