第4話 『二人の決意』
ユウは、春人の言葉にしばらく沈黙していた。
その瞳は、ミナの寝顔と春人の横顔を交互に見つめていた。
やがて、彼は小さく頷いた。
「……ハルがそう言ってくれるなら、僕も信じてみたい。ミナを助けられるって」
その声は、震えていた。
けれど、それは恐れではなく、希望の芽生えだった。
ユウの母親が、部屋の入口から静かに歩み寄ってきた。
彼女はミナの枕元に膝をつき、そっと髪を撫でながら言った。
「この子が倒れてから、ずっと考えてたの。村の外に出れば、何か方法があるかもしれないって。でも……王都は遠いし、魔物も出る。子どもを送り出すには、あまりにも危険すぎる」
春人は、彼女の言葉に耳を傾けながら、ゆっくりと口を開いた。
「……理由はうまく言えないけど、今ここにいることには、きっと意味があると思うんです。ミナを助けることが、その答えになる気がして」
ユウの母親は、春人の目をじっと見つめた。
その瞳には、疑念も不安もあった。
だが、春人の言葉には揺るぎないものがあった。
ユウは少し驚いた表情で春人を見つめ、やや戸惑いながらも優しく言う。
「春人、君の言葉には何か特別な力を感じるよ。ミナのために一緒に頑張ろう」
母親は春人の決意を受け止め、温かい笑顔で頷く。
「そうね、理由はわからなくても、あなたがそう言うなら信じるわ。ミナのために力を貸してくれてありがとう」
彼女はそう言って、棚から古びた布に包まれた小さな巻物を取り出した。
それは、王都への地図だった。
「これを持っていって。村の誰もが忘れかけていた道だけど、まだ通れるはず。途中には“霧の谷”と“忘れの森”を越えなきゃいけないけど……」
春人は受け取った巻物を広げ、目を細めた。
地図には、村から王都までの道のりが手描きで記されていた。
その線は、まるで記憶の断片をなぞるように、揺れながら続いていた。
ユウが春人の隣に立ち、地図を覗き込む。
「僕も行くよ。ハルと一緒に。ミナを助けるために」
春人は、ユウの言葉に頷いた。
その瞬間、二人の間に確かな絆が生まれた。
*
夜が更け、村は静寂に包まれていた。
春人は客間の窓辺に座り、星空を見上げていた。
見たことのない星々が、空に散らばっている。
その光は、まるで彼の決意を照らすように、静かに瞬いていた。
――旅は始まる。
ミナを救うために。
そして、この世界の“記憶”に触れるために。




