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「コード・オブ・メモリア -虚構に咲く約束-」  作者: ささみやき
第一章 旅立ちの決意

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第3話 『封印の病と記憶の塔』

春人は、ミナの穏やかな寝顔を見つめながら、静かに言葉を漏らした。


「……彼女を助けられないかな」


その声は、誰に向けたものでもなく、ただ胸の奥からこぼれた願いだった。

目の前の少女は、まるで時間が止まったように眠っている。

苦しんでいる様子はない。けれど、確かに“生きている”気配がある。

ユウはその言葉に、わずかに目を伏せた。

そして、低く静かな声で答えた。


「僕も、ずっとそう思ってた。けど……村の人たちは“封印の病”だって言って、もう希望を持とうとしない。まるで、決まった運命みたいに」


春人は眉をひそめた。


「封印の病……?」


ユウは春人の方を見て、少し驚いたように目を見開いた。


「知らないのか……。じゃあ、説明するよ」


彼は少し考えるように視線を落とし、言葉を選びながら話し始めた。


「突然、意識を失って、目を覚まさなくなる。体は生きてるのに、心が閉じ込められたみたいになる。昔から、そういう人が時々現れて……そうなると、王都から“封記騎士団ふうききしだん”が来て、その人を“記憶の塔”に連れていくんだ」


春人はその名に反応した。


「騎士団……?」


ユウは頷いた。


「塔直属の騎士団。黒い外套がいとうに銀の紋章をつけてて、村の誰とも話さない。感情も見せない。ただ、決められた通りに動いて、病にかかった人を連れていく。まるで……記録を回収するだけの存在みたいに」


春人は眉を寄せた。


「それって……治すんじゃなくて、封じるってことか?」


「そう。“記憶の塔”は、癒しの場所じゃない。記憶を封じて、世界から切り離す場所だって言われてる。誰も中に入ったことはないし、連れていかれた人が戻ってきた例もない。だから……僕はミナをここに留めた。母さんも、王都に送るなんてできないって言ってくれて」


春人は、ミナの顔をもう一度見つめた。

その表情は穏やかで、まるで夢を見ているようだった。

だが、彼女の胸はわずかに上下し、確かに“生きている”ことを示していた。

その瞬間、春人の中で何かがはっきりと形を持った。

目の前の人々は、ただの演出や設定じゃない。

彼らは、確かに“生きている”。

そして、自分は――この世界にいる意味がある。


「……俺がここにいるのは、偶然じゃない」


春人は、誰に向けるでもなく、静かに呟いた。

ミナの眠る姿を前にして、彼の中に芽生えたのは、責任でも使命感でもない。

それは、ただ純粋な“やるべきこと”への確信だった。


「彼女を助ける。それが、俺の始まりなんだ」









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