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「コード・オブ・メモリア -虚構に咲く約束-」  作者: ささみやき
第二章 霧の谷へ

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第11話 『おっぱいの加護を受けし者とポンコツ(かもしれない)少女』

ついにヒロイン登場です

春人とユウは、差し出された書類に目を通しながら、ペンを手に取った。

書類には、名前、年齢、得意分野の記入欄がある。得意なことか……このゲームの世界に来てから木製の短剣しか振ってないからな。魔法は使えないから剣術とでも書いておくか。


「名前、春人。年齢は……17。得意分野は、剣術です」

「ユウ。16歳。得意なことは、剣術と……水魔法がちょっと使えます」


受付嬢は二人の書類を確認しながら、少し首をかしげた。


「ふむ……お二人とも前衛寄りですね。剣士が二人、水魔法が補助程度となると、パーティバランスとしては少し偏っています」


春人が少し焦ったように言う。


「やっぱり、まずいですか?」


受付嬢は微笑みながらも、事務的な口調で続けた。


「悪いとは言いません。ただ、霧の谷のような危険地帯では、回復役や索敵・罠解除の専門職がいないと、リスクが高まります。特に、魔物の巣や古代遺跡では、魔法障壁や毒罠などが頻出しますから」


ユウが少し肩を落とす。


「水魔法で回復は……できないですしね」


受付嬢はカウンターの下から仲間募集用紙を取り出した。


「ですので、仲間募集の際は、回復役と探索系の職種を優先すると良いでしょう。ギルド内にも、ちょうどDランクの聖職者が一人、仲間を探しているようです。希望が合えば、紹介も可能です」


俺は頷きながら、募集用紙に記入を始めた。

【仲間募集】

目的:王都メモリアへの遠征

現在の構成:剣士(春人)、剣士+水魔法ユウ

希望職種:回復役(聖職者系)、探索・罠解除役(盗賊系)

条件:命を預け合える覚悟のある者。報酬は依頼ごとに均等分配。


受付嬢はそれを受け取り、掲示板に貼り出す準備をしながら言った。


「では、まずはFランク向けの依頼から始めてください。実績を積めば、昇格試験の推薦も出せます。焦らず、着実に進めていきましょう」


俺とユウは礼を言い、掲示板へと向かった。

それにしても、ユウが水魔法を使えることに驚いた。いや、この世界の住人なんだから少しぐらい魔法は使えて不思議ではないが、霧の谷に行くまでの道中で魔法が使えるなどのようなことを言ってなかったから。


「ユウ、お前魔法が使えるなら言ってくれたってよかったじゃないか」

「使えるといっても大したことないよ」


ユウは謙遜しているが、俺からみたら羨ましい。あとから教えてもらおう。

掲示板の前で依頼を眺めていると、背後から落ち着いた声がした。


「王都メモリアを目指してるって、君たちのこと?」


振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。

肩までの黒髪をゆるく結び、軽装の革鎧に身を包んだ姿は、機動力重視の探索系――盗賊か、斥候タイプだろうか。

ただ、その顔立ちはまだ幼く、年の頃は十四歳ほど。

琥珀色の瞳がこちらをまっすぐ見つめてくるが、どこか無邪気さも残っている。


「ええ、そうですけど……」


春人が答えると、少女はぱっと笑顔を咲かせた。


「よかった! 実は私も王都に向かう予定で、ちょうど一緒に行ける人を探してたの。名前はミリア。魔法は大体使えて特に探索と罠解除が得意だよ。あと、回復魔法も少しだけ使えるの」


ほう、なるほど。この世界にも大人をおちょくる子どもが居るのか。

こういう子どもに一度舐められると、この先一生おちょくられる。つまり、第一印象が大事だ。

俺は、できるだけ柔らかく、でも“上から目線”を意識して言った。


「あのね、君みたいな幼い子が魔法を使える訳ないよね。嘘をついたら駄目だよ」


ミリアは一瞬きょとんとした顔をした後、口元を引き結んだ。


「……嘘なんか、ついてないもん」

その言い方がまた、妙に芝居がかっていて、余計に怪しく感じる。

俺はユウの方をちらりと見た。彼も少し困ったような顔をしていた。


「春人、ちょっと言いすぎじゃない? ギルド登録してるって言ってたし、魔法が使えるかどうかは……


「いや、ユウ。こういうのは最初が肝心なんだ。舐められたら終わりだぞ」


そう、ガキに舐められたれ終わりだ。

俺はそれを、現実世界で痛いほど思い知らされた。


あれは中学二年の夏。

友達から借りていた“ちょっと大人な雑誌”を、部屋の本棚の奥に隠していた。

完璧な隠し場所だった。誰にも見つかるはずがない――そう思っていた。

だがある日、家に遊びに来た近所のガキ(小学生・破壊神タイプ)が、俺の部屋で勝手に物色し始めた。

そして、見つけてしまったのだ。俺の“秘蔵の一冊”を。


「ねえねえ、これなに? おっぱいいっぱい載ってるー!」


その声は、家中に響き渡った。

俺の母親は絶句し、父親は咳払いをし、妹は冷たい目で俺を見た。

そして翌日――そのガキは、近所の子どもたちにこう言いふらした。


「春人くんって、“乳神様”なんだよ!」


……俺は、終わった。

その夏、俺は“乳神様”として地域に名を刻み、夏祭りでは屋台の兄ちゃんにまで「おう、乳神様、焼きそばでいいか?」と声をかけられた。

学校では「おっぱいの加護を受けし者」として、謎の称号を授けられ、卒業までその名で呼ばれ続けた。

だからこそ、今――このゲームの世界でも、俺はブレない。

たとえ相手が小柄な少女でも、魔法が使えるって言われても、まずは疑ってかかる。

それが俺の、“乳神様”からの進化の証なのだ。




俺は苦い記憶を思い出しながら、ミリアの腰のポーチに目をやった。

中には、薬草の束と小瓶がいくつか。……見た目だけなら、確かにそれっぽい。

でも、見た目だけなら誰でも真似できる。問題は中身だ。


「じゃあさ、証明してみてよ。ここで魔法を使ってみて。なんでもいいから」


ミリアはしばらく黙っていた。

その瞳が、少しだけ揺れたように見えた。


「……分かった。じゃあ、見せるよ」


彼女はポーチから小さな水晶玉を取り出し、両手で包み込むように持った。

そして、静かに目を閉じる。


「《水精の囁き》」


その瞬間、水晶玉の中に、淡い青い光が灯った。

空気がわずかに湿り、俺の頬にひんやりとした風が触れる。


「……っ!」


俺は思わず言葉を失った。

確かに、これは魔法だ。しかも、詠唱も魔力の制御も、素人のそれじゃない。

ミリアは目を開け、少しだけ得意げに言った。


「これで、嘘じゃないって分かった?」


ミリアが水晶玉を掲げ、淡く光る水の粒を見せつけるように言った。

確かに魔法だ。けど――


「……あれ? あれれ? ちょっと待って、もう一回……」


ミリアは慌てて水晶玉を振り、もう一度詠唱を始めた。


「《水精の囁き》……《水精の囁き》……あれ? あれぇ?」


光は消え、代わりに水晶玉がぴたりと沈黙する。

沈黙する俺たち。

沈黙する受付嬢。

そして、ミリアの額にじわりと汗がにじむ。


「……あ、あれ? さっきはちゃんと出たんだけどなぁ……」

「……おい」


俺は思わず声を低くした。


「お前、ほんとに魔法使えるのか?」

「つ、使えるよ! たぶん! 昨日は成功したし、今朝も……あれ? いや、あれは夢だったかも……」

「おい」

「ちょ、ちょっと待って! ちゃんと訓練はしてるの! でも、たまに気まぐれで……その……」


ユウが苦笑しながら俺の肩を叩いた。


「春人、たぶんこの子、実力より勢いで生きてるタイプだよ」

「見りゃ分かる」


ミリアはしゅんと肩を落とし、ぽつりと呟いた。


「……でも、どうしても王都に行きたいの。絶対に、行かなきゃいけない理由があるの」


その声には、さっきまでの調子とは違う、真剣な響きがあった。

俺とユウは顔を見合わせる。


「理由って……何かあるのか?」

「……それは、まだ言えない。でも、どうしても行かなきゃいけないの。だから、お願い。連れてって。役に立てるように、頑張るから!」


ミリアは頭を下げた。

その姿は、年相応の小さな背中で、どこか放っておけないものがあった。


「……はぁ。分かったよ。とりあえず、初依頼で様子を見よう。実力は、それから判断する」

「ほんと!? ありがとうっ!」


ミリアはぱっと顔を上げ、満面の笑みを浮かべた。

その笑顔に、俺はなんとも言えない不安と、ほんの少しの期待を抱いた。

こうして、ポンコツ(かもしれない)少女・ミリアを加えた三人パーティが結成された。

王都への道のりは、思っていたよりもずっと賑やかになりそうだった――。
















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