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「コード・オブ・メモリア -虚構に咲く約束-」  作者: ささみやき
第二章 霧の谷へ

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第9話 『初戦闘』

ユウは一歩、後ずさった。

心臓の鼓動が耳に響く。

目の前にいたはずの“ミナ”は、今や異形の魔物へと姿を変えていた。


「くっ……僕は、何を……!」


ユウは自分の手を見つめる。

幻影に触れようとしていたその指先が、震えていた。

春人の声がなければ、今頃――。


「ユウ、下がれ! こいつ、動くぞ!」


春人の叫びと同時に、魔物が地面を蹴った。

その動きは人間のそれではない。

関節が逆に曲がり、腕が異様に伸びる。


「来る……!」


春人はすぐにユウの前に立ち、構えを取った。

木製の短剣では致命傷は与えられない。

だが、時間を稼ぐことはできる。

魔物は口元を裂けるほどに開き、奇怪な声を発した。

それは言葉ではない。

記憶の断片をなぞるような、誰かの“声”を模した音だった。


「……やっぱり、記憶を喰らう魔物か」


春人は低く呟いた。

霧の谷に棲む魔物――人の記憶に触れ、幻影を見せ、心を揺さぶる存在。


「ユウ、立てるか?」

「……あぁ。もう大丈夫。ミナじゃないって、分かった」


ユウは震える手で短剣を握り直し、春人の隣に並んだ。


「なら、行くぞ。二人で、こいつを倒す!」


魔物が再び跳ねた。

その爪が春人の肩をかすめ、布が裂ける。

春人はすぐに反撃に転じ、短剣で魔物の腕を弾いた。

ユウも横から踏み込み、魔物の足元を狙う。

連携は完璧ではない。

だが、互いの動きは確かに噛み合っていた。


「ハル、右に回って!」

「了解!」


春人が魔物の背後に回り込み、ユウが正面から牽制する。

二人の動きが交差し、魔物の動きに乱れが生じる。


「今だ、ユウ!」


ユウが跳び上がり、短剣を魔物の胸元に突き立てた。

木製の刃が深くは刺さらない。

だが、魔物は霧のように揺らぎ、形を崩し始めた。


「……消える?」


春人が目を凝らす。

魔物の体は、まるで記憶がほどけるように霧へと還っていく。


「幻影を破った……のか?」


ユウは息を整えながら、霧の中に消えていく“ミナ”の姿を見つめていた。

その瞳には、迷いも、後悔もなかった。


「……ありがとう、ハル。僕、危なかった」

「気にすんな。これから一緒に、さらに強くなろうぜ」


春人は笑いながら、ユウの肩を軽く叩いた。にしてもこのゲームの世界に来てから初めての戦闘だった。

そもそもこの世界が本当にゲームの中かなんて確証なんてないけど。もしかしたら、異世界かもしれないし。いずれにせよ、今の一戦は何とか切り抜けた――そう思った矢先だった。


「……ハル、やばい!」


ユウの声が、鋭く空気を裂いた。

春人が振り返ると、霧の奥に――先ほど倒したはずの魔物が、数体、こちらを睨んで立っていた。


「おいおい、マジかよ……復活とか、聞いてないぞ」


その数は三体。いや、四体か。

霧が揺れるたびに、輪郭が増えていくように見える。

気づけば、二人は完全に囲まれていた。

春人は短剣を握り直し、ユウと背中を合わせる。


「……どうやら、安堵してる暇はなかったみたいだな」

「うん。ここからが本番だよ、ハル」


魔物たちは、霧の中から次々と姿を現した。

先ほどの幻影と同じ姿――ミナの顔を模した異形。

だが、その数は明らかに異常だった。


「五体……いや、もっといる!」


ユウが声を上げる。

霧が揺れるたびに、新たな影が浮かび上がる。

十体、十五体――数える暇もないほどの数が、二人を囲んでいた。


「おいおい、マジかよ……これ、さすがに無理だろ!」


春人は短剣を構えながら、ユウの背中に張りつくように動いた。

敵の動きはまだ鈍い。

だが、囲まれている以上、持久戦は不利すぎる。


「ユウ、ここは撤退だ! 今ならまだ抜けられる!」

「……了解!」


ユウはすぐに判断を切り替えた。

二人は背を向け、霧の谷の入口へと駆け出す。

魔物たちが一斉に動き出す。

地面を這うような足音が、霧の中で不気味に響く。


「ハル、右から来てる!」

「分かってる!」


春人は短剣で霧を裂くように振り払い、進路を確保する。

ユウは後方を警戒しながら、魔物の接近を防ぐ。


「くそっ、出口はどっちだ……!」

「声を頼れ! 僕の声、聞こえるか!」

「聞こえてる! そのまま真っすぐだ!」


二人は互いの声を頼りに、霧の中を突き進む。

幻影が揺れ、記憶がざわめく。

だが、今は迷っている暇はない。




――そして、数分後。

白い霧が少しずつ薄れ、地面の感触が変わる。

視界が開け、谷の外縁が見えた。


「出た……!」


春人が叫ぶ。

ユウもすぐに追いつき、二人は谷の外へと飛び出した。

魔物たちは、霧の境界を越えることなく、谷の中に留まっていた。

まるで、そこが彼らの“領域”であるかのように。



*

二人はしばらく息を整えながら、谷の出口に腰を下ろした。

背中には冷たい汗。

心臓はまだ、戦闘の余韻で高鳴っている。


「……あれは、無理だったな」


春人が苦笑する。こちらの準備不足としかいいようがない。


「うん。あの数は、さすがに無理。でも、逃げられてよかった」


ユウは空を見上げる。

霧の谷は、静かにその姿を保っていた。


「ユウ、あれどう攻略する?魔物の数が多すぎなんだか」

「霧の谷は危険だと知っていたけど、ここまでやばいとはね」


事前に準備して二人でまた、霧の谷に入っても攻略するのは難しい。


「どうしたものか……」


春人がそう小さく呟いた。すると、ユウが立ち上がり、こう言った。


「仲間を探せばいいんだよ」

「仲間っていってもな、どう説明するんだよ。『王都メモリアに行くために最短ルートであるこの霧の谷と忘れの森を突破したいです。』って馬鹿正直に言うのか。別のルートで行けと言われるのがオチだぞ」

 

王都……記憶の塔に行くためのルートは他にもある。だが、そのルートはリクヴィル村からは遠回りで最低でも徒歩だと2年以上かかる道のりだ。それに比べて、最短ルートは徒歩で二か月弱。ミナの状態も考えると出来るだけ早く到着したいのだ。例え危険を冒しても。


「しかし、ハル、二人だけはキツイぞ。それにまだ、探していないのにそう断定するのは早いぞ」

「分かったよ。とりあえず仲間を探すか」


俺たちは、霧の谷を突破するために仲間を探すことにした。













これからは毎週月~金の21時にエピソードを投稿します。

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