ほとれとた〜一途な青年〜
登場人物。
吉(28)
口は悪いが気前が良い
お菊(26)
吉の妻
豆太(28)
情に厚く涙脆い
女将さん(37)
姉さん気質な気立の良い人
涼(24)
真面目で一途な青年
蓬子(31)
優しく穏やかな性格
おみく(20)
明るくて可愛い
着物屋でバイトをしている
〜惚れた〜
涼の仕事終了後。
夕方。茶屋。
吉「なぁ涼よ、実は隠れて浮気してんだろ?どうやってやってんだ?あの女将さんの目を欺くたぁすげえじゃねーか」
涼「してませんよ」
豆太「またまた〜、浮気しない男なんていないって!」
涼「一緒にしないで下さいよ」
吉「何だとー!?」
涼「というか吉さんと豆太さんはしてるんですか?」
吉「ああ、いや、豆太はそもそも相手がいないから浮気もくそもねーのよ」
豆太「あー!お前またそれを言う!」
吉「へへーんだ」
涼「じゃあ吉さんはしてるんですか」
吉「おうよ、浮気は男の甲斐性だ!」
涼「そうですか、でも僕はいいです」
吉「あん?」
涼「浮気する時間があるのなら蓬子さんと一緒にいたいですから」
涼の目は澄み切った目をしている。
吉「うお!そんなキラキラした目で俺を見てくんじゃねー!」
豆太「一点の曇りのない目してるなぁ・・・」
豆太「そう言えば涼と蓬子さんってどっちから告白したんだ?」
涼「僕ですよ」
吉「え!?マジかよ!どんな風に言ったんだよ?」
涼「蓬子さん好きですって普通に」
豆太「なんと・・・涼にそんな度胸があったなんて」
涼「でも、蓬子さん、最初に告白した時もっと若い子にした方がいいよって言ってきたんです」
豆太「え、そうなの?浮かれて即承諾するのかと思ったら」
涼「それでも諦め切れなくて、もう一度告白したんです」
吉「それで?」
涼「そしたら、付き合うけれど私よりいい人が現れたらすぐにその人の元へに行きなさいって」
吉「うおい、泣かせんじゃねーか・・・」
吉が人差し指と親指で目頭を抑えるフリをする。
豆太「うう・・・」
吉「てめーは何マジで泣いてんだよ!」
ベシッと吉が隣で泣いている豆太を叩く。
豆太「いでっ!」
吉「おめーもさっさと惚れた女に告白して来いよ」
豆太「んなこと言ったって・・・」
涼「え!豆太さん好きな人いるんですか?
豆太「ま、まぁな」
吉「ほら、着物屋のおみくちゃん」
涼「ああ、確かバイトしてる方ですよね」
吉「あんな上玉、お前にゃ無理だ、さっさとフラれてさっぱりして来いよ」
豆太「そんなこと分かってるよ、夢くらい見たっていいだろー?」
涼「吉さん酷いなぁ、先のことなんて誰にも分からないでしょう?」
その時。
女将「涼さん、蓬子さん来たよ」
涼「あ、蓬子さん!」
蓬子「ごめんなさい、邪魔しちゃったかしら?」
涼「いいえ!全然です」
豆太「蓬子さん」
蓬子「豆太さん、どうかしましたか?」
豆太が蓬子の右肩に手をポンっと置くと吉も左肩に手をポンっと置いた。
豆太「俺らが悪かった、末長く幸せになんなよ」
蓬子「は、はい、ありがとうございます?」
その時、涼が二人の手を軽くはらう。
涼「二人とも蓬子さんに触らないで下さい」
豆太「おっと、ごめんごめん」
吉「わりーわりー」
〜二人が帰宅後〜
吉「はー、涼の奴、真面目だなぁ・・・」
吉は机に頬杖をついてやさぐれた。
豆太「お前と違って涼はクールで大人なんだよ」
吉「うるせーよ」
女将「ふふ」
吉「女将さん、なんだよ?」
女将「いや、思い出しちまったのさ、涼さんが蓬子さんに初めて会った日から蓬子さんに惚れたほれたって私に言ってきてね、一目惚れだったんじゃないかな」
吉「あの涼がかー?にわかに信じがたいな、確かに蓬子さん美人だけどよぉ」
豆太「確かにそんなこと言う奴には見えないよな」
女将「ふふ、それはあんた達の前ではだろう?蓬子さんの前とあんた達とじゃ雲泥の差だよ」
豆太「ひでーや女将さん、俺らは泥扱いかよ」
女将「おや、言葉のあやじゃないか」
(ああ見えて涼さんは蓬子さんには甘える人じゃないかねぇ)
〜蓬子の部屋〜
帰宅直後。夜。
玄関を閉めるや否や涼は蓬子に勢いよく抱き付く。
涼「蓬子さんー、僕今日仕事頑張りましたぁ♪」
蓬子「お疲れ様でした」
涼「撫でて下さい♪」
涼は上目遣いで蓬子を見る。完全にご主人様に尻尾を振っている忠実な犬だ。
蓬子「よしよし、涼さんはいい子だね」
涼「んー、蓬子さん大好きー」
蓬子「はい、私も大好きですよ」
涼は女将さんの想像の遥か上だった。
吉、豆太、知らない方が良いこともあるぞ!
〜数週間後〜
茶屋。
女将「あら、おみくちゃんいらっしゃい」
おみく「こんにちは」
ガタッ!!
豆太が立ち上がる。
おみく「あら?」
そう言うとおみくはこちらに近付いてきた。
吉「おい、こっち来たぞ、ビシッと決めろよ豆太」
豆太「え!?きゅ、急に無理だよ!」
吉「いいから行け!」
吉は座ったまま乱雑に豆太の背中をドンッと押す。
おみく「あ、あの、これを渡しに来たの」
おみくは顔が真っ赤だ。
豆太「ドキッ、え、手紙・・・?」
吉「うわ、マジかよ!?あの豆太が!?」
涼「ちょっと吉さん静かに!」
吉「わ、わりー」
おみく「あのね、これ涼さんに渡して欲しいの!」
豆太「え、りょ、涼に?・・・わ、分かったよ」
そう言っておみくは去って行った。
豆太は涼に手紙を渡した。
ピラッ。
吉「何て書いてあんだ!?」
涼「ちょっ、勝手に見ないで下さいよ!」
吉「あー!惚れましたって書いてあんじゃねーか!」
ギャーギャー。
豆太「ガーンガーンガーン・・・」
吉「豆太、ドンマイだ・・・」
豆太「うわぁん!!」
吉「あ!こらどこ行くんだ豆太!!すまねぇ、女将さん二人分のお金はここ置いとくぜ!」
女将「はいよ、豆太さんをよろしく頼んだよ」
吉「任せとけ!涼、じゃあな!」
涼「はい」
その日、多くの人が泣きながら走って行く豆太とその後ろを追いかける吉の姿を見たそうな。
その日の夜。
お菊(吉の妻)「あんた!なんだいこの手紙は!」
吉「あん?手紙なんて知らねー・・・うおい!こいつは・・・」
お菊「ほら、やっぱり浮気もの〜!」
お菊がおたまとフライパンを持ってもの凄い形相で吉へと向かってくる。
吉「ば、違うよ!これは俺宛じゃない!」
お菊「だったら何であんたの風呂敷に入ってるんだよ!誰からだい!」
吉「それは言えねぇ!」
お菊「浮気しといて何だいその態度は!」
吉「ひえー!!助けてくれ〜!!」
(涼、あいつめ〜!!)
蓬子の部屋。
涼「くしゅん!」
蓬子「涼さん!大丈夫?」
涼「はい・・・んー、誰かが噂してるのかな?」
蓬子「誰かって誰だろう・・・」
涼「・・・くしゅん(仮病)、蓬子さん、僕もうダメかも・・・でも、蓬子さんによしよししてもらえたら良くなるかも」(くぅ〜ん)
蓬子「よしよし、早く良くなりますように」
涼「わんわん♪」
風呂敷の中から出てきたのは惚れたと書かれた手紙だった。
名前は書かれていない。
涼がこっそりと吉の風呂敷に入れていたのだ。
それを見ていた女将さんは一瞬ニヤリと笑うとお茶の支度に取り掛かるのだった。
番外編。
〜悪夢〜
吉「ここはどこだ?誰かの部屋か?」
辺りを見渡すとどこかの部屋のようだ。
涼「蓬子さ〜ん」
吉「ん?涼か?・・・」
声がする方へ振り返る。
その先には蓬子の膝の上で寝転がっている涼がいた。
涼「ばぶばぶ」
吉「ブフッ!!りょ、涼、お前は一体何してやがんだ?・・・」
涼「何って見て分かりませんか、甘えてるんです、ねー蓬子さん♪」
蓬子「ねー♪」
吉「甘えるったっておめぇ、限度があんだろーがよ・・・お前にはプライドってもんがねーのかよ」
涼「プライドより蓬子さんの方が大事です、ねー蓬子さん♪」
蓬子「ふふ、涼さんは本当に可愛いわねー」
涼「ばぶばぶ♪」
吉「うわぁ!!辞めろぉ!!俺はそういう類のもんは受け付けねーんだよぉ!!」
ガバッ!!
吉は勢いよく布団から起き上がった。
吉「な、何だ、夢か・・・」
次の日。
茶屋。
豆太「え、涼が赤ちゃん化した夢を見た?」
吉「そうなんだよ、それがやけに鮮明でな」
吉が涼をチラッと見る。
涼「や、やだなぁ、吉さん僕がそんなことするはずないでしょう」
吉「そ、そーだよな!悪かったよ変なこと言ってよ」
豆太「ま、夢だもんな」
涼「そうですよー」
(危ない危ない・・・この二人にバレたらいい笑い者にされる)