第5話 崩壊の始まり
今回はリオの元パーティー《黎明の牙》の団長グラン視点の話になります!
リオを追放してから、一週間が経った。
俺たち《黎明の牙》は、次のAランク討伐任務をこなすため、南方の“グレイ岩窟”に向かっていた。
いつも通りの道、いつも通りの手順、いつも通りの布陣。
……のはずだった。
******
「リーダー、あれ……この地図、ズレてねぇか?」
ガルドが眉をひそめて地図を示す。
「おかしいな……この辺に中継の休憩所があったはずだが……」
「昨日見た地図にはちゃんと書かれてましたよ? 私、確認したはずです」
セシリアが首を傾げる。
俺はそれを受け取って確認する。
たしかに、少し違う。道も建物の記号も微妙にズレている。
「……まあ、誤記かもしれない。多少迷っても問題ないさ」
いつもの俺なら、そう言い切る余裕があった。
でも、どこか胸の奥に、嫌なざらつきが残った。
******
グレイ岩窟に着いたのは、予定より半日遅れた夕方だった。
中に入ると、獣の咆哮が響いた。
俺たちは迅速に隊列を整え、突入する。
敵はBランクの魔物・黒影狼。以前も何度か相手にしたことがある、そこまで難易度の高くない相手だ。
――そのはずだった。
「グラン! 左ッ!」
「くっ……!」
俺が気づいたときには、すでに魔物の爪がすぐそこまで迫っていた。
咄嗟にガルドが割って入り、盾で受け止める。
「……すまん。助かった」
「……珍しいな、グランが不意打ち食らうなんてよ」
「……少し、集中を欠いていただけだ」
でも、本当は違った。
気配はあった。いつもならすぐに察知できていたはずだ。
だが、今回は一瞬だけ遅れた。それだけで、致命傷になりかけた。
なんだ、この感覚は。
******
戦いは終わった。勝ちはした。だが、ギリギリだった。
ガルドの盾は割れ、セシリアは腕に深い傷を負った。
俺も、脇腹を切られた。
「……ちょっと、信じられないな」
セシリアが傷口を癒しながら呟いた。
「以前は、同じ魔物相手にここまで苦戦しなかったのに……」
「運が悪かったんだろ。たまたま、だ」
ガルドが口を挟むが、その表情にもどこか疑問が浮かんでいた。
「たまたま……か?」
俺の口からも自然と同じ言葉が漏れる。
******
小さなズレが続いている。
・物資の仕入れに遅れが出る
・街道で偶然、通行止め
・仲間が足を滑らせ、崖から落ちかける
・予期していなかった魔物が、事前情報にない位置に出現する
一つひとつは些細なことだ。偶然の連続にすぎない。
でも、それが“毎日”続くとなれば話は別だ。
「……あいつがいた頃は、こんなこと……」
無意識に、俺の脳裏に浮かぶ顔がある。
地味で、無口で、ただ“運がいいだけ”だと笑われていた男。
リオ。
「……馬鹿馬鹿しい。ありえない。そんなものに依存してたわけがない」
“運”だけのスキルに、価値なんてない。
戦闘に役立つわけでもないし、回復も支援もできない。
そんな“外れ”を置いていたのは、ただのお守り代わり……そうだったはずだ。
だが、今のこの連続する違和感は――
「まさか、な……」
******
街へ戻った夜、宿のロビーで偶然他の冒険者と話す機会があった。
「《黎明の牙》さん、リオって奴いなくなったんだって? あの“ラッキーボーイ”」
「ラッキーボーイ……?」
「知らないんすか? 結構有名でしたよ? “あいつが同行してると生還率が上がる”って、下位パーティーの間で噂になってたんすよ」
俺の中で、何かが静かに弾けた。
そういえば、確かに――リオが参加していた任務では、運が良かったことが多かった。
罠を回避し、目的物を一発で引き当て、敵の猛攻が逸れたことすらある。
だが、それをずっと“偶然”だと片付けてきた。
「まさか……」
もし、あれが“本当にスキルの効果”だったとしたら――
あいつを失った今、俺たちは……。
******
ベッドに横たわっても、目を閉じることができなかった。
まるで身体にまとわりつくような、重たい空気が離れてくれない。
俺は、間違ったのか?
リオを追い出したことが、“最悪の一手”だったのか?
「いや……そんなはずは、ない……!」
そう呟いても、自分の声が一番信じられなかった。
――気づき始めていた。
ゆっくり、しかし確実に《黎明の牙》は“何か”を失っている。
そしてそれは、おそらく――
もう戻らない。
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