対策されました
自然物も人工物も無い世界。見渡す限り白一色に染められたその世界で一人の男と女神が対峙していた。
「多田野模武さん、残念なから貴方はお亡くなりになりました」
女神様の口から残酷な真実が語られる。しかし、死亡したと告げられた当の多田野は激しいテンションで捲し立てる。
「えっ、やっぱりこれ転生イベントなんだね。これで俺もチート能力ゲットしてハーレム作り放題に・・・」
「多田野さん、ちょっと聞いて下さい」
「能力は何が良いかな。アイテムボックスは外せないし、時間魔法も良いなぁ。空間切断もロマンだし」
自分の世界に没頭し聞く耳持たない多田野に女神様の堪忍袋の緒はぶち切れた。
「いい加減にして下さい!誰がチート能力を与えると言いましたか!妄想は布団の中だけにしなさい!」
「はっ?俺は理不尽に殺されたんだろ?ならば賠償てチート能力寄越すのは当たり前だろうが!」
世間で流行りのネット小説に毒された多田野に正論は通じない。それを感じた女神様は早々に話す事を諦めた。
「それでは転生させます。後は勝手に生きて下さい」
「ちょっ、チートの説明は?待ってぇぇぇぇぇ!」
抗議しようとした多田野はいきなり足元に開いた穴に吸い込まれ、ドップラー効果で歪んだ叫びを残して消えた。
「うっ、俺は転生したのか。あの女神、次に会ったら小一時間は説教してやる」
もう二度と会えないとも知らずに悪態をつく多田野。周囲を見回すと見窄らしい小屋が何軒か建っていた。どうやら未開の地の集落のようだ。
「さて、異世界に来てやるべきは能力の確認だよな。ステータスオープン!」
片手を天に突き上げ叫ぶ多田野。しかし予想に反して透明なウインドウが開く事も脳内にステータス画面が表示される事も無かった。
「システムが違うのか。ウインドウ、メニュー、鑑定、チェック!」
焦った多田野は思いついた言葉を叫んでいく。しかし望んだ結果を得る事は出来なかった。
「ステータスは見られない世界なのか。ならばアイテムボックス、亜空間、収納!」
ステータスの確認は出来ないと踏んだ多田野は、女神から貰った(と思い込んでいる)スキルを発動しようとした。
しかし、女神様は多田野にアイテムボックスを付与したなんて一言も言っていない。当然ながらスキルが発動する事も無かった。
「新入り、もう気が済んだか?」
「なっ、いつのまに!」
声をかけられ慌てる多田野。叫び声を聞いた人達が小屋から出て来ていたのだが、集中していた多田野はそれに気付く事が出来なかったのだ。
「俺達はお前よりも先に転生してきた先輩さ。ここは神を怒らせた者が捨てられる世界だ。何の能力も貰えやしないよ」
「う、嘘だ!きっと魔法や強い身体能力が・・・」
先達の忠告を聞かずに足掻く多田野。しかし魔法なんて使う事は出来ず、身体能力も転生前と変わっていなかった。
「スキルも魔法も無い、優れた身体能力も無い。日本の知識があったって、道具も無いし役に立たない」
「そ、そんな・・・」
先住者の言葉が正しいと思い知り、多田野は絶望に染まるのだった。
その頃、神々が住まう世界では。
「いやぁ、あれは良いアイデアでしたな」
「全くです。日本人の発想力は本当に恐ろしい」
神々は転生時にチートを要求する転生者にほとほと困っていた。過大な要求をし、叶わないと知ると喚く。能力を与えずに転生させれば知識で世界を混乱させる事もしばしば。だからと言って魂を消去させる訳にもいかず、転生は必ずさせるのが決まりとなっていた。
ある時疲れ果てた神がまともな思考の転生者に愚痴を溢した所、画期的なアイデアを提案された。
「それなら、そういう厄介者を転生させる専用の世界を作ってみたら良いのでは?」
藁にも縋りたかった神々はすぐに専用の世界を作成。チートを要求する転生者を問答無用で放り込む事により神々のストレスは大幅に軽減される事となった。
「これからも頼らせてもらうぞ」
「はぁ、了解です。まさか死後にスカウトされるとはなぁ」
神々を救う提案をした転生者はその世界で幸せに天寿を全うした後神々の末席に加えられ、今も知恵袋として重宝されているとさ。
皆さんも転生される際は過大な要求をしないようお願いいたします。